意見書

「消費者契約法の評価及び論点の検討等について」に対する意見(2007年9月21日)


2007年(平成19年)9月21日


内閣府国民生活局消費者企画課  御中
京都弁護士会                    

会長  中  村  利  雄



「消費者契約法の評価及び論点の検討等について」に対する意見



第1  はじめに
  本年8月20日に公示された報告書「消費者契約法の評価及び論点の検討等について」に対して,以下のとおり意見を申し述べる。
第2  消費者契約法の評価(報告書第3)
  3条1項の評価について,一定の機能を果たしているとの評価であるが,信義則を根拠として事業者の損害賠償義務が認められたにすぎないことは消費者契約法の条項の機能としては間接的で不十分なものであるというべきである。これについては,情報提供義務が認められるべきである。
第3  消費者契約法上の各論点の検討(報告書第4)
  1  検討の視点(報告書第4の1)
報告書は,規定のあり方を考えるに際し,事業活動を制約することによりかえって社会的コストを発生させてしまうことがないかどうかという観点も考慮すべきとしているが,その場合,そこにいう「社会的コスト」とは具体的に何か,実際に発生するものなのか,消費者被害防止に不可欠の方策との対比において考慮すべき事項なのかを厳格に検討すべきである。
  2  勧誘(報告書第4の3)
  (1)「勧誘するに際し」(消費者契約法第4条第1項から第3項まで)
  同条が取消権を認めたのは,契約締結段階において,事業者の行為により,消費者が意思形成に瑕疵が生じる点にある。広告・表示についても,消費者の意思形成に影響を与えうるのであるから,「勧誘」に含めて適用対象とすべきである。
  (2)「将来における変動が不確実な事項」(同法第4条第1項第2号)
  これが取消事由とされているのは,契約締結段階において,「将来における変動が不確実な事項」について事業者が断定的判断を提供することにより,消費者の意思形成に瑕疵が生じる点にあり,断定的判断の提供で消費者の意思形成に瑕疵が生じるのは財産上の利得に影響を与えるものに限らない。よって,適用対象は財産上の利得に影響を与えるものに限らないとすべきである。
  (3)不利益事実の不告知(同法第4条第2項)
  報告書が,同条項の要件の緩和が図られるべきであるとしている点について評価できる。
同条を被害救済に役立てるためには,先行行為及び故意要件双方を除外すべきである。
  (4)困惑類型(同法第4条第3項)
  現行法の困惑類型は極めて限定的で消費者被害救済に十分対応できていないので,困惑類型を拡張すべきである。現在被害が多く現行法で対応しにくいつけ込み型の勧誘事例として,平穏な生活等を害する勧誘,不招請勧誘,適合性原則に反する勧誘などを新たに付け加えるべきである。
また,不当勧誘に関する一般条項を設け,取消事由とすべきである。
  (5)重要事項(同法第4条第4項)
  報告書が,「重要事項」の概念について,契約を締結する動機に係る事項を含め概念を拡張すべきとしている点は評価できる。
  (6)取消権の行使期間(同法第7条第1項)及び法定追認(同法第11条第1項)
  取消権の行使期間を延長すべきである。
また,法定追認について,困惑類型においては,困惑状態の解消が不明確であるから,かかる状態での行為が法定追認に該当するとすると消費者保護がはかれない結果を招く。したがって,困惑状態については,法定追認の適用を除外すべきである。
  3  契約条項(報告書第4の4)
  (1)消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等(同法第9条)
  「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」(同法第9条第1号)の意義及び立証責任について何らかの形で消費者による立証の困難性の緩和が図られるべきとしている点は評価できるが,立証の困難性緩和という目的を達成するためには,端的に立証責任を事業者に負わせるよう,条文を改正することによって対応すべきである。
  (2)消費者の利益を一方的に害する条項(同法第10条)
  前段要件(民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定)につき,非典型契約の場合においても本条が有効に機能すべき必要性は典型契約の場合と変わらないとしている点,不当条項に関する規定の趣旨からすると,前段要件について明文の任意規定以外をも根拠とすることにも合理性が認められるとしている点は評価できる。
報告書でも提案されているとおり「当該契約条項がない場合に比し」といった条文改正,あるいは端的に前段要件を削除すべきである。
  (3)他の不当条項
  不当条項リストを追加し,同リストを充実化させていくこととしている点,その一例として解除権・解約権を制限する条項を不当条項リストに加えるべきとしている点は評価できる。
専属的裁判管轄条項についても,消費者が原告として訴訟提起する場合において,本来義務履行地として原告の所在地に管轄があったものを制限する条項であれば消費者にとって一方的に不利益となるのであるから,不当条項リストに加えるべきである。
