意見書

特定商取引法改正に関する意見書(2007年9月21日)


2007(平成19)年  9月21日


内閣総理大臣  安  倍  晋  三  殿

京都弁護士会                            

          会  長    中    村    利    雄


                
特定商取引法改正に関する意見書


第1  意見の趣旨
1  特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)第2条の「指定商品制」を廃止して、原則としてすべての商品・権利・役務を特定商取引法の対象とすることとし、特定商取引法を適用することが不都合な商品・権利・役務のみを法令で明文化して適用除外とするネガティブリスト化を採用すべきである。
2  個品割賦購入あっせんの方法により訪問販売を行う事業者について、登録制を実施し、行政機関による行政規制を及ぼすべきである。その際、参入規制の要件は、形式的なものにとどまらず、財政基盤等を含め厳しく設定すべきである。
3  「展示会商法」被害を規制対象とするため、電話・郵便・訪問等により営業所等への来訪を個別に要請した顧客に対し、販売員が継続的に勧誘を行う取引形態を、特定商取引に関する法律施行令(以下「特定商取引法施行令」という。)第1条に追加して、特定商取引法上の訪問販売の定義に含ませるべきである。
4  いわゆる「不招請勧誘」による被害を防止するため、特定商取引法が規制する取引形態について事業者が消費者を勧誘するに際して、あらかじめ消費者の要請がないにもかかわらず、当該消費者の住居又は勤務先を訪問することや、当該消費者に対して電話をかけることを法令により禁止するべきである。
    また、これを実効化するために、上記規定に違反した事業者を行政処分の対象とし、かつ、上記規定違反の場合には、当該消費者に契約の取消権を付与すべきである。
5  特定商取引法第26条第1項第1号(商行為に関する適用除外規定)を改正し、商行為であっても、「申込みをした者」「購入者」「役務の提供を受ける者」に年収制限を設けるなど一定の絞りをかけた上で、特定商取引法の適用がある場合を明示すべきである。
特定商取引法第26条第1項第5号(対従業員取引に関する適用除外規定)を廃止して、事業者の対従業員取引にも特定商取引法を適用あらしめるべきである。
6  いわゆる「適合性の原則」を実効化するために、顧客の知識、経験、理解力、財産等の状況に照らして不適当と認められる契約を、それが不適当であることを知っていながら、または重過失により知らずに勧誘して締結させた場合は、契約を無効とすべきである。
7  迷惑広告メールについては、広告メールを送付することについて事前に承諾を得た者以外には送付してはいけないという、いわゆるオプトイン規制を導入すべきである。
通信販売において、虚偽誇大広告に基づいて消費者が購入に至った場合には、当該消費者に契約の取消権を付与すべきである。
  8  特定商取引法上の違法行為に対して、一定の要件を備えた適格消費者団体による団体訴訟制度を導入すべきである。

第2  意見の理由
1  はじめに
      特定商取引法は、特定商取引、すなわち、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引並びに業務提供誘引販売取引の6つの取引類型について、取引の公正と消費者保護の観点から規制するものである。
産業構造審議会消費経済部会特定商取引小委員会は、2007(平成19)年3月から、悪質商法の現状を踏まえ、特定商取引法を中心に対策を検討した。検討の結果、同年6月19日、「中間とりまとめ」を発表した。今後、2008(平成20)年1月召集の通常国会で、割賦販売法の改正と並行して、特定商取引法が改正される予定である。
国民生活センターに寄せられた特定商取引法の対象取引にかかる消費者相談件数は、ここ数年減少傾向にあるものの、訪問販売についての2005(平成17)年の相談は年間16万件にも達している。高齢者被害の比率が年々高くなり、被害額も大きくなっている。訪問販売による悪質商法対策として、特定商取引法の改正は極めて重要である。

