意見書

「外貌醜状における障害認定に関し、男女間の差別を解消することを求める意見書」(2009年11月26日)


2009年(平成21年)11月26日


内閣総理大臣  鳩  山  由紀夫  殿
厚生労働大臣  長  妻      昭  殿
国土交通大臣  前  原  誠  司  殿

京都弁護士会                      

会  長  村    井    豊    明

同両性の平等に関する委員会

委員長  江 頭 節 子


外貌醜状における障害認定に関し、男女間の差別を解消することを求める意見書


意  見  の  趣  旨


  労働災害補償保険法施行規則別表第1に定める障害等級表(以下「労災障害等級表」という)及び自動車損害賠償保障法施行令別表第2に定める後遺障害等級表(以下「自賠後遺障害等級表」といい、両者をまとめて「障害等級表」という)においては、外貌醜状に関して男女間で著しい格差が定められているが、これは憲法第14条1項後段において明示的に禁止されている性別による差別的取り扱いにあたるから、速やかに男性の等級を現行の女性と同様の等級に引き上げるよう、改正されるべきである。

意  見  の  理  由


1  障害等級表が定める男女格差とその違憲性
  障害等級表は、外貌に関する障害認定に関し、著しい醜状障害については、女性では第7級の12と定めているのに対し、男性では労災障害等級表によれば第12級の13、自賠後遺障害等級表によれば第12級の14と規定している。また、単なる外貌の醜状障害については、女性では労災障害等級表によれば第12級の14、自賠後遺障害等級表によれば第12級の15であるのに対し、男性ではいずれの障害等級表によっても第14級の10と規定しており、男女の間で著しい格差が設けられている。
  上記のように男女の差を設けることは、憲法14条1項後段において明示的に禁止されている性別による差別的取り扱いにあたり、違憲である。
  すなわち、憲法第14条1項は、「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」と規定している。ここにいう「法の下に」との意味は、単に法適用の平等のみではなく、法内容の平等も意味しており、合理的な理由のない法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解されている(最高裁昭和39年5月27日大法廷判決・最高裁昭和48年4月4日大法廷判決・最高裁平成20年6月4日大法廷判決)。また、「差別されない」とは、権利の上で平等に取り扱われることをいう。そして、「合理的な理由」の存在については、憲法第14条1項後段において明示的に禁止される差別については、目的の合理性及び手段の相当性が極めて厳格に判断されなければならないところ、障害等級表における男女の取扱いの差別は、後述するように合理的な根拠に基づかないものと認められるから、憲法第14条1項に反し、違憲である。
2  障害等級表の男女差別規定が合理性を欠くこと
  厚生労働省労働基準局監修の「労災補償  障害認定必携(第13版)」によれば、労災障害等級表の外貌醜状に関する男女格差については、「社会生活において醜状障害により受ける精神的苦痛を考慮し、女子のそれが男子のそれに比較して大であるという社会通念に基づく」と解説されており、これは、労災障害等級表が制定された昭和22年当時から変わっていない。
  確かに、労災障害等級表が制定された当時においては、外貌醜状に関し、女子が受ける精神的苦痛が男子のそれに比較して大であるという社会通念が存在していたかもしれず、障害認定に際し男女間において取扱いに区別を設けたことには、目的において一応の合理性を認めることができたかもしれない。
  しかしながら、「社会通念」という概念は、曖昧かつ時代の変化によってきわめて変容しやすい不安定性をもっている。そして以下に述べるとおり、少なくとも現時点においては、外貌醜状に関して類型的に見て女子が受ける精神的苦痛が男子のそれに比較して大であるという社会通念が依然として存在しているとは認められないというべきである。
  したがって、外貌醜状の障害認定に関し、男女間で区別を設ける障害等級表の定めは、その目的において合理性を欠くものであり、憲法第14条1項後段に違反するものである。
3  社会通念の変化
  下記のとおり、今日においては、各障害等級表制定当時の社会通念そのものが大きく変化している。
(1)  障害等級表の沿革
