合意による敗訴者負担制導入反対の声明(2004年7月22日)




  政府は、平成16年3月2日、民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(以下「本法案」という)を国会に上程し、現在継続審議となっている。秋の臨時国会で本格審議に入る予定である。
  本法案は昨年10月以後司法アクセス検討会で十分な議論のないまま取りまとめられた、合意があった場合に訴訟代理人報酬を敗訴者負担とする案をほぼそのまま法案化したもの(いわゆる「合意による敗訴者負担制」)であり、訴訟提起後に訴訟代理人を選任している当事者双方の共同の申立があるときは訴訟代理人報酬を訴訟費用に含めることを内容としている。
  当会は、本年3月、本法案の国会上程に際し、合意による敗訴者負担制は、そもそも立法目的が不明であるうえ、市民の裁判の利用を困難にする弊害が顕著であるので反対であるとの声明を直ちに発表した。また、本法案の問題点を広く市民に訴えるため、本年7月18日に新聞紙上に意見広告を掲載し、同月20日には街頭パレードを実施した。
  もともと敗訴者負担制は、司法制度改革審議会意見書において、勝訴しても訴訟代理人報酬を回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者に訴訟を利用しやすくする見地から導入を検討するとされたものである。しかし、敗訴者負担を当事者の合意にかからしめた本法案では、勝訴確実な側が敗訴者負担を求めても敗訴確実な相手方がこの求めに応じることは考えられないから、勝訴しても訴訟代理人報酬を敗訴者負担にすることはできず、上記審議会が求めていた司法アクセス促進の効果は期待できない。また、敗訴当事者に勝訴当事者の訴訟代理人報酬を負担させるのが公平だとの敗訴者負担制導入論に沿うものでもない。
  かえって勝訴の見通しがつきにくいほとんどの訴訟では、あらたに合意による敗訴者負担制を選択するかどうかという困難な選択を当事者に迫るものであって、いたずらに訴訟利用者の判断を攪乱させ、訴訟制度への信頼を損ないかねないものである。
  さらに本法案は、仮に合意による敗訴者負担制の検討をする場合には不可欠である?消費者と事業者との間で結ばれる約款や労働者・使用者間の就業規則など、一方が優越的地位にある当事者間で結ばれた私的契約などにおける敗訴者負担の条項を無効とする規定や、?これまで訴訟代理人報酬の一部を損害として認めてきた不法行為の損害論に対する影響を排除する措置が何らはかられていないうえ、敗訴者負担に合意するか否かが裁判所の心証形成に事実上影響を与えるおそれが全く解消されていない。
  このように本法案は市民の司法アクセス促進の効果がないばかりか、かえって消費者、労働者など弱い立場にある人の司法利用を阻害し、司法制度の信頼を損ないかねない制度であるから、当会はこれに強く反対するとともに、今後とも上記問題点が解消しない限り本法案を廃案にすべく市民とともに運動を展開してゆく決意である。
  以上声明する。

2004年(平成16年)7月22日


京都弁護士会

    
会長  彦  惣        弘


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