意見書

「消費者団体訴訟制度の在り方について」に対する意見書(2005年8月18日)


  

2005年(平成17年)8月18日

自由民主党  御中
公明党      御中
民主党      御中
日本共産党  御中
社会民主党  御中
内閣府国民生活局  御中
経済産業省商務流通グループ消費経済部消費経済政策課  御中
公正取引委員会  御中

                                                
京都弁護士会          

会 長   田  中  彰  寿




「消費者団体訴訟制度の在り方について」に対する意見書



  国民生活審議会消費者政策部会及び同部会に設置された消費者団体訴訟制度検討委員会は,2005年6月23日に,「消費者団体訴訟制度の在り方について」と題する報告書をとりまとめた。
当会は,同制度の在り方について,既に2004年3月19日付「実効性のある消費者団体訴訟制度の早期実現を求める意見書」において,損害賠償制度を含めて提言し,さらに,2005年4月5日付「実効性ある消費者団体訴訟制度に関する意見書」において同検討委員会の議論状況に基づき再度提言したところである。
  上記報告書には,当会が上記2005年4月5日付意見書で提言した内容が取り入れられていない点がある。来年通常国会を目指した立法が具体的に検討されるにあたり,政府及び政党に対し,下記のとおり意見を述べ,消費者被害の未然防止・拡大防止のために実効性ある消費者団体訴訟制度が早期に実現されることを重ねて求めるものである。


意 見 の 趣 旨

1 国民生活審議会消費者政策部会・同消費者団体訴訟制度検討委員会の2005年6月23日付「消費者団体訴訟制度の在り方について」と題する報告書(以下,「報告書」という。)が,消費者団体訴訟制度の導入を提言している点は評価できるものである。
  しかし,消費者団体訴訟制度が実効的に運用され,消費者被害の未然防止・拡大防止のために機能するには,具体的内容において不十分な点がある。特に,下記の点は極めて不十分であり,本制度の実効性を著しく損なうおそれが強いので,法制化にあたって強くその是正を求める。
  (1)  裁判管轄について,事業者の普通裁判籍に限ることなく,事業者の不当な行為がなされた地,ないし,なされるおそれがある地を管轄する裁判所にも裁判管轄を認めるべきである。また,事業者の営業所の所在地を管轄する裁判所にも裁判管轄を認めるべきである。
  (2)  不当条項の「推奨行為」を差止・撤回請求の対象とすべきである。
  (3)  差止めの対象となる実体法規として,民法96条,90条,借地借家法の強行規定を含めるべきである。
2  消費者契約法以外の法規に該当する行為の差止制度,損害賠償請求制度についても早急に導入の検討をすべきである。
  

意 見 の 理 由
  
1  総論
   報告書は,消費者団体訴訟制度の導入の必要性を認め,早急にこれを立法することを前提に制度設計を提言している。同制度の導入自体は,事業者に比べ情報力・交渉力に劣る消費者が事業者の不当な行為によって被る被害の未然防止・拡大防止に有効で,極めて画期的であり評価できる。
      しかし,その具体的な内容については,裁判管轄が狭められていること,不当条項の「推奨行為」を差止めの対象としていないこと,差止めの対象となる実体法規に民法等を含まないこと等,消費者被害の未然防止・拡大防止の観点から不十分な点がある。とりわけ裁判管轄について事業者の普通裁判籍の他,不当行為がなされた地などに管轄を認めるべきことを示していない点は,本制度の実効性を著しく制約する重大な問題点である。また,その他にも不十分な点があるので,以下報告書の各項目ごとに当会の意見を述べる。