  現行の労災障害等級表の前身となったのは、現在の労働基準法(昭和22年法律第49号)の母体である工場法(法律第42号、明治44年制定)施行令(勅令第193号)第7条が、昭和11年に改正された際に新設された「別表」である(昭和11年勅令447号)。そこでは、現行の障害等級表と同様、外貌醜状に関して男女格差が設けられていた。
  戦後、憲法をはじめ諸法制の改正が行われ、昭和22年、労働基準法が制定され、同法8章に「災害補償」の規定を設けるともに、その実施を確保するため、労災保険法が制定され、同年4月7日に公布、同年9月1日に施行された。労災の障害等級表については、前記工場法にならい労災保険法施行規則別表が作成されたが、醜状に関する規定は、工場法と相違はなかった。その後、労災障害等級表自体は、幾度か改正された経緯があるが、醜状に関しては、昭和22年に制定された当時のままなのである。
  前記のとおり、労災障害等級表が制定された当時であれば、前近代的な価値観から、女性の方が男性に比して醜状障害により受ける精神的苦痛が大きいという社会通念が存在したとして、これを合理的な目的に基づく区別であるとすることも可能であったかもしれない。
  しかしながら、現代社会においては、産業構造の変化によりサービス業への就業が増加しており、男性においても、営業、販売活動、顧客対応等の接客において、外貌を含めた社会的評価が重視される場面が著しく増加している。したがって、男性も女性と同様に外貌醜状によって受ける精神的苦痛や労働能力に及ぼす影響は大きいというように社会通念が変遷していると認められ、制定当時には存在したかもしれない合理性を基礎づける事情は、既に失われているというべきである。
(2)  交通事故裁判例の変遷
  昭和30年7月29日に公布された自動車損害賠償保障法施行令の後遺障害等級表(別表第二)は、労災障害等級表を参考に定められたものであり、外貌醜状障害につき同様の男女格差が設けられている。
  しかしながら、交通事故裁判においては、特に平成年間に入ってから、男性であっても、醜状の箇所や内容、職業や年齢、婚姻の有無等の個別具体的な事情により相応の損害が発生することを考慮し、外貌醜状についても、積極的に労働能力喪失ないし後遺障害慰謝料の加算事由として考慮して配慮することにより、女性と同様の保障を与え、差別を解消する努力をしている裁判例が現れている。交通事故専門部である東京地方裁判所第27民事部においても、2000年代の初めから、交通事故の後遺障害における外貌醜状に対して男女間に一律に差異を設けることへの疑問を呈し、同部においては、男女を一律に異なる取扱いをすることを解消する方向にあることを表明していることが認められる。
  したがって、裁判所の取り扱いにおいても、男女を一律に異なる取扱いとすることに対しては、実質的にみて合理的な理由がないという運用をされつつある。
(3)  労働法制の変遷
  政府は、昭和60年、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律(以下「均等法」という)を制定し、以後、現実の労働関係においてみられる様々な男女差別の解消を図る法改正が行われてきた。
  平成9年の第1次均等法改正では、女性の労働者の地位向上という片面的な目的が、男女の機会均等という目的へ修正され、さらに、平成18年の第2次均等法改正では、「女性差別」から「男女双方の性差別禁止」へと、より普遍的な目的の実現が掲げられるようになったのである。
  上記の様な労働法制の変遷の中で、当然、外貌醜状障害に関する規定も見直され、改正がなされるべきであった。ところが、同規定は、改正の俎上にあがることなく放置されているのである。外貌醜状に関する障害認定手続きにおいても、性差別の禁止の目的に沿った法令整備がなされるべきである。
4  結論
  以上のとおり、少なくとも現時点においては、障害等級表において男女を一律に区別して取り扱うことは、目的及び手段のいずれも合理性が失われていることが認められる。
  にもかかわらず、未だ前近代的な外貌醜状に関する規定が改正されないまま、現在でも労働災害及び交通事故における障害等級の基準として使用されていることは、憲法第14条1項の趣旨を没却するものであり、極めて不適切といわなければならない。また、社会生活においては、性別に関わりなく外貌の醜状は多大な精神的苦痛をもたらすものであり、男性にも女性と同様の保障を与えるべきであるといえる。
  したがって、障害等級表の男女の差別的取り扱いには合理的な理由のない差別に該当するから、速やかに男性の等級を現行の女性と同様の等級に引き上げるよう、改正されるべきである。
以    上


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