決議

市民の司法の実現と弁護士任官を推進し、弁護士費用の敗訴者負担制度の導入に反対する総会決議(2001年5月29日)




  1. はじめに

    司法制度改革審議会は、本年6月12日にも最終意見を確定し、発表する予定であるが、このほど、その原案が明らかにされた。当会は、今回の改革の主要な課題が、「大きな司法」の実現と「市民の司法」への転換にあることを指摘し、法曹一元・陪審制度の実現や、裁判官数の大幅増員などを訴えてきた。また、適正な刑事司法の実現のために、代用監獄の廃止、人質司法の改革等を強く求めてきた。さらに、弁護士報酬の敗訴者負担制度については、それが市民の裁判を受ける権利の剥奪に繋がるものとして、導入すべきではないことを訴えてきた。

  2. 法曹一元と陪審制度の実現

    「市民の司法」の実現には、裁判官の官僚制・キャリア制を改革し、法曹一元制度を導入することが不可欠であり、また裁判への市民参加を進めるため陪審制度の実現が不可欠である。
    最終意見は、裁判官制度の改革について、改革の要というべき判事補制度の廃止に踏み込んでおらず、また法曹一元そのものの採用には至っておらず、極めて遺憾というしかない。しかしながら、裁判官制度の改革の方向として、法曹一元の理念を体現しており、今後、法曹一元に繋がる可能性を持っている。当会は、引き続き法曹一元の実現を求め続けるところであるが、今度の改革の方向に示されている諸点を実現することができるかどうかが、今後の大きな課題となっていることは否定できない。
    裁判への市民参加については、「裁判員制度」の導入が提案された。戦後、初めて裁判に市民参加の道を開いたものとして画期的とも言えるが、その制度設計は、限りなく「参審制」に近い。当会は、あるべき市民参加の形態として、今後とも陪審制度の実現を求めていくところであるが、裁判員制度の下でも、少しでも陪審制度の理念が実現できるよう、裁判員の数が裁判官の数を大幅に上回ることや一定の事件に独立評決権を付与することなど制度設計に一層の工夫をするとともに、今後市民が関与する事件を拡げていくことなどを求めるものである。

  3. 裁判官の大幅増員

    「大きな司法」については、法曹養成制度を見直し、法科大学院を立ち上げることを通して、法曹人口の飛躍的増加を図ることが打ち出されている。この「大きな司法」の要には、「裁判官の大幅増員の実現」が位置していることは言うまでもない。しかし、今回の最終意見の原案では、現状では向後10年間に500名程度の増員が必要とする最高裁判所の提案を参考として掲げるのみで具体的な数を打ち出していない。2018年には、法曹人口全体を5万人とすることを目標とし、検察官については1000名規模の増員が参考数値とされていることと比較すれば、もっと大幅かつ明確な増員目標を明らかにすべきである。審理期間の短縮や計画審理の推進が企図されており、「拙速審理」、「手抜き審理」にしないためにも大幅な増加が必要とされる。さらに大規模な改革の断行により事件の大幅な増加が予想され、それに見合う裁判官の計画的増加の方針化は、不可欠である。

  4. 司法改革の実現と弁護士任官の推進

    このような国民のための真の司法改革は、国を挙げて実現を期すべきもので、司法予算の抜本的拡充が、強く求められることは言うまでもない。また、裁判官制度や裁判制度の改革のためには、何よりも裁判所自らが、改革の課題を真摯に受け止め、それをやりきる姿勢を貫くことが問われている。
    さらに、この改革を推し進めるために、弁護士会が果たすべき役割も極めて大きなものがあることは言うまでもないが、中でも改めて弁護士任官の意義を見直し、その推進を図ることが求められている。裁判官の大幅増員は、本来廃止の対象であるべき「判事補」を、増員させることによってまかなうべきものではなく、大量の弁護士任官を通して実現されるべきものであるからであり、法曹一元を切り開くためにも、弁護士任官の推進は重要な意義を有する課題であるからである。
    もとより、弁護士任官の推進については、それを妨げる要因を除去することが必要であり、司法官僚制の下で裁判官の独立の保障がないがしろにされている状況を改革し、自由と独立が確保され、本人の意思や意欲を尊重した人事がなされるなどの制度的保障と裁判所の積極的な受け入れ体制の整備が不可欠であることは、改めて指摘するまでもないところである。
    同時に、弁護士任官を法曹一元に繋げていくには、法曹人口が増加し、様々な価値観を持つ者が多数法曹として存在し、その中から適格者が裁判官になっていくシステムの構築も必要である。
    当会は、今次改革の課題の中に弁護士任官の意義を積極的に位置付け、この課題実現のため、弁護士任官の条件整備のための取り組みを一層推進するとともに、日弁連や全国の単位会とともに、弁護士任官の推進のため努力していく決意である。

  5. 絶対に容認できない弁護士費用の敗訴者負担制度の導入

    当会は、今回の改革の中で、明らかに「改悪」になるものとして弁護士費用の敗訴者負担の問題点を指摘し、この制度の導入に強く反対する姿勢を明らかにしてきた。これは多くの国民の声として審議会に寄せられたが、審議会は、こうした世論を無視し、最終意見の原案においても、中間報告で示した「原則導入」の考え方を変えていない。弁護士費用の敗訴者負担制度が、訴えの提起に対して大きな萎縮効果を及ぼすことは論を待たないことであり、この制度の導入は、市民の裁判所へのアクセスを阻害し、市民のための司法に明らかに逆行するものである。このような弊害の多い制度が「改革」の名のもとに導入されることのないよう、強く求めるものである。

  6. 適正な刑事司法の実現

    刑事裁判の実状は、代用監獄を利用した密室捜査による自白調書、否認していると保釈されない人質司法、捜査機関の調書が偏重される調書裁判などの問題点があることが指摘されてきた。当会は、こうした刑事司法の問題を改革するためには、代用監獄の廃止、身柄拘束の抑制、捜査機関における取調べ状況の可視化、検察官手持ち証拠の全面開示などを提起してきた。しかし、最終意見の原案では、取調べ状況の可視化については一定の理解を示しているものの、その他の点については極めて消極的である。これらの刑事改革は国際人権水準からも、また憲法の保障する適正手続の要請からも早急に実現されるよう、強く求めるものである。

    以上のとおり決議する。
    2001年(平成13年)5月29日

    京  都  弁  護  士  会


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