意見書

独立行政法人国民生活センターの整理合理化計画についての意見書(2007年11月6日)


2007年(平成19年)11月6日


行政減量・効率化有識者会議
座長  茂木友三郎  殿

京都弁護士会              

会長  中  村  利  雄


独立行政法人国民生活センターの整理合理化計画についての意見書



はじめに
本年9月12日に独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」という。)の整理合理化計画案(以下「整理合理化計画案」という。)が公表された。この中では,事務・事業の見直しに係る具体的措置として,これまで国民生活センターが行ってきた種々の業務について廃止,外部化等を行うとされており、国民生活センターの重要な役割を後退させるものとなっている。これは「独立行政法人整理合理化計画の策定に係る基本方針(平成19年8月10日閣議決定)」に基づく「ゼロベースでの見直し」に従って作成されたものであるが,この整理合理化計画案が提出された後に福田康夫内閣総理大臣は,「政治や行政のあり方のすべてを見直し,国民の皆様が日々,安全で安心して暮らせるよう,真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換し,悪徳商法の根絶に向けた制度の整備など,消費者保護のための行政機能の強化に取り組みます。(平成19年10月1日第168回国会における内閣総理大臣所信表明演説)」と表明している。このことからも,消費者政策の実施機関である国民生活センターの役割は決して後退させるものであってはならず,むしろ機能・権限の強化が図られなければならない。そのうえで,消費者行政の機能強化のためには,国民生活センターの業務や機能を独立行政法人から行政機関に移管すべきであり,更には消費者庁が設立されて現在省庁間に分散している消費者行政機能が統合されるべきである。
  当会としては,国民生活センターの機能移管,消費者庁の設立を視野にいれつつ,整理合理化計画案について以下のとおり意見を述べる。

第1  意見の趣旨
  1  情報分析事業の全国消費生活情報ネットワークシステム(以下「PIO-NET」という。)の運用について,情報収集の効率化のみならず収集した情報の分析機能を強化するとともに情報収集及び提供の法的根拠を明確にしたうえで実効的な情報収集及び提供をすべきである。
2  相談調査事業について,経由相談に特化するのではなく直接相談を継続すべきである。
  3  商品テスト事業について,外部化するのではなく,むしろ検査機器類,予算及び権限において自主テスト機能を更に強化すべきである。
  4  教育研修事業の研修事業について,市場化テストを導入するのではなく自主研修事業を更に充実すべきである。
  5  裁判外紛争解決制度について,消費者紛争の特性を考慮した個別紛争の解決実効性のある権限を付与すべきであるとともに同種紛争の解決指針及び予防に役立てられる制度設計をすべきである。

第2  意見の理由
  1  総論
PIO-NETに登録された消費生活相談情報の年度別総件数の推移は下表のとおりであり,国民生活センターや全国の消費生活センターに寄せられる相談の件数は毎年増加の一途である。福田康夫内閣総理大臣の所信表明演説を待つまでもなく消費者行政の強化は必至の政策である。

H8
351,139
H9
400,511
H10
415,347
H11
467,110
H12
547,145
H13
655,899
H14
873,663
H15
1,509,884
H16
1,919,662
H17
1,300,279
H18
1,097,117

(注1)国民生活センター編「消費生活年報2007」より。平成19年5月末日までの登録分。
(注2)平成15年度及び16年度はいわゆる架空請求に関する相談件数が急増したため総相談件数が突出している。

国民生活センターは,消費者行政の中心的役割を担う内閣府の企画立案する消費者政策の実施機関である(内閣府設置法4条3項35条,中央省庁等改革基本法10条2項5号,同3項,独立行政法人通則法2条1項,独立行政法人国民生活センター法3条)。また,消費者基本法は3条及び4条において国及び地方公共団体に消費者の権利の尊重の基本理念にのっとり政策を推進する責務があると規定したうえで,25条において国民生活センターに国及び地方公共団体等と連携して消費生活に関する各種施策の実施について中核的な機関として積極的な役割を果たすものと規定している。
他方で,内閣府その他消費者行政を担う他省庁の政策の企画立案には消費者政策の実施機関として情報収集・分析・提供を行う国民生活センターの情報や意見を重要な要素として行われており,その存在が不可欠である。
このような消費者を取り巻く状況及び国民生活センターの存在意義,役割からすれば国民生活センターの事務・事業を縮小,削減することは決してできず,むしろ機能・権限を強化しなければならない。

2  情報分析事業のPIO-NETの運用について
国民生活センターに寄せられる情報は,被害救済のために有効に利用され,新たな被害を防止するために役立てられるべきものである。
ところが,全国の消費生活センターが国民生活センターに消費者の苦情,相談情報を送付する法令上の根拠が明確ではない。また,寄せられた苦情,相談情報を関係機関や消費者等に開示したり公表することについても法令上の規定を欠いる。このため,国民生活センターは,開示・公表に対する事業者からの責任追及に配慮しながら開示・公表しているのが実情である。このような現状では迅速かつ的確な情報の収集・開示・公表という実効的な活用が望めない。
このため,まず,全国の消費生活センターの情報を国民生活センターに集中させることの法的根拠を整備するべきである。また,集められた苦情相談情報などを,新たな被害発生を少しでも早く抑止するために迅速に消費者に向け開示・公表することについて,国民生活センターの権限と手続を法令上明示する必要がある。また,法的根拠に基づき国民生活センターが開示・公表したことに対して,事業者等から原則として責任を問われることがないことも法令上明示するべきである。
さらに,収集した情報を単に提供するだけではなく効果的に提供するためには情報の分析機能を強化しなければならない。
このように,PIO-NET情報を有効に収集・分析・利用するためにも,予算面,人的資材面の制約から長期間にわたって更新されてこなかったPIO-NETのハード及びソフト両面の抜本的改善を急ぐとともに,人員と予算措置を講じる必要がある。個々の情報に字数制限があり,情報源である各地の消費生活センターとの連携が十分でないなど,技術的に容易に克服できるはずの問題点が放置されてきたことをふまえ,早急に対処されるべきである。
また,消費者契約法の平成18年改正により導入された消費者団体訴訟制度は,消費者被害の予防・拡大防止におおいに力を発揮することが期待されており,その実効化のためにもPIO-NET情報の有効な収集・分析・利用が不可欠である。

