提言

歴史都市京都の緑地保全を求める提言(2004年11月16日)


2004年(平成16年)11月16日

京都弁護士会
                                      
会  長      彦  惣        弘


は  じ  め  に


  歴史都市京都における市街地の緑地保全の問題については、古くは双が岡開発問題、近年では一条山や吉田山の開発問題、そして現在では半鐘山開発問題等、根本的な保全の方策が未だとられないまま、開発問題が繰り返されてきた。当会では、都市緑地の保全の問題について、これまでの問題点を集約し、解決の方向性を示したいと考え、2003年9月27日には、シンポジウム「歴史都市京都の緑地保全」を開催するなどして、検討を重ねてきた。
  本提言は、緑自体の価値を根本に据えるとともに、歴史都市京都の緑地保全の意義を確認し、開発優先の考え方を抜本的に改め,現行法の実効化とともに必要な法改正も視野に入れて国、地方自治体、市民がそれぞれの立場から都市緑地の保全に積極的に取り組んでいただくことを求めて、そのための具体的方策を提案するものである。


提 言 の 要 旨


第1  市街地における緑自体の価値を市民すべてが再認識するための活動を推進し、その重要性を正面に据えた施策を展開していくこと

第2  土地所有権は元来公共的コントロールによる強い制約を受けるものであることを再認識し、所有権絶対の考え方に拘泥することなく、緑地保全のための地区指定等の施策を積極的に実施していくこと

第3  緑地保全のための具体的方策
1  現行法令、条例の積極的活用・強化
(1)  市街化区域内の土地においては開発されるのが当然という考え方を改め、風致地区、緑地保全地区、歴史的風土特別保存地区の指定を積極的に行うこと。
(2)  風致地区条例を強化し、かつ、その運用を厳格化すること。具体的には、既存緑地そのものを正面から保全することが可能なように風致地区条例の許可基準を見直すとともに、地区指定の柔軟化を図ること。また,違反行為に対して迅速かつ適切な是正措置等が行えるよう実効性の担保を強化すること
(3)  開発許可に当たり、地方自治体が地域の実情に応じた規制を行えるよう、次の各条例を制定すること。
ア  都市計画法の規定に基づき市街化区域内で開発行為を行う場合に許可が必要とされる面積の要件を300?に引き下げる条例
イ  都市計画法の規定に基づく開発行為の許可を行う基準として、開発区域における植物の生育の確保のために必要な樹木の保存、表土の保全その他の必要な措置が講ぜられるように設計が定められていることを必要とする面積の要件を300?に引き下げる条例
ウ  都市緑地保全法(改正後は都市緑地法)の規定に基づき、木竹の伐採や開発行為等を市町村長の許可事項とする緑地保全条例
エ  森林法の規定に基づき林地開発行為を行う場合に許可が必要とされる面積の要件を300?に引き下げる条例
2  現行法の改正
(1)  市街化区域から市街化調整区域への指定替えを柔軟に行うことや保全区域の新設などにより、きめ細かいゾーニングを進めること
(2)  国土利用計画法の土地取引規制に緑地保全のための事前届出制を設けるなど、事前規制を導入すると共に、開発前の段階での行政、市民に対する情報提供を徹底させること
3  景観法を積極的に活用すること

第4  緑地の保全のために必要な財源の確保に努めること。一例として,次の2点を提案する。
1  国は、道路特定財源制度を廃止し、自動車関連税・自動車燃料税の各税収を国よりも地方自治体により多く配分されるよう改組したうえで、当該各税収の一定割合につき各地方自治体において緑化充実促進などの環境保全整備のために支出することができるよう立法化を図るべきである。
2  京都市は、緑化推進基金条例を制定し、市民や企業からの寄付を募る外、前記1の税収を一定限度基金に組み入れることができるようにするべきである。

第5  住民、市民参加による都市緑地の抜本的保全策を確立すること−例えば,次の手法等により、計画段階、開発段階その他すべての過程において住民、市民が緑地の保全に向けた活動に積極的に参加できるための条件を整えるべきである
1  市民に対する情報公開の拡大
2  行政審議会における市民参加の拡大
3  公聴会などの市民参加の拡大
4  新たな市民参加制度の策定
(1)  市民に新たな提案、行政が作成した案に対して代案を提出する権利を認め、市民が出した提案を市長が尊重し、その提案に対して審理・回答する義務を定める。
(2)  市長が重要であると判断した案件及び住民投票制度において一定数の住民が住民投票による判断を求めた案件については住民の投票に付し、住民投票の結果に拘束力を認める。
(3)  市民団体と行政が共同して計画策定を行なう制度を創設する。その一例として「緑の環境大使条例」(仮称)の制定を提案する。
5  環境保全団体の育成・強化を図るための支援を行なうこと

第6  司法救済の抜本的拡充−行政不服審査及び行政訴訟を実効化し、緑地保全に資する制度とするため、行政不服審査制度及び行政訴訟制度の改革を更に推進すること
1  行政不服審査及び行政訴訟の対象を拡大すること
2  原告適格を拡大し、団体訴権を認めること
3  不服申立期間及び出訴期間を撤廃すること
4  執行停止原則を導入すること
5  緑地保全に関する行政裁量への消極的な(準)司法審査のあり方を見直すこと
6  行政への積極的な提言及び義務づけを可能な制度とすること


提    言


第1  市街地における緑自体の価値を市民すべてが再認識するための活動を推進し,その重要性を正面に据えた施策を展開していくこと
(理由)
1  都市の緑の機能
  都市の緑には、災害の防止や公害の軽減、自然景観の保全、気候の緩和、大気浄化など、様々な機能がある。
  また緑は、人にやすらぎ、うるおいといった精神的効果を与えることができる。
  都市緑化の意義は、これらの機能や効果を有する緑を充実させ、都市を人間が住む本来的な空間に甦らせていくところにある。
  都市緑地の保全は、人の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであるうえ、現在及び将来の世代の人々が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに、人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持される(環境基本法3条参照)ために必要不可欠なものである。

2  歴史都市京都における緑の価値
      京都は、三方を鬱蒼とした森をたたえる山々に囲まれ、この森は四季折々の表情をみせる。
  京都が1000年もの長きに亘って都であり続けたという世界的にもたぐいまれな都市であり得たことと、これらの森の存在とは決して無縁ではない。
  これらの森が、京都に生きる人々に、深い感銘と生活資材を与え続けることができたからこそ、京都に偉大な文化が育まれ、それがまた京都の歴史都市としての魅力・価値を高めてきた。
  平成6年(1994年)12月に世界文化遺産として登録された「古都京都の文化財(京都市・宇治市・大津市)」を構成する17の社寺仏閣の大部分をはじめとして、無数の社寺仏閣が京都三山の山懐に点在し、緑と一体となって京都の風景・景観を構成しており、それが京都の緑を歴史的価値あるものとしているのである。
  このように、京都は、緑自体が歴史的な価値を有している点において、他の多くの都市とは異なる特徴を有しているのである。

