出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書(2006年1月26日)


2006年(平成18年)1月26日

衆議院議長        河  野  洋  平  殿
参議院議長        扇      千  景  殿
金融庁長官        五  味  廣  文  殿
金融庁貸金業制度等に関する懇談会座長    吉  野  直  行  殿
自由民主党総裁    小  泉  純一郎  殿
民主党代表        前  原  誠  司  殿
公明党代表        神  崎  武  法  殿
日本共産党委員長  志  位  和  夫  殿
社会民主党党首    福  島  みずほ  殿

京都弁護士会            

会長  田  中  彰  寿



出資法の上限金利の引き下げ等を求める意見書



意 見 の 趣 旨

1  出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)第5条第2項の上限金利を、利息制限法第1条の制限金利まで引き下げる改正をすべきである。
2  出資法における日賦貸金業者及び電話担保金融に対する特例措置を撤廃すべきである。
3  貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)第43条(みなし弁済規定)を廃止すべきである。
4  貸金業規制法の規定による契約書面及び受取証書の交付を電子的手段によって代替させることを内容とする改正には反対である。


意 見 の 理 由

1  総論
  平成11年臨時国会において、出資法第5条第2項の上限金利が年40.004%から年29.2%に引下げられた。そして、この上限金利については、施行後3年を経過した時点で、資金需給の状況その他の経済・金融情勢、貸金業者の業務の実態等を勘案して検討を加え、必要な見直しを行うとされていた(平成11年改正出資法附則8条)。
  ところが、施行後3年を経過した平成15年通常国会において、いわゆるヤミ金対策法が成立したこともあり、金利の見直しの問題は、先延ばしとなり、ヤミ金対策法施行後3年を目途として、検討を加え必要な見直しを行うものとされた(平成15年改正出資法附則12条)。
  ヤミ金対策法は、一部の条文については平成15年9月1日に、その余の全部の条文については平成16年1月1日に施行されたので、平成18年9月から平成19年1月が見直しの時期にあたる。
  そのような中で、平成17年3月、金融庁は、「貸金業制度等のあり方について幅広い観点から勉強するため」貸金業制度等に関する懇談会を発足させ、自民党も金融サービス制度を検討する会で貸金業制度の見直しの議論を始めた。消費者金融業界は、この機会を期に出資法上限金利の引き上げのみならず、貸金業規制法第43条に規定される、みなし弁済規定の適用の厳格化に歯止めをかけ、その適用条件を緩和すること、ひいては金利規制を撤廃し、金利を自由化することなどを企図している。
  しかし、以下に述べる多重債務者を取り巻く環境、消費者金融業界の現状等に照らせば、上記消費者金融業界の主張どおり、出資法上限金利を引上げたり、金利規制を撤廃することは、多重債務による被害を激増させることにつながるものであり、許されない。
  むしろ、現状でも数多く存在する多重債務による被害をなくすためには、出資法上限金利は、例外なく、利息制限法の制限金利まで引き下げるべきである。
  同様に、多重債務の原因である、日賦貸金業者や電話担保金融について出資法上限金利を超える金利での貸付を認めている特例措置は撤廃すべきであり、一定の厳格な要件のもととは言え、例外的に利息制限法の制限金利と出資法の上限金利の間(いわゆる「グレーゾーン」)での貸金業者による本来無効な超過利息の収受を例外的事後的に有効とみなす貸金業規制法第43条は、既に立法事実が存在しない以上、廃止されるべきである。

