「― 投資サービス法(仮称)に向けて ― 金融審議会金融分科会第一部会報告」に対する意見書(2006年1月26日)


2006年(平成18年)1月26日

金融庁長官    五  味  廣  文  殿
金融審議会金融分科会第一部会
部会長  神  田  秀  樹  殿

京都弁護士会            

会長  田  中  彰  寿




「― 投資サービス法(仮称)に向けて ―  金融審議会金融分科会第一部会報告」に対する意見書



  金融審議会金融分科会第一部会(以下「分科会」という。)は、平成17年12月22日、金融商品に関する横断的な規制を内容とする投資サービス法制定に関する「−投資サービス法(仮称)に向けて−金融審議会金融分科会第一部会報告」を公表した。当会は、この「報告」に対して、以下のとおり意見を述べる。

意 見 の 趣 旨

1  投資サービス法の適用対象(報告6〜9頁)
  投資サービス法は、全ての金融商品を適用対象とすべきである。特に、国内公設の商品先物取引、オプションを含む全ての海外商品先物取引等を同法の適用対象とすることは不可欠である。
2  規制内容について(報告10〜16頁)
  とくに、次の行為規制を盛り込み、その内容を充実させるべきである。
(1) 適合性原則
(2) 不招請勧誘禁止
3  ルールの実効性の確保(エンフォースメント)
  ルールの実効性の確保のため、次のとおり、行為規制についての民事上の効果の付与を定めるべきである。
(1)  適合性原則に反する勧誘が行われた場合には、当該被勧誘者に当該勧誘行為を端緒とする投資取引すべてについての取消権を付与すべきである。
(2)  不招請勧誘が行われた場合には、当該被勧誘者に当該勧誘行為を端緒とする投資取引すべてについての取消権を付与すべきである。