3  都市の緑地の保全の必要性
  ところが、京都を含め諸都市においてはこれまで、開発優先の施策の中で都市化が急速に進行し、このような機能と価値を有する緑地が大きく失われてきた。
  他府県や諸外国のなかには、早くから都市の緑地の重要性を認識し、これを保全・再生する事業に取り組んでいるところが多い。
  例えば、神奈川県では、昭和62年度(1987年度)から5年間、「きずなの森造成事業」を行っており、横浜市や相模原市では、この事業とは別に、独自の市民参加による森づくり事業を展開し、両市とも、市全体の森林面積の1割以上に達している。
  諸外国に目を転ずれば、ドイツでは薪の計画的生産、スイスではレクリエーション施設としての利用、フランスでは市民の憩いの場として、それぞれ都市の緑地の保全に取り組んでいる。
  これらの例を引くまでもなく、緑地の保全の施策を具体化し、これを実施することの必要性は、京都においても焦眉の急である。
  京都にあっては、市街化区域の緑被率は平均24%であるとされるが、その多くは京都三山の社寺仏閣の緑であり、市街化の進んでいる左京区南西部、右京区南東部にあっては20%未満のところが多く、中心街区である上京区西部、中京区、下京区、南区北部では、緑被率はほとんどのところで10%にも満たず、3%未満のところも数多く存在している。
  しかも、そのような残された貴重な緑地の大半が、都市緑地保全法に基づく緑地保全地区や古都保存法に基づく歴史的風土特別保存地区などに指定されていなかったため、一条山開発問題、吉田山開発問題を初めとして、近年においても緑地・里山の開発問題が繰り返されてきた。現在でも世界文化遺産慈照寺(銀閣寺)の登録緩衝地帯である半鐘山が宅地として開発されようとするにあたって、何ら有効な規制をなしえなかった事態が生じている。そして、現状のままでは、今後も残された貴重な緑地の開発問題が繰り返されることは目に見えている。
このことは、京都の緑の歴史的価値、及び、市街化区域内の貴重な緑地を保護するについて、現行の法制度及びその運用が極めて不十分であることを如実に物語るものである。

4  都市の緑地の保全の課題
(1)  行政との関係
緑地の保全は、当然のことながら、一私人の力のみによってなし得ることではない。
また、行政が市民に対し、緑地を保全していくという明確な意思を積極的にアピールしていくことが何より重要である。
そこで、強力な権限によって都市の緑地を保全地域に指定し、継続的に保全していくプログラムを実施していくことが必要となる。
(2)  広範な市民との関係
たとえ、行政の全面的な理解と協力によって、都市の緑地の保全の方向性が打ちだされたとしても、実際に人の手を入れるためには、人手や資金が必要となる。これを継続的に行っていくために、市民の支持と協力が必要になってくる。
そして市民の支持と協力を得るためには、行政には「なぜ都市の緑地保全が重要なのか」を市民に説明し、広報する取り組みが重要となる。
            他方、市民は、環境基本法9条が、持続可能な社会を目指すための国民の責務として、「環境の保全上の支障を防止するため、その日常生活に伴う環境への負荷の低減に努めなければならない(1項)」、「環境の保全に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する環境の保全に関する施策に協力する責務を有する(2項)。」と定めている通り、自らあるいはNGO(市民団体)に参加するなどして、緑地環境への負荷の軽減及び緑地保全のための活動への参加、協力することが求められる。

(3)  地権者・住民との関係
市民が、都市の緑地の保全活動を行おうとしたとき、地権者や住民の意向は無視できない。
したがって、地権者や住民に、都市の緑地の保全運動の意義を理解してもらい、地権者や住民の権利を守りつつ、運動として何が出来るかを考える必要がある。
運動に難しさをもたらしているもう一つの問題は、資金の問題である。少額であっても補助金を受けられることで、運動を長続きさせることができる。
市民による運動が定着するまで、少なくとも当面の間は行政が資金的な援助をし、所有者との調整をとりまとめることが重要である。

5  この項のまとめ
  以上のように、都市の緑は、市民にとって重要な機能と効果を有することから、これを保全することは、市民の都市における持続可能な生存にとって極めて必要性の高いものであり、特に京都においては、緑が歴史的な価値を有していることに加えて、市街地の緑地が極めて少ないという特徴を有することから、歴史都市京都の緑は、なおさら十全に保全されなければならない。
そのためは、行政が都市の緑の重要性を正面に据えた施策を積極的に展開するとともに、具体的にその施策を支える市民に対して、緑の重要性について啓発し、その活動を支えていくことが重要である。


第2  土地所有権は元来公共的コントロールによる強い制約を受けるものであることを再認識し、所有権絶対の考え方に拘泥することなく、緑地保全のための地区指定等の施策を積極的に実施していくこと

(理由)
1  問題点
憲法第29条は、第1項において、「財産権は、これを侵してはならない。」と定めると同時に、同第2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」とし、他方、同第3項において、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定し公共のために用いる場合でも正当補償を要求している。
この正当補償条項を受けて、都市緑地保全法第7条、8条(改正後は都市緑地法第10条、16条、17条)、自然公園法第52条1項、古都保存法第9条、11条などにおいて、開発等の不許可の場合の損失補償や、土地の買取請求権についての規定が置かれている。そのため、行政の現場では、財政的制約のあるなかで、緑地保全地区(改正後は特別緑地保全地区)等の緑地保全のための地区等の指定をするにあたって、行為不許可の場合の損失補償問題の生起を慮って地区指定等が進まないとの指摘がある。また、土地所有権を重視する伝統的思考から、法律上必要な要件ではないにもかかわらず、土地所有者の事前同意を前提にした運用を行っていることから、地区指定等が進まないとも仄聞する。これら地区指定等が進まない原因に共通しているのは、土地所有権絶対の思想である。
しかし、日本の法制度の模範となった欧米では、土地所有権とりわけ土地の利用については公共的コントロールに服することは当然のこととされてきた。また、我が国において、土地所有権絶対の思想が、無秩序な開発による街並みの破壊をもたらし、市民から快適な空間と緑地を奪い、さらには土地を投機の対象として性格づけたことは歴史的事実といってもよい。土地所有権を絶対視する思想はいまや根本的に改められねばならない。
そこで、ここでは、土地所有権は公共の制約に強くコントロールされるべきであるという観点から土地所有権概念を再構成し、これを現行法の解釈・運用に反映させることを試みるものである。

