決議

「全面的国選付添人制度の実現を求める決議」(2011年5月30日)


1  弁護士付添人の役割と国家の責務
  少年審判手続における弁護士付添人は、審判手続が適正に行われるべく関与するのみならず、環境の調整など少年の更生を援助し、もって「少年の健全な育成」(少年法第1条)に資する重要な役割を担っている。
    ところで、適正手続を確保し、それとともに少年の健全な育成を図ることは、本来、国家の責務である。そうであれば、少年審判事件に対して弁護士付添人による関与が十分に及ぶ環境は、国家によって、整えられなければならない。
  このことは、我が国も批准している子どもの権利条約が、第37条(d)において、自由を奪われた全ての児童が弁護士等と速やかに接触する権利を有すると規定し、第40条第2項(b)において、刑法を犯したと申し立てられた全ての児童は、防御の準備及び申立てにおいて弁護士その他適当な援助を行う者をもつことを保障されると規定していることからも明らかである。

2  現行の国選付添人制度とその問題点
  しかるに、現行少年法の国選付添人の規定は、国選付添人が選任されるべき対象事件をきわめて狭く限定している。
  そのため、少年鑑別所に収容されて少年審判を受ける少年に対して、弁護士付添人が選任される割合は約半数程度、また国選付添人が選任されたのは4.6%に過ぎず(「平成21年度司法統計」)、弁護士付添人による関与を必要とする少年に対して、それが十分に及んでいるとはいえないのが現状である。特に、2009年(平成21年)5月21日から被疑者国選弁護人制度が拡大された後は、被疑者国選弁護人制度と国選付添人制度の対象事件の齟齬が極めて大きくなったために、被疑者段階においては国選弁護人が選任されていたのに、家庭裁判所送致後には国選付添人が選任されないという事態が生じている。成人であれば、起訴の前後を通じて国選弁護人を選任する権利が保障されているのに、少年であるがゆえに、家庭裁判所送致後には国費による弁護士付添人選任の権利が保障される場面が大きく限定されることとなるのであって、これは深刻な制度的矛盾といわざるをえない。
  日本弁護士連合会では、かかる現状を看過できず、全会員から徴収した特別会費で少年・刑事財政基金を設置し、これを財源として弁護士付添人費用を援助する少年保護事件付添援助制度を、日本司法支援センターに委託して行ってきた。また、当会でも、観護措置決定を受けた少年が希望すれば、当会から派遣された弁護士が少年鑑別所において無料で少年と面会し、上記付添援助制度の利用を助言・指導する、いわゆる当番付添人制度を整備してきた。
  しかし、上記のとおり、かかる環境を整えるのは、本来的に国家の責務である。本来、国家が果たすべき責務を、弁護士が、自らの負担によって担っている現状は、早急に改められなければならない。

3  結論
  そこで、当会は、国に対し、速やかに少年法を改正し、少年鑑別所で身体の拘束を受けた少年については、事件の軽重を問わず、国選付添人を選任できる制度、すなわち全面的国選付添人制度を実現するよう求めるものである。
  以上のとおり決議する。

  2011年(平成23年)5月30日

京    都    弁   護   士   会

会 長  小  川  達  雄


決議の理由


1  国選付添人の重要性
  (1) 少年事件における少年の多くは、家庭・学校などの環境に恵まれず、信頼できる大人に出会えないまま、審判を受ける状況に至ってしまっている。そのような少年が立ち直って社会復帰するためには、非行に至った背景を知った上で少年を理解、受容し、少年審判において少年側の立場から支援を行う弁護士付添人の存在は極めて重要である。
      弁護士付添人の役割は上記にとどまらず、少年に付き添う者として、家庭や学校、職場等少年を取り巻く環境の調整に力を尽くすことによって、少年の立ち直りを支援するという活動も行っている。
      また、少年は、成人と比べて法的・社会的知識が乏しく、精神的に未熟であるから、少年審判においても非行事実を安易に認めてしまうなど、権利を十全に行使し得ない危険が大きい。そのため、少年審判を適正に行うには、法律の専門家である弁護士による付添人が選任されることが必須である。
  (2) わが国が批准している子どもの権利条約第37条(d)は、締約国は「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有し、裁判所その他の権限のある、独立の、かつ、公平な当局においてその自由の剥奪の合法性を争い並びにこれについての決定を速やかに受ける権利を有すること」を確保しなければならない、と規定する。
      また、同第40条第2項(b)は、「刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童」は、「弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」の保障が確保されなければならないと規定する。
      そうすると、少なくとも身体拘束を受けた少年には、必ず弁護士付添人が選任され、適切な法的援助を受けられる権利が、人権として国家によって保障されなければならない。
  (3) しかしながら現実は、少年には弁護士付添人の費用を負担するだけの資力はないことが多く、保護者からの費用支出も困難であることが少なくない。
      したがって、弁護士付添人の費用が国費によって賄われる制度がなければ、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利は、実質的には保障されないことになる。

