少年法「改正」法案に関する声明(2000年10月17日)



  自民・公明・保守の与党三党は、「少年法の一部を改正する法律案」を国会に提出しました。この法案においては、最近の少年犯罪の動向等に鑑み、1.刑事罰対象少年を従来の16歳から14歳に引き下げる、2.故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件で罪を犯すとき16歳以上の少年は原則として検察官に送致(逆送)する、3.重大犯罪及び人の死亡に関する事件で家庭裁判所が必要と認めたときは、少年審判への検察官の関与を決定ができる、4.検察官関与決定がなされた事件につき、重大な事実誤認又は法令違反を理由とする高等裁判所への抗告受理申立権を検察官へ付与する、5.大事件の認定に関して証人尋問等を行うことを決定した事件について最大8週間の少年鑑別所収容を認める、などの「改正」点が盛り込まれています。

  しかし、刑事罰対象年齢の引き下げ、重大事件の原則逆送という少年事件の「刑罰化」「厳罰化」が少年犯罪の抑止につながらないことは、アメリカの例でも明らかです。また、少年の立ち直りにとっても、少年法の理念に基づく矯正教育こそが有効であり、刑罰はマイナスです。近年、ドイツ、イギリス、アメリカにおいても、実証的な調査・研究に基づき、応報的措置から改善・更生のための処遇の充実への転換が図られています。上記法案によれば中学生に刑事罰を科することになりますが、義務教育年齢の子どもの最も基本的な権利である教育をうける権利を奪うことは憲法26条に照らして強い疑義があるだけでなく、長期間にわたる拘束は当該少年の社会復帰をほとんど不可能にするものであり、あまりにも苛酷な政策です。

  少年司法の「刑罰化」「厳罰化」の是非については、拙速な結論を避け、少年犯罪の実態と原因の調査や重大な少年事件のケース分析を丁寧に行うなど、少年問題に携わる幅広い人々の意見を聴き、衆知を集めて慎重な検討と討議を尽くすべきであると考えます。このような検討と討議を経ないまま、感情的に「厳罰化」をおしすすめた「改正」法案を成立させることは、あまりにも無責任であり、歴史から厳しい審判をうけるものと考えます。

  また、6月に廃案になった政府提出法案の修正についても、予断排除原則がなく、伝聞法則もない審判廷に検察官が出席するという少年にとっての不利益・不公平性は、全く改められていません。少年事件においても少年の適正手続上の権利保障は必要不可欠であるところ、「刑罰化」「厳罰化」のみに急で少年側の権利保障の観点が完全に欠落している上記法案は厳しく批判されるべきです。

  さらに、重大な事実誤認などを理由とする検察官の高等裁判所への抗告受理申立権の付与は、実質的にみて検察官に抗告権を付与するのと同様の機能を果たすことは明らかです。家庭裁判所の事実認定について、裁判官が少年の自白調書などの捜査記録を予め読んで審判に臨むという刑事裁判以上に少年に不利益な審判構造を維持したうえで、少年の適正手続上の権利保障ぬきに検察官の審判出席を認めて検察官による弾劾に少年をさらし、これに加えて検察官に不服申立権を認めるなどという制度は、適正手続きの観点から許されることではありません。  被害者の権利保障を確立する必要性は当会もかねてから主張しており、積極的にすすめるべきです。しかし、法案では、被害者等に対する通知や情報公開の範囲が十分ではなく、また捜査段階における被害者の意見表明の点が考慮されていません。

  以上のとおり、今国会に提出された法案内容はあまりにも問題が多すぎ、これを僅かな審議で成立させるということは、目先の事象にとらわれた対策であり、少年の刑事事件に対する対応を誤まりかねないものです。よって、当会は、本法案に反対の意見を表明します。

                                            

2000年(平成12年)10月17日

京都弁護士会  三  浦  正  毅


関連情報