  2  管轄裁判所の決定について
      報告書は,「管轄裁判所の決定」(報告書24ページ)については,「事業者の普通裁判籍所在地を管轄する裁判所を基本とする」とし,事業者の普通裁判籍の他,営業所等の所在地,不当な行為が行われた地に管轄を認めることが明示されていないが,これでは極めて不都合であり,強く反対である。
そもそも,報告書がここで挙げる理由は,いずれも普通裁判籍所在地を管轄する裁判所を基本とすることの理由としては不適当なものであり,これらから普通裁判籍所在地の裁判管轄を基本とすることが導かれるわけではない。
      本制度が有効に機能するためには,事業者が不当な行為を行い,または,行うおそれのある地を管轄する裁判所にも土地管轄を是非とも認めるべきである。
      勧誘行為を行い,契約を締結している場所は,当該事業者が活動を実際に行っている場所である。この場合,被害は事業活動を行っている地で発生しており,不当勧誘や不当契約条項使用の証拠も事業活動を行っている地に存在する。また,事業者が当該地で事業展開する以上,展開した地域での応訴の負担を被るのはむしろ当然なことである。また,実際には,個別消費者からの個別訴訟も提起されるはずであり,それは金銭の給付訴訟が多いであろうから,実際上,被害消費者のいる地で同一論点について応訴をせざるをえないのである。従って,不当行為が行われる地に管轄を認めても,事業者にとって特に不合理な負担というわけではない。
      実際上も,地方の担当者が行った勧誘で地方の消費者が被害を被っている場合,当該地方で審理するのが合理的であるが,本店が別の地にあるために,担当者も被害消費者も本店所在地に赴き審理するべきとするのは,消費者や消費者団体に過大な負担を強いるものであり,不合理であることは明らかである。
      以上からすれば,審理の都合からも,当事者の負担の観点からも,事業者の行為地にも土地管轄を認めるべきである。
また,事業者の営業所所在地を管轄する裁判所には,応訴の負担を負わせるのが妥当と考えられ,事業者の営業所所在地にも管轄が認められるべきである。
      さらに,民事訴訟法が規定する管轄よりも狭く,事業者の普通裁判籍の所在地のみに管轄を認めるのは,あまりに事業者の都合のみを重視した不合理な案である。少なくとも,民事訴訟法どおりの裁判管轄が認められるべきである。

  3  推奨行為について
      報告書では,「いわゆる『推奨行為』」(他の事業者ないし事業者団体等が,事業者に対して,当該事業者が消費者との間で締結する契約において特定の契約条項につき妥当なものとしてその使用を勧める行為)を差止め等の対象とすることにつき「慎重に検討する必要がある」とされているが(報告書9ページ),推奨行為は是非とも差止め等の対象とすべきである。
      報告書は,事業者団体による自主ルール作りへの萎縮効果の懸念を挙げるが,これらは何ら具体的なものではなく,却って,事業者団体の作成したルールに従ったのみの中小企業に応訴の負担を負わせることの方が極めて不都合である。
      事業者ないし事業者団体が不当な約款の推奨を行っていた事例は過去にも数多く見られる(銀行取引約款のひな形,建物賃貸借契約の原状回復条項など)。また,ドイツ,イギリス,オランダ等の外国法制でも推奨行為の差止ないし撤回(推奨受領者に対して条項が無効であることを通知することなど)請求が認められている。このような実態や海外法制に鑑みると,少なくとも事業者及び事業者団体の推奨行為は差止・撤回請求の対象とすべきである。

  4  差止めの対象とすべき実体法の規定について
      報告書は,差止めの対象とすべき実体法規として,「消費者契約法を基本とする」としている(報告書6ページ)。確かに,当面の立法として消費者契約法が差止めの対象となる実体法規の中心であることについては異論はない。しかし,消費者団体が消費者全体の代表として差し止めるべき事案は,同法違反に尽きるものではない。この点について報告書が民法及び商法について「慎重に検討する必要がある」としている点はとりわけ不十分である。少なくとも,民法の詐欺,強迫行為,公序良俗違反は消費者契約法が規定する行為よりも悪質な行為であり,その要件判断についても消費者契約法より困難というわけではなく明確性に欠けるところはないから,差止めの対象とすべきある。また,借地借家法も消費者契約法の特別法的なものであり,要件判断は明確であるから差止めの対象とすべきである。
なお,報告書が,不当な契約条項の使用のみならず事業者の不当な勧誘行為を差止めの対象としていることは(報告書8ページ),深刻な被害実態に鑑みて適切である。

  5  今後の緊急課題
  (1)報告書の「消費者被害の損害賠償請求について」の項では(報告書4ページ),消費者団体が個々の被害者に代わって損害賠償請求する制度の導入について,「慎重に検討されるべきである」とされている。しかし,近年の消費者被害の急増や,報告書が理由としている選定当事者制度が決して有効に機能しているとはいえない実情等からすれば,消費者団体が個々の被害者に代わって損害賠償請求する制度は,消費者被害救済にとって是非とも実現されるべき重大な課題である。今回の検討委員会では,スケジュールの関係で早々に検討外とされてしまったが,引き続き緊急な課題として実現に向けた検討が必要である。
        また,消費者団体による,消費者個々の損害賠償請求権を前提としない,事業者の不当な行為によって得られた不当な利益の剥奪を請求する制度の実現(当会2004年意見書で提言。ドイツ不正競争防止法は不当利益剥奪請求権の条項を設けている)も必要であると考えられるが,報告書はこれに対しても「慎重な検討が必要」としている(報告書8〜9ページ)。しかし,真に事業者の不当な行為を抑制するためには,差止請求だけでなく,このような不当な利益の剥奪制度が必要不可欠であり,同じく緊急な検討がなされるべきである。
  (2)また,今回は十分な検討が行われなかったものの,当会2004年意見書で提言している,特定商取引法や各種業法等に定める強行規定(宅地建物取引業法など)により無効である条項を使用する行為及び下記の勧誘行為についても差止めの対象として早急に検討する必要がある。
(1)  特定商取引法によって禁止されている行為
(2)  独占禁止法によって禁止されている行為
(3)  不当景品類及び不当表示防止法によって禁止されている行為
(4)  消費者を威迫する言動
(5)  消費者の私生活または業務の平穏を害する言動
(6)  消費者の知識や判断力が不足している状況を利用する行為
(7)  その他信義誠実の原則に反する不当な勧誘行為

