「死刑執行に対する会長声明」(2009年8月27日)


1、去る7月28日、大阪拘置所において2名、東京拘置所において1名、計3名の死刑確定者に対する死刑が執行された。
  昨年9月に森英介法務大臣が就任後、3度目の死刑執行である。
  本年に入ってなされた死刑執行としても、1月29日の4名の死刑執行に引き続いて、2度目の死刑執行がなされたものであり、短期間の間に多数の死刑が執行されるという事態が生じていること、及び、過去多数回にわたり、日本弁護士連合会及び各単位弁護士会が死刑執行の停止を求めてきたにも関わらず、今回の執行がなされていることに対して、当会は強く抗議する。

2、我が国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが今や明らかとなっている。
  さらに、本年6月にも、無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審開始決定がなされ(足利事件)、これを契機として精度の低いDNA型鑑定に依拠し、密室での取調べによる自白調書の信用性を認めた判決の問題点が指摘されているという状況にある。
  そして、現在に至るも、このような誤判が生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善は図られているとは言い難く、誤判の危険性が払拭されないままである。
  死刑が執行された場合、その被害回復はどのようにしても行うことが出来ず、こうした誤判の危険性が内在する以上、死刑執行を停止する以外に選択肢はないものといえる。
  また、死刑と無期懲役の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる事例が出されており、死刑についての明確な基準が存在しない状況にもある。
  さらに、死刑確定者に対しては、外部交通が厳しく制限されているため、再審請求や恩赦出願をはじめとする権利行使の妨げとなっているなど、その処遇の問題点も指摘されていることからしても、いったん誤った裁判によって死刑判決が確定した場合、その救済は極めて困難となる。

3、1989年、国連で国際人権(自由権)規約第二選択議定書(死刑廃止条約)が採択され、EU加盟国はすべて死刑を廃止し、死刑廃止国が139か国に対して死刑存置国は58か国(2009年6月現在)となっており、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。さらに、2007年12月には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して、死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の一時停止を求めることなどを内容とする決議が初めて採択された。
  昨年5月には、国連人権理事会より日本政府に対し、死刑執行を停止するよう勧告がなされている。また、昨年10月30日には、国連に事務局を置く「市民的・政治的権利に関する国際規約」委員会が日本政府に対し、死刑制度の撤廃を検討するよう求める勧告を出した。
  当該勧告は、死刑制度存続への支持が多い世論調査の結果とは関係なく死刑制度の撤廃を前向きに検討し、国民にも廃止が望ましいことを知らせるべきであるとの内容となっている。

4、かかる国際社会からの要請に対し、今、我が国に求められていることは、上記決議や勧告にどのように応えるかも含めて、死刑制度の存廃について早急に広範な議論を行うことである。
  我が国は、2006年に発足した国連人権理事会の初代理事国となった。
  昨年5月には自民、民主、公明、共産、社民、国民新党の議員で構成される「量刑制度を考える超党派の会」が結成され、死刑と無期刑との間に仮釈放を認めない終身刑の創設が提案されるなど国会の中で死刑についての論議が始まっている。
  日本弁護士連合会は、死刑制度の存廃につき議論を尽くし、死刑制度に関する検討及び改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。そして、死刑執行のなされるつど、法務大臣に対し、死刑の執行を停止するよう要請している。
当会も、過去数回にわたり、死刑確定者に対する死刑執行の停止を要請している。
さらに、本年5月から裁判員裁判制度が実施され、死刑制度とその運用に関し、市民に死刑を選択させることの是非について社会的関心も高まっていることからしても、死刑制度の存廃について議論が尽くされるべきであるといえる。

5、当会は、死刑を取り巻く状況が以上のようなものであるにも関わらず、死刑制度についての議論が尽くされないまま、極めて短期間に死刑執行が繰り返されていることに厳重に抗議するとともに、改めて、死刑制度の存廃を含む議論が尽くされるまでの一定期間、死刑執行の停止を要請するものである。

2009(平成21)年8月27日

京都弁護士会                

会長  村  井    豊  明
  

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