2  指定商品制の廃止
    特定商取引法第2条は、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売の規制対象を、これらの取引一般とせず、特定商取引法施行令によって指定される、いわゆる指定商品・指定権利・指定役務に限定している(以下「指定商品制」という。)。「中間とりまとめ」は、指定商品制について、規制が被害の後追いになることから、これを廃止し、ネガティブリスト化することを求める意見が非常に強いとしている。
当会は、指定商品制を廃止すべきと考える。
そもそも特定商取引法は、取引トラブルの生じやすい6つの取引類型に着目した法規制なのであり、それを更に指定商品制により規制範囲を限定することは法の抜け穴を提供するに等しいからである。
訪問販売を例にとると、訪問販売被害は不意打ち性や攻撃性など販売形態の特殊性から生じるものであって、対象商品によって規制の要否が異なるものではない。指定商品制の下では被害の後追い指定が避けられない。諸外国においても指定商品制を採用している例は見当たらない。
これまで被害が顕在化する度に、指定商品・指定権利・指定役務を追加し、項目の大括り化を進めてきているが、毎年のように新規指定がなされ指定商品等の拡大に歯止めがかかっていないこと自体が、指定商品制の限界を示している。
最近の指定品目外の被害事例としては、「みそ」が挙げられる。具体的には、一人暮らし、又は、昼間一人で留守番をしている高齢者宅等に「味見して下さい。」と来訪し、具体的な「みそ」の量や値段等の説明もないまま契約を了承させ、販売業者が運んできた樽入りの「みそ」を消費者が見て、「こんなに大量の『みそ』はいらない。」と断っても強引に契約を継続させる手法である。このような被害事例が多く集まった結果、指定商品として、「みそ、しようゆその他の調味料」が指定された。これこそ、被害の後追い指定の見本である。
近年、インターネットを利用した商取引が急速に拡大している。インターネット上で取引の対象とされるものは、従来取引対象とされたもの以上に多様性を帯びると考えられる。指定商品制を存続させることは消費者被害を存続させることになる。
そこで、特定商取引法第2条の指定商品制を廃止すべきである。
なお、特定商取引法を適用することが不都合な商品・権利・役務については、これらを法令で明文化して適用除外とするネガティブリスト化を採用することにより対応が可能である。

3  個品割賦購入あっせんの方法により訪問販売を行う事業者の参入規制(登録制の導入)
現行の特定商取引法においては、訪問販売を行う事業者は登録制の対象となっていない。このため、訪問販売を行うについての参入規制は無く、特定商取引法の違反行為があっても行政上の措置が行われない。行政機関も、その前提となる訪問販売を行う業者の調査さえ充分に行えていない。
しかしながら、訪問販売において、クレジット取引による被害が続出している現状において、行政機関が訪問販売を行う事業者に行政規制権限を有しないという状況を放置することは到底許されない。
特に、個品割賦購入あっせんの方法による訪問販売については問題が多い。すなわち、個品割賦購入あっせん取引においては、消費者との間のクレジット契約申込書の作成や支払条件の交渉は商品を販売する販売業者に委ねられているため、詐欺的なセールストークや履行不能な特約をつけて販売し、立替金を取得するやいなや行方をくらますという悪徳業者が後を断たない状況にある。また、個品割賦購入あっせん取引がクレジット全体の取引高では全体の約20パーセントに過ぎない(日本クレジット産業協会「消費者信用統計総括表」によると平成17年の消費者信用全体の信用供与額(推計)は76兆5056億円で、うち個品割賦購入あっせん方式が10兆8646億円、クレジット全体の約25パーセント。)にも関わらず、各地の消費生活センター等に寄せられるクレジットに関する苦情相談件数の約75パーセントを占めている(国民生活センター2005年度消費生活年報によると、クレジットに関する相談件数約13万9000件のうち、個品方式の相談が約75パーセントを占めている。)ことからすれば、個品割賦購入あっせんの方法による訪問販売を行うことのできる事業者の参入規制が必要不可欠である。
また、信販会社による自主的な加盟店管理は、経済産業省から(社)日本クレジット産業協会に対し、「割賦購入あっせん業者における加盟店管理の強化について」(平成14年5月15日)、「割賦購入あっせん業者における加盟店管理の強化・徹底について」(平成16年12月22日)等、通達が再三出されているにもかかわらず改善が見られない状況にある。そのため、割賦販売法のみではなく、特定商取引法の分野においても、個品割賦購入あっせんにより訪問販売を行うことのできる事業者の参入規制の必要性が高い。そこで、個品割賦購入あっせんにより訪問販売を行う業者を登録制にして行政規制権限を及ぼすことが必要である。
その際、個品割賦購入あっせんにより訪問販売を行うことのできる事業者の参入規制が中途半端な形式的なものであれば、悪質事業者に対しお墨付きを与える、ないし、本来自ら加盟店を管理し、悪質事業者を排除する責任を負う信販事業者にとって、それを避けるためのお墨付きを与える結果となってしまう。
したがって、参入規制の要件は、形式的なものにとどまらず、財政基盤等を含め厳しく設定する必要がある。また、信販会社が加盟店管理を行う際、登録の有無のみを判断するということにならないよう、登録の有無の確認は最低限の事項であり、信販会社が自ら管理を行うのでなければ、加盟店管理責任を尽くしたことにならないという仕組みにすべきである。

