取調べの可視化(全過程の録画)実現を求める会長声明(2008年2月21日)


  現在の刑事裁判は、密室での取調べで作成された被疑者・被告人及び参考人の供述調書に大きく依存しているが、供述調書の作成過程を事後的・客観的に検証する手段は存在しない。そのため、取調官による違法・不当な取調べが横行し、虚偽自白が誘発され、多くのえん罪を生みつづけている。昨年に相次いで言い渡された、志布志事件、北方事件、氷見事件の(再審)無罪判決によって、違法・不当な取調べが現在も行われていることが明らかになった。かかる現状を改善し、えん罪を防ぐためには、取調べの可視化(全過程の録画)を実現し、取調べを事後的・客観的に検証可能なものとするほかない。
  また、2009年5月までに実施される裁判員裁判においては、これまでのように供述調書の任意性・信用性をめぐって長時間にわたる取調官の尋問を行い、裁判員に過度の負担をかけることは許されないと言うべきである。取調べの可視化は、裁判員裁判にとって不可欠の前提とされるべきである。
  検察庁においては、2006年7月以降、取調べの一部録画・録音を試行しているが、これは、検察官の裁量により、検察官による取調べの一部のみを録画・録音するものに過ぎない。警察での取調べを含め、録画・録音されていない部分については、依然として事後的な検証が不可能なままであるし、かえって任意性・信用性の判断を誤らせてしまう危険性がある。
  そして、参考人の事情聴取も例外ではない。検察官が被疑者の妻を説得して被疑者を自白させるよう強要したとされる国家賠償請求事件では、昨年3月、大阪高裁において元被疑者が勝訴的和解を勝ち取っている。
  世界に目を向けても、取調べの可視化は世界の潮流となっており、イギリス、アメリカの多くの州、オーストラリアを始め、アジア近隣諸国においても、韓国、香港、台湾、モンゴルなどで取調べの録音、録画を義務づける制度が導入されている。
  よって、本会は、
1  被疑者・被告人、参考人の取調べの全過程が録画されない限りは、その取調べにおいて作成された供述調書は証拠能力を有しないとする法律を制定すること
2  前項の立法がなされるまでの間、被疑者・被告人、参考人が求める場合は、捜査機関は取調べの全過程を録画・録音すること
  を求める。

2008年(平成20年)2月21日                      


京都弁護士会                        

会  長    中    村    利    雄

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