決議

簡裁判事・副検事経験者に「準」弁護士資格を付与することに反対する決議(2002年9月17日)



  最高裁判所と法務省は、「簡裁判事・副検事経験者の有する専門性の活用策」として、簡裁事件を中心に弁護士業務をすることができる準弁護士資格を付与することを提案し、これを秋以降、法曹制度検討会にかけて検討することを表明している。しかしながら、このような制度の導入は、弁護士制度を大きく歪める恐れが強いだけでなく、現在精力的に進められている司法制度改革の理念にも反するものであり、強く反対せざるをえない。
  今次の司法制度改革では、「法曹が、法の支配の理念を共有しながら、今まで以上に厚い層をなして社会に存在し」「国家社会の様々な分野で幅広く活躍することが強く求められる」とし、「法曹のあり方」として「高度の専門的な法的知識を有することはもとより、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に十分な職業倫理を身につけ、社会の様々な分野において厚い層をなして活躍する法曹を獲得する」ことを求めている。そのため、法曹人口の大幅増加と、法曹養成制度を抜本的に見直すこととされたのである。
  このように、法曹養成システムを抜本的に改め、その養成システムを経た正規の法曹資格者を大幅に増加させ、その人たちが幅広い法的ニーズに対応することで、日本社会のすみずみに法と正義を行き渡らせようとしているのである。  「法の支配」は,法律家としての専門的訓練を受けた法曹資格を有する法曹が厚い層として存在することにより,はじめて,実現される。
しかるに簡裁判事は,戦後の司法改革により簡易裁判所制度が新設されたものの,当時の法曹資格を有する裁判官の大幅な不足という事情を背景として,法曹資格がなくとも,法律の素養だけで任用できる制度として出発したものである。しかし、簡易裁判所といえども国民の人権に直結する重要な役割を果たしており、今次司法制度改革の理念に照らしても、裁判官職は単に法律の素養を有するだけでは足りず,法律家としての専門的訓練を受けた法曹資格が本来要求されるべきである。また、簡裁判事の任用の実態は、裁判所の書記官や事務官に集中し、裁判所の人事政策の一環として機能してきたことも看過してはならない。
また、検察官制度については、戦後長らく法曹資格を有する検事の深刻な不足の状況が放置されてきた。司法制度改革審議会が、「検察庁の人的体制の現状を見ると、検察官数が足りないことにより、・・・検事が扱うこととされている地方検察庁の事件のうち、比較的軽微な事案を中心としているとはいえ、その多数が副検事に委ねられ、かつ副検事が扱うこととされている区検察庁の事件を検察事務官が扱うという、いわゆる肩代わり現象が生じている旨の指摘もある。」として,法曹たる検事の大幅な増員を求めている。検察官の職務も刑事被疑者・被告人の人権に直結する極めて重要なものであり、本来的にも、また今次司法制度改革の理念に照らしても、「検事の肩代わり現象」を厳しく排除し、やはり法律家としての専門的訓練を受けた法曹資格を有する者が担うべきである。このような制度が維持されてきたのは、単に検察官不足を補う意味だけでなく、検察庁の人事政策として機能してきたことも、看過してはならない。
  ところが、今回の提案は、現行の簡裁判事・副検事制度を将来も存続させることを前提に、今度は、「官」退職後も、一定の弁護士資格を付与して、弁護士としての仕事までさせようというのである。その範囲も、狭い意味での簡裁事件だけに限られず、法律相談や示談交渉、被疑者弁護などでは、広く地裁管轄事件をも処理できるようにしようとするものである。
  弁護士は、法律家としての専門的訓練を受けた法曹資格を有し,それゆえ,基本的人権の擁護と社会正義実現の使命を与えられており,司法のなかでも、最後の人権の擁護者たる役割を期待されている。これは、簡裁事件であるからといって、いささかも軽視することは許されない。そのような使命のもと、弁護士に法律事務を独占させ、弁護士自治を付与して、人権擁護に遺漏なきを期しているのである。今次司法改革において、より質の高い弁護士のあり方が追求されているのも、そのためである。
今回の提案は、このような弁護士制度の中に、きわめて異なったものを持ち込むものと言わざるを得ない。
  「準」弁護士は、果たして弁護士なのかそうでないのか、よく分からないと言わざるを得ない。こうした中途半端な「身分」の創設そのものが、弁護士自治を中核とする弁護士制度のあり方をゆがめるものだと思われる。資格制度は、いったんそれをゆがめると、その及ぼす波及効果はきわめて大きく、資格制度そのものの崩壊につながる危険性をも持っている。また、どうして「官」出身者だけに、「準」とはいえ弁護士資格が、与えられるのか、その理由は何ら示されない。結局のところ、この制度は、一定のキャリアを積んだ「官」出身者に、簡裁判事・副検事のみならず、一定の弁護士資格まで付与しようとするもので、新たな「官」優遇策であるとともに、裁判所・検察庁の人事政策の補強策とも言うべきものである。
法曹資格者の大幅増加は、そうしたことを避け、法曹資格者があまねく社会に存在し、あらゆる法的ニーズに応えていこうとさせるものである。そして、「官」から弁護士を生み出すのではなく、弁護士が広く「官」の中にも入っていこうとするものである。こうして法曹資格の基本を弁護士資格に置き、弁護士自治を中核として弁護士制度をより拡充・発展させることを通して、法と正義が社会のすみずみに行き渡る社会を実現しようとしているのである。今回の「準」弁護士制度はこの改革の趣旨に真っ向から反するものである。
  以上のような観点から、当会は、今回の提案に強く反対する。当会は、このような提案で、弁護士制度をゆがめ司法改革の大道を誤らせることなく、今、裁判所や検察庁に強く求められている裁判官制度改革や検察官制度改革にこそ、もっと力が入れられるべきであると考える。

  上記決議する

  2002年(平成14年)9月17日

京都弁護士会
会長    田  畑  佑  晃


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