4  展示会商法型取引の法令明確化
今般、電話やダイレクトメールなどで展示会場への来訪を個別に呼びかけ、来場した顧客に対し販売員が継続的に付き添う形で、執拗に勧誘し商品を購入させる、いわゆる「展示会商法」が、呉服、宝飾品などを売り物にして多数の被害を引き起こしている。
現行の特定商取引法においては、展示会場が短期間の仮設のものであれば、「営業所等以外の場所での取引」とされて規制の対象となるが(特定商取引法第2条第1項)、継続的な展示会場や通常の店舗の場合には、「営業所等以外の場所での取引」とされず、規制の対象とならない。また、営業所等であっても、「見るだけでよい」などと販売目的を隠して呼び出せば、「販売目的隠匿型アポイントメントセールス」に該当して規制の対象となるが(特定商取引法施行令第1条第1号)、展示販売会であることを告げたうえで、執拗に展示会場への来訪を呼びかけた場合には、「アポイントメントセールス」に該当せず、規制の対象とならない可能性もある。
実際に、京都府を中心に多数の被害者を出した「呉服のたけうち」グループ被害事件では、継続的な展示会場や通常の店舗で販売された事例、展示販売会であることを告げた上で執拗に展示会場への来訪を呼びかけられた事例が多く、深刻な消費者被害を生み出している。
そもそも、展示会に呼び出した上で執拗に勧誘する方法は、呼び出しの過程から契約締結に至る一連の過程を全体的にみると、消費に対する知識や情報が希薄な消費者が受け身の立場で取引に引き込まれているものであり、訪問販売と同様に意思形成が不確定なままに契約締結に至る危険性があるものである。このような展示会商法型の取引類型自体を規制しなければ、第2、第3の「呉服のたけうち」グループ被害事件が引き起こされる可能性がある。
そこで、顧客に対して電話・郵便・訪問等により営業所等への来訪を個別に要請し、かつその要請によって来訪した顧客に対し販売員が継続的に同伴する状況で勧誘を行う場合は、新たな特定顧客の取引類型として、特定商取引法施行令第1条に追加して、特定商取引法上の訪問販売の定義に含ませるべきである。

