「消費者庁長官及び消費者委員会の人事に関し両組織創設の趣旨の徹底を求める会長声明」(2009年7月16日)


1.去る5月29日,消費者庁関連3法が成立した。政府が,多発し続ける消費者問題に対応するために産業育成目的から視点を大転換し,消費者の権利を尊重し,その利益の擁護及び増進を目的とする中央官庁の設立を,行政の肥大化抑制が叫ばれる時代において実現させたことは高く評価するものである。また,立法府が,長時間にわたる充実した審議を経て,消費者庁創設の趣旨を更に法案に反映させ,特に消費者委員会の役割は消費者行政全般に対する監視組織であることを明確にして,その権限を強化するなど政府提出の原案に大幅な修正を行ったうえで衆議院及び参議院とも全会一致で法律を成立させたことは高く評価するものである。

2.これから消費者庁及び消費者委員会を立ち上げ,始動させるに際し重要となるのは,消費者庁長官及び消費者委員会の委員の人事である。
    消費者庁長官は,消費者庁設立の趣旨を理解し,消費者の立場に立って任務を遂行し,権限を積極的に行使するよう消費者庁を指揮できる人物でなければならない。
    消費者委員会の委員は,この委員会が消費者庁を含む消費者行政全般を監視する組織であることを理解し,徹底した消費者目線で同委員会の権限行使の意思決定に参画する人物でなければならない。このため,10人以内とされる委員の構成について,従来の諮問型審議会と同様に産業界出身の委員を一定数選任することは,消費者委員会に関する立法府の法案修正の趣旨を没却させるものである。仮に,消費者委員会の権限行使に際し産業界の考えを聴取するなどの必要がある場合にはその都度意見を聴取することで足りる。

3.去る7月1日に消費者委員会設立準備参与として10人が任命された。参与は消費者委員会発足時にはそのまま初代の委員として任命されることが想定されているところ,特定の参与を参与代表として野田聖子消費者行政推進担当大臣が指名した。成立したばかりの消費者庁及び消費者委員会設置法(以下「設置法」という。)では,消費者委員会の委員長は「委員の互選により選任する」(第12条第1項)と規定され,また,消費者委員会の「委員は,独立してその職権を行使する」(第7条)と規定されている。しかるに前記のように参与代表を指名してしまうことは大臣による初代の消費者委員会委員長の事前指名ともいえるものであり,設置法の上記条項の趣旨を早くも実質的に没却するものといえる。

4.そこで,当会は,消費者庁長官及び消費者委員会の委員の人事について次の点を政府及び立法府に求めるものである。
  (1)  政府は,消費者庁長官の選任にあたっては,単に従前のキャリアや省庁間交渉の実績のみにとらわれず,消費者目線で消費者庁を指揮できる人物を選任すべきである。
  (2)  政府は,消費者委員会委員の選任にあたっては,すべての委員を消費者団体関係者,消費者事件に積極的に取り組んできた弁護士,消費者問題関連の学者,消費者問題の取材・報道を重視してきたマスコミ関係者等消費者目線を持った者から選任すべきである。そのためには,日本弁護士連合会や消費者団体などと協議・意見交換した上で選任すべきである。
  (3)  政府は,消費者委員会の委員長選任が設置法の規定に則り委員の自由意思によって行われるように,委員長を選任する際の消費者委員会を公開して開催すべきである。
  (4)  立法府は,政府の消費者庁長官,消費者委員会の委員の選任にあたり,消費者庁関連3法の審議経過,法律,附則,附帯決議の趣旨が十分に反映されているか,委員選任理由の説明が十分なされているかを確認すべきである。

2009年(平成21年)7月16日

京都弁護士会              
            
会長  村  井    豊  明
  

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