意 見 の 理 由

1  意見の趣旨1について
(1)「報告」は、「現在の縦割り業法を見直し、同じ経済的機能を有する金融商品には同じルールを適用する必要がある」(報告2頁)、「現在の縦割り業法を見直し、幅広い金融商品を対象とした法制を目指すことが必要である」(報告5頁)とし、市場リスク・信用リスクを有する投資性のある金融商品を幅広くその対象範囲とする方向性を掲げている。
  他方で、「商品先物取引及び海外先物契約」については、投資性があることを認めながらも、?それぞれ業法が存在すること、?実需者による原資産についての取引を基礎とする取引であり、商品調達・在庫調整・資金調達といった重要な産業インフラである商品市場に関する制度としての側面があること、?平成17年5月の改正商品取引所法施行により、取引に関する苦情が減少傾向にあること、を理由にその投資サービス法の対象範囲から除外する扱いとなっている(報告別紙3)。
  しかしながら、以下に述べるとおり、?ないし?の各理由は、国内公設の商品先物取引、オプションを含む全ての海外商品先物取引を投資サービス法の適用範囲から除外する理由とはなり得ない。
(2) ? 業法が存在する点について
  そもそも、投資サービス法制定の議論は、「現在の縦割り業法を見直し」(報告2頁・5頁)、金融商品に関する横断的な法制を整備するために行われてきたものであって、業法が存在することを投資サービス法の適用対象から除外する理由とすることは本末転倒である。「報告」が、同じく業法が存在する預金・貯金や保険等についてもその投資性に着目して適用対象としていること(報告別紙1)とも明らかに矛盾する。
  業法の存在を理由に、投資サービス法の適用対象から除外することは、まさに「現在の縦割り業法」を維持することにつながる点で、そもそもの法制定目的に反し、明らかに不当で許されない。
  なお、海外商品先物オプション取引については、規制業法が未だ存在せず、「既存の利用者保護体制の対象となっていない『隙間』を埋める」(報告2頁)という投資サービス法の目的から、当然に適用対象とされるべきである。
(3) ? 産業インフラである商品市場に関する制度としての側面があるとする点について
  この点は、第24回金融審議会金融分科会(平成17年1月21日)でのオブザーバー・宮本経産省商務課長の発言をふまえた指摘であると考えられる。同氏の発言は「特に商品先物について言えば、もともと実際の商品の取引のリスクヘッジ、そのための機能が基本にあるわけであります。今でも単に差金のやりとりだけという意味の金融とは違いまして、最終的には現物の受渡しという形で、実体経済に根ざした産業インフラという機能を持っているわけでございます。」というものである。
  しかし、日本の商品先物市場における最終決済方法は、その大半が差金決済であり、現物の受渡しが行われる割合は極めて小さい。たとえば、平成18年1月13日の東京工業品取引所のガソリンの取引高は81、278枚、取組高は75、390枚であるのに対し、平成18年1月限月のガソリンの受渡高は僅か574枚にとどまる。同様に、同日の東京穀物商品取引所のとうもろこしの取引高は17、500枚、取組高は96、236枚であるのに対し、平成18年1月限月のとうもろこしの受渡高は僅か40枚である。
  すなわち、市場の実態は、「実体経済に根ざした産業インフラ」というものとはほど遠く、むしろ「差金決済を目的とした投資対象」というものであって、産業インフラとしての側面を過度に強調することは実態とかけ離れることとなる。また、商品先物取引が産業インフラとしての側面を有することを否定しないとしても、これを投資サービス法の適用対象とすることは、何ら産業インフラとしての側面を阻害しない。すなわち、産業インフラとしての側面を有することは何ら商品先物取引を適用対象から除外することの積極的理由となり得ないのである。
  そして何より、商品先物取引が、消費者からみれば利殖を目的とする投資行為にほかならないことを重視する必要がある。消費者の視点からは利殖目的で資金を投じるという点で有価証券取引や投資信託などと全く変わらないのである。このことは、イギリスの金融サービス法や、EUの投資サービス指令等、諸外国の類似法制においても、商品先物取引について当然に規制の対象となる金融商品として位置づけていること(報告4頁)からも明らかである。
(4) ? 法改正により商品先物取引に関する苦情が減少傾向にあるとする点について
  平成17年5月の商品取引所法改正により、同取引に関する苦情が減少傾向にあるという評価は、日本商品先物取引協会(日商協)が公開したデータと矛盾する。日商協が平成17年9月22日に公表した同年8月31日現在の苦情・紛争受付状況によると、平成17年度に日商協に寄せられた苦情件数は106件であり、5月以降、毎月の苦情件数が前年を上回り、合計件数でも24件増加したとのことである。
  一方で、国民生活センターが同年10月5日に公表したデータでは、商品先物取引に関する苦情は1627件と前年同期比944件減となっているが、その背景に最近の市場における出来高の減少(平成17年度上半期は前年度同期比26.1%減)があることを考慮すれば、単純に苦情が減少したと評価できるものかどうかは疑わしい。そして、国民生活センターの分析では、相談内容について「女性と60歳以上の高齢者の割合が増える傾向にある」と、法改正で特に規制の重点が置かれた適合性原則の遵守が未だに履行されていないことが指摘されており、法改正が苦情減少に直接的に機能しているとの評価は、その検証が十分になされたものとは言い難い。
  反対に、平成14年から16年まで、国民生活センターへの年間苦情件数が7000件を超え、10年前の4倍もの被害が引き起こされている極めて深刻な事態にあることを見落としてはならず、平成17年10月5日のデータ公表時にも、国民生活センターが従前と同様、「リスクの理解が不十分」「勧誘方法に問題がある」「適合性原則が遵守されていない」「消費者の意思が無視した取引が行われている」という問題点を列挙しつつ、「一般消費者は絶対に手を出さないことが最も重要」と呼びかけていることを見落としてはならない。
  そして、被害では後発というべき外国為替証拠金取引被害につき、外国為替証拠金取引を適用対象とし、不招請勧誘禁止も盛り込んだ金融先物取引法の改正がなされた点、海外先物オプション取引被害につき、主務省である経済産業省、農林水産省が、海外先物規制法を改正せずに放置してきた点などを考慮すれば、消費者被害が深刻な商品先物取引、海外先物取引の分野では、これまでの商品取引所法、海外先物規制法及びこれらを所管する経産省、農水省の下では対処できないことが明らかになり、同法、同省の規制のやり方は破綻していると言わざるを得ない。これらの取引を投資サービス法の適用対象として、金融庁の監督下に置くことは、横断的なルールを策定し「利用者保護をつうじて利用者が安心して金融商品を利用できるよう」にし、「我が国金融・資本市場の発展」(報告2頁)を目指す上で必要不可欠である。