6  その他の論点について
(1)「消費者全体」の利益を擁護することを目的としていることについて
      報告書が,消費者団体訴訟制度を,消費者全体の利益を擁護するため,一定要件を充足した消費者団体に対して民事実体法上の請求権を認める制度としていること(報告書5ページ)は,妥当といえる。
      但し,ここで「消費者全体」としているのは,特定の消費者の利益のためだけではないという趣旨と解されるから,「消費者全体」という表現から不当な要件が導かれないように留意する必要がある。報告書8ページの「具体的に差止請求の対象とすべき行為等」において,「消費者全体の利益に影響を及ぼす可能性がある場合に差止めを認める必要がある」とされていることについては,差止めの対象行為は,消費者契約法に該当する違法であると評価される行為であり,差止めの対象の要件としてはそれで十分である。「消費者全体の利益に影響を及ぼす可能性があること」を要件とすれば,差止めの範囲が不当に制限され,被害の未然防止・拡大防止という制度趣旨に反する。
「適格消費者団体の要件の在り方」のうち「団体の目的」についても,報告書では,適格消費者団体の要件として,定款等に団体の目的として「『消費者全体』の利益擁護」が掲げられている必要があるとされているが(報告書11ページ),上記のとおり,「消費者全体」の意味は特定の消費者利益のみをはからないという趣旨と解すべきであるから,このことから不当に適格団体が限定されないよう留意すべきである。
(2)「適格消費者団体の要件の在り方」のうち「団体の目的」について
  報告書は,「団体の構成員の相互扶助を目的とする法人は適格消費者団体の対象から除外すべきである」としているが(報告書11ページ),相互扶助団体でも,生活協同組合のように,消費者の権利擁護活動に果たしてきた実質的役割や規模に照らして消費者全体の利益擁護活動を行っているといえる団体については適格性を認めるべきである。
(3)同「活動実績」について
      報告書が,適格性の判断に際して,適格団体に一定の活動実績を要求すること(報告書12ページ)は,妥当である。期間としては,1年程度の活動期間を要求すべきである。
なお,既存団体が構成員となって新たな団体を結成する場合,活動実績は既存団体の活動を考慮すべきである。
(4)同「団体の規模」について
      報告書は,「団体の規模」(報告書12〜13ページ)については,消費者利益代表制や訴権行使基盤の判断基準の一つであるとし,当該団体の構成員数の規模でなく,人材の確保,情報収集・分析体制,独自の事務局といった体制面や当該団体の行っている事業活動の内容が重要な指標となるとしている。
      こうした考え方は,形式的な人数要件よりもその実質を重視するものであり,十分ありうると考えられる。
      ただ,人数要件を設けることで適格団体の要件が明確になる面もあり,人数要件を設けるとすれば,本制度が積極的に訴権を行使しようとする消費者団体に訴権を認めることによって公正な消費者取引の実現を図ることを目的としていること,そのためには,団体の規模の要件をあまり高く設定することは妥当ではないこと,濫訴の弊害(もっとも差止請求訴訟は消費者全体の利益のために提起されるものであり,経済的見返りを伴うものではないので濫訴のおそれは少ない)を防止することなども考慮して,当会では,本年4月意見書で述べたとおり,100名以上の構成員を有していることを要件とすべきであると考える。
(5)同「事業者等からの独立性」について
      報告書は,特定の事業者の関係者ないし同一業界関係者が意思決定機関の構成員の一定割合以上を占めないことが求められるとしている(報告書13ページ)。
      当会は,営利団体からの独立性を要件とすることには賛成である。しかし,営利を目的とする事業者等(会社等)の他に非営利の事業者等(NPO法人,公益法人,弁護士,医師など)からの影響も排除されるべきか否かは問題である。確かに,これらの者は消費者契約法上はすべて事業者とされているが,これは消費者取引における消費者の利益擁護の観点から規定されたものであり,本制度においてそのまま妥当するものではない。しかも,消費者契約法上の事業者であっても,自然人は一面消費者であって,これを排除することは消費者問題に取り組みたいという自然人のマンパワーの結集をことさら害する結果となる。さらに,消費者契約法上の事業者であっても当該事業者が扱う事業とは別の事業分野について不当な影響を及ぼすことは考えにくい。
      以上からすれば,影響を排除すべき事業者等は営利団体のみとすべきである。
      実質的にも,本制度の実効性を確保するには,事業者となりうる弁護士や司法書士などの専門家が構成員,役員となる必要がある。