2  都市緑地保全のために土地所有権を制約することの妥当性
(1)  都市緑地保全の価値優越性
都市の緑には、災害の防止や公害の軽減、自然景観の保全、気候の緩和、大気浄化など、様々な機能がある。また緑は、人にやすらぎ、うるおいといった精神的効果を与える機能がある。
すなわち、都市の緑は、そこに居住する人の環境や景観を守ることにとどまらず、人間の生活にとって他のものによっては代替し得ない複合的な役割を果たすものであり、都市を人間が住む本来的な空間とするためには、都市緑地は必要不可欠な価値を有するものであって、これを享受することは、憲法第13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」ないし憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の根幹をなす重要な権利なのである。また、直接に都市緑地について定めるものではないが、環境基本法3条は、憲法13条、同25条を具体化する形で、「環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること」を宣言している。都市緑地の価値は土地所有権に優越するものなのであり、都市における継続的生存を脅かすほどにまで都市緑地が破壊されてきている現在、都市緑地の価値を正面に据えた公共的コントロールの強化こそが、喫緊の課題として求められているのである。
(2)  土地所有権に対する公共的コントロールの必要性
土地所有権は、以下に述べるとおり、公共的コントロールに強く服すべき性質を持った権利なのであり、かかる観点から、都市緑地保全のために土地所有権を制約することの妥当性が導かれる。
土地はその取得や利用において、他の財に比べ公共的、社会的制約を大きく受けざるを得ない性格を元々強く含んだものである。すなわち、土地は有限かつ再生産できない財である。また、もとより土地は動かすことができないし、そもそも地続きのものを単に人為的に区画を定めて「土地所有権」を概念しているにすぎず、その存在する客観的状況から逃れることはできない。
土地の有するこれらの特殊性から、土地所有権の権利行使が周辺の他者に影響を与える程度は他の財産の場合と比較して極めて大きい。また、当該土地が存在している客観的状況に拘束される。従って、公的な意思に基づく強制や公的主体による制限、介入、誘導等を欠いては、その適正な分配、利用を行うことはそもそも不可能な性質を有しているのである。それ故に土地利用は、所有者の自由な意思に委ねられているのではなく、社会的義務づけの指示に服するのである。我が国の土地基本法第2条が「土地については公共の利益を優先させるものとする」として、土地所有権への制約を強く認め得ることを改めて宣言する所以である。
(3)  ドイツの土地所有権概念について
日本民法の元になったドイツ法制下では、土地の利用は、所有者の任意に委ねられているのではなく、社会的義務づけの指示に服するとされている。土地利用の最たるものである建築について、市町村が、その全領域について土地利用計画を策定し、次に、これに基づいて、個別的、具体的な街区につき、地区詳細計画を設定する。この地区詳細計画の対象外のすべての土地が原則建築禁止であり、地区詳細計画対象地においては各区画について建築物の高さや形態など極めて詳細な計画が定められ土地所有者を拘束する。連邦憲法裁判所は、土地取引法で定められた、農地・森林等の譲渡許可制度の合憲性を認めた決定(Beschl.d.BVerfG vom 12.1967,EBVerfG,Bd.21,S.73.)で、「基本法は、土地の取引がその他のあらゆる『資本』の取引と同じように自由でなければならないことを要求するものではない。土地が増やすことができず、かつ不可欠のものであるという事実は、その利用を自由な諸勢力の果てしない自由な活動と個人の任意に完全に委ねてしまうことを禁ずる。公正な法律・社会秩序はむしろ、公共の利益を土地の場合においてはその他の財貨よりもはるかに強く押し通さざるを得ない。土地は、国民経済的にもその社会的意義においても、その他の財産的諸価値と直ちに同列におかれるものではない。土地は、法的取引において動産と同じように取り扱うことができない」と判示して、憲法上、土地所有権を全面的な利用権として保護することを否定している。
(4)  我が国の土地所有権を巡る実情と発想の転換
以上の検討とは裏腹に、我が国のこれまでのまちづくりの状況を見る限り、いまだ土地所有権に基づく土地利用の自由を大幅に容認し、開発が前提の無秩序なまちづくりが行われてきたといわざるを得ず、その結果が今日のまちづくりの混乱とひずみを生じさせたのである。
そこで、土地所有権は元来公共的コントロールに服する強い制約を受けるものであって、法もしくは社会が許容した範囲内のものでしかないということを明確に再認識するべきである。従来行政にありがちな土地の開発や建築が、土地所有権に基づく当然の権利であるという所有権絶対の考え方に拘泥することなく、土地利用に対する公共的コントロールを強化すべきなのである。具体的にいえば、土地は、当該土地に最もふさわしいものとして期待される機能に適合した利用のみが保障される、という考え方に拠るべきである。この考え方は、ドイツでは、?土地は当該土地が置かれた状況に最もふさわしい利用をされるべき社会的拘束を受けるとする「状況拘束性理論」、あるいは、?従前の土地の用法とは異なる用法が将来に向かって禁じられた場合、例えば従来もっぱら農地として利用されてきた土地に、都市計画規制等によって将来の建築行為が禁じられた場合、つまり従来どおりの利用をしておればそれで済むという場合には、原則として補償は不要であるが、従来行ってきた利用が将来に向かって行えなくなる場合には原則として補償を必要とするという「目的背致理論」、さらに?「財産権の社会的拘束の内容及び程度は時の推移によって変遷し得る」という「時の推移理論」によって基礎付けられる。