2  意見の趣旨2について
(1) 適合性原則
  知識、経験、資産が十分でない者に対して、金融商品取引を行わせてはならない。既に商品先物取引、証券取引などの分野では制度として認められているところであるが、これは、投資取引一般に当てはまることである。
この点、報告14頁においては、適合性原則を、「利用者保護のための販売・勧誘に関するルールの柱」と位置づけ、また「『知識、経験、財産』に加え、『投資の目的』又は『投資の意向』も考慮要素として追加する」としており、適合性原則をより厳格に判断する方向自体は望ましいものといえるが、さらに、「顧客の理解力」もまさに「利用者に自己責任を問う前提」(報告2頁)といえるのであるから、重要な考慮要素のひとつとすべきである。そもそも、金融商品やその市場のメカニズムについて理解する能力のない者に対して、その商品の取引を勧誘してはならないのは当然であり、業者による顧客の理解力把握のための努力は、「実務上支障」(報告14頁)として切って捨てられる問題ではなく、利用者保護及び公正な市場確保のために必要不可欠なコストなのである。
さらに、適合性原則をいくら高く掲げたとしても、これが何ら遵守されなければまさに「絵に描いた餅」に過ぎないのであるから、意見の趣旨3で述べるとおり、その実効化の確保(エンフォースメント)が極めて重要である。
  (2) 不招請勧誘の禁止
  金融商品の勧誘にあたっては、電話・ファックス、訪問、電子メールによるいわゆるオプトイン型不招請勧誘禁止を導入すべきである。
  オプトイン型不招請勧誘禁止は、現在、金融先物取引法で規定するのみであるが、投資に関する苦情、被害の多くは、不招請の勧誘に端を発しているのであり、広く金融商品一般について、オプトイン型不招請勧誘禁止を採用すべきである。
  なお、現行の金融先物取引法においては、電話、訪問だけが禁止されているが、不招請勧誘には、これに加えファックス、電子メールも加えるべきものであるから(平成15年11月28日近畿弁護士連合会決議)、投資サービス法の不招請勧誘禁止にはこれらも盛り込むべきである。
この点、報告15頁においては、不招請勧誘禁止の枠組みを、適合性原則の遵守をおよそ期待できないような場合に限り、当面の適用対象についても現行の金融先物取引に限るのが適当としているようである。しかし、これは原則と例外が逆転した発想である。不招請勧誘それ自体が消費者の平穏な生活に突如として侵入してくる攻撃的な性格を有していること、そして、何よりも、商品先物取引をはじめとする我が国において根強い投資被害の大半が不招請勧誘に端を発しているという実態に鑑みれば、対象となる投資サービス全般について一般的網羅的に不招請勧誘の規制を施すことは必要不可欠であり、例外的にその規制を緩和することを検討すべきであろう。金融分科会第一部会における委員の議論においても、「不招請勧誘についても、原則不招請勧誘の禁止をすべき」「今までの縦割りの法律を横に見る場合でも、説明義務なり適合性原則のところについてはかなり似たような規制がされてきているわけで、それを共通化するということは全然無理ではない」(平成17年10月5日第34回金融審議会金融分科会第一部会議事録における上柳委員の発言)など、不招請勧誘の規制を一般的に設けるべきとの発言が数多く見られるのである。
なお、報告15頁は、取引所金融先物取引について不招請勧誘の規制を外し、代わりに再勧誘の禁止を適用するなどして、不招請勧誘規制の範囲を現行法よりもさらに狭めようとすらしているが、強く反対する。被害抑制の機能を果たしているといえる現行金融先物取引法の規制を後退させるべき理由は全くないし、代替策としての再勧誘の禁止規制は、勧誘を断ることすらできない一般消費者の投資被害を抑制することはできないばかりか、訴訟等において顧客が勧誘を断ったことを立証することも極めて困難である。いったん勧誘されれば消費者は否応なく取引に巻き込まれていく、という典型的な投資被害の構造を正面からとらえた法的規制が必要とされているのである。