2  出資法第5条の上限金利引き下げについて(意見の趣旨1項)
(1) 多重債務者を取り巻く環境
  いわゆるバブル崩壊後の長引く不況下、多重債務者は増え続けている。司法統計によると、自然人の自己破産申立件数は、平成14年には21万4、683件平成15年には24万2、357件と急増し、平成16年には21万1、402件と前年度比で減少に転じたものの、依然として20万件を超えている。これらの数値は平成5年の約4万3、545件に比べ、約5倍の水準となっており、近年の自然人の自己破産申立件数の急増は顕著である。
  同様に京都地裁においても自然人の自己破産申立件数は、平成5年には1、023件であったのが、平成15年には5、313件と急増し、平成16年には、4、529件となっている。これらは、平成5年の約4倍から5倍の水準であり、京都においても自然人の自己破産申立件数の急増は顕著である。
  以上の自己破産者の他に破産予備軍ともいうべき多重債務者は、150万人から200万人に及ぶとも言われている。
  自己破産申立した者の大半に免責が認められていることが示すように、破産に至る理由は単なる浪費ではなく、主たる要因は生活苦や低所得、失業といった点にある。近時、景気回復との見出しが新聞を踊るが、景気回復の恩恵を国民全部が享受しているわけではなく、多重債務者を取り巻く環境はなお厳しいものである。
  警察庁生活安全局地域課の統計によると、経済・生活苦を理由とする自殺者の自殺者総数に占める割合は、平成5年度には2万1、851人中2、484人(約11.3%)であったのが、平成15年度は3万4、427人中8、897人(25.8%)、平成16年度は3万2、325人中7、947人(24.5%)と急増している。多重債務を苦に自ら命を絶つとの選択をした者が多数存在することは誠に痛ましい限りである。
  自殺者の急増は、社会不安を増大させるものであり、このような現状を変えることが急務であることは言うまでもない。
  このような多重債務者を取り巻く環境に鑑みれば、現行出資法の上限金利を引き上げることは、徒に、債務者の金利負担を増大させ、多重債務者、破産者を激増させるものである。上記のとおり、破産者、多重債務者、経済・生活苦を理由とする自殺者が急増している現状に鑑みれば、現行出資法の上限金利を引き下げることが急務である。
(2) 消費者金融業界の高収益構造と過剰与信
?  消費者金融業界は、出資法の上限金利引き下げについて、消費者金融業者の収益を悪化させる要因となることを理由に反対している。
  しかし、消費者金融業界の資金調達の現状に照らすと、上記消費者金融業界の主張の不合理さは明らかである。
  即ち、現在のわが国は、公定歩合が年0.1%、銀行の普通預金金利が年0.001%という超低金利時代にある。消費者金融業者は、この恩恵にあずかり、年2%から4%という低金利で資金調達をしている。一方業者の貸出金利は年25%から29.2%であり、これは、調達金利の6倍から25倍という超高金利になっている。このように消費者金融業界は、低金利で資金調達をし、高金利で貸し出しをしているのであり、これが消費者金融業界の高収益を支える要因となっている。
  仮に、出資法第5条の上限金利を、利息制限法第1条の制限金利まで引き下げたとしても、利息制限法第1条の制限利率が15%から20%であることに鑑みれば、調達金利の4倍から10倍の高利率で貸し出すことが可能である。従って、低金利での資金調達、高金利での貸し出しといった、消費者金融業者の高収益構造は変わらず、金利引き下げを行っても消費者金融業者の存立にかかわるような影響はなく、むしろ社会的に見て不当な利益の収受を是正することになる。
?  以上のように、調達金利に比して、貸出金利が高利率であるが故に、過剰与信が行われる。即ち、消費者金融業者側は、調達金利に比して貸出金利が極めて高いため、貸し出しを増やせば増やすほど高収益を得ることができ、貸し倒れリスクを十分に吸収することができる。そのため、安易な審査で不必要な貸し出しを行うのである。
  過剰与信によって債務者は、返済可能額を超えた債務を負うこととなる。そして高金利故に返済のための借入を強いられる。自己破産申立に至った債務者のほとんど全てが、複数の消費者金融業者から返済可能額を大幅に超える融資を受けていることからすれば、自己破産に至る原因は、貸出金利の高利率と過剰与信にあることは明白である。
  貸金業者全体の総貸付残高は、金融庁業務報告書集計結果によれば、平成16年3月末時点で約46兆8千億円であり、このうち、いわゆる消費者金融業者を意味する消費者向無担保金融業者の貸付残高は、約11兆7千億円と約25%を占めている。
  同集計結果の推移を見ると、平成7年3月末時点では、貸金業者全体の総貸付残高が約73兆3千億円、うち消費者向無担保金融業者の貸付残高が約5兆2千億円であったのが、前回の出資法上限金利引き下げ後である平成12年3月末には全体の貸付残高が約47兆6千億円と減少したにもかかわらず、消費者金融業者の貸付残高は、逆に約9兆5千億円と増加し、平成15年3月末時点では約12兆円にも達した(全体の貸付残高は約46兆7千億円)。
  このように消費者金融業者の貸付残高及び貸付残高全体に占める割合は年々増加の一途をたどっており、消費者金融業者の過剰与信構造は、前回の出資法上限金利引き下げによっても改善されなかったのである。多重債務者増大の原因は、過剰与信、高金利にあり、過剰与信を発生させているのは、調達金利に比して、貸出金利が高利率であることからすれば、かかる構造を打破するためにも貸出金利引き下げは急務である。
(3) 出資法上限金利引き下げはヤミ金融増加の論拠とはならない。
  出資法上限金利引き下げに対して、貸金業界は、出資法の上限金利の引き下げが消費者金融業者のいわゆる貸し渋りを生み、消費者金融業者からすら借り入れが出来ない層を増大させ、これらの層を食い物にするヤミ金融業者が蔓延すると主張している
  しかし、出資法上限金利引き下げとヤミ金融の増加との間には因果関係がなく、このような見解に理由はない。
  即ち、金利引き下げが貸付額に与える影響についてみると、前述のとおり、前回平成12年に出資法上限金利引き下げが行われた後も、消費者金融業界全体の貸付額は伸びている。このような客観的状況に照らせば、出資法上限金利引き下げが貸し渋りの要因にならないことは明らかである。
  むしろ、高金利こそがヤミ金融増加の原因である。即ち、ヤミ金融が標的とする被害者は、過去に自己破産をした者や多重債務者である。前述のとおり、自己破産や多重債務の要因は、高利率による貸付及び貸金業者による返済能力を超えた過剰与信にあり、過剰与信を支えているのが高金利である。従って、高金利こそがヤミ金融被害を生みだしているのである。
  このような現状に鑑みると、ヤミ金融被害撲滅のため、出資法上限金利引き上げを行うということは、反対にヤミ金融被害を増大するものであり、本末転倒である。
  そもそもヤミ金融は正当な取引活動ではなく金融取引に藉口した恐喝行為である。かかる犯罪行為撲滅に必要なのはヤミ金融対策法等による取り締りであって、出資法上限金利の引上げなどでは断じてあり得ない。
  むしろ、多重債務者を生む原因となっている高金利、過剰与信構造を打破することが、ひいてはヤミ金融被害撲滅に繋がる。その意味でも現行の出資法上限金利は更なる引き下げが不可欠であって、少なくとも、現行の利息制限法所定利率まで引き下げられなければならない。