5  不招請勧誘の規制
(1)いわゆる「不招請勧誘」は、消費者にとっては不意打ちの勧誘方法であって、消費者自身はなんらの知識や情報を持たないところへ、事業者による一方的な情報のみを、他と比較できない状況にて、判断を急がされて、契約締結に至るため、不本意な契約を締結させられやすい。
      また、不招請勧誘は、時間や状況を選ばずに無制限に消費者個人の生活圏に入り込む。勧誘そのものが、消費者に苦痛を与え、平穏な生活を侵害している販売方法である。不招請勧誘は、勧誘行為に問題があることも多く、販売目的が隠匿されたり、不実告知や不利益事実の告知が行われたり、長時間勧誘や恐怖感を与える勧誘、強引な勧誘などを伴うことが多い。
    そのため、不招請勧誘を不当行為として禁止する条項を制定している自治体が相次いでいる(東京都消費生活条例施行規則、大阪府消費者保護条例施行規則別表ホ、神奈川県消費生活条例第13条の2第1項、秋田県、兵庫県の各消費者条例など。)。
    また、不招請勧誘の禁止は、金融分野では既に導入され、成果を上げている。すなわち、金融商品取引法第38条第3号においては、訪問と電話勧誘について不招請勧誘を禁止している。不招請勧誘の禁止が導入された外国為替証拠金取引の分野では、取引被害が激減し、その効果が如実に現れている。
    特定商取引法においては、第17条が、電話勧誘における再勧誘を禁止している。しかし、この規定に違反した場合の罰則も取消権もなく、実効性が確保されていない。また、再勧誘を禁止するためには、その前提として、事業者に対し、契約を締結しない旨の意思表示をしなければならない。架空請求にみられるように、事業者に対し締結しない旨の意思表示をすることは、事業者へまだ知られていない消費者の個人情報を提供するおそれがある。また意思を表示する際、事業者に説得する機会を与えることにもなり、かえって被害を拡大するおそれがある。
    他方、訪問販売においては再勧誘すら禁止されていない。通信販売、連鎖販売取引、業務提携誘引販売取引については、電子メールでの再広告が禁止されているにすぎず(特定商取引法第12条の3)、規制対象が極めて限定されている。
    特定商取引法の規制する分野は、金融分野に比較して圧倒的に被害数が多く、参入規制もされていないのであるから、不招請勧誘を禁止する必要性は高い。
(2)そこで、どのような行為を不当な不招請勧誘として禁止する義務規定をおくかが問題となる。
まず、勧誘形態としては、被害事例の多い、1.消費者の住所又は勤務先への訪問による勧誘、及び2.消費者に対する電話による勧誘を対象とすべきである。
消費者によるあらかじめの勧誘拒否の意思表明を要件とするか否かで、オプトイン規制(事前に要請又は同意なき限り勧誘してはならない。)とオプトアウト規制(事前の勧誘拒否を表明した消費者に勧誘してはならない。)がある。上記のとおり、不招請勧誘は、全ての消費者にとって不当勧誘と評価できるから、原則オプトイン規制が採用されるべきである。
(3)特定商取引法は数次に渡って改正され、さまざまな行政規定が強化されてきた。しかしながら、改正法施行後も、相談件数は減少しておらず、むしろ長期的にみれば増加している。過去最高の処分が行われたとされる2006(平成18)年においても、行政処分は34件で、実際に相談が多発している事業者数に比較して、あまりに少ない処分数に留まっている。また、行政処分を受けても、廃業して別の社名、幾分の変化を付けた形態にて、新たな悪質商法を始める事業者も後を絶たない。結局、行政処分規定を設けるだけでは、被害防止として不十分であり、民事的救済も図ることができない。
そこで、取消権の導入等の民事効が早急に検討されるべきである。不招請勧誘は、上記述べたとおり、全く無防備な消費者に対して、突如として行われる侵襲的なものである上、業者と消費者の知識及び交渉力の差が極めて大きいため、定型的に私生活の平穏を害し消費者を困惑させて契約をさせる勧誘方法であるといえるのであるから、詐欺等に準じて、消費者に取消権を付与すべきである。
また、民法の意思表示規定の特別法であると解されている消費者契約法第4条第3項においては、消費者契約において、事業者の不退去・退去妨害により困惑して契約した場合は、取り消すことができる旨定められているが、業者の不招請勧誘に起因して契約した場合は、これと同様に意思表示に瑕疵があるとして取消権付与を認めるべきである。

