「有事法制」法案の今国会上程に反対する決議(2002年4月1日)



政府は,「有事法制」法案を今国会に上程しようとしている。同法案は,「有事等事態」において,自衛隊および駐留米軍の円滑な行動を確保することを内容とする。

  ところで,現行の周辺事態安全確保法においては,国は,地方公共団体や民間に対しては空港や港湾・病院などの使用,物資の供出などについての協力を求めうるにとどまる。
また,防衛出動時の病院などの管理,土地・家屋・物資の使用,業者への物資の保管命令,収用を定める自衛隊法103条や,電気通信設備の利用等を定める同法104条には,違反の場合に備えた罰則規定がない。新聞報道によると,今回の「有事法制」法案では,これら条項を効率的・効果的に実施するための関係法令の改正がなされ,実施規定には刑罰等による制裁措置を伴うことが予測されている。

  実際に国会に上程される法案が上に述べたような内容を含むものであるとするならば,この法案は,国民の財産権を保障する憲法29条,奴隷的拘束を禁止し意に反する苦役からの自由を保障する同18条,思想及び良心の自由を保障する同19条に抵触し,国民の基本的人権を制限・規制するものになるおそれがある。また,同時にこの法案は,憲法の平和主義の原則,憲法9条に反するおそれがあり,政府の対処如何によっては,他国が引き起こした武力紛争にわが国が巻き込まれることが懸念される。このように,同法案は,我が国の有事法制の方向を大きく変更・決定づけ,わが国の基本的進路を左右しかねない重要法案であって,その制定について国民の中で賛否が大きく分かれることは必至である。

  そもそも,かかる国論を二分するような重要法案については,政府は,国会上程に先立ち,主権者である国民一人ひとりが同法案の内容と必要性を慎重に見極めることができるよう法案の具体的内容を示して,広く国民的論議を尽くし,その意見を踏まえて法案の内容を確定し,国会審議にはかるべきものである。しかしながら,政府は,このような国民の権利・自由及び憲法の平和主義の原則に重大な影響を与える法案について,ようやく2002年3月20日になってその概要のみを与党の「安全保障に関するプロジェクトチーム」に示したにすぎない。同法案の具体的内容は,未だ国民に開示されたとは到底言えず,このままでは国民がその内容および必要性について慎重に検討して意見を述べる機会が保障されたとは言い難い。しかも,政府答弁でも認めているように、わが国をとりまく状況の中に相当の期間をかけて国民的議論をおこなうことを妨げるような「有事等事態」を見いだし予想することは困難である。このような状況の下で,政府が今「有事法制」法案を今国会に上程することは,国民主権に基づく民主的手続を尽くしておらず,その重要性に鑑みるなら極めて性急・拙速であると言わざるをえない。

  よって,当会は,政府が「有事法制」法案を今国会に上程することに反対する。

2002年(平成14年)4月1日

京都弁護士会

会  長    田  畑  佑  晃


関連情報