「集団的消費者被害救済制度要綱試案」(2011年6月23日)


集団的消費者被害救済制度要綱試案


2011年(平成23年)6月23日

京 都 弁 護 士 会


I  はじめに
  平成21年9月1日に施行された消費者庁設置法附則には,政府は,同法施行後3年を目途として,「加害者の財産の隠匿又は散逸の防止に関する制度を含め多数の消費者に被害を生じさせた者の不当な収益をはく奪し,被害者を救済するための制度について検討を加え,必要な措置を講ずる」旨定められている。その後,平成22年9月には,消費者庁に設置された集団的消費者被害救済制度研究会から報告書が提出され,また平成22年10月には内閣府の集団的消費者被害救済制度専門調査会が発足し,その議論が本格化している。
  制度のあり方を考えるにあたっては,まず第一に,個々の消費者にとって実際に使いやすくすることが肝要であり,長年,消費者被害の解決に取り組んできた実務家の意見が極めて重要になってくる。当会も,平成21年8月8日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「つくろう!集団的な消費者被害の回復制度~3年内の実現を目指して~」を開催し,また,平成23年6月4日にもシンポジウム「集団的消費者被害救済制度~消費者が真に使いやすい制度に!~」を開催し,有識者や消費者団体を招聘して議論を深めるなどして,真に消費者の視点に立った制度づくりのための取り組みを行ってきた。
  今般,当会においては,上記の活動や研究に基づき,下記のとおり「集団的消費者被害救済制度要綱試案」をとりまとめ,特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟及び損害賠償等消費者団体訴訟の2つの訴訟制度からなる制度の創設を提言する。
  なお,本要綱試案を作成するにあたっては,日本弁護士連合会の「損害賠償等消費者団体訴訟制度要綱案」(平成21年10月20日)及び「損害賠償等消費者団体訴訟制度(特定共通請求原因確認等訴訟型)要綱案」(平成22年11月17日)を参考とした。


Ⅱ  制度の概要
第1  特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟
消費者被害について,適格消費者団体が自らの名で,当該対象消費者被害に共通する請求原因の確認を求めて訴訟を提起して第1段階で勝訴判決を得た場合には,引き続き,通知ないしは公告によって権利行使ができることを知った対象消費者からの授権を受け,第2段階の給付訴訟を提起するという制度である。
個々の消費者にとっては,大規模な消費者被害の責任の主張立証の訴訟上の負担は重く,適格消費者団体にこれを担わせることは適切である。また,通知や公告によって第1段階における勝訴判決を知った消費者であれば,適格消費者団体に授権するというかたちで第2段階の手続に参加することは比較的容易である。

第2  損害賠償等消費者団体訴訟
少額かつ拡散的な消費者損害(請求権の価額が140万円以下)について,適格消費者団体が自らの名で訴訟を提起し,金員の支払いを受け,引き続き対象消費者に分配を行うという制度である。
      とりわけ,少額の損害回復のためには,消費者自らが訴訟提起を期待することのみならず,第1の特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟のように,利益代表者が提起する訴訟手続への参加表明を期待することも困難である。よって,少額かつ拡散的な消費者被害においては,本訴訟のように,消費者の参加表明がなくとも消費者に判決効を拡張することが認められるべきである。これは,消費者の裁判を受ける権利を害するものではなく,むしろ,実質的にこれを保障するものである。これによって,第1の特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟が補完されることとなる。


Ⅲ  京都弁護士会試案
第1  特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟
  1  目的・訴訟追行主体

1  本訴訟制度は,事業者に対する特定共通請求原因に基づいて,多数の消費者が次条に定める金銭請求権を有する場合において,その特定共通請求原因の存否を確認する判決手続及び特定共通請求原因の存在を確認する判決が確定した後における個々の消費者の金銭請求権を確定し,その実現を図る手続を統一的かつ集団的に行うものであり,もって消費者被害の救済の実効性を確保するものである。
2  消費者契約法第13条に基づく内閣総理大臣の認定を受けた適格消費者団体は,本法に定めるところにより,消費者のために,事業者に対して特定共通請求原因の存否の確認を求める訴訟を提起・追行し,特定共通請求原因の存在を確認する判決確定後,個々の消費者から授権を受けて訴訟行為を行うことができる。
3  事業者に対する特定共通請求原因の存在を確認する判決が確定した場合は,当該特定共通請求原因に基く次条の請求権を有する消費者は,本法に定めるところにより,本訴訟手続に参加して,同判決を自己に有利に援用することができる。
4  本法において,特定共通請求原因とは,同一事業者が多数の消費者との間で,同一若しくは共通の事実関係又は法律関係から,次条の請求権を発生させた場合における,請求権の発生根拠事由をいう。