6  特定商取引法の適用除外規定の改正
(1)昨今、販売業者や役務提供業者に比して、情報の質及び量並びに交渉力の点につき圧倒的格差のある小規模自営業者が、一般の消費者と同様に、訪問販売等による悪質商法の被害に遭うという集団被害事件が続発している。
    例えば、電気料金が安くなるなどと虚偽の事実を告げて節電器なる商品を売り付けたアイディック被害事件や、現在使用している電話機が使えなくなるなどと虚偽の事実を告げて高額の電話機設備のリース契約を締結させた電話リース被害事件などは、全国的に被害が拡大している。京都でも弁護団が結成され、これまでにアイディック被害事件につき95件の、電話リース被害事件につき104件の相談が寄せられている。これらの相談のほとんどは小規模自営業者あるいは小規模法人から寄せられたものである。
    しかしながら、特定商取引法第26条第1項第1号は、その申込みをした者が営業のためにした等の場合は、同法を適用しないことを定めているため、契約についての商行為性が問題になり、悪質事業者が特定商取引法適用の排除を主張し、交渉に応じないケースが後を絶たない。特に上記のような集団被害の事案では、悪質事業者が法の適用の不備を突いて敢えて小規模自営業者を標的にして契約させていることから、事業者側が法の適用排除の主張をする傾向が強く、小規模自営業者被害の迅速な回復が困難となっている現状がある。
    そもそも、特定商取引法が購入者や役務利用者の保護を図った目的は、取引の公正を図り、取引関係における弱者である購入者側の損害を防止してその利益を保護し、商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もって国民経済の健全な発展に寄与することにある。とするならば、販売業者や役務提供業者に比して、情報の質及び量並びに交渉力の点につき格差のある小規模自営業者が悪質業者の不当・違法行為により損害を防止することは、取引の公正、弱者保護、国民経済の健全な発展のいずれにも寄与するものとして、法の目的にも合致する。
    そこで、その申込みをした者が営業のためにした等の場合でも法の適用を排除すべきではなく、小規模自営業者の被害を予防すべきである。ただ、営業のためにした等の場合の全てを特定商取引法の規制対象とすることは消費者保護の観点を逸脱するおそれもあるので、小規模自営業者の年収制限などに一定の絞りをかける必要もあると思われる。
(2) 特定商取引法第法第26条第1項第5号は、事業者がその従業員に対して行う販売又は役務の提供を特定商取引法の適用除外としている。
しかし、事業者とその従業員との関係というのは、交渉力格差等の点で、事業者と一般消費者との関係と何ら異なることがない。むしろ、悪質事業者内部では、労使関係における力の差を背景に、事業者から従業員に対して不当な販売や役務提供が行われることもある。
実際に、多数の被害者を出した「呉服のたけうち」グループ被害事件でも、「たけうちメイト」と呼ばれるパート社員に対して、ノルマ達成などの名目のもと、呉服類の過量販売が行われた。京都でも弁護団が結成されているが、51件の受任件数中、従業員が被害に遭ったケースが10件を超えている。中には78歳のパート従業員が2000万円を超える呉服類を購入させられた案件まで存在する。
そもそも、同条項は、団体の内部自治の観点から設けられたものであるが、労使関係の力の差を背景に不当な販売や役務提供が行われる上記のようなケースでは、もはや団体の内部自治に期待することはできず、法が積極的に介入して弱者の保護を図るべきという要請が働く。逆に、従業員であれば特定商取引法の適用が全くないとすれば、「呉服のたけうち」グループが行ったような従業員を標的とした悪質商法を抑止することはできないし、その商法に追随する事業者が現れかねない。
そこで、特定商取引法第26条第1項第5号の規定を廃止して、事業者の対従業員取引にも特定商取引法を適用あらしめるべきである。