仲裁条項については,仲裁法附則3条があるが,同条では解除できるだけであり,また同条の措置は「当分の間」の特例措置であることから,将来的にも消費者保護を徹底するためには,不当条項リストに加えるべきである。
また,賃貸借契約において,既に多くの裁判例が出ている原状回復条項,敷引特約については、不当条項に加えるべきである。
第4  情報提供義務について(報告書第5)
  報告書は,3条1項の事業者の情報提供義務について,「裁判例において,取引上の信義則を根拠として事業者の告知・説明義務違反による損害賠償責任を認めるに際し,同条項の規定についても触れられるなどして一定の機能を果している」と評価している。しかしながら,報告書がこの評価の根拠としている裁判例は,事業者に情報提供義務を認めてしかるべき事案であるのに,3条1項を直接適用できず,信義則という民法上の一般条項を使わざるを得なかった事案とも言えるものであり,どちらかといえば,努力義務にとどまる3条1項の限界を示したと評価すべきものである。
  確かに,消費者に提供されるべき情報の具体的内容は,個別事案により異なりうるものことは間違いないが,だからといって,消費者契約における一般的規範として情報提供義務を定めることができないということは,民事ルールにおける一般条項の概念自体を否定するものであり,適当な考え方とは思われない。
  もちろん,あらゆる情報を消費者に提供せよと事業者に求めることは適当ではないが,前記判例に示された3条1項の限界を踏まえると,一般的抽象的なレベルで事業者の情報提供義務の範囲を画し,これに消費者の取消権等の法的効果を付与することは,3条1項の機能を実質化する観点からも必要である。
  次期以降の国民生活審議会においては,上記のような見地に立ち,その違反に法的効果を付与することが適当な情報提供義務の具体的範囲の検討をより深めていくものとすべきである。
第5  適合性原則について(報告書第6)
  報告書は,「適合性原則に関するルールのあり方等については,暴利行為論を現代の消費者取引に合わせて具体的にルール化することが考えられる」とし,困惑類型(第4条第3項)の対象の拡張により対処する方向性を示している。
  近時,高齢者に対する呉服の過量販売,不要なリフォーム工事など,適合性原則違反が問題となっている被害事例が極めて多く存在することからすれば,早急な対応が必要であるところであり,上記の困惑類型を拡張する方向性は評価できる。
  ただし、消費者基本法において適合性原則を事業者の責務としていることからすると,さらに進んで,消費者契約法においても明確に適合性原則を明記し,適合性原則に反する勧誘を禁止する規定及び同原則に反する契約を取り消しうる,ないし無効とする規定を設けるべきである。
第6  不招請勧誘について(報告書第7)
  不招請勧誘が,消費者の自由な判断を阻害し,消費者の生活の平穏を害する勧誘方法であること,多数の深刻な被害事例が訪問販売などの不招請勧誘を原因とした被害事例であることからすれば,オプトイン型(消費者からの要請がない限り勧誘してはならないとする型)の消費者契約法に不招請勧誘に関する規定を設けるべきである。
第7  インターネット取引について(報告書第8)
インターネット取引は指摘されている問題点のほか,通信手段を通じて私生活に入ってくるため遮断が難しく迷惑メールなど私生活の平穏を害する不招請勧誘が行われやすいこと,販売者の匿名性のリスクが大きいこと,カード情報などの個人情報が取得されやすいこと,消費者が契約をするための情報が表示に限られていることなどの問題点がある。
これらの問題点からすれば,迷惑広告メールなどの不招請勧誘の禁止,情報提供義務の徹底,虚偽誇大広告など不実の表示による勧誘を確実に取消しできるようにすること,インターネット取引の場を提供する業者や取引業者などの免責条項の制限,などが早急に必要である。
第8  その他の消費者契約法の実効性の確保(報告書第9)
  1  高齢者等の消費者被害の防止について
    高齢者・障害者の消費者被害は多い。高齢者・障害者は消費者の中でも弱者であり,一人暮らしなど孤立していることも多い。そのために,地域等での被害状況の把握などの支援体制が不可欠であることは,報告書のとおりである。ただし,不招請勧誘の禁止,適合性原則違反の勧誘行為の無効など,高齢者保護のための抜本的な法制度の実現こそが大前提であり,これ無くして地域対策だけでは解決ができないことを認識すべきである。
2  消費者による立証の困難性について
4条に定めるところの勧誘文言や勧誘態様等の立証責任の問題は,消費相談を行っている消費生活センターでは勧誘文言を「言った」「言わない」の争いとなり,適切な解決に至ることの大きな障害となっている。
  しかし,報告書は,消費者による立証の困難性を軽減するという観点が必要であることを指摘していながら,何らの具体策を示していない。立証責任の軽減を裁判官の訴訟指揮や相談員の努力に依存するだけでなく,(1)事業者に法的事案解明義務を定める,(2)特定商取引法6条の2などのような法的手当をする,などが検討されるべきである。

以    上

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