犯罪被害者が刑事裁判に直接関与する制度の導入に反対する決議(2007年3月8日)


  2007年(平成19年)2月7日、法制審議会は、諮問第80号につき「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための法整備に関する要綱(骨子)」を法務大臣に答申した。
  犯罪被害者等の刑事裁判関与としては、2000年(平成12年)の刑事訴訟法改正により、心情その他の意見陳述が認められてきた。これに加えて、同答申は、うち第四において、「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度」として、一定の犯罪について、被告事件の手続において犯罪被害者等が被害者参加人として参加し、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士が在廷し、手続において証人や被告人に対して質問し、検察官の論告求刑に続いて事実と法令適用についての意見を述べることができるという制度を示している。
  上記制度は、以下に述べるとおり、刑事裁判を大きく変質させるものであり、到底看過できない。
  第1に、刑事訴訟においては、合理的疑いを越えた証明がなされてはじめて犯罪被害者であることが確定されるものであるのに、当初から犯罪被害者という特別の地位を認めた上で、傍聴席ではなく法廷に当事者として在廷させることになれば、加害者と被害者という構図のもとに裁判を開始することとなって、無罪推定の原則に反する。
  第2に、被害者が当事者として在廷することになれば、被告人としては威圧感を受け、十分な供述や弁明をなし得ないおそれがある。被害者から質問を受けることとなればなおさらである。真に反省悔悟している者であるほど、本当のことであっても被害者本人や遺族に向かって口にすべき事柄ではないなどと考えて供述をためらうということはしばしば見受けられる事態である。
  第3に、被害者の処罰感情は自然なものではあるが、それが被告人への追及や求刑意見という形で直接的に法廷に持ち込まれると、客観的な証拠に基づいて真実を明らかにするという裁判の本質が歪められ、混乱をもたらす懸念がある。とりわけ、2年後に始まる裁判員制度を想定したとき、その影響は深刻である。刑罰制度を、犯罪に対する「仇討ち」から公的制裁へと発展させてきた、人類と裁判の歴史を銘記すべきである。
  当会は、犯罪被害者支援としては、犯罪被害者給付金支給法の給付金額引上げや対象の拡大をはじめとする経済的支援、警察・検察による二次被害の防止や精神的ケアを受けられる制度などの精神的支援、裁判手続や進行状況等についての情報提供や裁判段階での被害者の意向確認などの法的支援を、国および地方公共団体がその責務として行うことこそがより本質的であり重要であると考える。これまでも、当会は,従前より犯罪被害者支援相談を実施するなど犯罪被害者に対する支援に会をあげて取り組んでおり、これからもこうした取り組みには力を惜しまないものであるが、刑事裁判制度の本質をゆがめることの危険性については無視することはできないと考える。
  よって、当会は、本日総会を開催するにあたり、法制審議会の同答申第四において示された、犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与できる制度の導入に、反対することを決議する。

2007年(平成19年)3月8日

        京 都 弁 護 士 会

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