「京都府北部地域における地方裁判所支部の裁判官・検察官の増員等を求める決議」(2011年3月10日)


  京都弁護士会は、京都府北部地域における地方裁判所支部の取扱事件の拡張、開廷日の増加、そして同地域で常駐する裁判官・検察官の増員を求めることを決議する。

(決議の理由)

1  はじめに
  今般、当会は、京都府北部地域の京都地方裁判所宮津支部、同舞鶴支部及び同福知山支部(以下、併せて「北部支部」という。)の管轄区域において弁護士業務を行っている会員らに対し、同地域における司法実情に関する調査を行った。その結果、次項で述べるような実情が判明した。

2  北部支部における裁判官数、検察官数、開廷日に関する実情
(1) 民事事件における合議裁判体(以下、「合議体」という。)が構成されないこと
  医療過誤事件、建築紛争事件、知的財産権関連事件(著作権法、不正競争防止法関連事件)などの専門性の高い事件や、第1審が簡易裁判所の管轄であった事件の控訴事件は、慎重な判断が期待されることから、合議体による審理が適当とされる。ところが、北部支部では合議体が構成されず、合議体での審理を受けられない状況となっている。そのため、北部支部管内の会員からは、「建築紛争については実際に訴訟で争うことをためらうことがある。」との声が上がっている。
  福知山支部に係属していた建築紛争事件が代理人の了承なく本庁に回付されたという事例、舞鶴支部に訴訟提起した後に裁判所の判断で合議事件としての審理が適するという理由で本庁に回付したいという打診を受けたが、舞鶴で合議体が構成されないために本庁へ行く時間と費用を考慮し、やむなく単独での審理にしてもらったという事例などの報告が寄せられた。
  また、医療過誤の法律相談を受けたが、本庁への移動時間や交通費の関係で費用が割増になるという説明をしたところ受任に至らなかったという事例、簡易裁判所の判決に対して控訴したところ本庁係属となり、時間と費用が嵩んだという事例、簡易裁判所の裁判官から受け入れ困難な和解案を強く提示されたが、訴訟物の価額と本庁での審理に要する諸費用との考量からやむを得ず当該和解案を受諾したという事例などの報告が寄せられた。
(2)北部支部において労働審判が実施されないこと
  労働審判制度は、労働紛争を簡易・迅速に解決し、市民に利用しやすい制度として誕生した。ところが、北部支部では労働審判が実施されていないため、北部支部管内の府民は、事実上この制度が利用できない実情にある。そのため、弁護士が法律相談などで労働審判の利用が適すると思われる事案であっても、これを断念し、民事調停の利用を勧めざるを得なかったという事例が生まれている。
(3)裁判官が不在となることの不都合
  宮津支部では木曜日、福知山支部では火曜日に裁判官が不在となる。そのため、期日調整において書記官との間では内定するが、裁判官が不在のため、期日の確定まで時間がかかるという不都合が生じている。
(4)北部支部における刑事事件を巡る実情
  ア  開廷日を巡る実情
  宮津支部及び福知山支部の開廷日は週1回だけである。そのため、開廷日が祝日であったり、弁護人が出張の日であったりするとそれだけで期日が1週間後となってしまう。執行猶予相当事案であっても、被告人の身柄拘束がその分長期化するという問題を生じている。福知山支部において、執行猶予相当事案で早期の判決宣告が望ましいが、開廷日は週1回だけのため、弁護人抜きで判決言渡がなされた事例があるとの報告があった。さらに、裁判官不在日に保釈請求を行うと決定が翌日回しになるという事例があるとの報告があった。
  イ  填補体制に関わる実情
  北部支部管内においては、裁判官や検察官が同地域内の複数の裁判所を填補する形で事件処理をしているケースがある。また、福知山支部においては検察官が填補によるため、追起訴が遅れることが目立つとの報告があった。
    
3  結語
  司法改革の理念は「市民にとって、利用しやすく、開かれた分かりやすい、頼りがいのある司法」の実現であった。それにもかかわらず、前項のような状態では、京都府北部地域の府民の司法アクセス障害は改善されていないと言わざるを得ない。これは、市民の裁判を受ける権利(憲法32条)に照らし、由々しき事態である。
  相当数の管轄人口を抱える舞鶴支部、福知山支部において、上訴事件、行政事件、裁判員裁判、労働審判が取り扱われない理由は見当たらない。裁判所の内部都合が、府民の裁判を受ける権利を優越するものではありえない。最高裁規則を速やかに改正し、支部での取扱事件を拡張すべきである。
  また、ひまわり基金法律事務所設置前に北部支部管轄区域において弁護士業務を行っている当会会員は、宮津支部管内ゼロ、舞鶴支部管内4人、福知山支部管内3人であったものが、当会、近弁連、日弁連の努力により、現在、宮津支部管内4人、舞鶴支部管内5人、福知山支部管内9人となり、弁護士過疎の問題は解消に向かっている。
  京都地裁本庁においては、合計40名の裁判官が執務しているのに対して、北部支部では、京都地裁本庁から1名填補を含め僅か4名の裁判官が執務をしているのが現状である。しかし、統計によれば、ここ7年間に北部支部における事件数が軒並み増加している。たとえば、福知山支部のワ号事件では、2002年の76件から2009年には208件と3倍近い増加がある。北部支部で開廷日が限定されているのも裁判官の不足が背景にあると考えられ、裁判官の増員が不可欠である。また、検察庁福知山支部などでは、検察官の増員も必要である。
  以上のとおり、北部支部の取扱事件の範囲を拡張し、開廷日を増加させて司法機能を拡充し、あわせて、裁判官・検察官を増員することが速やかに行われるべきである。
  よって、当会は、本決議を行なうものである。

2011年(平成23年)3月10日
京都弁護士会

関連情報