      弊害は例外的と思われるが,弊害排除のために,もっぱら競合事業者に対する打撃を与えるために訴訟を提起したと認められる場合には,権利の濫用として請求を棄却し,特に利害関係のある案件については組織内の意思決定において議決権を停止すれば足りる。
(6)同「組織運営体制,人的基盤,財政基盤」について
      報告書では,適格団体の要件として,適切な組織運営体制や人的基盤,財政基盤を備えていることが必要であるとされているが(報告書14ページ),この考え方自体は妥当である。  
      しかし,「組織運営体制」に関して,報告書に情報収集体制,検討部門,独自の事務局の設置等が挙げられ,「人的基盤」に関して,消費生活相談員,弁護士,司法書士等の専門的知識や経験等を備えた人材を確保していることを求めていることについては反対である。これらは,多くの消費者団体の実情を無視した要件であり,現実に即していない。あまりに厳格な適格団体の要件を求めることは,本制度の実効性を損なう。
      報告書は,適格団体に法人格を求めており,適格団体になるためには少なくともNPO法人である必要があるから,組織運営体制・人的基盤に関してはNPO法人の要件を満たす程度のものであれば足りるとすべきである。
(7)「適格要件への適合性判断の在り方」について
      適合性の判断に関しては,消費者団体の適合性の判断をする際,行政の恣意が入ることのないような公正かつ透明な手続を確保すべきである。
      報告書では,適合性判断にあたって第三者機関を設置することについては「その必要性を含め慎重に検討すべきである」とされているが(報告書17ページ),透明な手続とするためには第三者機関を設置するのが妥当であるし,事業者代表も当該機関の構成員として適合性判断に加わることができるような方策などにより,適格団体の実体要件を徒に厳しくする必要もなくなるというべきである。
(8)「事後的担保措置」について
      事後的担保措置としての更新制度(報告書18ページ)の更新期間については,行政への事業報告の制度,適合性判断の取消しの制度等もあるので,あまりに短い期間である必要はなく,5年が妥当である。
また,外部監査については「慎重に検討する必要がある」とされているが(報告書18ページ),他の法律で外部監査が必要とされている場合と本制度で想定される適格団体の規模は全く異なっており不要である。
また報告書では,競合事業者に対する妨害目的の訴え提起,不当な利益を得ることを目的とした差止請求権の行使等を防止するために責務規定,行為規範が必要とされているが(報告書19ページ),これらが許されない行為であることは当然のことであり,わざわざ責務規定等で規定する必要はない。責務規定,行為規範の内容は今後の検討に委ねられているが,その内容によっては不当に適格団体の活動を阻害するおそれがあり,責務規定,行為規範を設定する必要があるかどうかは,その内容ごとに慎重に検討する必要がある。
(9)「既判力の範囲」について
      報告書は,「既判力の範囲」は,既判力が他の団体に及ばないとするものであるが(報告書20〜21ページ),民事訴訟法の基本原則に整合的であり,また,他の団体が独自の観点から団体訴権を行使することを認める必要があるから,基本的に妥当である。しかし,不適切な訴えの提起自体を認めない仕組みの導入(報告書21ページ)については,後記のとおり反対である。
(10)「同時複数提訴の可否」について
        報告書では,同時複数提訴は制限されないとされており(報告書21ページ),基本的に妥当である。
        ここでも,一定の不適切な訴えの提起自体を認めない仕組みの導入が言及されているが(報告書21ページ),これについては後記のとおり反対である。
        なお,不適切な同時複数提訴については,移送,併合の制度で対応すべきである。
(11)「判決の周知・公表」について
      「判決の周知・公表」(報告書22ページ)については,事業者の費用による判決の公表制度も創設されるべきである。
      また,裁判所から国民生活センターへ訴訟の提起・和解・判決の内容が通知され,国民生活センターが事業者や消費者・消費者団体からの照会に回答する制度が創設されるべきである。
(12)「判決の援用制度」について
      報告書では,いわゆる援用制度の導入につき,「慎重な検討が必要」とされている(報告書23ページ)。しかし,消費者団体訴訟制度を設ける趣旨は,個々の消費者と事業者との訴訟遂行能力に格段の差があることも大きな理由であり,「当該不当行為が違法である」との裁判所の判断につき,個々の消費者が訴訟上で援用すれば,その訴訟においても効果が及ぶとすることは,より本制度を実効あらしめるものであって,導入が検討されるべきである。これは,ドイツ等において既に制度化されているものでもある。
