少年法「改正」に関する会長声明(2008年8月6日)


  本年6月11日,政府提出にかかる少年法の一部を改正する法律案が,一部修正の上可決成立した。
  3月7日国会に上程されたこの法案に対し,当会は反対の意見を表明する会長声明を発表し(3月27日付「少年法『改正』法案に関する会長声明」),その他多くの単位弁護士会や少年に関わる関係機関からも,反対意見や慎重な審議を求める意見が出されていた。それにもかかわらず,十分な議論が尽くされず,5月22日の審議入りから短期間の国会審議で,このような重大な「改正」が行われたことは遺憾である。
  上記の会長声明において既に明らかにしたように,今回の「改正」法による被害者等による審判傍聴制度については,精神的にも未熟で社会経験も乏しい少年が心理的に萎縮し,率直に事実関係の説明をしたり,心情を語ることが困難となるおそれがあることや,その結果,誤った事実認定がなされたり,裁判官らも少年のプライバシーに深く関わる事項について取り上げにくくなるなど,審判が表層的なものになって,その教育的・福祉的機能が損なわれるおそれがあるなどの問題点を含んでいる。事件や審判の内容を知りたい等の被害者等の要望については,審判傍聴以外の諸規定の運用や,被害者等が活用可能な支援体制の整備により実現が図られるべきで,審判傍聴のみがその要望に応えるものではない。
  国会の審議において,こうした問題点にも一定の配慮がなされ,被害者等による審判傍聴の要件として,「少年の健全育成を妨げるおそれがなく」相当な場合に限られることが明記され,12歳未満の少年は傍聴対象事件から除外した上で,12,13歳の少年の事件への被害者傍聴については,「少年が,一般に,精神的に特に未成熟であることを十分考慮しなければならない」とする修正が加えられたこと,また,被害者等による審判傍聴を許すには,予め弁護士付添人の意見を聴かなければならず,少年に弁護士付添人がないときは家庭裁判所が弁護士付添人を付さなければならないとしたことについては,一定の評価をすることができる。
しかし,これらの修正によっても,なお少年法の基本理念が損なわれる危険性は払拭されたとは言い難い。例えば,少年及び保護者が付添人を「必要としない旨の意思を明示したとき」には弁護士付添人の選任義務を免除しているが,少年及び保護者が付添人選任の意義を十分に理解しているとは限らない現実のもとで,十分な説明や理解がないままに安易に意思が明示されたものと扱われれば,その趣旨は骨抜きとされてしまう危険性がある。また,加えられた傍聴の要件についても,家庭裁判所の運用如何によっては,傍聴が安易に認められることにもなりかねない。
  弁護士付添人の選任については,少年及び保護者が付添人の立場や役割を十分に理解していることが前提であり,国費による国選付添人が付されることや,付添人を付することが少年の利益になること,保護者の意向にかかわらず少年が付添人を求めることができることなどが丁寧に説明される必要があり,曖昧な意思確認は排除されなければならない。その手続は最高裁判所規則に委ねられているが,その制定にあたっては,弁護士である付添人の意見聴取を行うことが必要とした趣旨に照らし,付添人の役割について十分な説明が行われ,慎重な意思確認の手続きを定めることが不可欠であり,これを確保するための厳格な手続が定められるべきである。また,家庭裁判所における要件の解釈や適用にあたっては,諸事情を慎重に検討し,少年法の理念に沿った厳格な運用が行われるべきである。当会としては,最高裁判所に対しては,厳格な手続を定めた規則の制定を,また家庭裁判所に対しては,少年の健全な育成を期すという少年法の理念に照らした,制度の厳格な運用を求めていくとともに,今後「改正」法により導入された制度の運用を注視しつつ,少年の権利擁護と成長支援,また犯罪被害者支援活動の一層の充実強化を図る決意である。

    2008(平成20)年8月6日

京都弁護士会                
            
会 長  石  川  良  一


関連情報