3  現行法の解釈・運用
緑地保全地区に指定されるということは、当該地区が従前から長期間緑地であったこと意味し、指定後は勿論のこと緑地であり続けることになる。このような状況を前提に、前記のような土地所有権概念の発想の転換を前提にすれば、緑地保全のための地区等の指定による行為不許可の場合の補償は不要、少なくともその補償費用の算定に当たって相当程度低額とすることにも合理的な説明が可能となる。したがって、財政的な面から緑地保全地区等の指定に消極的になる必要はなく、より積極的に指定を行うべきである。また、地区指定等にあたって所有権者の事前同意を前提にしている実際の運用も改められるべきである。
(1)  補償の要否の基準
土地所有権が元来公共的コントロールに服する強い制約を受けるものであること、都市緑地は都市を人間が住む本来的な空間とするために必要不可欠であって土地所有権に優越する価値を有することからすれば、「自然環境や自然景観は国民共有の資産でありその保全を図るために課される土地利用制限は受忍の範囲内であるとする通念が成立していると考える余地もある」とする見解(成田頼明「風致地区内建築等規制条例による規制と補償請求」街づくり・国づくり判例百選19頁)が正当である。
都市緑地保全法(改正後は都市緑地法。以下同様)の緑地保全地区(改正後は特別緑地保全地区。以下同様)に指定された場合、指定自体では補償の問題は生じないが、当該地域内での建築物の建築は行政の許可が必要とされ、不許可の場合には損失補償の要否・金額が問題になる。自然公園法の特別地区に指定された地域内での森林の伐採などの一定行為や古都保存法の歴史的風土特別保存地区に指定された地域内での一定行為についても同様である。補償の要否・金額については、緑地等の自然環境を保全するために個人の土地所有権が制約される場合であっても、その制約が、財産権の内在的制約を超えて、特定の者に「特別な犠牲」を強いる特殊な場合に限って補償が必要となると考えるのが伝統的な考え方である。この特別な犠牲にあたるのか、それとも内在的制約の範囲内にとどまるのかの判断にあたっては、土地の特性と自然環境や景観が国民全体の利益にかかわるという観点からの前記公共的コントロールという要素を加味するべきである。この判断基準としては、前記のドイツで展開されてきた、状況拘束性理論、目的背致理論、時の推移理論を基準として用いるべきである。
例えば、都市緑地保全法による緑地保全地区に指定された地域内において不許可になるような建築物の建築をすることは、当該土地を含む地域性つまり緑地という客観的状況にそぐわない土地利用であり、その土地の客観的状況からの拘束によって許されない。また、不許可になるような建築物の建築は、当該土地の利用形態が緑地であったという従前の利用目的に背致するものである。さらに、「時の推移」の観点からも緑地保全地区に指定されたことで、宅地に転換する可能性は失われたものと考えることが可能である。以上要するに、不許可になるような行為は、「土地は、当該土地に最もふさわしいものとして期待される機能に適合した利用のみが補償される」という原則に違反しているのである。従って、緑地保全地区内での不許可行為に対しては原則として補償は不要である。
この点、自然公園法による補償の要否が争われた事案で、ことごとく補償請求が否定されていることも同様の趣旨と言える。例えば、東京地裁平成2年9月18日判決(判タ742号43頁)は、「本件土地を含む周辺一帯の地域の風致・景観等がどの程度保護すべきものであるか、また、本件建築が建築された場合に風致・景観にどのような影響を与えるか、さらに、本件不許可処分により本件土地を従前の用途に従って利用し、あるいは従前の状況から客観的に予想される用途に従って利用することが不可能ないし著しく困難となるか否か等の事情を総合判断するべき」という判断基準をたてたうえで、当該事案においては補償を要しないという結論を導いている。前記「状況拘束性理論」「目的背致理論」「時の推移理論」によれば、緑地保全の場合であろうと自然公園の場合であろうと異なる事情は全くないので、前記東京地裁判決は緑地保全の場合にも妥当すると考えるべきである。
(2)  買取金額
都市緑地保全法等において当該土地の買取が要請される場合、その買取金額については、法律上は「時価」と規定されている。
しかし、そもそも買取請求がある場合とは、行為不許可によって当該土地利用に著しい支障をきたすことが要件になっている。不許可になるような行為、すなわち緑地保全という目的から背致し、状況拘束性にも反する行為が認められなかったからといって当該土地の利用が著しく支障をきたすとは考えられず、むしろ緑地保全の観点からは望ましい結果になっているはずである。従って、買取請求が許される場合とは理論的には存在しないはずである。
仮に、買取請求が許される場合があるとして、その場合の「時価」とは、当該開発等の申請において想定されている開発行為等がなされた上での「宅地」等を前提とする評価ではなく、あくまで、当該土地のそもそもの状態である「山林」ないし「農地」を前提とする評価でなければならない。
なぜなら、緑地保全地区に指定されるということは従前に長期間にわたって緑地であった地域であったことを意味し、前記「状況拘束性理論」「目的背致理論」「時の推移理論」によれば当然に緑地、すなわち農地あるいは山林であったという状況に拘束され、農地・山林以外の目的利用は背致である。一言でいえば、当該土地は緑地として利用されることが、最もその土地の利用としてふさわしいのであるから、対価としてもその程度で足りるのである。指定によって農地ないし山林以外には転用できないことが明確になり、指定それ自体は補償の原因にはならないことを考慮すれば、「宅地」を前提とする評価ではなく「農地・山林」として評価すれば十分なのである。開発等の申請者の「得べかりし利益」を補償する理論的根拠はみあたらない。

4  この項のまとめ
以上のように、土地所有権は元来公共的コントロールに服する強い制約を受けるものであることを明確に再認識し、従来行政にありがちな所有権絶対の考え方に拘泥することなく、以下の述べる通りの、法令、条例の改正、制定を含む緑地保全のための積極的対応がとられるべきである。

第3  緑地保全のための具体的方策
1  現行法令、条例の積極的活用・強化
(1)  市街化区域内の土地においては開発されるのが当然との考え方を改め、風致地区、緑地保全地区、歴史的風土特別保存地区の指定を積極的に行うこと
(理由)
      緑自体の価値を正面に据えた保全のためには、現行法の下では、風致地区、都市緑地保全法に基づく緑地保全地区又は古都保存法に基づく歴史的風土特別保存地区に指定することが最も適していると考えられる。したがって、まずは、これらの地区指定を積極化させ拡大させることが何よりも必要である。ことに、歴史都市京都の緑地保全の重要性にかんがみれば、ともすれば消極的になりがちだった従前の考え方を転換し、京都の歴史的風土を保存する意味からもより積極的な地区指定を行うべきである。
      緑地保全地区及び歴史的風土特別保存地区の両制度は、制度上損失補償や土地の買入れを伴うことより、地方自治体の財政的制約を理由とした消極論がある。しかしながら、第2で述べた通り現行制度においても開発を前提とした価格での補償あるいは買取りは必要なく、農地=山林価格で取得できる。
更に、第4で述べる通りの財政的裏付けをあわせてとることによって、残された開発可能な緑地について、速やかに指定の大幅な拡大を図る必要がある。
なお、都市緑地保全法の改正によって、従来の緑地保全地区に加えて、新たに緑地保全地域が新設されることになったので、「地域住民の健全な生活環境を確保するため適正に保全する必要がある」緑地につき積極的に緑地保全地域を指定し、歴史都市京都にふさわしい緑地保全計画が定められるべきである。また、市町村が定める緑地保全基本計画には緑地保全地域及び特別緑地保全地区以外の区域であって重点的に緑地の保全に配慮を加えるべき地区を定めることができることとされているので、緑地保全地域等の指定以外の方法でも緑地の保全に配慮を加えていくことが求められる。

