「民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明」(2010年2月16日)


  選択的夫婦別姓制度等を盛り込んだ民法(家族法)改正案は,1996年(平成8年)に法制審議会において決定され,法務大臣に答申されているにもかかわらず,現在に至るも法律改正が実現していない。しかし,家族法部分に関する民法改正はいまや喫緊の課題である。
  現在の夫婦同姓制度のもと,改姓を余儀なくされる者は,職業上・社会生活上様々な不利益を被っているが,婚姻に際し96%の夫婦が夫の氏を選んでいることからすれば,そのほとんどは女性である。こうした現状は,女性の社会進出が進む中,真の両性の平等と男女共同参画社会を実現する上で早急に解決されなければならない。婚姻後も自己のアイデンティティとしての氏を継続して使用する権利の尊重は,氏名が人格権の一内容を構成する(最高裁第三小法廷昭和63年2月16日判決  民集第42巻2号27頁)ことに鑑みて憲法13条の趣旨に合致するとともに,夫婦が同等の権利を有することを基本とすると定める憲法24条の趣旨にも合致する。
  加えて,2006年(平成18年)に内閣府が行った調査の結果によれば,60歳未満の年齢層では男女を問わず選択的夫婦別姓の導入に賛成する者が反対する者を上回っており,選択的夫婦別姓制度の導入については社会的な合意形成がなされていると認められる。
  また,民法733条1項は,「女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない」として女性にのみ再婚禁止期間を設けているが,再婚禁止期間の立法趣旨は,単に父性の推定の衝突を避けることにあると解されるところ,科学技術の発達が目覚しい今日においては父性の確認は比較的容易であって,その立法事実はもはや失われたというべきである。その意味で,前記法制審議会の答申において100日という期間で再婚禁止期間を維持していることは相当とは解されず,再婚禁止期間の規定は早期に撤廃されるべきであり,離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定するという現行民法772条2項の規定も同様に撤廃されるべきである。
  この点,日本における民法(家族法)改正の遅れは,度々国連においても問題視されている。特に女性差別撤廃委員会は,2009年(平成21年)8月7日,条約の履行に関する第6回政府報告書に対する最終見解において,繰り返し指摘してきたこの問題に関し,「前回の最終見解における勧告にもかかわらず,民法における婚姻適齢,離婚後の女性の再婚禁止期間,及び夫婦の氏の選択に関する差別的な法規定が撤廃されていないことについて懸念を有する。委員会は,締約国が,差別的法規定の撤廃が進んでいないことを説明するために世論調査を用いていることを懸念をもって留意する。」との見解を発表している。
  政府としても,千葉景子法務大臣は,選択的夫婦別姓制度等を導入する民法改正案を2010年の通常国会へ提出することを目指すと明言しており,もはや,民法(家族法)改正を実現する機は十分に熟したといえる。
  よって,当会としては,選択的夫婦別姓制度の導入及び再婚禁止期間の撤廃を中心とする民法(家族法)の改正案が,国会において早期に審議され,速やかに可決成立されることを強く求める。

2010年(平成22年)2月16日      


京  都  弁  護  士  会                      

会  長    村  井  豊  明
    

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