死刑執行の停止について(要請)(2006年6月8日)


2006年6月8日

法務大臣  杉浦  正健    殿

京都弁護士会
会長  浅  岡  美  恵




1  要請の趣旨
  死刑確定者83名(2006年5月8日現在)に対し、死刑を執行されないよう要請する。

2  要請の理由
(1)わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松川・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっているが、昨年4月5日、名張毒ぶどう酒事件の再審開始決定がなされ、法的に死刑の執行が停止されるに至っている。
しかしながら、このような誤判が生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善は図られておらず、誤判の危険性が不可避なままである。
また、死刑と無期懲役の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる事例が出されており、死刑についての明確な基準が存在しないことも明らかとなっている。
更に、死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した違法状態におかれてきたのであり、過酷な面会・通信の制限は死刑確定者の再審請求、恩赦出願をはじめとする権利行使の大きな妨げとなってきたのであって、これらの点での抜本的な改善が必要である。今通常国会において改正された刑事施設及び受刑者の処置等に関する法律により、面会については現行実務より改善が見込まれるものの、他の点においては上記問題が十分に解消されたとは言いがたい。
(2)1989年に国連で国際人権(自由権)規約第二選択議定書(死刑廃止条約)が採択された後、1990年当時の死刑存置国96か国、死刑廃止国80か所に対し、2006年3月時点では、死刑存置国74か国、死刑廃止国122か国と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
      他方、日本においては、世論調査によれば、死刑存置支持が多数をしめると報道されているものの、死刑制度の問題点についての情報はまったくと言ってよいほど開示されておらず、必ずしも大多数の市民が将来にわたり永続的に死刑存置の意見であるとは言えない。
(3)このような国際的な潮流と国内的な状況の乖離を踏まえた上で、日本においても死刑制度を存置するか廃止するかについて、早急に広範な議論を行う必要があり、日本弁護士連合会は、死刑制度の存廃につき議論を尽くし、また、死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
また、日本弁護士連合会は、死刑執行のなされるつど、法務大臣に対し、死刑の執行を停止されるよう要望してきているが、遺憾なことにこれまで死刑の執行が繰り返されてきた。
(4)これまでの死刑執行は、国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、市民の関心が他に向けられやすい日程で行われている。したがって、通常国会閉会後に死刑執行が行われる可能性があると考えられる。
      このような状況を踏まえ、当会は、貴殿に対し、死刑確定者83名(2006年5月8日現在)に死刑を執行されないよう強く要請する。
以上


関連情報