(2)  風致地区条例を強化し、かつ、その運用を厳格化すること。具体的には、既存緑地そのものを正面から保全することが可能なように風致地区条例の許可基準を見直すとともに、地区指定の柔軟化を図ること。また、違反行為に対して迅速かつ適切な是正措置等が行えるよう実効性の担保を強化すること。
(理由)
      現行の京都市風致地区条例で、既存緑地の保全に関して直接関係する条文としては、同条例第5条1項5号及び6号があるが、面積要件など市が保全のための規制を行おうとするためにはハードルが高すぎる面のあることが否めない。また、緑地保全といっても既存の緑地自体を保全することが徹底されておらず「自然回復緑化」の考え方がとられているなど、既存緑地自体の保全という観点では不十分である。
      そこで、既存緑地そのものを正面から保全することが可能なように京都市風致地区条例の面積要件を縮小又は撤廃することなど許可基準を見直すことにより、市長が必要と認める場合には伐採禁止などの措置がとれるようにすべきである。また、地区指定についても、周辺地域も一体として広く保全を図る地域として地区指定するなど、地区を一歩出れば規制が大幅に緩和され乱開発が進むといった状況を防止すべきである。さらに、違反行為に対しては毅然とした態度で迅速な是正措置を行えるよう実効性の担保を強化すべきである。

(3)  開発許可に当たり、地方自治体が、地域の実情に応じて緑自体の保全を正面に据えた規制を行えるよう、次の各条例を制定すること。
ア  市街化区域内で開発行為を行う場合に許可が必要とされる面積要件を300?に引き下げる条例
    イ  開発行為の許可を行う場合に、許可を認める基準として、開発区域における植物の生育の確保のために必要な樹木の保存、表土の保全その他の必要な措置が講ぜられるように設計が定められていることを必要とする面積の要件を300?に引き下げる条例
    ウ  都市緑地保全法(改正後は都市緑地法)の規定に基づき、木竹の伐採や開発行為等を市町村長の許可事項とする緑地保全条例
エ  森林法の規定に基づき林地開発行為を行う場合に許可が必要とされる面積の要件を300?に引き下げる条例

(理由)
アの条例について
  現行の都市計画法29条及び同施行令19条では、市街化区域内では原則として1、000?以上の開発行為をする場合に許可が必要とされている。
  一方、同施行令19条1項ただし書きでは「市街化の状況により、無秩序な市街化を防止するため特に必要があると認められる場合にはで300?以上1、000?未満の範囲で別に(地方自治体の規則で)許可が必要な規模を定めることができる」とされている。
  京都市においても、1、000?未満の規模の開発でも無秩序な開発により貴重な緑が失われる状況が後を絶たない点にかんがみると、開発許可が必要な面積を引き下げる必要がある。
  この点で、そもそも開発許可事務は、かつてのような機関委任事務(法定受託事務)ではなく自治事務であり、自治事務についての法の規定は標準(スタンダード)を定めるものでしかない(地方自治法第2条12項、13項)から、自治体はその必要性がある限り、法の規定以上の内容であっても合理的な内容の規制を定めることは許されると解される。したがって、施行令の定める規模以下の区域について条例で開発許可を必要としたり、環境保全(緑地保全)措置を求めることも許されると言うべきであり、法令の改正を待つまでもなく、京都市は、歴史都市京都としての緑地保全を図るべく、都市計画法の開発の開発許可を与える基準を強化する条例を制定すべきである。
  ところが、現行法上の行政の運用としては、私権の制限につながる規制に対して、業者からの反発や行政指導の行きすぎに対する損害賠償請求、さらには業者との協力関係への支障などをおそれ臆病とも思える態度がみられる。これは、都市計画法上、私権の制限は最小限にという所有権優先の思考から、法の定める規制以上の規制は許されないとの自治体の消極的な法解釈が原因と考えられるが、その消極的な態度のため、法が許容する上記施行令の範囲内の条例すら制定されていないのが現状である。
  そこで、まずは、第一段階として、市街化区域内で開発行為をする場合に許可が必要とされる面積要件を施行令の範囲内である300?に引き下げる条例の制定を行うべきである。
イの条例について
現行都市計画法33条1項9号及び同施行令23条の3では原則として1ヘクタール以上の規模の開発行為を行う場合には、開発許可基準(開発許可を与えるために必要な技術的基準)として、開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため、開発行為の目的等を勘案して、開発区域における植物の生育の確保上必要な樹木の保存、表土の保全その他の必要な措置が講ぜられるように設計が定められていることが必要と定められている。この規定は、開発許可段階において緑自体の保全に直接的に機能する唯一の条文ともいえるが、1ヘクタール以上というのではあまりにハードルが高く、それ未満の開発行為に対しては機能しえないという限界がある。
一方、同施行令23条の3ただし書きでは、この面積要件を「開発区域及びその周辺の地域における環境を保全するため特に必要があると認められるときは、(地方自治体の規則で)で0.3ヘクタール以上1ヘクタール未満の範囲内で区域を限りその規模を別に定めることができる」と規定されている。
京都市においては、この施行令の範囲内においてさえ面積要件を引き下げるための規則が制定されていない状況であることは「アの条例」で述べたとおりである。そこで,まずは少なくとも政令の範囲内である0.3ヘクタール(3,000?)に引き下げるべきである。
さらに、緑地保全の重要性にかんがみれば、「アの条例」で述べたとおり、施行令の定める規模以下の区域について条例で開発許可を必要としたり、環境保全(緑地保全)措置を求めることも許されると言うべきであるから、より積極的に、開発許可が必要な面積にあわせる形で、面積要件を300?に引き下げる条例の制定を行うべきである。
ウの条例について
都市緑地保全法の改正(都市緑地法)により、地区整備計画等において良好な居住環境を確保するため必要な緑地の保全に関する事項が定められている区域に限ってではあるが、木竹の伐採や開発行為等を市町村長の許可事項とする緑地保全条例が認められることになった。そこで、京都市としても積極的にその制定を検討すべきである。
エの条例について
森林法10条の2では、森林法5条に定める地域森林計画の対象となっている民有林について、林地開発行為を行おうとする場合には、省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならないとされている。
森林法は、以下のいずれにも該当しないと認められるときは、許可しなければならない、としている。
「一  当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
一の二  当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
二  当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
三  当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること。」
とするものであるが、岩倉の一条山開発問題では、京都市長は都市計画法に基づく開発許可を出したが、森林法に基づく林地開発許可がなされなかったため、全面開発が防止できたという経過がある。
  しかしながら、森林法の林地開発許可の対象となるのは、1ヘクタールを超える相当規模の森林に限られているため、例えば現在開発が問題になっている半鐘山などの小規模の里山や緑地はこのままでは同法によっては保全できない。
  現在、京都府では、森林法を活用して緑地を保全する条例を制定することが検討されているが、緑地保全の重要性にかんがみれば、森林法上の林地開発許可が必要な面積要件を300?に引き下げる条例の制定を行うべきである。


