「中古住宅性能表示制度」についての意見書(2002年3月11日)
「中古住宅性能表示制度」についての意見書
2002年(平成14年)3月11日
国土交通大臣 林 寛 子 殿
京都弁護士会
会 長 福 井 啓 介
同 住宅紛争審査会運営委員会
委員長 寺 田 武 彦
同 消費者保護委員会
委員長 飯 田 昭
第1 意見の趣旨
1.中古住宅性能表示制度のあり方
構想されるべき中古住宅性能表示制度としては、住宅の構造安全性や劣化度合い・程度につい
て、目視検査に留まらない非破壊・破壊検査を通じて、評価機関が責任を持って評価し、その結
果を表示するものとし、また、以下の点に留意した制度とすること。
A.表示のための評価内容をできる限り開示するものとすること
b.評価結果により、当該住宅の構造につき、建築基準法令上の構造規定、防火規定に違反する
部分のあることが判明した場合には、その旨の表示を義務づけること。
C.評価結果により、不具合、欠陥等が認められた場合には、その補修方法の有無、内容の表示
を義務づけること。
D.中古住宅性能評価書に記載された性能については、一定の場合には、契約内容となることの
見なし規定を適用すること。
E.中古住宅性能評価書に記載された性能については、一定の場合には、契約内容となることの
見なし規定を適用すること。
F.中古住宅性能評価につき、評価機関が免責されることがないようにすること。
2.仮に、現行案が前提とする目視検査を主体とした検査を中心に制度を構想するとすれば、以下の
点に留意した制度とすること。
A.「中古住宅性能表示制度」の対象住宅は、以下の要件の全てを備えたものに限定すること。
1.新築時に住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく建設住宅性能評価書の交付を受け
ている住宅
2.定期的に一定期間毎に中古住宅の性能評価を受け、且つ、申請日が直近の評価書の交付か
ら一定期間内である住宅
3.直近の評価時点からの修繕内容等が明らかである住宅
b.評価結果により、建設住宅性能評価書及び従前の中古住宅評価書のとおりであれば、通常は
生じない不具合が見られた場合には、評価機関には、さらに破壊・非破壊によるより詳細な
調査をして、建築基準法令上の構造規定、防火規定等の違反の有無を確認する義務があるも
のとすること。
C.その他、1 a.〜f.に記載した点
3.さらに、仮に上記アの住宅に限定されずに目視検査を主体とした制度として構想するとすれば、
以下の点に留意した制度とすること。
A.現行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律」上の制度とはせずに、全く別の制度として
構想し、交付される評価書も現行の「住宅の品質確保の促進等に関する法律」上の「建設住
宅性能評価書」との誤認混同を避け、別の名称を使用するものとすること。
B.この場合、2ア記載の住宅以外の住宅の評価・表示については、耐震等級については評価・
表示しないものとすること。
C.評価、表示していない事柄については、一見して評価していないことを明確に表示するよう
にすること。
第2 意見の理由
1.はじめに
今般、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、「品確法」という。)を改正して、中古
住宅についての性能表示制度を新設することが検討されているところ、これまで国土交通省から
当会が入手した資料・情報によれば、同検討案には、以下のとおりの問題があると考えられるた
め、ここに意見を述べる。
2.あるべき中古住宅性能表示制度と検討案…意見の趣旨1
今回の検討案は、これまで第三者による評価等が全くなく、その有する性能等が購入者などに
分からなかった中古住宅につき、評価機関による評価・表示がなされることで、中古住宅の性能
等についての可視性を高め、もって中古住宅の流通の促進を図り、市場の活性化に寄与すること
を目的としたものと理解される。このような目的それ自体は十分に理解できるものである。
しかし、他方、今回の提案によれば、評価のための検査は「目視検査」を主体としたものとし
て構想されており、評価方法として十分なものといえるのかには疑問を持たざるを得ず、そのよ
うな正確性が十分に担保されない評価・表示によって、徒に住宅購入者の判断を混乱させる可能
性があることはもとより、さらに、後に当該住宅の耐震上の欠陥等が問題になった際には、信頼
性の担保されていない中古住宅性能評価書の存在が、的確な欠陥の有無の判断を誤らせるおそれ
も十分に懸念されるところである。
中古住宅の購入者にとって、本来的に最も知りたい情報は、当該中古住宅の構造安全性や劣化
度合い・程度に関わる情報であり、これらは目視検査のみによっては、ほとんど把握できないと
言ってよい。
したがって、中古住宅性能表示制度としては、単に目視検査を主体とした制度としてではな
く、それ以外の非破壊・破壊検査を含む的確な検査を行った上で、構造安全性・劣化度合い・程
度について評価・表示する制度として構想すべきである。
そして、このような検査・評価の内容自体にも可視性を持たせる必要があることから、その内
容も開示するものとし、また、検査・評価の結果、当該中古住宅に建築基準法令上の構造規定・
防火規定違反等の事実が判明した場合には、その旨の表示を義務づけ、さらに補修方法の有無・