(解説)
  この訴訟制度は,事業者の特定共通請求原因の存否を判断する第一段階と,第一段階における特定共通請求原因が存在するとの裁判所の判断を受けて個別消費者が訴訟手続に参加して個別請求権を主張する第二段階の手続が続合されたものである。
  本訴訟制度の追行主体としては,被害消費者(その集団を合む。),又は現行の消費者契約法,特定商取引法若しくは景品表示法の差止請求訴訟制度を担っている,消費者契約法上の適格消費者団体が考えられる。
  被害消費者は,自らが被害回復を求める手続と兼ねて他の被害消費者の救済を求めるものとして,本制度の主体になりうるかが問題となる。しかし,本制度の勝訴判決の効果はすべての対象消費者に及ぶ強力なものであること,本制度が濫用されてはならないこと,個別消費者の権利実現手続を被害消費者個人が担うのは困難であり,被告事業者にとっても窓口が統一されることが望ましいこと等から,本制度の主体は内閣総理大臣から消費者の権利擁護活動を一定期間行ったと認定された適格消費者団体に限るべきである。
  特に,特定共通請求原因の存否を確認する部分は,現行の適格消費者団体による差止請求訴訟と似た構造であり,わが国の現行の「適格消費者団体」の要件は,目的,活動実態,組織要件,弁護士の関与等の人的要件,財政的要件等,比較法的に見ても最も厳しいものとなっていること,訴訟追行の適切性につき監督官庁の監督を受けること,適格消費者団体は差止訴訟を追行してきた実績があることからも,訴訟追行主体を適格消費者団体とすることが妥当である。
  適格消費者団体が訴訟主体となることの理論構成については,第1段階については,差止訴訟と同様,政策的に個々の消費者の権利を離れて固有の権限があものとすべきである。第2段階については個別消費者からの授権を受けて行うものである。
  
  2  制度の対象となる請求権

  特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟の対象となる請求権は,多数の消費者が同一の事業者に対して有する金銭債権であって,以下のいずれかに該当するものとする。
1  消費者が事業者に対して有する下記の損害に関する不法行為または債務不履行による損害賠償請求権
(1)事業者によって消費者に対してなされた不当勧誘行為若しくは不当表示(いずれも消費者団体訴訟制度において差止請求の対象とされるものに限る。)により当該消費者に生じた損害
(2)事業者がその事業として供給する商品若しくは製品,事業者がその事業のために提供し若しくは利用に供する物品,施設若しくは工作物又は事業者がその事業として若しくはその事業のために提供する役務の消費者による使用等に伴い生じた事故により消費者に生じた損害
(3)虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し,又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する事業者の行為により消費者に生じた損害
(4)個人情報取扱事業者(個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十七号)第二条第三項に定める者をいう。以下,本号について同じ。)である事業者が,個人情報の保護に関する法律第十六条,第十七条,第二十条ないし第二十三条に規定する個人情報取扱事業者の義務に違反したことにより消費者に生じた損害
2  消費者契約における強行規定に反して無効である契約若しくは条項のために消費者の損失によって事業者が利益を受けたことに基づく消費者の当該事業者に対する不当利得返還請求権
3  消費者契約が取消し,解除その他の原因により効力を失ったために,消費者の損失によって事業者が利益を受けたことに基づく消費者の当該事業者に対する不当利得返還請求権
4  消費者契約において事業者の債務の不履行によって生じた消費者の当該事業者に対する損害賠償請求権
5  消費者が事業者に対して有する製造物責任法第3条に基づく損害賠償請求権

(解説)
  本制度は,事業者の事業活動によって多数の消費者が同種の被害を被っている場合において,その被害救済を集団的に実現することを目的とする制度である。
  したがって,本制度によって扱うことのできる請求権は,当該目的に沿ったものである必要がある。
  すなわち,複数の消費者に,その消費者たる立場ゆえに,ある事業者の特定の事業活動に起因して,被害が生じている場合に,当該被害相当額の請求権として想定されるものが,本制度による救済の対象とされるべきである。
  本制度で救済の対象とされる請求権に関しては,「事業者による事業活動に起因して消費者に被害が発生した場合」を包括的に取り込むことができれば,被害救済の網の目からこぼれるいわゆる隙間案件をなくすために好ましいことではあるが,環境・公害,交通事故などによる被害と「消費者被害」を明確に区分する要件を定立することが困難であるため,対象を明確にするために制限列挙方式をとっている。

