少年法「改正」法案に関する会長声明(2008年3月27日)


  本年3月7日に「少年法の一部を改正する法律案」が国会に上程された。同法案のうち、?被害者等による少年審判の傍聴を認める制度の創設、及び、?被害者等による記録の閲覧・謄写を認める対象範囲の拡大については、以下のとおり、少年の健全育成を目的とし保護・教育の優先をうたっている少年法の理念(少年法1条)に照らし問題があるため、反対の意見を表明するものである。
  第1に、被害者等による審判傍聴を認めるとすれば、精神的にも未熟で社会経験も乏しい少年は、心理的に萎縮し、率直に事実関係の説明をしたり、心情を語ったりすることが困難となるおそれがある。その結果、誤った事実認定がなされる危険があるとともに、審判が表層的なものになって、審判の教育的・福祉的機能が損なわれてしまうおそれが極めて大きい。また、被害者等が傍聴をしている状況では、少年や保護者、裁判官や調査官が、少年の人格特性や成育歴、家族関係の問題等、少年のプライバシーに深く関わる要保護性に関する事項について、率直に陳述し、これを取り上げることができなくなるおそれがある。そうなれば、要保護性に関して十分な審理がなされず、少年の更生及び成長発達に最も適切な処遇選択が困難となるという問題も生じる。さらには、傍聴の対象がいわゆる触法少年の事件である場合には、問題がいっそう大きくなる。
  第2に、被害者等による記録の閲覧・謄写を認める対象範囲を拡大し、法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに深く関わる事項まで閲覧・謄写の対象とすることは、少年やその家族等のプライバシーが害されるおそれがあるだけでなく、その後の更生を困難にしかねない。
  事件や審判の内容について知りたい等の被害者等の要望については、審判傍聴以外の別の形で配慮が検討されるべきであり、今なすべきことは、2000年の少年法「改正」で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法9条の2)、審判の結果通知(少年法31条の2)の各規定を更に丁寧に運用することや、被害者等が活用する支援体制を整備することである。あわせて、犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援の制度、及び国費による被害者代理人の拡充ないし新設をすべきであると考える。

2008(平成20)年3月27日
  

京都弁護士会                
            
会 長  中  村  利  雄





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