「生活保護の母子加算・老齢加算の復活を求める会長声明」(2009年6月25日)
1 厚生労働省は、生活保護における母子加算・老齢加算を削減し続け、ついにこのほど完全に廃止された。
老齢加算は2004年4月以降段階的に削減され、2006年4月に廃止された。母子加算も2005年4月以降段階的に削減され、本年4月から完全に廃止されることとなった。
2 現在、わが国では、100年に1度とも言われる未曾有の不況の中、いわゆる雇止め、派遣切りといった大量解雇問題が社会問題化しており、昨年末から年始にかけて日比谷公園で実施された派遣村では、約500名の失業者が訪れ、200名以上が生活保護を申請し受理されたのは記憶に新しいところである。
これにより生活保護が、貧困層の最後のセーフティネットであることが改めて認識された。特に子どもを抱えて働くことができないひとり親世帯や、そもそも仕事を見つけることが困難な高齢者に貧困が集中している現状では、生活保護が文字通り命綱になっているといえる。
貧困に関して昨年6月に日本弁護士連合会が行った全国一斉相談や、本年4月5日に当会が行った相談会においても、悲痛な声が寄せられており、格差拡大、貧困の蔓延が実感されるところである。
3 母子加算・老齢加算の廃止は、このような社会情勢に逆行するものであり、生活保護を受給する約9万のひとり親世帯、約50万の高齢者世帯の生活に深刻な悪影響を与えるに至っている。これらの世帯に貧困が集中しているにもかかわらず、母子加算・老齢加算を廃止すれば、逆に貧困を定着化させる結果となる。特にひとり親世帯にあっては、修学旅行や部活動に参加できない子ども、進学や通学を断念したりせざるを得ない子どもたちが続出することが懸念され、将来的にもいわゆる貧困の連鎖、貧困スパイラルを生じさせる恐れがある。
母子加算・老齢加算の廃止は、国家財政上も極めて必要性が薄く、弱者狙い打ち、弱者切り捨ての政策といわざるを得ない。そもそも母子加算・老齢加算は、これまで中央社会福祉審議会で議論の対象とされたときでも、その都度必要性を確認され、存続してきた加算であり、国の対応はこうした経過を軽視したものといわざるをえない。
4 母子加算と老齢加算の廃止に対しては、生存権を保障した憲法25条等に違反するとして、現在、100名以上の原告が全国10の地裁・高裁で争っている。
また、母子加算のみについてではあるが、本年5月25日には民主党の衆議院議員が母子加算復活作業チームを立ち上げ、本年6月4日には、野党4党が、「高校進学の断念など深刻な影響が出ている」として、母子加算を復活させ、元通り支給するための法案を衆議院に提出し、与党が審議に応じないため、いったん取り下げて、同月16日に参議院に提出した。
これらの動きは、これまで声を上げることをためらっていた貧困層が声を上げ始め、政治も受け止めざるを得なくなったということの現れであり、もはや、母子加算・老齢加算廃止が社会的な情勢に照らして妥当性を持たなくなったことを意味している。
5 母子加算・老齢加算の廃止は、国が弱者である生活保護受給中のひとり親世帯、高齢者世帯をねらい打ちし、その貧困を一層深刻化させるものであり、憲法に定める生存権保障の観点からも、国の責務の放棄といわざるを得ない。
したがって、当会は、政府及び国会に対し、母子加算・老齢加算を従前の保護基準に戻し、かつこれを法律で定めるよう強く求めるものである。
2009年(平成21年)6月25日