2  現行法の改正
(1)  市街化区域から市街化調整区域への指定替えを柔軟に行うことや、保全区域の新設などにより、きめ細かいゾーニングを進めること
(理由)
都市計画法上、市街化区域は「すでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とされている関係で、市街化区域内においては市街化が前提とされている。したがって、いったん市街化区域に指定されると、その区域内に重要な緑地が存在していても、開発を進めることが原則という構造になっていると受けとめられがちであるといえる。
しかし、市街化区域内においても、宅地化を抑制すべき区域が存在することも事実であり、周辺が既に宅地化されてしまっているから残された緑地も宅地化されて当然という短絡的発想を厳に排除すべきである。
その意味で、市街化区域から市街化調整区域への指定替えの柔軟化を図るべきである。
また、これは都市計画法の改正を必要とすることであるが、開発か抑制かという硬直的な二分化ではなく周辺の環境と調和のとれた保全を図るべき地域(保全区域)の創設など、きめ細かいゾーニングのあり方を検討すべきである。

(2)  国土利用計画法の土地取引規制に緑地保全のための事前届出制を設けるなど、事前規制を導入すると共に、開発前の段階での行政、市民に対する情報提供を徹底させること
(理由)
        古くは双が岡、近年では半鐘山など、開発が問題とされた緑地の多くは、寺院等が所有しており保全されていた土地が、開発業者等に売却されたものといえる。そこで、市民が開発計画が具体化する以前にいち早く開発の情報を得られるようにするなど、無秩序な開発につながる売買を監視、抑制する制度の創設が必要である。
        国土利用計画法の土地取引規制は、従前の投機的取引及び地価高騰の抑止を主眼としたものであり、このような価格的要素中心の規制は、いわゆるバブルの崩壊及び規制緩和の波の下、時代に逆行するものとして縮小ないし廃止の方向に向かいつつあると思われる。
        しかし、国土利用計画法2条は、基本理念として「公共の福祉を優先させ、自然環境の保全を図りつつ、・・・健康で文化的な生活環境の確保・・・を図ること」を掲げている。この基本理念からすれば、国土利用計画法を改正して緑地保全を主眼とした事前の届出制を導入することは同法の目的に沿ったものということができる。また、開発に至る前の取引段階において、行政が土地取引の情報を把握し、市民への情報提供を徹底させることは、緑地保全という視点に立ったとき、土地の買取の機会を与える等の意味において、開発に係る紛争の未然防止に極めて有効に機能しうると考えられる。よって、国土利用計画法において、緑地保全のための事前届出制を導入すべきである。
        そして、事前の届出が必要とされる開発とは、都市計画法第29条及び同施行令第19条において、開発許可が必要な範囲を条例において300?から1000?の範囲で別に定めることができるとされていることとの均衡上、300?以上の開発行為をする場合とすべきである。
  
3  景観法を積極的に活用すること
(理由)
1  景観法は、我が国の都市、農山漁村等における良好な景観の形成を促進するため、景観計画の策定その他の施策を総合的に講ずることにより、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図ることを目的として制定された。
景観法は、直接に「緑の価値」を認め、「緑の保全形成」を図るものではないが、景観保全形成の観点から、「緑の保全形成」を図ることができる。
2  景観法で、市町村にはおおむね(京都市にはそのすべて)次の事務が新たな権限として定められることになる。
(1)景観計画の策定(法第8条)
(2)良好な景観の保全形成のための行為の規制等を定める条例の制定(法第16条)
(3)景観重要建造物の指定(法第19条)
(4)景観重要樹木の指定(法第28条)
(5)景観重要建造物・景観重要樹木の所有者との景観協定の締結(法第36条)
(6)都市計画区域・準都市計画区域内の景観地区の指定(法第61条)
(7)景観地区内の工作物等の制限に関する条例の制定(法第72条)
(8)都市計画区域外の準景観地区の指定(法第74条)
(9)準計画地区内の工作物等の規制に関する条例の制定(法第75条)
(10)景観地区等の区域内における建築物等の意匠形態の制限に関する条例の制定
(法第76条)
これらはいずれも、景観の中に緑が含まれる限り、「緑の保全形成」に役立つものであるが、「緑の保全形成」のために直接効果を発揮するのが景観重要樹木に関する規制である。景観重要樹木とは、景観計画区域内の良好な景観の形成に重要な樹木で、国土交通省令で定める基準(まだ詳細は明らかではない)に該当するものであって、景観計画に定められた重要樹木指定の方針に即して指定されるものであるが、指定されたときは、許可なくしてこの伐採又は移植は許されなくなり(法第31条)、これに違反した者に対しては原状回復命令が発せられ(法第32条)、景観重要樹木の所有者及び管理者にはその良好な景観が損なわれないように適切に管理する義務が課せられる(法第33条)。
したがって、京都市の景観重要樹木指定の方針がどのように定められるかがきわめて重要となる(なお、景観重要樹木の指定の基準に関する国土交通省令がどのように定められるかも重要ではあるが、景観重要樹木の指定事務が自治事務であり、かつ、「地方公共団体は基本理念にのっとり、良好な景観の形成の促進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(法第4条)とされていることもあわせ考えると、国土交通省令の基準はあくまでも「基準」にしかすぎず、当該地域においてその基準では適切に対応できない事情がある場合は、国土交通省令の基準に合致しない方針を定めることも許されると解される)。
そこで、伐採移植を禁止する必要のある樹木を広く調査し、それらが景観重要樹木に指定されるような「方針」を京都市が策定することが必要であり、そのための取組を開始すべきである。