3  意見の趣旨3について
(1) 弁護士会に相談事案として持ち込まれる金融商品取引被害案件のうち、特に商品先物取引や、海外商品先物取引、海外商品先物オプション取引については、ほとんどその全ての案件が不招請勧誘を端緒としている。しかも被害者の大半は、それまで投機的取引の経験がなく、取引の複雑な仕組みも理解しておらず、値動き予測の材料も持ち合わせておらず、またハイリスク取引に耐えうるだけの資産を持ち合わせていない。我々弁護士のもとに被害相談として現れるケースの実態はこのようなものであり、被害者はそれまでの人生で蓄えた生活資金を、一本の望まない電話・一回の望まない訪問をきっかけに、ごく短期間のうちに失ってしまっているのである。
  そして、被害者が相当の期間や費用をかけて被害回復のために司法を利用した解決を図ろうとしても、誤った自己責任論による過失相殺や、加害業者の信用リスク等の問題から回復に困難を伴うことは少なくなく、例え被害の一部を回復できたとしても、被害者のその後の人生に深刻かつ重大な影響が残ってしまっている。他方で、加害業者は不当勧誘をきっかけにあげた利得の全てを吐き出さずに保持できるため、不当勧誘に対する抑止効が働かず、その結果、繰り返し被害が発生するという悪循環が形成されている。
  この悪循環を断ち切り、「市場の信頼性や効率性、透明性」を高めるためには、これまで極めて不十分であった「ルールの実効性の確保(エンフォースメント)」として、行為規制に民事効を付与することが不可欠であり、かつ、上記被害実態からして、特に適合性原則違反と不招請勧誘に民事効を付与することが急務である。
(2) 適合性原則違反について
  適合性原則に違反する勧誘が行われた際には、以下の3つの視点から、当該勧誘行為を端緒とする投資取引すべてについて取消権が付与されるべきである。
? 行為無能力取消の見地
  平成16年改正商品取引所法に適合性原則違反が明確化されたのは、「不適格な委託者の参入を防止し、自己責任に基づき主体的な投資判断ができる投資家の参加を確保する」ためであった(産業構造審議会商品取引所分科会平成15年12月24日付け中間報告)。すなわち、適合性を欠く顧客というのは、「『自己責任に基づき主体的な投資判断』ができない顧客」なのであり、おおよそ、当該金融商品の取引主体となる能力を欠く者であると法が位置づけているのである。
  そうすると、適合性原則違反行為が存在した場合の解決としては、これまでの裁判例のように契約を存続させた上で損害賠償の方法を用いて図るのではなく、当該金融商品を取引する知識・経験・財産を持ち合わせていない、すなわち、当該金融商品を取引する能力を欠いている者に取消権を付与して契約関係を解消させる方法によって行うべきである。
  したがって、適合性原則に反する勧誘が行われた場合には、当該被勧誘者はいわば当該取引に関する無能力者として、取消権を行使することができると解すべきである。
? 意思表示の瑕疵による取消の見地
また、適合性原則に違反し不適格者に金融商品取引の勧誘が行われた場合、当該不適格者である顧客は、金融サービス業者に対する依存、当該金融商品についての無思慮・無経験といった特殊な状態におかれた上で、その後金融商品取引という法律行為を行うこととなる。そして、顧客がこのような依存、無思慮、無経験の状態に置かれていることを相手方当事者である金融サービス業者は当然に認識し、または認識しうべき状態にあって、本来であれば、当該顧客にその後の金融商品取引という法律行為を実行させるべきでないにもかかわらず、これを促すという関係に立つことになる。
  このような、契約当事者間で行われる顧客側の意思表示は、知識、経験、財産状況に照らして自身に適合しない取引を、相手方当事者との特殊な状況にあるために表意させられるものであり、相手方当事者である金融サービス業者の側から見れば、顧客が置かれている特殊な状況を濫用して意思表示を行わせたものである。
  これは、消費者契約法が取消権を付与している、誤認・困惑に基づく意思表示に類するものであり、対等当事者間の真意に基づく主体的な意思表示とは評価できず、表意者の意思表示に瑕疵のある類型であると言える。
