京都第二外環状道路が環境に与える影響について(意見)(2006年11月2日)


京都府知事  山田啓二  殿(2006年11月 2日執行)
国土交通省近畿地方整備局京都国道事務所  御中2006年11月15日執行)


京都弁護士会                  

会  長  浅  岡  美  恵


京都第二外環状道路が環境に与える影響について(意見)


意見の趣旨

【騒音対策】
1  一般国道478号京都第二外環状道路(一般国道478号京都縦貫自動車道のうち南端15.7km部分。以下「第二外環」という。)大枝インターチェンジ〜大山崎インターチェンジ間のうち、長岡第四中学校予測地点及び下海印寺菩提寺地区予測地点付近において、防音壁、防音舗装等はもとより、半地下化等の方策も含めた検討を直ちに行い、騒音について環境保全目標値を下回るための施策を講ずべきである。
2  上記以外の予測地点においても、騒音についての環境基準を上回ることのないよう、さらに何らかの方策(防音壁、防音舗装等)が検討されることが望ましい。
【大気汚染対策】
3  第二外環の全面供用が開始された場合には、浄化措置の実施等、何らかの大気質保全策を検討すべきである。
【アセスメント後の検証】
4  供用開始済み区間である大山崎インターチェンジ〜久御山西インターチェンジ間における現在の交通量を実測し、これをもとに供用開始以前になされていた予測値との乖離を検討して、今後建設が予定されている大山崎町−大枝沓掛間の「大気」「騒音」「振動」を予測しなおし、より環境負荷の少ないものとなるようにすべきである。
5  ミヤコアオイ、カワセミ、モリアオガエルについて、生息場所を奪われていないか、個体数に変化はないかを再調査するとともに、それ以外の種については保全策を講じなくてよいか否かについても、あらためて検討すべきである。
【工区ごとの問題点】
6  以下の工区については、それぞれ下記の点に留意すべきである。
(1)  大原野地区に存する「花ノ寺」付近において施工されるトンネルからの排出ガスによる大気汚染防止について、適切な措置を講ずるべきである。
(2)  大山崎中学校の東側に隣接する田畑を校庭代替地として利用する等、学習の場を最大限に保障する方途について、可及的速やかに具体案を提示すべきである。また、当該区間の開通と同時に、大気質の状況を常時監視すべきである。
(3)  大枝インターチェンジについて、南行利用を可能とする設計に変更する等の方法により、大原野地区の大枝インターチェンジ〜春日インターチェンジ間に複数の道路を建設する計画をあらためるべきである。