第4  緑の保全のために必要な財源の確保に努めること。一例として,次の2点を提案する。

1  国は、道路特定財源制度を廃止し、自動車関連税・自動車燃料税の各税収を国よりも地方自治体により多く配分されるよう改組したうえで、当該各税収の一定割合につき各地方自治体において緑化充実促進などの環境保全整備のために支出することができるよう立法化を図るべきである。
2  京都市は、緑化推進基金条例を制定し、市民や企業からの寄付を募る外、前記1の税収を一定限度基金に組み入れることができるようにするべきである。
(理由)
(1)  道路特定財源制度の廃止と転用について
2004年度(平成16年度)当初予算で道路特定財源を見ると、国分として、揮発油税、石油ガス税及び自動車重量税などの合計3兆4246億円が、地方分として、地方道路譲与税、石油ガス譲与税、自動車重量譲与税、軽油引取税及び自動車取得税の合計2兆2249億円が財源として見込まれている。総額約5兆6495億円の膨大な資金である。これらの税収は法律上(自動車重量税は運用で)、道路整備に使途が特定されている。従来、道路受益者負担・損傷者負担が課税根拠とされてきた。
ところで、自動車はその利便性とは裏腹に、道路混雑、排ガスによる大気汚染、排ガス中のCO2による地球温暖化さらには自動車騒音や振動といった弊害をもたらしている。これらの弊害、すなわち外部不経済の側面を考慮すれば、自動車関連税・自動車燃料税は、こうした外部不経済に価格をつけることで内部化させるという意味合いを有している。要するに、道路特定財源とされている諸税の実質的な課税根拠は、道路受益者・損傷者負担という側面と外部不経済を内部化させるという側面とがあるが、現在においては、むしろ外部不経済を内部化させる機能に重点が移ったと見るべきである。換言すれば環境に負荷を与える者はその負荷を与える程度に応じて税金と言う形で費用を負担するべきである(汚染者負担原則)。
道路特定財源の諸税の実質的根拠を上記のように考えれば、その支出先を道路整備費に限定する理由はなくなる。むしろ、逆に、大気汚染や地球温暖化などの外部不経済をもたらさない公共交通機関に転用したり、あるいは、環境保全のための施策、例えば自動車排ガス中のCO2吸収源である緑化推進に充てることこそが、その趣旨に合致することになる。そして、これらの転用にあたっては、地域の実状に最も精通している地方自治体が責任主体となることで最も効率のよい配分が可能となる。
さらに言えば、道路特定財源制度の根拠法の道路整備緊急措置法は、その名称が示すとおり、戦後、大きく立ち遅れていた道路水準を当面緊急に整備する必要があることから、本来、時限的に立法されたものが延長され続けてきたものである。道路整備水準が欧米諸国に遜色ない程度となった現在においては、もはやその使命を終えたと言ってよい。
現在の自動車関連税・自動車燃料税の総額5兆6495億円について、現在は、国分が約6割、地方が約4割になっている。公共交通機関の整備や環境保全のための施策実施にとって地方自治体の役割が大きいのであるから、この比率を逆転させ、地方公共団体に公共交通機関の整備や環境保全のための施策実施の財源として、十分な自主財源を確保させるべきである。
(2)  緑化推進基金条例について
緑地保全・緑化推進のための基金は各地方自治体で数多く設立させているところである。例えば、神奈川県相模原市の先例をならった鎌倉市では、1986年(昭和61年)に基金が設立され、市予算の一般会計から一定割合の組み入れを制度化した。同基金は市民からの寄付金を含めて、2004年(平成14年)現在累積積立額が115億円で、内62億円が活用され残額は53億円となっており、残額については鎌倉市の三大緑地の一つである広町の買い取り費用の一部に活用される予定となっている。ちなみに2004年度(平成16年度)における鎌倉市の人口は約17万人、一般会計予算は約532億円規模に過ぎない。京都市のほぼ10分の1の規模の鎌倉市において実現できたことが京都市にできないわけがない。

第5  住民、市民参加による抜本的保全策を確立すること−例えば,次の手法等により、計画段階、開発段階その他すべての過程において住民、市民が緑の保全に向けた活動に積極的に参加できるための条件を整えるべきである
1  京都市は、市民に対する情報公開の拡大を図るため以下の内容をもった条例を制定または改正するべきである。
(1)  計画段階において市民に情報を周知・徹底させる。
(2)  情報の詳細についてもインターネットにおいて公開、又は、市民が閲覧しやすい場所・時間帯で公開する。
(3) 縦覧期間を伸長(少なくとも3ヶ月以上)する。

2  行政審議会における市民参加の拡大
(1)  緑地の保全に関わる審議会委員につき、京都市市民参加推進条例に基づき、公募による委員の選任を行うとともに、公募などにより選任される市民代表の委員の数を、広く市民の意見を適切に反映しうる割合とすることを義務付ける。
(2)  市民参加推進条例により審議会の公開が定められているが、一般市民が傍聴しやすい日時場所での審議会の開催、小委員会を含む議事録のインターネットなど市民がアクセスしやすい形での詳細な公開を行なう。
(3)  審議会が重要案件であると判断した場合には、開発を認めるか否かの決定にあたって市民の投票に付し、過半数の賛成を要するとする旨の条例を制定するべきである。

3  公聴会などの市民参加の拡大
(1)  現在任意的とされている都市計画法等における公聴会の開催を義務付け、意見書の提出期間を伸張し、提出された市民の意見及び公聴会での意見に対して回答する義務を定める。
(2)  そもそも、行政が定める上記公聴会、意見書提出期間に限定されず、計画、開発などの全ての段階において、市民からいつでも意見を申し出ることができ、それに対する処理の結果について申し出た市民に対して通知する制度を検討すべきである。

4  新たな市民参加制度を策定した京都市条例の制定
(1)  京都市に対し市民(NGOを含む、以下同じ)が新たな施策を提案する権利、及び行政が作成した案に対して代案を提出する権利を実体法上の権利として定め、市民の提案・代案を市長が尊重し、それに対して審理・回答する義務を定める。
(2)  市長が重要であると判断した案件及び住民投票制度によって一定数の住民が住民投票による判断を求めた案件については、これを住民の投票に付し、住民投票の結果に拘束力を認める。
(3)  市民団体と行政が共同して計画策定を行なう制度を創設する。例えば、環境問題・緑地問題の専門家集団であるNGOに、市民の意見を京都市の緑地に関する施策に反映させるべき大使として位置づける、「緑の環境大使条例」(仮称)の制定を提案する。
      京都市は、緑地保全・緑化推進政策を策定・実行する段階において、実質的な市民参加を実現するために下記内容の条例を制定するべきである。
(1)緑地保全・緑化推進のための具体的な施策を策定・実行するにあたっては、環境問題・緑化問題の専門家集団たるNGO(環境大使)の意見を最大限尊重するべきこと。
(2)環境大使NGOは一般市民の意見を広く募集・集約し、最大公約数的意見について専門的見地から具体的プランに練り上げるべきこと。
(3)環境大使NGOは京都市から独立した第三者機関として存在しなければならないこと。
(4)環境大使NGOから情報開示の要求があった場合には、京都市は誠実にその求めに応じなければならないこと。
(5)環境大使NGOが緑地保全・緑化推進の施策を立案するための予算は京都市から支出されるべきであること。
(6)環境大使NGOは、個別案件ごとに、予め登録された環境問題・緑化問題の専門家集団たるNGOのなかから市長が選任するものとすること。
(7)環境大使になりうるNGOは、高度の専門性と豊かな見識を有した団体として広く市民から認知されていること。

5  環境保全団体の育成・強化を図るための支援を行なうこと
緑地保全を進めていくに当たり、市民レベルで先導して活動していく団体が不可欠であるところ、その育成のための物的・人的サポート(専門家の派遣、資金的援助)が必要である。将来的には団体訴権の主体たりうる団体、また、上記4(3)のような新たな制度において、計画策定を担える団体の育成・強化が必要である。

