「取調べの可視化(全過程の録画)法案の早期成立を求める会長声明」(2009年7月24日)


  現在の刑事裁判は、密室で作成された被疑者・被告人及び参考人の供述調書に大きく依存しているが、供述調書の作成過程を事後的・客観的に検証する手段は存在しない。そのため、取調官による違法・不当な取調べが横行し、虚偽自白が誘発され、多くのえん罪を生みつづけている。2007年に相次いで言い渡された、志布志事件、北方事件、氷見事件の(再審)無罪判決によって、違法・不当な取調べが現在も行われていることが明らかになった。本年6月4日には、足利事件の再審請求人が、再度のDNA鑑定の結果「無罪となる可能性が高い」として釈放され、同月23日に東京高裁において再審開始決定がなされたが、同請求人も捜査段階で虚偽自白に追い込まれていた。かかる弊害を一掃し、えん罪を防ぐためには、取調べを可視化(全過程の録画)し、事後的・客観的な検証を可能にするほかない。
  また、供述調書の任意性・信用性をめぐって長時間にわたる取調官の尋問を行うことは、被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害し許されないと言うべきである。さらに、本年5月から施行された裁判員裁判において、かかる尋問を行うことは裁判員に過度の負担となるのであり、取調べの可視化(全過程の録画)は、裁判員裁判を円滑に実施していくにあたっても極めて重要である。
  検察庁は、取調べの一部録画を、一部の自白事件について本格的に導入し、警察庁も同様に一部録画を開始したが、録画されていない部分については依然として事後的な検証が不可能であり、自白部分のみが記録されることから、かえって供述調書の任意性・信用性の判断を誤らせてしまう危険性が大きい。
  そして、参考人の事情聴取も例外ではない。検察官が被疑者の妻を説得して被疑者を自白させるよう強要したとされる国家賠償請求事件では、2006年10月17日、元被疑者側が一審(大阪地裁)で勝訴し、2007年3月、大阪高裁において勝訴的和解を勝ち取っている。
  取調べの可視化(全課程の録画)は世界の潮流となっており、イギリス、アメリカの多くの州、オーストラリアを始め、韓国、香港、台湾、モンゴルなどで取調べの録画を義務づける制度が導入されている。このような日本の立ち後れた状況に対しては、2007年5月には、国連拷問禁止委員会から「全取調べの電子的記録及びビデオ録画」を含め、取調べの監視と事後的検証を可能とする措置を実施するよう、2008年10月には、国連自由権規約委員会から、一部録画が散発的、選択的に自白の記録に用いられていることに懸念が示され、「取調べの全過程における録画機器の組織的な利用を確保」するよう勧告がなされている。
  2008年6月、本年4月と続けて取調べの可視化(全過程の録画)を義務づける法案が参議院本会議で可決され、さらに、取調べの可視化(全過程の録画)実現を求める請願署名が日弁連・全国の弁護士会に合計約112万筆寄せられ、本年5月14日、衆議院議長に提出されるなど、取調べの可視化(全過程の録画)実現への市民の期待はまさに成熟したものとなっている。
  よって、本会は、次の総選挙後に開催される国会に対して、被疑者・被告人、参考人の取調べの可視化(全過程の録画)を義務付ける法制度の速やかな整備を求めるとともに、警察庁・検察庁に対して、進んで取調べの可視化(全過程の録画)を実施することを強く求めるものである。

2009年(平成21年)7月24日

京都弁護士会                

会長  村  井    豊  明
  

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