「国選付添人対象事件の拡大を求める会長声明」(2010年2月16日)


1.わが国の少年審判手続において、弁護士は、「付添人」という立場で、少年の権利擁護や立ち直りを支援する活動を行っている。非行少年たちの多くは、取りまく環境に恵まれず、信頼できる大人に出会えないまま、審判を受ける状況に陥っている。そのような少年を受容・理解したうえで、少年審判において、少年に寄り添って援助・支援を行う弁護士付添人の存在は、少年の更生にとって極めて重要である。
    わが国が批准している子どもの権利条約第37条(d)が、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するものと規定していること、憲法13条、31条及び34条等に照らせば、少なくとも身体拘束を受けた少年には、必ず弁護士による適切な法的援助を受ける権利が保障されなければならない。しかしながら、多くの場合、少年には弁護士付添人の費用を負担するだけの資力はなく、保護者からの費用支出も容易には得られないため、国費により弁護士付添人を付する制度がなければ、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利は、実質的に保障されることにならない。
2.しかし、現状の国選付添人制度は、検察官関与事件、被害者等から審判傍聴の申出があった事件を除けば、対象事件が殺人や強盗等の重大事件に限られ、かつ、選任するか否かは、原則として裁判所の裁量に委ねられており、極めて限定的な制度に過ぎない。
    現状において、少年審判手続における弁護士付添人の選任率は約8.5%にすぎず、少年鑑別所に収容されて審判を受ける少年についてさえ約40%に過ぎない。成人の被告人の約98%に弁護人が選任されていることに比べ、余りにも低率な状況であり、かかる状況を生じさせている原因の1つが、国選付添人制度の対象事件が極めて限定的なものとなっているという点にあることは、明らかである。
    平成21年5月21日以降、被疑者国選弁護制度の対象が、窃盗や傷害等のいわゆる必要的弁護事件にまで拡大された。これにより、被疑者段階では、少年も広く国選弁護人による援助を受けられるようになった。しかし、被疑者国選弁護制度と国選付添人制度の対象範囲に大きなギャップがあるために、被疑者段階で国選弁護人がついた少年であってもその大多数は、家庭裁判所送致後は、国選付添人による援助を受けられないという制度的な矛盾が生じている。
    こうした問題状況を受け、日本弁護士連合会は、時限的な措置として、全会員が拠出する特別会費に基づく特別基金を設置し、国選付添人制度の対象とならない事件の少年・保護者に対して弁護士費用を援助する少年保護事件付添援助制度を実施している。当会でも、観護措置決定により身体を拘束された少年の事件全件を対象に当番付添人制度を発足させ、実際に、少年保護事件付添援助制度を利用して、多くの会員が少年審判手続において、少年の権利を擁護し、立ち直りを支援する活動を行っている。
3.以上のとおり、弁護士付添人による援助の重要性及び成人の被告人については既にかなりの広範囲で国費によって弁護人が選任されている状況にあることに鑑みれば、少年の弁護士付添人を選任できる権利を保障する制度の維持は、本来、国費によってまかなわれるべきである。国による少年への法的援助の保障が、成人に対するよりも不十分である現状は、一刻も早く改善されなければならない。特に、観護措置決定により身体を拘束された少年については、類型的に見て要保護性が高い少年が多く、社会内の資源の活用と環境の調整を行うためには事件の軽重を問わず付添人の援助が必要不可欠であり、また、保護処分としても少年院送致等の重大な処分を受ける可能性が高いことから、国選付添人による権利擁護の措置を早急に整えなくてはならない。
    よって、当会は、国に対し、国選付添人の対象事件を、少なくとも観護措置決定により身体を拘束された少年の事件全件にまで拡大する少年法の改正を、速やかに行うよう求める。

2010年(平成22年)2月16日      


京  都  弁  護  士  会                      

会  長    村  井  豊  明
    

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