第6  司法救済の抜本的拡充−行政不服審査及び行政訴訟を実効化し、緑地保全に資する制度とするため、行政不服審査制度及び行政訴訟制度の改革を更に推進すること
(理由)
本年6月2日、行政事件訴訟法の一部改正が実現したが、一歩前進ではあるものの、緑地保全のための司法機能としてはなお極めて不充分である。以下に述べる通り、更なる行政不服審査制度及び行政訴訟制度の改革が必要である。
1  行政不服審査及び行政訴訟の対象を拡大すること
現在、行政不服審査及び行政訴訟(以下「行政訴訟等」という)の審理の対象とされるためには処分性が必要とされ、開発計画や都市計画は行政訴訟等においては処分性が認められていない。
しかしながら、これでは、計画段階において、市民が行政訴訟等によってその中止や是正を求めることはできず、その結果、開発計画が着手され、現実に緑地が失われてしまい、手遅れとなることも少なくない。したがって、原則として、開発計画・都市計画を含む、行政の行うあらゆる計画・決定・事業・契約等につき、行政不服審査法及び行政事件訴訟法を改正して行政訴訟等の対象とされるべきである。
また、上記改革を待たずとも、当面、都市計画法を改正して、都市計画決定については行政訴訟等の対象となることを明記すべきである。
2  原告適格を拡大し、団体訴権を認めること
現在、行政訴訟等の原告・請求人適格は当該行政処分の名宛人以外は、法律上の利益が侵害される者のみに限定されている。そのため、当該行政処分により、都市緑地が持つ様々な機能・効果を享受する権利を害される者であっても、当該行政処分の名宛人でない限りは、当該行政処分の取消や是正を求めることが極めて困難である。また、行政訴訟等の原告・請求人適格は個人にのみ認められ、環境保護団体やまちづくり団体等の住民団体には認められていない。
しかしながら、これでは、都市緑地や景観の破壊といった、多数の市民の権利が害されるような場合に、行政訴訟等を通じて、市民の立場でかつ専門的・公益的見地から中止や是正を求めることができず、市民が有する都市緑地の機能・効果を享受する権利を十分に擁護することはできない。したがって、行政不服審査法及び行政事件訴訟法を改正して行政訴訟等につき、当該都市緑地の有する機能、効果を享受している市民については、広く原告・請求人適格を認めるとともに、環境保護団体やまちづくり団体等の住民・市民団体に対しても、一定の要件の下に原告・請求人適格を認めるべきである。
また、上記改革を待たずとも、当面、都市計画法を改正して、当該都市計画によって影響を受ける市民には原告・請求人適格を認めるとともに、上記団体訴権を明記すべきである。
3  不服申立期間及び出訴期間を撤廃すること
現在、行政訴訟等においては、不服申立期間及び出訴期間が定められ、この期間を徒過してしまうと、不服審査の申立及び取消訴訟の提起ができなくなり、不服審査あるいは取消訴訟によって行政の誤りを是正することができず、結果として開発が進められ、緑地が失われることも少なくない。
しかしながら、違法な開発計画・都市計画等によって影響を受ける限り、当該開発計画・都市計画等は、いつの時点であっても是正あるいは中止されなければならない。したがって、行政不服審査法及び行政事件訴訟法を改正して、行政訴訟等につき違法な開発計画・都市計画等によって影響を受ける限り不服申立及び出訴期間の制限は撤廃されるべきである。
また、上記改革を待たずとも、当面、都市計画法を改正して、都市計画決定によって影響を受ける限り、不服申立及び出訴期間の制限の撤廃を明記すべきである。
4  執行停止原則を導入すること
現在、行政訴訟等においては、申立や提訴をしても開発等処分の執行は停止されず、審理の最中も開発等は進行し、後日、決定や判決によって行政の誤りが指摘されても、開発等はすでに終了し、緑地は全て失われ、手遅れとなることも少なくない。行政訴訟にともなう執行停止の申立によっても、執行停止の決定がなされることは開発・環境問題ではほとんどなく、また、執行停止の決定が覆されてしまうことも制度として予定されている。
緑地は、一度開発され失われてしまうと、その回復が著しく困難である。そのため、かかる行政優先の制度では、緑地の保全、ひいては環境や景観を享受する市民の権利の擁護は不十分であると言わざるを得ない。したがって、行政不服審査法及び行政事件訴訟法を改正して、行政不服審査の申立や行政訴訟の提起により、原則として当該行政処分の執行は停止されるべきであり、その上で、例外的に執行が停止されない場合を認める制度とすべきである。
また、上記改革を待たずとも、当面、都市計画法を改正して、通常の出訴期間内に限り、都市計画決定に対する執行停止の原則を明記すべきである。
5  緑地保全に関する行政裁量への消極的な(準)司法審査のあり方を見直すこと
現行の行政訴訟や行政不服審査においては、行政処分が適法か否か、妥当か否かの(準)司法審査において、処分庁=行政の裁量権が広範に認められる傾向にあり、訴訟要件が満たされて実体審査が行われる場合においても、行政の裁量権の範囲内であるとして、当該行政処分が違法、不当として取消される場合は極めて限定されている。
しかしながら、緑地は、一度開発され失われてしまうと、その回復が著しく困難であるうえ、緑地の保全は、人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであり、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに、人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持される(環境基本法3条参照)ために必要不可欠なものであることに鑑みると、緑地の開発を認める方向での行政処分が適法か否か、妥当か否かの(準)司法審査においては、開発を認める方向での行政の裁量権は収縮するものと言わねばならない。
上記解釈指針を環境基本法等に織り込むことを検討すべきである。
6  行政への積極的な提言及び義務づけを可能な制度とすること
現行の行政訴訟等においては、なされた行政処分が適法か否か、妥当か否かを事後的に判断し、処分を取り消して白紙に戻すのみであり、緑地の保全については何ら問題が解決されない。行政不服審査制度・行政訴訟制度が十全に機能するためには、緑地保全及び開発行為に関して積極的な提言をなし、あるいは、行政庁に一定の作為を求めることができる制度とする必要がある。
行政不服審査については、不服審査の手続きの中で広く市民や見識者の意見を求め、また、審査会を設置し、諮問し答申を得るなどして、当該開発行為の方向性を提示し、問題解決に資する制度にしていくべきである。
行政訴訟についても、開発許可の取消訴訟に例を挙げれば、土地の形状の保全や回復を命じる、法律上の保全地区に指定することを命じるなど、問題解決の方向を示す内容の司法判断が可能となるようにされるべきである。

以上


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