3  日掛貸金業者・電話担保金融に対する特例措置の撤廃について(意見の趣旨2項)
(1) 現行法は、貸金業者のうち、日掛貸金業者・電話担保金融について特例を設け、刑罰対象利率を年54.75%(閏年は年54.9%)とした上で、右利率をみなし弁済規定の上限利率としている(出資法附則8・14項)。
(2) 一般の消費者信用取引に比して、かかる特例措置が設けられている根拠としては、?これまで社会問題化するような大きなトラブルが発生していないこと、?日掛貸金業者には集金のコストがかかること、等が挙げられてきた。
  しかし、日掛貸金業者については、過酷な取立が問題となり、平成12年6月には刑罰対象金利を引き下げる法改正がなされたものであるが(平成13年1月1日施行)、これにより問題が沈静化することもなく、依然として熾烈な取立に苦しめられる被害は後を絶っていない。また、一般の貸金業者が、高金利のとれる日掛貸金業者に移行しつつ日掛貸金業者としての要件を遵守していない悪質な事例も散見されている。
  また、コストについては、他の一般の消費者金融業者が立地条件の良い市街地に店舗を構え、ATM設置等の設備投資を行うコストと比べると、日掛貸金業者につき集金コストを殊更重視して、格別に特例を認めるべき差があるとは考え難い。また、電話担保金融については、担保評価に担保物件管理コストを反映させることが可能であり、現実にも反映させていることに鑑みれば、無担保の消費者金融業者よりむしろ低金利であってしかるべきといえ、高金利の取得を認める必要性は存在しない。
  加えて、電話担保金融については、携帯電話の普及に伴い、電話加入権の価値が暴落し、近い将来電話加入権自体存在しなくなる蓋然性が高いのであって、現実にも電話担保金融業者の数は激減している。したがって、そのような消滅しつつある業種に対して、あえて特例措置を認める意義は乏しい。
(3) したがって、日掛貸金業者・電話担保金融に対する特例措置は撤廃されるべきであり、出資法の上限金利は、例外なく、少なくとも利息制限法の制限金利まで引き下げるべきである。
(4) なお、現行法は、質屋についても特例措置を設けており、質屋の場合の刑罰対象利率は年109.5%(閏年は年109.8%)もの高利率とされ、これがみなし弁済規定の上限利率となっている(質屋営業法36条)。
  しかしながら、本意見書は、質屋についての特例措置撤廃の意見は述べていない。これは、質屋についての法規制が質屋営業法という特別法によるものであることからも明らかなとおり、質屋には他の金融業者とは同列に扱えない側面があることに鑑み、この度は別扱いとしたものである。
  もっとも、109.5%という金利が高金利に過ぎることは、見るに明らかであるから、質屋についての特例措置についても、見直しが必要であることは言うまでもない。したがって、本意見書が、質屋についての特例措置については容認するとの立場を取るものではないことを、ここに付言しておく。

