「労働者派遣法の抜本改正を求める会長声明」(2010年2月16日)


  2009年12月28日、労働政策審議会が今後の労働者派遣制度の在り方についての「答申」を出し、今後は、法案の策定、国会への上程、国会審議と手続きが進められる。派遣労働法の改正は緊急の重要課題である。当会は、2008年11月25日、日雇い派遣の禁止、登録型派遣の禁止、マージン率の上限規制、派遣先の直接雇用みなし規定の明示、事前面接の禁止などを求めた「労働者派遣法の『改正』案に反対し、抜本的改正を求める会長声明」を発表し、政府や国会に対して、早期抜本改正を強く求めてきたところである。  
  答申の内容は、登録型派遣や製造業派遣の原則禁止、違法な派遣についての直接雇用申込みのみなし規定の創設など、派遣労働者保護の観点からの規制強化を求めている。しかしながら、答申の内容では、以下のとおり、派遣労働者の劣悪な労働条件を解消するには不十分である。
  派遣法が間接雇用を放任したために、派遣元と派遣先の間で使用者責任が不明確となり、労働者の地位が著しく不安定となっている。また、労働者派遣は、同一の職場で労働する直接雇用労働者との間に大きな労働条件格差が生じ、労働者の団結も困難となるなどの構造的問題を抱えている。派遣労働は、究極の不安定雇用である「日雇い派遣」を生み出し、「偽装請負」など企業が違法行為を組織的に行う温床となってきた。そして、一昨年秋から始まった経済不況に端を発したいわゆる「派遣切り」により、派遣労働者の大量失業が深刻な社会問題となり、雇用と住まいを喪失した派遣労働者が各地で多数生まれた。
  当会は、こうした事態を繰り返さないために派遣法の抜本改正が早期に実現されることを願い、政府及び国会に対し、今後の法案作成過程において上記答申の問題点が是正されるよう以下の内容を求めるものである。

1  労働は使用者の責任が明確な直接雇用を原則とすべきであり、派遣労働は例外とすべきである。派遣対象業種は専門的なものに限定すべきであり、現行専門26業務についても厳格な見直しをすべきである。
    答申は、「常用雇用」以外の労働者派遣を原則禁止するとし、「常用雇用」については例外としたが、「常用雇用」が何を意味するのか曖昧である。仮に「常用雇用」を例外として認めるのであれば、派遣労働者保護の観点から「常用雇用」ではなく「期間の定めなき雇用」と明確に規定すべきである。
2  登録型派遣は仕事のあるときだけ賃金が支払われるというきわめて不合理な制度である。答申は、現行専門26業務などについて例外としているが、全面的に禁止すべきである。
3  比較的単純な作業が中心である製造現場は直接雇用によって賄われるべきであり、若年者のワーキングプアの温床となった製造業務派遣については全面禁止すべきである。
    答申は、製造業派遣について「常用雇用」の労働者については例外とすべきとするが、全面禁止すべきである。
4  日雇い派遣は究極の不安定雇用であり、その弊害はあまりに大きい。日雇い派遣について全面禁止とすべきである。
    答申は、一定の例外を認める立場であるが、全面禁止とすべきである。
5  派遣先が派遣元に支払う派遣料金と派遣元が派遣労働者に支払う賃金との間に大きな開きがある現状においては、マージン率についての情報提供にとどまらず、法律によってマージン率の上限を規制すべきである。
    答申は、マージン率などの情報公開を規定するにとどまっているが、マージン率については上限を規制すべきである。
6  違法派遣の場合には広く派遣先との直接雇用を認めるべきであり、直接雇用のみなし規定の対象を狭く限定すべきではない。
    答申は、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす場合を狭く限定しているが、より広く対象とすべきである。また答申は、新たな派遣先との労働契約について「派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする」とだけ規定しているが、直接雇用みなし規定は、派遣労働者の雇用継続の保護が十分に図られるように規定すべきである。
7  労働者の採用に派遣先が関与することは、労働者派遣法の構造に反するものである。
    答申は、前回の答申内容を維持し、期間を定めないで雇用される派遣労働者について、派遣先による特定行為を解禁するとしているが、派遣先の事前面接などの特定行為は禁止すべきである。
8  労働者派遣法の施行は派遣労働者保護の観点から早期に実施すべきである。
    答申は、改正法の施行時期を6か月以内としながら「登録型派遣の原則禁止」、「製造業派遣の原則禁止」については3年以内、さらに登録型派遣については施行日から2年間は暫定措置として適用するとしている。
    これでは、現実に悲惨な状況におかれている派遣労働者の保護に役に立たない。施行については、速やかに実施すべきである。

  2010年(平成22年)2月16日

京都弁護士会                

会長  村  井  豊  明


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