死刑執行に関する会長声明(2010年8月26日)


1  2010年7月28日、東京拘置所において2名の死刑確定者に対する死刑が執行された。死刑が執行されたのは2009年7月28日以来1年ぶりである。当会は、今回の執行がなされたことに対し、強く抗議するものである。

2  日本では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。密室での取調べによる自白調書の信用性を認めた判決の問題点が指摘されている。そして、現在に至るも、このような誤判が生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善が図られているとは言い難く、誤判の危険性が払拭されないままである。
  また、死刑と無期懲役の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる例があり、死刑についての明確な基準が存在しない状況にある。
  さらに、死刑確定者に対しては、外部交通が厳しく制限されているため、いったん誤った裁判によって死刑判決が確定した場合、その救済は極めて困難となっており、そのまま死刑が執行されるおそれを否定できない。

3  1989年、国連で国際人権(自由権)規約第二選択議定書(死刑廃止条約)が採択され、EU加盟国はすべて死刑を廃止し、死刑廃止国が139か国に対して死刑存置国は58か国(2010年7月現在)となっており、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
  日本は、2006年に発足した国連人権理事会の初代理事国となっているが、2008年5月、同理事会は、日本に対し、死刑執行を停止するよう勧告している。また、同年10月には、国連に事務局を置く「市民的・政治的権利に関する国際規約」委員会が日本に対し、死刑制度の撤廃を検討することを求める勧告を出している。
    かかる国際社会からの要請に対し、今、日本に求められていることは、死刑制度の存廃について早急に広範な議論を行うことである。

4  日本弁護士連合会は、死刑制度の存廃につき議論を尽くし、死刑制度に関する検討及び改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
さらに、2009年5月から裁判員裁判制度が実施され、死刑制度とその運用に関し、市民に死刑を選択させることの是非について社会的関心も高まっている。そのため、死刑制度の存廃について議論が尽くされるべきである。

5  当会は、死刑を取り巻く状況が以上のようなものであるにもかかわらず、死刑制度についての議論が尽くされないまま、死刑執行が繰り返されていることに厳重に抗議するとともに、改めて、死刑制度の存廃を含む議論が尽くされるまでの一定期間、死刑執行の停止を要請するものである。

2010(平成22)年8月26日

                                                                                                          

京  都  弁  護  士  会

会  長    安  保  嘉  博

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