4  みなし弁済規定の廃止について(意見の趣旨3項)
(1) 貸金業規制法43条1項の制定経緯
  従前、最高裁判所は判例の積み重ねにより、「任意の支払い」の場合に超過利息の弁済につき返還請求できないとする利息制限法1条2項を事実上空文化し、超過利息を無効とする1条1項に統一してきた。すなわち、債務者が超過利息を支払っても、元本が残存すればそれに充当され(最判昭和39年11月18日)、元本が完済された場合には、不当利得として返還請求できる(最判昭和43年11月13日)としてきたのである。貸金業規制法43条1項は、昭和58年にされた同法の施行を円滑にするための方策として設けられたものに過ぎず、裁判所が判例の積み重ねにより形成した利息制限法1条2項の空文化の流れを立法で排除したものとして、制定の経緯からして違憲の疑いすらあるものだった。さらに、法43条1項は、出資法の上限利率(年利29.2%)の存在と相まって、高金利を容認し、回収困難な過剰貸し付けを認める原因となり、多重債務の発生を促進する要因ともなっている。
(2) 最高裁判例による法43条1項の死文化
  下級裁判所は、訴訟を通じて消費者金融業者の違法・不当な融資実態や借主の悲惨な実態に接する中で、また、法43条1項は本来無効な超過利息の弁済について例外を設けて有効とするという法の建前から、法43条1項を厳格解釈する裁判例を積み上げ、最高裁判所もこの流れを受けて、法43条1項を厳格に解釈してきた。
?17条書面、18条書面の厳格解釈
  まず、法17条が要求する契約後遅滞なく交付すべき書面、法18条が要求する弁済の都度直ちに交付すべき書面について、最高裁は形式面を厳格に規制する方向を示し(たとえば、18条書面は利息の支払が銀行振り込みによってなされる場合も必要とし(最判平成11年1月21日)、また、返済期日の弁済があった場合の法18条所定の事項が記載された書面で貸金業者の銀行口座への口座振り込み用紙と一体になったものを返済期日前に債務者に交付しても18条の要件は満たさないとする(最判平成16年2月20日)など)、今日では、ほとんどの消費者金融業者はこれらの形式要件をクリアすることができず、したがって、法43条1項のみなし弁済が有効とされることはほとんどない状況になっている。
?利息制限法2条への法43条1項の適用の否定
  また、最高裁は、法43条1項は、利息制限法1条1項の特則であり、同法2条の特則ではなく、金銭消費貸借上の約定に基づき天引きがされた場合の天引利息に法43条1項のみなし弁済の適用はないとした。
?任意性要件の厳格化
  最高裁は、書面の交付という形式面のみならず、43条1項の中核となる「任意性」の要件についても判断を重ねてきた。まず、最高裁は、平成2年の判決(最判平成2年1月22日)において、「貸金業規制法43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」とは、債務者が利息の契約に基づく利息または賠償額の予定に基づく賠償金の支払いに充当されることを認識した上、自己の自由な意思によって支払ったことをいうとした。さらに、直近の今年1月の判決(最判平成18年1月13日)は、「自由な意思」の内容について、制限利息を超える違約金を定めた期限の利益喪失条項は、「通常、債務者に対し、支払期日に約定の元本とともに制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の利益を喪失し、残元本全額を直ちに一括して支払い、これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え、その結果、このような不利益を回避するために、制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになる」から、「債務者が、利息として、利息の制限額を超える額を支払った場合には、上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り、債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当」として、期限の利益喪失条項によって事実上制限超過利息の支払いを強制されている場合には原則として自由な意思に基づく弁済とはいえない、と明示した(なお、同様の最高裁判決が平成18年1月19日と同月24日になされている。24日の最高裁判決は、日賦金融業者についての判決である)。
  これにより、消費者金融が用いる契約書には例外なく期限の利益喪失条項が記載され、借主が事実上制限利息超過利息の支払いを強制されているという現状のもとでは、貸金業規制法43条1項は完全に死文化したこととなったのである。
?小計
  以上のように、一連の最高裁判例は、法17条、18条の書面の要件を厳格化し、さらに今日、法43条1項の「任意」の要件を厳格に解することで、法43条1項がさだめる「みなし弁済」を事実上認めないところまで踏み込んできているのである。
(3) まとめ
  以上のとおり、消費者金融に利息制限法の制限金利を上回る金利の徴収を認めてはならないことは、多重債務者を取り巻く上記環境を考慮した上で、最高裁判所をはじめとする我が国の司法の判断となっている。
  司法の判断は、もはや43条1項の存続を許さないところまで高まっていると言え、早急に貸金業規制法43条1項を廃止すべきである。