7  適合性の原則
      理解力の乏しい高齢者を狙って必要性の全くないリフォーム工事契約を締結させる悪質リフォーム被害や、資力から見て明らかに高額かつ不相当な数量の着物類を購入させる呉服販売被害、零細個人事業主等にとっては不必要な機能を備えた電話機をリースさせる電話リース被害等の消費者被害が後を絶たない。京都でも、これら被害について弁護団が結成されていることは、上に指摘しているところである。
特定商取引法第7条は、主務大臣が必要な措置をとるべきことを指示することができると規定されているが、2004(平成16)年の改正により、特定商取引に関する法律施行規則第7条第3号として、「顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行うこと」が追加された。これは「適合性の原則」を定めるものであるが、あくまで販売業者に対する行為規制に留まり、直接に民事的効果を導く規定ではない。
また、個別事案において、最高裁は「顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。」(最判平成17年7月14日・判例時報1909号30頁)と判示し、適合性原則違反の場合に業者に不法行為責任を認める可能性を示唆しているが、これも消費者に適合性原則違反の契約から離脱することを直接には認めていない。
そこで、訪問販売・電話勧誘販売等の特定商取引法が規制対象とする商取引において、適合性原則違反の場合に民事的効果を認めるべきであり、販売業者が故意または重過失により適合性原則に違反して勧誘して締結させた契約については、公序良俗違反の一態様として、この契約を無効として被害救済を図るべきである。

8  ネット通販等の通信販売の規制
  (1)特定商取引法第12条の3は、迷惑広告メールについて、消費者が広告の提供を受けることを希望しない旨のメールを販売業者に返信することにより、以後メールの送信を禁止している(いわゆるオプトアウト規制)。しかし、消費者が返信メールを送れば、そのメールアドレスが使用可能なものであることが販売業者に判明してしまい、かえって他の迷惑広告メールを誘発させる結果となっている。
したがって、端的に、広告メールを送付することについて事前に承諾を得た者以外には送付してはいけないという、いわゆるオプトイン規制を導入すべきである。
  (2)特定商取引法第12条は、通信販売業者が著しい虚偽または著しい誇大広告を行うことを禁止しているが、業者に対する行為規制に留まり、民事的効果は導入されていない。
        しかしながら、通信販売は、店舗販売とは異なって消費者が購入するか否かを決定するにあたり商品の実物を見て判断することができないため、消費者の意思決定にあたっては、まさにその広告が決定的に重要な意味合いを有している。その広告が虚偽または誇大であるならば、消費者の購入意思決定を誤らせたものであるから、消費者に取消権を付与して、被害救済を図るべきである。

9  消費者団体訴訟制度の導入
    悪質リフォーム被害やマルチ商法被害、外国語会話学校による消費者被害など、訪問販売や連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引に関する消費者被害が後を絶たない。
    特定商取引法や各地の条例に基づき、経済産業省や都道府県による行政処分も行われているが、既に指摘しているように、過去最高の処分が行われたとされる2006(平成18)年においても、経済産業省による行政処分は34件で、実際に相談が多発している事業者数に比較して、ごくわずかな件数に留まっており、消費者被害の救済にはほど遠い。
    そこで、「中間とりまとめ」が基本方針としているように、悪質業者の更なる監視をはかるため、消費者契約法の改正により導入された団体訴訟制度を特定商取引法にも導入すべきである。
    なお、この場合、団体訴訟を行いうる消費者団体たるべき要件は、既に導入されている消費者契約法と同等またはより軽減して、実効性をはかるべきである。
    また、この場合、行政機関の処分権限と、消費者団体の差止請求権との調整をはかるためとして、一定の要件を備えた適格消費者団体がある事業者に対する差止請求権を行使しようとするときは、あらかじめ主務大臣(経済産業省)に対し通知する義務を課すべきであるとの見解もある。しかし、行政機関による行政処分と、一定の資格を備えた適格消費者団体の差止請求とは別個の制度であって、両者の調整をはかる必要はない。したがって、適格消費者団体に、差止請求権を行使しようとする際に、事前に主務大臣に通知する義務を負わせるべきではない。
以  上


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