意見書

京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例の改正案に関する要望書


2010年(平成22年)8月26日


京都市長  門  川  大  作    殿

                                                                                                          
京  都  弁  護  士  会

会  長    安  保  嘉  博


要  望  書


  当会は、貴市において検討されている、家庭から出された「缶・びん・ペットボトル」及び「大型ごみ」の持去りを禁止する旨の京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例の改正案(以下、「本件条例改正案」という。)につき、以下のとおり、要望する。

第1  要望の趣旨
  ホームレスの人々が抱えている具体的な就労阻害要因を踏まえた代替の就労機会が提供されていない現状において、アルミ缶等の一律の持ち去り禁止は時期尚早であるといわざるを得ない。ホームレスの人々に対する聞き取りなど十分な実態調査を行い、ホームレスの人々に与える影響を検討したうえで、規制の時期や方法等について慎重に検討されたい。とりわけ、行政罰や刑事罰の制定については、特に慎重な配慮をされたい。

第2  要望の理由
1  ホームレスの人々の多くは、これまでに社会的な排除を受けて、現在の生活に追い込まれ、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を下回る生活を強いられている。近年、ホームレスの人々の中に知的機能に障がいを抱えていたり、精神疾患を抱えていたりする人たちが相当数存在することが指摘され、厚生労働省が実施している全国調査では、ホームレスの人々の野宿期間の長期化と高齢化の傾向が現れている。これらは、我が国の労働政策や社会保障施策の不備によって社会的弱者がホームレスに追い込まれ、あるいは、ホームレスを継続せざるを得なくなっていることの現れである。

2  ホームレスの人々の野宿期間が長期化してきた背景には、生活保護の誤った行政運用がある。生活保護法は、居宅保護を原則としており、施設保護としての入所や入院による保護は例外にすぎない(同法第30条1項)。また、住居を有しない場合であっても、その現在地において保護の対象として予定している(同法第19条1項2号、第73条1項)。生活保護法の正しい運用に従えば、ホームレスの人々についても、要保護性が認められる限り、居宅保護を原則とした生活保護が開始されなければならない。ところが、これまで、貴市を含めた行政は、ホームレスの人々に対して、住居がないことや稼働能力があることをもって、生活保護を開始することを拒否したり、違法な適用の制限を行ったりしてきたのである。

3  このような背景の下、アルミ缶等の廃品回収は、ホームレスの人々が生存を保持するために不可欠な労働の場となっている。ホームレスの人々の中には、行政職員から侮辱的な扱いを受けた経験を持ち、行政に対して強い不信感を抱いている人たちが多数存在する。また、過酷な日雇い労働で搾取され、身体や精神に障がいを抱えた人たちもいる。そのような人たちにとって、アルミ缶等の廃品を回収して換金する営みは、日々の生活を生き抜くために必要不可欠な労働の場となっている。実際、2007年1月に実施された調査によれば、京都市のホームレスの人々のうち53.7%が収入のある仕事をし、そのうち84.1%の人たちが「廃品回収」を行っているのである。

4  ホームレスの人々の就労については、行政に支援策を講ずべき責務がある。「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」は、「自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在」することに鑑み、ホームレスの自立を支援するために、その人権に配慮しつつ、必要な施策を講ずることなどを定めている(同法1条)。また、同法は、自立の支援のための施策が総合的に推進されるべきことを定め(同法3条1項)、地方公共団体がその施策の策定と実施の責務を負うとしている(同法6条)。そして、自立支援法に基づいて国が策定した「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(平成20年7月31日厚生労働省・国土交通省告示第1号)は、「就業による自立の意思があるホームレスに対して、国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等を行っている民間団体との連携を図り、求人の確保や職業相談の実施、職業能力開発の支援等を行うとともに、地域の実情に応じた施策を講じていくことが必要である」と規定したうえで、常用雇用による自立が直ちには困難なホームレスに対して、雑誌回収やアルミ缶回収等の都市雑業的な職種の開拓や情報収集・情報提供を行うべきことを明記しているのである(第3−2(1)キ)。ところが、実際には、都市雑業的な職種の開拓や情報収集・情報提供はなされず、アルミ缶回収等の廃品回収がホームレスの人々の自発的な活動に委ねられてきたのである。

5  貴市においても、遺憾ながら、地方公共団体として前記の都市雑業的な職種の開拓等の責務を果たしてきたとは言い難い。本件条例改正案によってホームレスの人々の廃品回収をも規制するのであれば、行政の責務を放棄してホームレスの人々の生存を脅かす結果になると言わざるを得ない。ホームレスの人々が行ってきた廃品回収を、何ら代替策を講じることなく規制するのであれば、これまでアルミ缶等の廃品回収によってかろうじて生活の糧を得てきたホームレスの人々がたちまち困窮状態に陥ることは明らかである。現状でも「健康で文化的な最低限度の生活」を下回る生活に陥っている人々を更なる困窮状態に追い込めば、生命が侵害される危険性は極めて高い。仮に一部の悪質業者が大量のごみの持ち去りを行っている実態があるとしても、このような危険性を除去することなく、アルミ缶等の一律の持ち去りを禁止することは正当化され得ない。

6  以上のように、ホームレスの人々に対する配慮を欠いた本件条例改正案は、ホームレスの人々の生存を脅かすものであり、憲法25条、生活保護法及びホームレス自立支援法の趣旨に反するものである。本件条例改正案による規制の必要性が認められるとしても、ホームレスの人々が抱えている具体的な就労阻害要因を踏まえた代替の就労機会が提供されていない現状においては、家庭から出された「缶・びん・ペットボトル」及び「大型ごみ」の持ち去りを一律に禁止することは、時期尚早であるといわざるを得ない。

  よって、当会は、貴市に対し、ホームレスの人々の生活実態と地方公共団体の本来の責務を踏まえ、アルミ缶等の廃品回収の換価収入を生活の糧としているホームレスの人々の人権に配慮し、ホームレスの人々に対する聞き取りなど十分な実態調査を行って、ホームレスの人々に与える影響を検討したうえで、規制の時期や方法等を慎重に検討されるよう要望する。とりわけ、行政罰や刑事罰の制定については、ホームレスの人々の生活に与える影響が甚大であることから、特に慎重な配慮を行うことを要望する。また、今後、貴市におかれては、ホームレスの人々の自立を支援する施策を積極的に講じるとともに、ホームレスの人々を生みだしてきた社会構造にも目を向け、労働政策や社会保障施策の拡充に努められたい。

以  上



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