3  相談調査事業について
国民生活センターは,苦情相談の受理を経由相談に限定する方針に基づいて直接相談の受理を縮小限定してきた。そのうえで整理合理化計画案では「一次的な直接相談を廃止し,経由相談に特化する」とされている。
しかし,現在まさに生じている消費者被害の相談窓口となることは個々の消費者被害の救済にとどまらず新たな消費者被害の端緒となり早期の注意喚起,被害拡大防止に直結するものである。
また,経由相談の経由種類としては消費生活センターから国民生活センターへの「移送」,消費生活センターと国民生活センターとの「共同処理」,消費生活センターの問合せに対する国民生活センターの「助言」とがあるが,平成18年度の経由種類別件数の内訳は総件数4,373件のうち「助言」が3,884件(88.8%)であり,そのほとんどが「助言」である。
消費者被害の特色の一つは同種被害が広汎かつ多数にわたるというものであり,全国各地の消費生活センターで解決に苦慮する案件を迅速的確に処理する指針を助言,提示するためにも,国民生活センターが直接相談を積極的に受理して現場感覚を有していることが必要不可欠である。被害を受けた消費者と直接のやり取りを行い,経緯や手口を詳細に聞き取ることによってはじめて被害の実態や問題の本質を把握でき,具体的で有効な解決の指針が生み出せることは多くの事案に接してきたほとんどの弁護士の実感である。
従って,経由相談に特化することは国民生活センターの現場感覚を喪失させ,新たな被害の早期発見を困難にし,有効な助言能力を低下させるものである。積極的継続的に直接相談を受けることが必要であり,更にそのための人的体制を整え,後記行政型ADR機能の活用にも連結させていくべきである。
  
4  商品テスト事業について
消費生活の安心・安全を確保するためには,真に公平・中立で誰もが信頼できる機関による商品テストが必要不可欠である。科学技術が高度化する中で,事故原因の究明はより困難になっている。ところが,地方公共団体の商品テストの予算は大幅に削減されつづけている。このため,公平・中立な立場で信頼性のある商品テストを行う国民生活センターの機能はますます重要性を増している。機動的な商品テストを行うために,外部の商品テスト機関とのネットワーク化を推進することは必要としても,事業者やその関係団体に依存せず独立した立場で様々な観点から商品テストを行う国民生活センターの商品テスト機能を充実させるべきであり,そのための予算と権限を確保することが重要である。
  
5  教育研修事業の研修事業について
地方公共団体で消費者行政にかかわる公務員や消費生活センターの相談員はいずれも任期付である。このため一定期間消費者問題にかかわって,理解が深まったところでその任から外されることが繰り返されており,資質の維持向上が切実な課題である。また,近時の消費者トラブルは複雑化し解決が困難になっている。他方,国民生活センターが実施する研修を消費生活センターの相談員が希望しても定員の都合で受講できない事態が多数生じている。
このような状況をふまえると,国民生活センターにおける研修は極めて重要であり大幅に拡充するべきである。

6  裁判外紛争解決制度について
国民生活センターや都道府県に設置する行政型ADR機能は,年間10件足らずの案件を時間と人材をかけて処理するようなものにとどまるべきではない。
国民生活センターのPIO-NET情報,商品テスト,人材などからすれば,国民生活センターで行うADRは,民間型ADRや裁判所では果たしえない消費者紛争特有の少額大量の紛争を迅速・適切に解決していくことが可能であり,是非,そのようなADRを国民生活センターに創設すべきである。そして,その成果を全国の消費生活センターなどでも解決指針として使えるようにすべきである。また,消費者が気軽に紛争を持ち込むことができる一方で,国民生活センターのADRに持ち込めば公平で迅速な解決が期待できるという制度的保障も必要である。そのためには,消費者からADRの申立がなされた場合には,事業者が手続に参加するべきことを法令上明確にする必要がある。さらに,同種事案の解決や予防に役立てることができるように事業者が手続に非協力的であったことや不誠実であったという事実,解決に至ったあるいは至らなかったこと及びその内容などを公表できるようすべきである。
このような観点からすれば,国民生活センターだけでなく都道府県にも同様の行政型ADRを設置し,両者の連携のもと全国の至る所で迅速に消費者紛争の解決が図られるようにするべきである。

おわりに
  国民生活センターは消費者の正当な権利の確立のために極めて重要な機構である。しかし,現時点においてその果たすべき役割を十分に担っているとは評し難い。事務・事業の見直しに当たっては縮小・後退させるのではなく機能・権限を強化することを強く求めるものである。

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