生活保護基準の引き下げに反対する声明(2007年12月13日)


  厚生労働省内の有識者会議「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)は、本年11月30日、低い方から1割の低所得者層の生活扶助相当消費支出額より現行生活扶助基準の方が高いことなどを確認する報告書を出し、これを受けて舛添要一厚生労働大臣は、同日の閣議後の記者会見において、生活保護基準を引き下げる方針を明らかにした。
  しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、生存権保障に直結する極めて重要な基準である。また、生活保護基準は、介護保険の保険料・利用料、障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、さらに、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準と連動している。生活保護基準の引き下げは、現に生活保護を利用している市民の生活レベルを低下させるだけでなく、低所得者全般に直接の影響を及ぼす極めて重大な問題である。とりわけ、本年11月28日に可決成立したばかりの改正最低賃金法では、最低賃金の引き上げに向けて新たに「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことが明記されたが、生活保護基準の引き下げによってその趣旨が没却されるおそれすらある。このような生活保護基準の重要性に鑑みれば、生活保護基準の引き下げに関する議論は、低所得者の生活実態を十分調査したうえで慎重になされるべきであり、生活保護利用者の声を十分に聴取するとともに、広く市民に意見を求めてなされるべきである。
  然るに、検討会の報告に依拠した生活保護基準の引き下げは、手続的にも内容的にも安易かつ拙速と言わざるを得ない。検討会は、厚生労働省が選任した5名の学者によって構成され、約1か月半の間のわずか5回の議論で報告書をまとめている。その手続きには、生活保護利用者や市民の声がまったく反映されていない。また、検討会における議論の内容は、低所得者層の消費支出の統計と現行生活保護基準との数字の対比にとどまる。しかし、日本弁護士連合会が昨年7月に実施した生活保護全国一斉電話相談では、福祉事務所が保護を断った理由の約66%が違法である可能性が高く、相談者を違法に追い返す、いわゆる「水際作戦」が全国各地に蔓延している事実が確認されている。生活保護の違法な運用によって、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている低所得者が多数存在していることが疑われる。このような現状において、生活保護の運用を改善することなく、低所得者層の収入や支出を根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、生活保護基準は今後際限なく引き下げられるおそれがある。
  当会は、クレジット・サラ金相談の初回相談料を無料化し、自治体と連携しながらホームレスの人々を対象とした法律相談事業を行うなど、生活困窮者支援に積極的に取り組んできた。低所得者層の人々の多くは、食費や交際費などを切りつめながら苦しい生活を送っているのが実態である。とりわけ、原油価格高騰の影響によって光熱費や加工食品等の値上げが相次いでいる現状では、今後一層生活が困窮するおそれもある。
  当会は、厚生労働省及び厚生労働大臣に対し、低所得者の生活実態を正確に調査したうえで、生活保護利用者や市民の声を十分に聴取し、徹底した慎重審議を行うことを強く求めるとともに、安易かつ拙速な生活保護基準の引き下げに強く反対するものである。
  
2007(平成19)年12月13日

京都弁護士会                            
                  
会  長      中    村    利    雄


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