民法の「非嫡出子」相続差別の速やかな撤廃を求める会長声明(2010年3月25日)


1  民法は、子を「嫡出である子」(以下「嫡出子」という)と「嫡出でない子」(以下「非嫡出子」という)とに区別し、「非嫡出子」の相続分を「嫡出子」の2分の1としている(民法900条4号ただし書前段  以下「本規定」という)。    
しかし、本規定は個人の尊厳を定めた憲法13条、法の前の平等を定めた憲法14条1項、及び相続法制においても個人の尊厳に立脚しなければならないとする憲法24条2項の規定に反するので、直ちに廃止すべきである。本規定は、本来相続財産の帰属に関する条項ではあるが、その社会的影響力はそれに留まらない。本規定は、子は「嫡出子」と「非嫡出子」に分けられる、「非嫡出子」は「嫡出子」に劣る、という差別意識を人々に植え付けるとともに、「非嫡出子」とされた人の心情を害するばかりでなく、実態としても「非嫡出子」とされるが故の差別事例を生じさせている。

2  しかるに、最高裁判所第二小法廷は2009年9月30日、「民法900条4号ただし書前段の規定は憲法14条1項に違反しない」とする決定(以下「本件決定」という)を言い渡した。その理由とするところは、まず、民法の法律婚、重婚禁止、一夫一婦制主義、国民感情などに言及し、民法が法律婚主義を採用している以上、法律婚から生まれた子を優遇することは不合理な差別ではないとのことである。しかし,これは出生について何の責任もない子についてその出生を根拠に優劣を付けるものであって、不当な見解と言わざるを得ない。また、最高裁は、本規定を合憲とする理由の一つに、本規定は被相続人の遺言が無い場合の補充的なものに過ぎない、ということを挙げている。しかし、子を平等に扱おうとすればわざわざ遺言を残さなければならず、それをしなければ「非嫡出子」が差別されるという構造は、原則が差別、例外が平等というものであり、国民を律する法規範として極めて問題である。民法が敢えて子の相続分に優劣を付ける合理的な理由は無いというべきである。

3  この点、「準正子」と「非準正子」とで国籍取得の取り扱いを異にする国籍法の規定を違憲と判断した2008年6月4日の最高裁大法廷判決においては、「我が国における社会的、経済的環境等の変化に伴って、夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており、今日では、出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど、家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。」との指摘がなされている。かように婚姻や家族に関する国民感情は現在多様化しており、法律婚の有無により子どもを一律に区別すべき合理性はなく、本規定の合理性を基礎づける事実は既に失われているのである。
本件決定においても、今井功裁判官は、上記2008年6月の国籍法違憲判決の判断が本件のような相続分の差別にも妥当し、民法900条4号ただし書前段の規定が違憲である旨の反対意見を述べている。同様に、多数意見であった竹内行夫裁判官も、判決日現在においては「違憲の疑いが極めて強い」旨の補足意見を述べていることも留意されるべきである。

4  また、「嫡出子」と「非嫡出子」の相続分を平等に扱うことは世界的な趨勢である。欧米においては、1960年代以降「嫡出子」と「非嫡出子」の相続分を同等とする法改正が行われている。
国際法においても、女性差別撤廃条約16条1項(d)は、子に関する事項についての親(婚姻をしているかいなかを問わない。)としての同一の権利及び責任を定めている。国連の女性差別撤廃委員会でも、同条約の履行に関する日本国政府の第6回報告書に対する見解として、2009年8月7日、「前回勧告にかかわらず、非嫡出子が依然差別を受けていることについて懸念」が示され、「嫡出でない子とその母親に対する民法及び戸籍法の差別的規定を撤廃するよう締約国に要請する」との意見が明らかにされている。同様の勧告は、自由権規約委員会、子どもの権利委員会からもなされている。

5  加えて、「非嫡出子」の相続分を「嫡出子」と同一とする民法(家族法)改正案は、1996年に法制審議会において決定され、法務大臣に答申されているにもかかわらず、現在に至るも法律改正が実現していない。しかし、家族法部分に関する民法改正はいまや喫緊の課題である。

6  以上のとおり、本規定は憲法や国際法に違反しており、本規定を合憲とした最高裁判所の本件決定は誤りと言わざるを得ない。当会は内閣及び国会に対し、本規定を廃止する民法(家族法)改正法案を早期に上程し、速やかに可決成立させることを強く求める。

    2010年(平成22年)3月25日
                                                                                                                                                  京都弁護士会

会  長    村  井  豊  明



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