「改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明」(2009年10月29日)


  2005年一年間における,経済・生活苦による自殺者が年間約7000人に達し,自己破産者も18万人を越え,多重債務者が200万人を越えるなどの深刻な多重債務問題を解決するため,2006年12月,与野党全会一致で,改正貸金業法が成立した。同法は段階的な施行を重ね,後は改正の目玉となる「出資法の上限金利の引下げ」,「収入の3分の1を越える過剰貸付契約の禁止(総量規制)」等の施行を残すのみとなった。
  政府は改正貸金業法の成立を受け,多重債務者対策本部を設置し,同本部は(1)多重債務相談窓口の拡充,(2)セーフティネット貸付の充実,(3)ヤミ金融の撲滅,(4)金融経済教育を柱とする多重債務問題改善プログラムを策定した。当会においてもこれを受け,京都府及び京都市などと連携し,無料相談窓口の大幅な拡充等,積極的に多重債務問題に取り組んできたところである。このように官民が連携して多重債務問題に取り組んできたことも一因となって,2008年の自己破産者数は13万人弱にまで減少した。京都地方裁判所における破産申立件数も,2005年には約3500件超であったものが,2008年には,約2500件まで減少した。このように,現在,京都府下における多重債務問題は一定の改善がなされつつあるといえる。
  しかし、現在も、未だ潜在的には多くの多重債務者が存在していることもまた疑いのない事実であって、多重債務問題を抜本的に解決するためのもっとも重要な柱が、冒頭に述べた「出資法の上限金利の引下げ」,「収入の3分の1を越える過剰貸付契約の禁止(総量規制)」を含めた改正貸金業法の完全施行であることは疑いを入れないところであり、改正貸金業法は確実に早期に完全施行されなければならない。
  ところが,改正貸金業法の完全施行を目前に控えた今,一部から改正貸金業法の完全施行の延期,金利規制・総量規制の緩和を求めるべきであるという論者が出てきている。こうした論者はその根拠として,消費者金融の成約率が低下しており,借りたい人が借りられなくなっていること,特に昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより,資金調達が制限された中小企業者の倒産が増加していること,ヤミ金融被害の増加を招くこと等を挙げる。
  しかしながら,改正貸金業法の完全施行の延期,金利規制・総量規制の緩和をすることは,一定の成果を上げてきたこれまでの流れに逆行するものであって、上記資金需要の問題については,高利の貸金業者による融資ではなく、相談窓口・セーフティネット貸付の充実等によって,ヤミ金融被害増加の問題についてはヤミ金融の摘発強化によって十分に対応可能であるから、これらの点を理由として、改正貸金業法の実施を延期する理由とはならないというべきである。
  そこで,当会は政府に対し,以下の施策の実現を強く求める。

1.改正貸金業法を,早期(遅くとも本年12月まで)に完全施行すること。
2.自治体での多重債務相談体制の整備のため,相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど,相談窓口の充実を支援すること。
3.個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4.ヤミ金融を徹底的に摘発すること。

以上


2009年(平成21年)10月29日
京都弁護士会                  

会  長    村  井  豊  明


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