京都地裁における裁判員裁判第一号事件の公判開始にあたって(会長談話)(2009年10月27日)


  本日、京都地裁における、初めての裁判員裁判が始まりました。
京都弁護士会では、裁判員制度を、日本の刑事裁判が抱える多くの問題を改善出来る最大の機会として捉えてきましたが、いよいよ、本日、公判が始まったことに大変重要な意義を感じております。

  これまで、わが国の刑事裁判やそれに先立つ捜査では、長期間の身体拘束を受けた被疑者が密室での取調べで自白を強要され、自白しない限り保釈が認められないといった人権侵害というべき状況がありました。刑事裁判も、職業裁判官により法廷での証言よりも捜査官の作成した調書が重視され判断される(調書裁判)結果、事実上無罪の推定が働いていないのではないかというような状況もありました。その結果、近年になってもなお、志布志事件や足利事件などの冤罪事件が繰り返されてきています。
  これに対し、裁判員制度では、裁判員が法廷で直接見聞きしたことを中心に判断できる審理が行われ、調書裁判からの脱却が期待されます。そして、何よりも、さまざまな社会的経験を持った市民が新鮮な市民感覚で参加することにより良識ある妥当な判断が行われるとともに「疑わしきは罰せず」などの刑事裁判の本来の原則が忠実に尊重され、まさに、市民自身の手によって自由と人権が守られることが期待されています。

  他方で、裁判員裁判は、選ばれる市民に少なからぬ負担を強いる制度です。また、裁判員に守秘義務が課せられているという問題や、拙速審理にならないかという懸念、死刑判断の問題、取調べの全過程を録画する制度(可視化)が存在しないという問題など克服すべき問題も残っています。そうした問題について、今後の実施状況を踏まえて検証を行い、一つずつ解決に向けて取り組んでいくことも必要です。

  当会及び会員は、京都地裁において裁判員裁判第一号事件の公判が始まったこの意義ある日に、被告人の正当な権利擁護のために弁護人として弁護活動に一層の力を尽くし、裁判員裁判をより良い制度とするために制度のあり方を検証し、運用改善と制度改革に取り組んでいく決意を表明するものです。
以上

2009年(平成21年)10月27日

京都弁護士会  会  長    村  井  豊  明

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