意見の理由

1  はじめに
  1994年、京都弁護士会公害対策・環境保全委員会は、乙訓、京都市西京区の住民からの申し入れを受けて、同委員会道路部会において、第二外環建設計画の環境影響評価の問題について検討を行い、同年3月10日、「京都第二外環状道路の環境影響評価について(意見)」と題する意見書を作成し、京都府へ提出した。
  1997年、建設省(当時)および日本道路公団(当時)は、第二外環のうち東半分にあたる大山崎インターチェンジ〜久御山西インターチェンジ間6.3kmの建設に着手し、2003年8月10日、同区間の供用が開始された。
  2005年、西半分にあたる第二外環大枝インターチェンジ〜大山崎インターチェンジ間の建設による環境影響を危惧した長岡京市泉が丘地区の住民から、同意見書において当会が指摘した問題点について、道路事業者側が爾後どのような対応を行ったかについて問い合わせがなされた。
  そこで当会は、上記問い合わせを契機として、当会の意見が道路事業者の事業実施にいかなる影響を与えたかについて追跡調査を行うこととし、上記住民の問い合わせ事項を反映させつつ独自の質問事項書を作成し、同年6月、国土交通省近畿地方整備局京都国道事務所(以下「京都国道事務所」という。)に提出した。
  ところが、その後幾度となく同事務所に回答を督促するも、「一度も説明会を開催していない工区がある現時点で、すでに説明会を開催した工区について再度説明を行うことは、公平性の観点から問題がある。」等の理由で、今日に至るまで同質問事項に関する回答がなされない。
  よって、当会は、京都国道事務所が冊子ないしホームページにおいて公開している情報をもとに、第二外環大枝インターチェンジ〜大山崎インターチェンジ間の建設が環境に与える影響について検討を行い、意見を述べるものである。
2  京都国道事務所のホームページによれば、同道路大枝インターチェンジ〜大山崎インターチェンジ間のうち、長岡京市内の区間においては、「騒音」「大気」「振動」の各項目について、概ね予測値が基準以下であるとの結果が掲載されている。
(1)  騒音について
ア  しかし、長岡第四中学校予測地点及び下海印寺菩提寺地区予測地点では、昼間騒音について、環境保全目標値(環境基本法16条所定の環境基準または学校環境衛生の基準)を超えた予測結果が出されている。
  環境基準とは、「生活環境を保全し、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準」(同条1項)のことであって、これについては、「常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない」(同条3項)とされているとおり、科学的に十分な根拠を持った基準である。
  また、学校環境衛生の基準とは、学校保健法に基づく環境衛生検査、事後措置及び日常における環境衛生管理等を適切に行い、学校環境衛生の維持・改善を図ることを目的として定められたものであって、騒音レベルについては「校内・校外の騒音の影響を受けない環境」(同基準)を満たすべく規定されている。
  とすれば、上記2地点で環境保全目標値を超える予測結果が出されているのは大いに憂うべき状態である。
  しかしながら、現在のところ、上記各予測地点付近における具体的な防音対策は明らかになっていない。
  そうすると、上記各予測地点付近においては、防音壁、防音舗装等はもとより、半地下化等の方策も含めた検討を直ちに行い、騒音について環境保全目標値を下回るための施策が講じられなければならない。
イ  また、上記以外の予測地点でも、大半の予測地点(具体的には、高台一丁目及び奥海印寺片山田地区以外のすべての予測地点)において、環境基準に迫る予測結果が出されている。
  これらの地点については、現計画に基づく施工のほかには、別段の対策は予定されていないようである。しかし、単に環境基準を満たしていることの一事をもって対策の必要が全くないとすることは、いささか早計ではないか。
  地元住民の不安を払拭するためにも、さらに何らかの方策(防音壁、防音舗装等)が検討されることが望ましいと考えられる。
(2)  大気質について
  大気質については、環境基準を上回る予測結果は出されていない。このため、現時点では何らの対策も予定されていないとのことである。
  しかしながら、道路の供用開始に伴い、予測前提条件である、大山崎局ないし国設京都八幡局のバックグラウンド濃度からは大幅な数値の上昇が予測され、二酸化窒素(NO2)及び浮遊粒子状物質(SPM)において環境基準に迫る予測結果が出されていることに留意されるべきである。
  このように、第二外環状道路の全面供用が開始されれば環境負荷の大きな増加が見込まれることが明らかになった以上、浄化措置の実施等、何らかの保全策が検討されて然るべきである。
2  ところで、この「振動」「大気」「騒音」の各項目の予測の基礎として用いられた交通量は、京都国道事務所が独自に、平成11年度道路交通センサス(全国道路交通情勢調査)の結果をもとに、地域の将来の道路網や社会経済の動向を想定した平成32年度における交通量であるとのことである。
  したがって、これらはあくまでも予測交通量を元にした予測値にすぎないものであるところ、本件道路建設予定地付近に居住等する住民にとっては、現に道路の供用が開始された場合に、現実にどのような環境になるかこそが問題なのである。したがって、これらの予測値は、可能な限り正確であることが望ましい。
  この点、本件道路においては、すでに供用が開始されている大山崎町以東のポイントでの道路交通量の実測が可能であるから、供用区間について当初なされていた予測と実測値との乖離が計測でき、これによって予測値をより正確に示すことができる。
  そうであれば、供用区間における現在の交通量を実測すべきである。そして、これをもとに開始以前になされていた予測値との乖離を検討し、改めて今後建設が予定されている大山崎町−大枝沓掛間の「大気」「騒音」「振動」を予測をし直すべきである。
  そして、その結果に基づいて本計画の再検討を行い、より環境負荷の少ないものとなるようにすべきである。
  また、その結果をホームページ上に掲載するなどして、公表すべきである。
3  動植物の生態系等の自然環境に対する影響について、同ホームページには、現地調査および事業内容を勘案した結果であるとして、植物ではミヤコアオイ、動物のうち鳥類のカワセミ、両生類のモリアオガエルを、環境保全対策が必要な種であるとしている。
  しかし、保全対策については、「検討中」とあり、未だ具体的な提案がなされないままである。
  大山崎インターチェンジ以東の区間が平成15年8月15日に供用を開始してから、すで3年以上経過していることに鑑みれば、いささか遅きに失するといえよう。一日も早い、対策の策定と実施が求められる。
  具体的には、府が専門家に対策の検討を依頼し、保護区の策定が必要である場合等条例等の整備が必要な場合には、早急に整備すべきである。
  また、現に供用を開始したことによって、現実の環境汚染が検討可能なのであるから、?上記の種について、生息場所を奪われていないか、個体数に変化はないかを再調査すべきであるとともに、?上記以外の種についても、本当に保全策を講じなくてよいか否かについて、あらためて検討することも必要である。
  そして、この結果についてもホームページ上に掲載するなどして、公表すべきである。
4  大原野地区に存する「花ノ寺」付近の施工方法については、景観保全、緑地保全の観点から、トンネル工法が切り通し工法に比べて優れていることについては論をまたない。
  したがって、上記場所の施工について、トンネル工法に変更されたことは評価される。
  しかし、他方環境保護の点から、排ガスの排気が周囲の環境に多大な負荷を与えるおそれがある。
  そこで、大気汚染防止についても適切な措置を併せて講じなければならない。
5  本計画では、大山崎中学校の校庭を、本件道路が横断することとされており、大山崎町との事前協議が重ねられたとのことである。
  そもそも、子どもの学習の場を保障することが、道路建設に優先して考慮されるべき課題であることは明らかなのであるから、中学校の校庭を横断するような計画が策定されたこと自体、こどもの学習権に対する重大な侵害であることを銘記すべきである。
  にもかかわらず、未だにこの問題が具体的に解決されていないことは、極めて憂慮すべき事態である。
  大山崎中学校の東側には、隣接して田畑が広がっていることから、これらの土地を校庭代替地として利用する等、学習の場を最大限に保障する方途について、可及的速やかに具体案を提示すべきである。
  また、第二外環を予定通り施工するのであれば、当該区間の開通と同時に大気質の状況を常時監視し、学校環境衛生の基準を越えることのないよう細心の監視態勢を敷くべきである。
6  次に、大原野地区の大枝インターチェンジ〜春日インターチェンジ間においては、第二外環状道路に並行して、四車線の都市計画道路を建設する計画が示されている。
  しかし、相当大規模の道路を、2本建設すべき必要性、あるいは相当性については、環境面は当然のことながら、経済的側面からも疑義を差し挟まざるを得ない。
  計画において、北行利用のみが予定されている大枝インターチェンジについて、南行利用を可能とする設計に変更する等の方法により、複数の道路建設を避けるべきである。
以  上

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