(13)「事業者との事前交渉」について
      報告書では,事業者との訴訟前の事前交渉に関し「通知」は必要とされているが(報告書23〜24ページ),事業者が通知を受領しない時のことを考えると不要とすべきである。もし通知を要件とする場合には,事業者が通知を受領しなかった場合の手当が必要である。
(14)「不適切な訴えの提起に対する措置」について
      報告書は,「不当な目的でなされる訴えについては,その提起自体を認めない仕組みとする必要がある」とし(報告書25ページ),訴えの却下制度の導入の必要性を認めるかのようである(この点,報告書は,民事訴訟法上極めて特異な制度であるにもかかわらず,具体的な仕組みを明らかにしていない)。しかし,この点に関しては反対である。
      本制度においては,提訴できる適格団体の要件を定めているが,これはもともと不当な目的での訴えの提起のおそれという弊害排除の視点も検討され要件化されたものである。そのなかには一定の活動実績,事業者等からの独立性,反社会的存在等の排除の措置や,行政がこれを事前に審査すること,事後的担保措置のうち更新制,行政への事業報告,行政が行う必要な措置(報告徴収,立入検査,改善命令,適合性判断の取消し等)等の不適切な訴えの提起の抑制措置があり,これらによって十分抑制されると考えられる。従って,不適切な訴えの提起に対する措置は,屋上屋を重ねるものであり不要である。
      もし,これが採用されるならば,訴え却下の制度自体が濫用され訴訟遅延につながるおそれが強い。また,不当な目的を認定しようとすれば,結局は訴訟の内容を審理することが多いと考えられ,その場合,一般法理で請求棄却を求める場合とそれほど差異があるとは考えられず,また一見明白に不適切な訴えであれば,通常手続でも本案の審理のなかで,速やかに棄却されるはずである。いずれにしても,このような制度を設ける必要性はない。
なお,報告書では,担保提供制度についても言及があるが(報告書25ページ),濫訴のおそれは上記の抑制措置で抑制しうると考えられるため不要である。
(15)「制度の実効性を高めるための方策」について
    (1)「適格消費者団体の自主的な取組みの重要性」について
        報告書では,「制度の実効性を高めるための方策」として,「適格消費者団体の自主的な取組みの重要性」を述べるが(報告書25ページ),本制度が公益的な性格を有することから,まず第一に,環境整備が考えられるべきである。
    (2)「環境整備の方向性」について
        報告書は,「情報面における環境整備」として,地方自治体の消費生活センターや国民生活センターの保有する消費生活相談情報を適格消費者団体に提供することが提案されている(報告書26ページ)が,妥当である。これらの情報は,被害実態の把握や立証,特に不当勧誘行為の把握や立証に不可欠であり,相談内容を活用できる形で提供されるよう法律に規定する必要がある。
    また,「人材面における環境整備」では,国民生活センターの研修が挙げられているのみであるが(報告書27ページ),弁護士会が団体訴訟を受任する弁護士の名簿を準備する等弁護士会との連携などの諸策も考えられるべきである。
        さらに「資金面における環境整備」では,行政として資金面の援助としては実質的に何もしないとされているが(報告書27ページ),本制度の公益的性格に鑑み,適格団体への補助金が考えられるべきである。
        その他,当会が2004年意見書で提言している,弁護士費用の片面的敗訴者負担,法律扶助制度・訴訟援助制度の拡充,理論的検討の支援体制,各地の消費生活センターの相談業務の拡充,消費者団体間の情報を相互につなぐ全国的なネットワークの構築などが認められるべきである。

  7  おわりに
消費者団体訴訟制度は,来年通常国会への法案提出に向けて,より具体的な法案検討の段階に入る。報告書で示された消費者団体訴訟制度は,その導入は画期的であるが,裁判管轄など内容によっては本制度が有効に活用されなくなるおそれがあるものである。
  今後の法案検討においては,真に,消費者団体が実効的に事業者の不当行為を差し止めることができるよう,内閣府国民生活局,政府,各政党において,精力的な取り組みがなされるよう強く求めるものである。

以  上

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