5  貸金業規制法の規定による契約書面及び受取証書の交付を電子的手段によって代替させることを内容とする改正への反対について(意見の趣旨4項)
(1) 以上のとおり、貸金業規制法43条は廃止されるべきであるが、同43条を存置し広く適用すべきだと主張する43条緩和論者の中には、みなし弁済規定の適用要件とされる17条書面や18条書面(以下「17条等書面」という。)について、電子的手段によって代替させた書面(以下「IT書面」という。)の方が交付の迅速性に優れており、消費者保護にもつながるとして、IT書面の導入を強く主張する者がいる。
  しかし、当会は17条等書面についてのIT書面導入には強く反対する。
(2) そもそも、17条等書面は、消費者に対し「自分がしようとしている契約がどのような内容であるのか」「自分が支払った金銭が、元金・利息等のどこに充当されるのか」などについて注意を喚起し、警告することを目的としているのであり、したがって、その目的を十分に果たす為には、本来、契約や弁済の際に、貸金業者の側から直接交付を受けて、内容について説明がなされるのが理想とされるものである。現在、貸金業規制法上は、書面の交付のみが義務付けられているが、これは、上記の理想を達成することが現実的には困難であるから、法制上譲歩しているに過ぎない。そして、17条等書面の上記の本来的役割からすれば、これ以上の譲歩は許されない。
  経験的にも明らかなように、インターネットを介してコンピューター等の画面に表示される約款や注意書は読み飛ばされることが多い。インターネット上でショッピングなどをしたことのある者は、その際に画面に表示される約款等について、全文を一度に表示できず画面をスクロールさせる必要のあることが多いために、それをしないままに「同意する」などと表示されたボタンを押し、早々に次の画面に進むという作業を少なからず経験しているのである。もし、17条等書面についてIT書面を導入すれば、これと同様のことが起こるのは必至であり、IT書面は17条等書面の本来的目的をまったく達成できないのである。
  さらに、IT書面が、現実に眼前に交付される書面と決定的に異なるのは、消費者が意識的にその画面を開かない限り消費者の目に触れることが全くないという点である。17条等書面の本来的役割からすれば、消費者の目に触れることが一度もない状況が許容されないのは明白であるが、IT書面の導入によりそのような状況が高度の蓋然性をもって予測されるのである。
  以上のように、IT書面が17条等書面を有名無実化することで、消費者が、自己の契約や弁済について正確な認識がないままに、利息制限法で定める上限利息を超えて支払いをする恐れが飛躍的に高まるのである。
(3) 書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(以下「IT書面一括法」という。)が成立する際に、貸金業関係については契約をめぐるトラブルが多発しているという理由で、貸金業規制法がその対象から除外されたという経緯があるが、現在も契約をめぐるトラブルが多発しているという状況にはなんらの変化もない。したがって、そもそも、IT書面一括法の対象に貸金業規制法を加える根拠は存在しない。
  平成17年6月29日に金融庁において行われた貸金業制度に関する懇談会(第5回)の議事録をみると、IT書面の導入の根拠として「翌月一括返済の短期間貸出しであるが、対利息収入費のコスト負担が大変大きい。」「17条・18条問題やみなし利息の問題について、事務処理コストの観点からみると、リスクに応じた金利の提示のために、金利以外のコストを下げること」「インターネットでの電子書面の容認について現状に則した形となるよう検討し、コストの低減につなげていただきたい。」などの意見が掲げられている。しかし、実質的に対等の契約当事者でない消費者に、上記のような一方的不利益を課し、優位当事者である資金業者の利益を図ることは、貸金業者に必要な規制や監督等を加えて、資金需要者である消費者の利益の保護を図ることを目的として立法された貸金業規制法の趣旨からして、本末転倒といわざるを得ない。

以  上


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