声明

代用監獄の恒久化につながる法案に反対する会長声明(2006年4月3日)



1  政府は、本年3月13日、新しい未決拘禁制度について、「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)を国会に提出した。わが国において、これまで代用監獄(警察留置場)は自白の強要、えん罪の温床となってきた歴史的事実がある。国際的にも、国連人権(自由権)規約委員会は、日本の代用監獄は国際人権規約B規約に違反すると指摘し(1988年)、2度にわたって代用監獄の廃止を含む改善勧告を行っている(1993年、1998年)。犯罪捜査と拘禁との分離は近代的・国際的大原則である。しかるに、法案には代用監獄を存続させ、恒久化させるおそれなどの問題点があり、当会はこれに強く反対するものである。

2  法案の根本的な問題点

(1) 代用監獄の存続・恒久化
  法案は、被勾留者の収容施設として、3条3号において刑事施設を、14条2項2号において留置施設を明記し、15条1項において「第3条の掲げる者は、次に掲げる者を除き、刑事施設に収容することに代えて、留置施設に留置することができる」と規定し、「代替収容」(補則第1章)という表現を用いている。
  他方、留置施設における被収容者に要する費用の償還制度が維持されたこと、留置施設の運営や処遇について法務大臣が意見を述べることができること(法案15条2項)、勾留事務を警察の本来的事務とするための警察法5条2項の改正が見送られたことから、法案において代用監獄制度の代用性は維持されており、法案は代用監獄制度を恒久化するものではないとの見方もある。
  しかしながら、旧監獄法1条3項は「留置場ハ之ヲ監獄ニ代用スルコトヲ得」と規定して物的施設としての留置場の代用性を明確にしているが、法案15条1項は「刑事施設に収容することに代えて、留置施設に留置することができる」と規定して留置施設の設置者である都道府県警察に収容権限の代替性を認めている。この規定の仕方は、旧拘禁二法案と同一である。この物的施設としての代用性と収容権限の代替性が法的効果としてどのような違いを生じさせるのかは今後の課題であるが、少なくとも被勾留者を留置場に代替収容する権限を都道府県警察に認めることは、旧監獄法の規定する代用としての留置場を本来的な収容施設とするものといわざるをえない。とりわけ、法案が旧拘禁二法案と同じように留置施設に留置される者として被勾留者を明記し(法案14条2項2号)、警察法21条を改正して警察庁の所掌事務に「留置施設に関すること」を追加したことは、代用監獄の格上げにつながる。すなわち、法案は、留置施設が被勾留者の「代替収容」を認める本来的施設として位置付けたと見るべきである。
このように、新しい法案による留置施設の「代替収容」制度は代用監獄を存続させ、恒久化させるおそれがあり、犯罪捜査と拘禁の分離という近代的・国際的大原則に反するものである。

(2) 弁護人との接見交通
  留置施設における弁護人との接見について、面会の一時停止及び終了の規定が新たに設けられたこと(法案219条)、面会の日時については「留置施設の執務時間内」に限定され(法案220条1項)、弁護人等から執務時間外の面会の申出がある場合において、「留置施設の管理運営上支障があるときを除き、これを許すものとする」と規定された。これらの規定は、刑事訴訟法とは別に、施設法において警察に弁護人との接見を制限する新たな法的根拠を与えるものである。
  刑事施設における弁護人との接見について、弁護人等から執務時間外の面会の申出がある場合において、「刑事施設の管理運営上支障があるときを除き、これを許すものとする」と規定されたこと(法案118条3項)をもって現状よりも改善させるものと評価する意見もある。しかし、自白の強要を防止するためには警察留置場での弁護人との接見が重要であり、弁護人との接見を制限する法的根拠を新たに警察に与えることは現状より後退したものと評価すべきである。
  従って、弁護人との接見制限を認める規定は、警察等によって濫用される危険があり、憲法で保障された弁護人依頼権(憲法34条)を侵害するおそれがある。

(3) 懲罰・防声具・拘束衣・保護室
法案は、警察に留置施設での防声具・拘束衣の使用や保護室への収容を認めた(法案213条、214条)。また、警察が禁止措置として自弁の嗜好品と一定の書籍について3日を超えない期間に限り禁止できると規定した(法案190条、208条)。この禁止措置は実質的には懲罰に該当する。
従って、警察による防声具・拘束衣の使用、保護室への収容及び禁止措置が自白強要や拷問の手段として利用される危険性がある。

3  代用監獄の廃止を
  法案には、代用監獄の将来的な廃止も、1980年に法制審議会が全会一致で採択した代用監獄の漸減条項も盛り込まれていない。
  また、前述のように法案は代用監獄制度を格上げしており、それが代用監獄の恒久化につながるおそれがあること、留置施設における弁護人との接見に新たな制限規定を設けていること、留置施設における防声具・拘束衣の使用や保護室への収容を認め、留置施設において実質的には懲罰にあたる禁止措置を認めていることなど、当会がこれまで旧拘禁二法に反対してきた理由は何ら払拭されていない。
  以上のように、法案は、憲法・刑事訴訟法で保障された国民の基本的人権を侵害する危険性が極めて高く、近代的・国際的な大原則である犯罪捜査と拘禁の分離原則に反するものである。
  よって、当会は法案に強く反対し、代用監獄の早期廃止を求めるものである。


2006年(平成18年)4月3日    
京都弁護士会                      
会長  浅  岡  美  恵




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