葬祭場の建築等に関する意見書(2007年1月25日)


                                                                                          2007年(平成19年)1月25日
京都市長  桝  本  頼  兼  殿
                                                                                            京都弁護士会
                                                                                                会  長  浅  岡  美  恵


                                              葬祭場の建築等に関する意見書

                                                          意  見  の  趣  旨

京都市は葬祭場の建築等に関し、下記事項を内容とする条例を制定するべきである。
                                                                    記
1(小学校等の半径100メートル以内の設置禁止)
    幼稚園、保育所及び小学校並びに病院及び入院施設のある診療所の半径100メートル以内には葬祭場を建築してはならない。
2(緩衝地帯設置義務)
  (1)  隣地境界線が都市計画法上の住居系地域に位置する場合は、当該隣地境界線から葬祭場の外壁までの距離を4メートル以上とし、隣地境界線に沿って高木等による緑化を行うこと。
  (2)  隣地境界線が都市計画法上の商業系及び工業系の各地域に位置し、かつ、住居系地域から25メートル以内に位置する場合は、当該隣地境界線から葬祭場の外壁等までの距離を、次の式により算出した距離以上とし、隣地境界線に沿って高木等による緑化を行うこと。
          4メートル−0.1×住居系地域から当該隣地境界線までの距離(メートル)
  (3)  (1)及び(2)以外の場合は、隣地境界線から葬祭場の外壁等までの距離を1.5メートル以上とし、隣地境界線に沿って緑化をおこなうこと。但し、隣地境界線が商業地域に位置する場合を除く。
3(駐車場の設置義務)
    事業主は、葬祭場に以下の区別に従って、葬祭場敷地内もしくは葬祭場の境界線から直線距離で100mの地点を結んだ範囲内に確保しなければならない。
鉄道(路面電車を含む)駅から直線距離で700メートル以内に位置する場合には、葬祭場の最大収容人員の5%に相当する台数の駐車場。
鉄道駅から直線距離で700メートル超に位置する場合には、葬祭場の最大収容人員の25%に相当する台数の駐車場。
4(環境配慮義務)
    事業主は、葬祭場の建築に際して、葬祭場が周辺の住環境並びに生活環境に調和するよう、その高さ、意匠、形態、色彩等について十分な配慮をしなければならない。また、建物の構造に関して、葬儀に関係する車両が完全に建物内に入ってしまうような構造にするなどして地域住民から葬儀を完全に遮断するようにしなければならない。
5(近隣関係住民等との協議・協定書作成努力義務)
  事業主は、葬祭場の建築に際して、近隣関係住民等との間で、営業時間、葬祭場の高さ、意匠、形態、色彩、駐車場台数、交通整理体制及び隣地境界線(道路境界線を含む)との間に設けるバッファゾーンについて十分な協議を実施し、協議が整った内容について協定書を作成するよう努めなければならない。  
6(用途変更の場合にも適用する)
    前1項ないし5項の規制は、葬祭場建物の新築の場合だけでなく用途変更の場合にも適用するものとする。


(定義規定)
事業主とは、葬祭場を設置し運営管理する者をいう。
葬祭場とは、業として葬儀等を行うことを主たる目的とした集会施設をいう。
近隣関係住民等とは、葬祭場の敷地境界から直線距離で100mの地点を結んだ範囲内に居住する者及び土地又は建築物等の権利を有する者、並びに関係町会又は自治会及び商店会をいう。

