「布川事件再審無罪判決に関する会長声明」(2011年5月26日)


1  去る5月24日、水戸地方裁判所土浦支部は、いわゆる布川事件の再審公判において、櫻井昌司氏と杉山卓男氏に対して、無罪判決を言い渡した。
    布川事件は、警察が、客観的証拠のないまま犯人が二人組であるという推測のみで両氏を強盗殺人事件の犯人として逮捕した明白な冤罪事件である。両氏は29年余もの間身体を拘束され、43年余もの間、強盗殺人犯の汚名を着せられた。この無罪判決は、遅きに失したとはいえ、ようやく正義を実現した判決といえる。

2  冤罪は国家による最大かつ究極の人権侵害であり、このような事件は二度と繰り返されてはならない。
    布川事件の捜査・公判の経過においては、別件逮捕による長期の身体拘束、代用監獄を悪用しての虚偽自白の強要、取調官の詐言による虚偽自白の強要、検察官による証拠隠し、密室での取調べで作成された供述調書を公判供述よりもはるかに重視する調書裁判、共犯者の自白によって相互に補強を認める補強法則の運用など、我が国の刑事手続における問題点を数多く指摘することができる。
    布川事件を教訓として、今後このような冤罪事件を二度と生じさせないために、刑事司法に携わる関係機関から独立した第三者機関を設置し、布川事件の過程を検証して冤罪が生み出された原因を確認するとともに、冤罪再発防止のための具体的な方策を検討し、関係機関に対して実効性ある勧告等がなされるべきである。

3  殊に布川事件においては、取調べ段階において虚偽の自白調書が作成されていた。捜査機関による虚偽自白の作出は冤罪の大きな原因であることが既に明らかであるから、その再発防止のために早急に取調べの可視化(取調べ全過程の録画)が導入されるべきである。
    この点、布川事件の公判においては取調べ状況の一部を録取した録音テープが証拠として採用されたが、虚偽の自白調書が作成された後の取調べで当該調書の記述をなぞる内容であり、しかも捜査機関によって何ヶ所も中断・編集されているなど、供述調書の作成過程を正しく事後的・客観的に検証しうるものではなかった。かえって、この一部の録音テープによって自白調書の信用性が裏付けられるなどという裁判所の誤った判断を招き、冤罪の発生の一つの原因となっていた。したがって、違法・不当な取調べを防止し、冤罪の発生を防ぐには、取調べの一部のみを録画するのではなく、取調べの全課程を録画する可視化を速やかに導入するべきである。

4  さらに、布川事件では、両氏が無罪であることを示す証拠が第二次再審請求後まで開示されず、隠され続けた。このような検察官の姿勢は、冤罪を防止するためには検察官の手持ち証拠を全面的に被告人及び弁護人に開示する制度を法制化する必要があることを明確に浮き彫りにした。

5  当会は、この無罪判決を受けて、今後二度と、両氏のような冤罪被害者を生み出さないために、そして、市民を冤罪や不当な身体拘束から守るために、速やかにこの事件の全過程を検証する第三者機関を設置するとともに、すべての被疑者及び参考人について、取調べの可視化を実現すること、及び検察官の手持ち証拠を全面的に開示する制度の法制化を求めるものである。

2011年(平成23年)5月26日

京    都    弁    護    士    会

会 長  小  川  達  雄


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