「非司法競売手続の導入に反対する会長声明」(2008年7月24日)


  現在法務省において,裁判所が関与しない不動産競売手続(以下「非司法競売手続」という)の導入が検討されている。しかし,非司法競売手続を導入すべき必要性はなく,また,検討されている手続には以下に述べるような多くの問題点があるため,当会はその導入に強く反対する。

1.非司法競売手続を導入すべき必要性がないこと
  現在法務省では,競売手続の合理化,迅速化などのためにアメリカの競売制度を参考とした民間運営の非司法競売手続の導入が検討されている。
  しかし,不動産競売制度については,平成8年から同16年にかけて,不当な執行妨害を排除し,透明かつ迅速な手続を実現するために,計5回の改正がなされてきた。その結果,平成18年度においては,不動産競売事件の約4分の3は申立から半年以内に売却実施処分に付され,売却率も全国平均で80%を超え,東京地裁及び大阪地裁においては100%に近い数字となっている。このように現在の不動産競売制度は,裁判所の関与の下,迅速かつ円滑な制度として運用されており,かかる状況下において敢えて非司法競売手続を導入すべき必要性はない。

2.導入した場合に以下の問題点があること
  現在検討中の非司法競売手続の案は,融資時に債権者,債務者,所有者間で競売の実行方法を取り決め,実行時には,民間オークションの方法により売却を実施しようとするものである。この案では,手続に裁判所が関与しないため,現在裁判所が作成している現況調査報告書・評価書・物件明細書のいわゆる3点セットが作成されず,売却価格の下限規制も設けないで売却がなされることになる。
  しかし,3点セットは買受希望者に対し不動産の正確な情報を提供する重要な資料であり,これが作成されないこととなれば,不動産の権利関係や占有状況についての的確な情報が得られないため,一般の買受希望者が参加することが困難となる。
  この間の不動産競売制度の改正は,これまでの不動産競売手続において不当な執行妨害が存在し,悪質な業者に悪用されたり,反社会的勢力の資金源となっていたことに対する反省の下,一般に開かれた透明な不動産競売手続を目指してなされた制度改革であり,非司法競売制度の導入により一般の買受希望者の参加が困難となれば,これまでの制度改革の流れに逆行するものといわざるを得ない。
  また,これまでは公正な市場価格を参考として売却価格の下限規制を設けていたにもかかわらず,これを廃止すれば不当に廉価売却がなされるおそれが高く,残債務の負担を余儀なくされる債務者や保証人に著しい不利益を与えることになる。
  なお,現在検討中の案は,融資時に予め債務者等が非司法競売手続に合意することを条件としているが,融資時においては一般に債権者側が優越的地位にあるため,債務者が同意していれば手続の適正さが担保されているとは言い難い。
    
  以上のとおり,非司法競売手続は,これを導入する必要性が認められない上,看過できない問題点があるため,同手続の導入には強く反対するものである。

2008年(平成20年)7月24日

京都弁護士会                
            
会 長  石  川  良  一


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