                                                          意  見  の  理  由

1  葬祭場の建築を巡る紛争の続発、葬祭場の特殊性及び規制の必要性
  最近の傾向として、葬祭場を利用して葬儀を行うことが多くなったことに対応して葬祭場ビジネスが隆盛となり、次々と葬祭場が中心市街地に建築されるようになった。それにともなって一部では地域住民との紛争が発生している。紛争が生じる原因は、人間の「死」に関わる葬儀の性格のほかに、法律上、都市計画法・建築基準法に葬祭場の建築について定めがないので第2種中高層住居専用地域等の一部の住居系地域や商業系地域などにも立地が可能なことによる。
葬儀は、死者の親族・知人などの関係者にとっては死者に対する思慕愛惜の意を表しつつ告別する儀式であり、人間社会にとって極めて重要な儀式である。しかし、他方で、葬儀は、人間が恐怖感を持つ「死」という事態に直面させ、心的緊張感をもたらすものであって、かつ非日常的行事である。葬祭場は、業として葬儀をおこなうので、近隣関係住民等は連日のように葬儀を目の当たりにせざるを得ず、常に心的緊張を強いられることになる。また、本来、非日常的な行事である葬儀が日常的に執り行われることになる。とりわけ、死に対して敏感になっている傷病者・高齢者や感受性の強い幼少者に対しては格別の配慮が必要といえる。
以上の葬祭場の性格を考慮すれば、葬祭場の立地については格別に慎重な配慮が必要とされる。
2  都市計画法・建築基準法における法の空白
計画法及び建築基準法は用途地域制度を採用して用途規制をおこない、都市全体として秩序のある発展を期するため建築物の用途の純化を図っている。すなわち、住居系、商業系、及び工業系に用地地域を区分して、建築物の用途、容積率、建ぺい率などをきめ細かく規制をしている。住居系地域は良好な住環境の形成を、商業系地域は商業施設の集積を、及び工業系は工業生産活動の増進、公害の発生の防止等を勘案して工業地の形成を、それぞれ図ることが趣旨とされている。このような用途地域制度を採用している以上、葬祭場のような特殊施設はその立地規制について明記するべきである。ところが、葬祭場は前記のとおり最近になって勃興してきた業種であることから法が想定していなかった事態として用途規制の対象施設から漏れてしまっている。同じ弔いという儀式に関連して、火葬場については都市施設として都市計画決定を必要とし、当該都市計画決定がなければ建築できないこと(都市計画法11条1項7号、建築基準法51条)、また、墓地は都道府県知事の許可のあった地域に限定されること(墓地、埋葬等に関する法律2条5号)とされていることとの均衡も考えるべきである。
以上のとおり、葬祭場については都市計画法・建築基準法上定めがない空白部分となっているので、建築適合建物を限定列挙している第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域及び第1種中高層住居専用地域には葬祭場が建築できないことは明らかであるが、その他の用途地域では建築不適合建物を列挙するという形式になっていることから葬祭場の建設が可能となってしまう。そのため、第2種中高層住居専用地域などの住居地域、住居系地域に隣接している近隣商業地域及び専ら商業施設が集積するはずの商業地域に葬祭場が続々と建築がなされ、地元住民との間で軋轢をもたらしていると同時に、都市計画上も憂慮するべき事態となっている。
3  求められる措置
法の空白は早急に補正するべきであり、建築基準法を改正して葬祭場を同法別表に明記するなどして、住居系地域や商業系地域への立地規制を定めるべきであるが、当面、営業の自由としての葬祭場設置と、他方、地元住民特に幼少者や傷病者などの弱者保護の要請を図るという観点から、意見の趣旨記載の内容の条例を制定すべきものと考える。
意見の趣旨第1項は、治療を受けている傷病者には格別の配慮が必要だと思われるし、感受性が強い子供たちが、葬祭場が建設されることで、常に心的緊張を強いられることを可能な限り軽減する趣旨である。100メートルという距離制限は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく各地条例を参考にしたものである。
意見の趣旨第2項は、バッファゾーンの設置義務を定めるものである。京都市要綱をそのまま条例に格上げする趣旨である。
意見の趣旨第3項は、葬祭場付近の交通混雑を避ける趣旨である。京都市要綱では葬祭場の床面積100?あたり1台となっているが、一律ではなく、交通至便、不便により必要駐車台数を決めるべきである。軌道来場者の半数が平均乗車人員2人で来るとして最大収容人員数の4分の1に相当する台数を確保させる必要がある。
意見の趣旨第4項は、葬祭場の建物に近隣周辺の環境との調和を求めたものである。周辺環境との調和を図ることは企業の社会的責任として当然に果たすべき義務である。
意見の趣旨第5項は、近隣住民等との間の協議を求めたものである。近隣関係住民等との十分な協議を求めることで紛争の拡大を最小限にとどめることを目的としている。建設を近隣住民の同意にかからしめるという手法も考えられるが、協議の当事者の範囲確定の困難さや協議事項が多岐にわたることなどを考慮し努力義務にとどめた。
意見の趣旨第6項は、葬祭場建設規制が新築の場合にだけ適用になり用途変更の場合には適用外となれば規制の趣旨が徹底しないことになるし、潜脱の危険性もある。従って、新築の場合にだけでなく、用途変更の場合にも規制を及ぼすべきだという趣旨である。
                                                                                                                            以  上

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