  したがって、適合性原則違反の効果としては、意思表示の瑕疵による取消の見地からも、表意者(不適格者)に取消権を付与すべきである。
? 市場の公正確保の見地
  さらに、不適格者を取引市場に参入させることは、市場の公正確保の見地からも問題がある。すなわち、自己責任に基づき主体的な投資判断ができない顧客を市場に参加させると、顧客自身の主体的な意思が市場に反映されることはなく、当該顧客を市場につなぐ金融サービス業者の意思のみが市場に持ち込まれることにつながり、市場参加者の意思が市場に反映されなくなる。かかる市場では市場参加者の多様な意思の反映による公正な価格形成を行うことは困難であり、報告の目指す「公正・効率・透明かつ活力ある金融システム」(報告5頁)の構築は不可能となる。
  したがって、市場の公正確保の見地から、適合性原則違反に取消権付与という強力な民事効を付与して実効性の確保を図るべきである。すなわち、不適格者の市場参入の防止という政策的見地からも取消権を付与すべきである。
(3) 不招請勧誘について
また、以下の2つの視点から、不招請勧誘を端緒とする投資取引全てについて、消費者に取消権が付与されるべきである。
? 政策的見地
  不招請勧誘は、消費者の生活圏に時間や状況を選ばず不意打ち的に介入するものであり、消費者が冷静に判断する機会を阻害し、不当な契約を誘発する虞をもつものである。
  しかも、金融商品は、他の商品と比して、目に見えず、手で触れることができず、将来の予測が困難であるという特殊性を持っており、不招請勧誘を受けた消費者が冷静な判断を行って契約を締結することは他商品と比しても著しく困難であり、当該勧誘を受けた消費者を保護すべき要請は強い。
  また、不招請勧誘こそが不適格者の市場参入に直接に繋がっているという実態があり、不招請勧誘は適合性原則違反の項で論じたのと同様、市場の公正の確保の見地からも重大な問題を有している。これに対し、第一部会の議論においては、市場関係者を中心に、不招請勧誘の規制が「情報提供の機会の喪失」をもたらすとの意見が散見されるが、「投資家」たる適格や意思を有していれば、勧誘されずとも、自ら積極的に情報を得ようとするはずであり、インターネット等の情報網が発達した今日においては、それは困難なことではない。これに比して、投資家としてそもそも不適格な者に対して不招請の勧誘を行うことによる弊害ははるかに大きいというべきであり、上記意見は不招請勧誘を容認する理由には全くならない。
  したがって、投資サービス法の目的を達成するために、消費者保護・市場の公正確保という政策的見地から、不招請勧誘にも取消権付与という民事効を定めるべきである。
? 意思表示の瑕疵による取消の見地
また、不招請勧誘は、上記述べたとおり、全く無防備な消費者に対して、突如として行われる侵襲的なものである上、金融商品の特性として、金融サービス業者と消費者の知識及び交渉力の差が極めて大きいため、消費者が十分に仕組みやリスクなどが理解できないまま、得られるとされる利益ばかりに幻惑されてしまうことはほぼ必定といえる。このように、金融サービスの不招請勧誘は、定型的に私生活の平穏を害し消費者を困惑させて契約をさせる勧誘方法であるといえるのであるから、詐欺等に準じて、消費者に取消権を付与すべきである。
また、民法の意思表示規定の特別法であると解されている消費者契約法4条3項においては、消費者契約において、事業者の不退去・退去妨害により困惑して契約した場合は、取り消すことができる旨定められているが、金融サービスの不招請勧誘についても、金融サービス業者の不招請勧誘に起因して契約した場合は、これと同様に意思表示に瑕疵があるとして取消権付与を認めることも可能と考えられる。金融サービス契約は、一般の消費者契約よりも類型的に複雑であって消費者が幻惑される可能性が高いのであるから、いわゆる消費者の「困惑」類型の一つとして、一般の消費者契約に比して厳格な民事効のルールを設けるのはごく当然であるといえる。

以上のとおり、消費者保護及び市場の公正の確保の両面から不招請勧誘について民事効を定める必要性は高いというべきであり、また理論的にも民法や消費者契約法等関係諸法とも整合的である。不招請勧誘の禁止と並んで、その実効性担保のために民事効が規定されることが強く望まれる。
以  上


関連情報