「少年警察活動規則の一部を改正する規則」案におけるぐ犯調査規定の新設に反対する会長声明(2007年9月20日)


  警察庁は、2007年9月、「少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)の一部を改正する規則」案(以下「本規則案」という。)を公表した。本規則案において新設される警察によるぐ犯調査に関する規定は、「ぐ犯少年であると疑うに足りる相当の理由のある者、保護者又は参考人」を呼び出し、質問することができること(30条により準用される20条1項)、しかも、調査すべき事項に「当該少年の性格、行状、経歴、教育程度、環境、家庭の環境、交友関係等」を含めて、これらを「詳細に調査しなければならない」こと(30条により準用される16条)等を定めている。
  しかしながら、当会が2005年7月15日付けの「少年法等の一部を改正する法律案」(修正前のもの)に対する意見書において指摘したとおり、そもそも、ぐ犯少年とは、「その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」をいうのであり、このようなあいまいな定義のぐ犯少年について、さらに「疑うに足りる相当の理由のある者」にまで広げることになれば、その範囲は無限定に拡大するおそれがある。本規則案においても、「将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれがあることを具体的に明らかにするよう努める」(27条)とされているように、具体的なおそれがなくても、警察官が主観的抽象的におそれがあると判断すれば、少年に対する詳細な調査を実施することを前提としていると考えられる規定がある。このように警察の調査権限の対象を無限定に拡大することを認めることになれば、その調査事項の広範さと相まって、警察の恣意により、あらゆる少年の生活全般を警察の監視のもとに置くことさえ可能となる危険性がある。
  しかも、国会で成立した「少年法等の一部を改正する法律案」については、政府提出法案では警察による調査権限の及ぶ範囲が不明確で調査対象の範囲が過度に拡大するおそれがある等の懸念が指摘された結果、警察によるぐ犯少年の調査権限の規定が削除された上で成立したという審議経過がある。そもそも、行政機関による権限行使は法律に基づいて行われるべきこと(憲法41条)、とりわけ、警察による捜査・調査は、刑罰や保護処分という重大な不利益処分の前提手続きであるから、特に法律に基づく適正手続によらなければならないこと(憲法31条)は憲法が定める基本的な大原則である。にもかかわらず、本規則案は、国会において削除された警察によるぐ犯少年の調査権限を実質的に復活させようとするものであって、国会における審議経過を無視するものであり、違憲・違法であると言わざるを得ない。
よって、当会は、本規則案における警察によるぐ犯少年調査規定の新設に反対の意見を述べるものである。

2007年(平成19年)9月20日                


京都弁護士会                            

会長  中  村  利  雄            



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