2  弁護士付添人の現状
  (1) 現行の国選付添人制度が不十分であること
ア  対象事件
    現行少年法は国選付添人の制度を規定するが、その対象事件はきわめて限定されており、①「故意の犯罪行為による被害者を死亡させた罪」・「死刑又は無期若しくは短期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」について、家庭裁判所によって検察官を関与させる決定がなされた場合(第23条の3第1項、第22条の2第1項)、②「故意の犯罪行為により被害者を死傷させた罪」・「刑法…第二一一条(業務上過失致死傷等)の罪」について、家庭裁判所によって被害者等の傍聴が許可された場合(第22条の5第2項、第22条の4第1項)及び③「故意の犯罪行為による被害者を死亡させた罪」・「死刑又は無期若しくは短期二年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」について、家庭裁判所が必要と認めた場合(第23条の3第2項)に限られている。
    しかも、①及び②については国選付添人が必要的に選任される事件であるが、③については「弁護士である付添人が関与する必要があると認めるとき」として、家庭裁判所の裁量に委ねられたものでしかない。
    しかしながら、少年の自立・更生を援助し、その権利保護を図るための弁護士付添人の重要性は、これらの重大事件や被害者傍聴が許可された事件以外であっても些かも変わることはない。したがって、現行少年法の国選付添人対象事件は限定的に過ぎ、不十分であるといわざるを得ない。
イ  被疑者国選弁護人制度との齟齬
    2009年(平成21年)5月21日に被疑者国選弁護人制度が拡大された後、被疑者段階では、成人、少年問わず、いわゆる必要的弁護事件(「死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件」刑訴法第37条の2第1項)については、被疑者国選弁護人が選任される。そして成人の場合は、起訴後も被疑者国選弁護人がそのまま国選弁護人となる。
    これに対して、少年の場合には、被疑者段階では成人と同様に国選弁護人が選任されるが、事件が家庭裁判所に送致された後には、上記のとおり、国選付添人対象事件がきわめて限定されている。そのため、少年の最終的処分が決定され、弁護士付添人による援助が必須と言える肝心の少年審判の段階において、国費による弁護士付添人の保障が及ばないこととなる。
    すなわち、成人であれば、起訴の前後を通じて、広く国費の負担によって弁護士による弁護を受ける権利が保障されているのに、少年の場合には、少年であるが故に、家庭裁判所送致後は国費による権利保護の対象から除外されるという、深刻な制度的矛盾が生じているのである。
    現行の制度下では、家庭裁判所送致後に弁護士付添人が選任されるためには、少年又は保護者等の私費によるか、後述する少年保護事件付添援助制度を利用するしかない。そのため、弁護士付添人が付されないままに少年審判を受けざるを得ない事例も多数生じている。しかし、上述したような弁護士付添人の重要な役割からすれば、弁護士付添人なしに少年審判を受けざるを得ない少年の受ける不利益が重大なものであることは論を俟たない。
    具体的には、被疑者国選弁護人は、少年の環境調整についての活動も行うが、中心的な活動は、取調べを受けている少年が捜査機関と十分に対峙できるように援助することである。そのため、通学中の学校との連携や就業先の確保等の環境調整については、家庭裁判所送致後に、付添人として活動することが重要である。また、示談交渉や被害者に対する謝罪等についても、被疑者段階だけではなく、家庭裁判所送致後にも連続的に活動することが必要であることは多い。それにもかかわらず、上記制度的矛盾のために国選付添人が選任されず、こうした継続的な活動が行えないというのは、少年にとって重大な不利益である。
    このような事態は一刻も早く解消されなければならない。
ウ  国選付添人制度の現状
    平成21年度の司法統計によれば、観護措置決定がなされた事件の総数は1万1241件、弁護士付添人が選任された事件は6139件、国選付添人が選任されたのは516件である。
    すなわち、観護措置決定がなされて少年鑑別所に収容された少年のうち、約半数にしか弁護士付添人が選任されず、しかも国選付添人として国費による保障を受けるのはわずか約4.6%にすぎないのである。
    そうすると、少年審判を受ける少年に対して、国費による弁護士付添人の保障が十分に及んでいるとは到底言えないのが現状である。成人に比して自己の弁明がきちんとできず、誘導に乗りやすいという特質を有する少年において、国選付添人制度の拡充が急務とされるゆえんである。
  (2) 少年保護事件付添援助制度等
      日弁連では、こうした状況を打破し、国選付添人対象事件以外の少年事件についても弁護士による付添人活動を及ばせるべく、少年保護事件付添援助制度を設けている。
      少年保護事件付添援助制度は、財団法人法律扶助協会が1973年(昭和48年)から開始したが、日弁連は、1995年(平成7年)5月26日の定期総会において、刑事被疑者弁護援助制度及び少年保護事件付添援助制度を支えるために特別会費徴収を決議し、以後も特別会費の増減額を繰り返しながら同制度を維持してきた。日本司法支援センター発足後は、日弁連が同センターに委託して同制度を運営している。
      また、当会においても、いわゆる当番付添人制度を設け、観護措置決定によって少年鑑別所に身体を拘束された少年等から要請があった場合には、1回は無料で少年鑑別所に弁護士を派遣し、少年と面会した上で、上記少年保護事件付添援助制度等を利用して、少年に弁護士付添人が選任されるよう努めている。

3  全面的国選付添人制度の必要性
    しかしながら、上記の少年保護事件付添援助制度等は、弁護士自らの出捐による会費によって少年の権利保護を図ろうとするものである。
    少年審判における適正手続を確保し、それとともに少年の健全な育成を図るのは、いうまでもなく国家の責務であり、少年審判手続における弁護士付添人の選任も、国家によって保障されなければならない。
弁護士の会費によるこれらの制度は、あくまで時限的・過渡的なものであり、国費による弁護士付添人選任が保障される制度、すなわち、全面的国選付添人制度の実現が強く求められる。具体的には、国選付添人の対象事件を拡大し、とりわけ少年鑑別所で身体を拘束された少年については、少年院送致などの重大な処分を受ける可能性が高いのであるから、事件の軽重を問わず、国費の負担によって弁護士付添人の法的援助を受ける権利を保障する制度を早急に整えなければならない。

4  結語
    以上から、当会としては2010年(平成22年)2月16日付「国選付添人対象事件の拡大を求める会長声明」を発出しているところであるが、改めて、政府及び国会等に対して、当会会員の総意として、身体拘束された全少年に対する全面的国選付添人制度を1日も早く実現するよう強く求める必要があると考え、本決議の提案に及んだ次第である。

以  上


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