内容についても表示するようにすべきである。
そして、このような制度として構想される場合には、評価機関の評価には現行の品確法上の新
築住宅における評価書とほぼ同程度の信頼性が担保されると考えられることから、契約のみなし
規定についても、売主の依頼に基づいて評価を行い、売主が評価書を契約書に添付した場合に
は、評価内容が契約内容となる旨のみなし規定の適用があるものとすべきである。
また、評価書の内容については、仲介業者に説明義務を負わせるべきである。
そして、同様に、評価機関の評価には一定の信頼性が担保されることからすれば、如何なる意
味においても、評価機関の免責を図ることは許されないというべきである。
3.今回の検討案を前提とした場合の対象住宅について…意見の趣旨2
前記のとおり、検討案では、中古住宅性能表示制度の対象住宅は全ての中古住宅とされてお
り、その評価のための検査方法は、原則として目視検査を主体とすることとされている。
しかしながら、中古住宅につき、何らの設計図書等もない状況において、目視主体の検査に
よって、当該住宅の耐震性能が把握できるとは考えられず、評価及びこれに基づく性能表示につ
いては、十分な信頼性が担保されていないと言わざるを得ない。このように評価・表示の信頼性
が確保されないまま、中古住宅性能評価書が交付されるならば、徒に住宅購入者の判断を混乱さ
せる可能性があることはもとより、さらに、後に当該住宅の耐震上の欠陥が問題になった際に
は、信頼性の担保されていない中古住宅性能評価書の存在が、的確な欠陥の有無の判断を誤らせ
るおそれも十分に懸念されるところである。
他方、検討案では、中古住宅の評価方法につき、意見の趣旨1に記載された要件を全て満たす
中古住宅に関する評価については、これを「評価方法A」として、目視検査に留まらず従前の評
価書等をも調査した上で、耐震等級、耐風等級、地盤又は杭の許容支持力等及びその設定方法、
耐火等級など、多項目に渡る評価を行ってこれを表示することとされているのに対し、意見の趣
旨1に記載された要件を満たさない住宅については、原則として目視検査のみによる評価を行っ
て、限られた部分についてのみ評価、表示を行うこととされている(この場合でも耐震等級は表
示されることとされている。)。
この「評価方法A」の場合には、評価住宅にかかる資料が一通り揃っており、そうした資料を
前提に評価するならば、一定、性能評価の信 頼性は担保されると考えられる。
したがって、意見の趣旨1記載のとおり、対象住宅は「評価方法A」の要件を満たす住宅に限
定すべきである。
そして、対象住宅が「評価方法A」の住宅に限定されるとすれば、評価住宅には従前の資料が
揃っており、新築時の建設住宅性能評価書どおりに施行されているとすれば、通常は生じ得ない
不具合(例えば壁のクラック等)を目視検査によって発見することも可能である。この場合、当
該不具合は、評価住宅の構造上の欠陥によって生じていることが一定推認されるため、このよう
な場合には、当該住宅に構造上の欠陥等が存しないかどうかを評価機関はさらに検査・調査する
ようにすべきである。 その余の制度としては、意見の趣旨1に記載した内容と同内容のものと
して構想すべきである。
4.対象住宅を限定しない検討案を前提にした場合…意見の趣旨3
以上のような制度として構想せず、今回の検討案のような制度として構想する場合には、上記
のとおり、目視検査主体の評価によっては、とりわけ中古住宅の構造安全性等については、十分
な評価がなされる保証は全くない。
他方、現行品確法上の新築住宅に関する性能評価書、とりわけ「建設住宅性能評価書」は、設
計図書等の検討、数回に渡る現地検査を前提とした評価であり、評価の正確性という観点から見
た場合、目視検査主体の中古住宅の評価とは、全く質的に異なるものと言わざるを得ない。この
ように質的に全く異なる内容をもつ評価書が、同じ品確法上の制度として、同一の「建設住宅性
能評価書」という名称の下に交付されるとすれば、極めて紛らわしく無用な混乱を生じる可能性
が高い。
したがって、目視検査主体の中古住宅の性能評価・表示については、現行品確法とは全く異な
る制度として構想し、評価書の名称、さらにはその体裁も誤認混同が生じないものとして構想す
べきである。
そして、例えば耐震等級等のように目視検査のみでは評価できない項目については、当初から
評価対象とはせずに、表示にあたっても検査・評価していない項目については、評価していない
ことが一見明らかになるような表示とすべきである。
5.住宅紛争審査会との関係
本来、現行品確法に基づく住宅紛争審査会の対象事案が「建設住宅性能評価書」の交付された
住宅に限定されていることは狭きに失し、住宅紛争審査会の持つADRとしての機能に着目し、
また、現行品確法が性能表示制度のみならず、主要構造部の瑕疵担保責任期間の伸長を図り、こ
れを強行法規化していることなどに鑑みれば、全ての住宅紛争を対象にすべきである。
現行品確法上の住宅紛争審査会の対象事案を変更しないまま、本意見に基づいて中古住宅性能
評価制度を構想するとすれば、結果として、中古住宅にかかる紛争審査の対象が狭く限定される
こととなるが、これは、あくまで現行品確法によって対象事案が限定されていることに由来する
ものであって、本意見は、住宅紛争審査会の対象事案を狭く限定することを目的としたものでは
ないことを付言する。
以 上