  3  特定共通請求原因確認の訴えの追行許可要件

  裁判所は,提起された特定共通請求原因確認の訴えが次の要件のいずれにも該当するときは,決定をもって,当該特定共通請求原因確認の訴えの追行を許可する。
1  同一事業者に対して,同一あるいは共通の事実関係もしくは法律関係から発生する前条の請求権を有する多数の消費者(以下「対象消費者」という。)が存在すること。
2  当該訴訟が,同一事業者が対象消費者との間で,同一あるいは共通の事実関係もしくは法律関係から,前条の請求権を発生させた場合における,特定共通請求原因の存否の確認を求めるものであること
3  原告である適格消費者団体が対象消費者の利益のために適切に当該訴訟の追行をすることができると認められるとき。

(解説)
  本制度は,個別救済を原則とする民事訴訟の例外的手続として規定されるものである。かかる観点を踏まえて,本制度による集団的救済を認める要件を定める必要がある。
  まず,消費者被害の集団的救済という本制度の目的から,同一事業者に対して,同一あるいは共通の事実関係もしくは法律関係から発生する前条の請求権を有する多数の消費者(以下「対象消費者」という。)が存在する必要がある。多数は具体的に定められないが,複数以上相当数のことである。
  次に,当該訴訟が,特定共通請求原因の存否の確認のために提起されたものであることが必要である。
  また,本訴訟制度は個別救済より集団的・統一的救済を早期に行うことが適切であると考えられる事案が対象となるので,本制度を選択することが適切であるとの要件が必要となる。例えば,多数の被害事例があっても法的争点が個々の消費者につきバラバラで個別立証が必要でかつ時間がかかるようであれば,本制度が適切とはいえない。本制度が適切なのは,対象となる消費者の有する権利が,同一又は共通の事実上及び法律上の原因に基づいている場合で,個別消費者の損害額に関する主張・立証のみが残されているが,それが主要な争点ではないような場合である。
  さらに,本制度の訴訟追行主体が適切である必要がある。本要綱案では,訴訟追行の主体を適格消費者団体に限っているので,基本的には適切性はあまり問題とはならない。

  4  特定共通請求原因確認の訴えの提起の方式

  特定共通請求原因確認の訴えの提起は,民事訴訟法第133条第2項の規定にかかわらず,訴状に以下の事項を記載してしなければならない。
1  当事者及び法定代理人
2  当該訴えの提起が特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟によるものである旨
3  請求の要旨及び紛争の要点
4  当該特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟に係る対象消費者の範囲
5  訴訟追行許可の要件を満たす旨

(解説)
  本制度は,通常の民事訴訟制度とは異なる制度であるため,本制度による訴訟であることを明確にする必要がある(2)。また,判決の効力が及ぶ対象となる消費者の範囲を明確にすることは不可欠である(4)。対象消費者の範囲を画するためには,特定共通請求原因の対象となる請求権の内容,時的・場所的範囲などを明らかにする必要がある。

  5  訴訟追行許可の審理及び決定

1  裁判所は,本案の審理に先立って特定共通請求原因確認の訴えの追行許可に関する決定をしなければならない。
2 裁判所は,特定共通請求原因確認の訴えの追行の許可の決定をする場合においては,対象消費者の範囲を定め,許可の決定を主文に掲げなければならない。
3  裁判所は,許可又は不許可の決定をする場合には,当事者を審尋しなければならない。
4  裁判所は,許可又は不許可の決定をするに当たっては,職権で,必要な調査をすることができる。
5  裁判所は,申立てにより又は職権で,当事者に対して,要件の有無を判断するために必要と認められる文書その他の物件の提出を命じることができる。当事者が提出命令に従わない場合には,民事訴訟法第224条の規定を準用する。
6  許可又は不許可の決定に対しては,即時抗告をすることができる。
7  不許可の決定が確定したときは,当該訴訟は,取り下げられたものとみなす。
8  訴訟を提起した適格消費者団体は,許可または不許可の決定がなされるまでは,対象消費者の範囲を変更することができる。
9  裁判所は,相当と認めるときは,許可の決定において,申し立てられた対象消費者の範囲を変更することができる。ただし,申し立てられた対象消費者の範囲を拡張することはできない。

(解説)
  本制度による集団的救済を認めるための要件具備の有無の判断については,本制度に基づく訴えの提起後,本制度に基づく訴訟追行の許可といった形で本案審理開始前に受訴裁判所が行うのが適当と考える。
  損害賠償等消費者団体訴訟制度と異なり,本制度に基づく敗訴判決の効果は訴訟に参加しない対象消費者に及ぶものではないが,通常の民事訴訟における訴訟要件の判断のように終局判決においてその判断を示すものとすると,相手方事業者の防御権行使および後に訴訟に参加することを期待する対象消費者の地位を不安定なものとすることになり,適切ではないからである。
  また,本案に関する審理を行う前に本制度の適用要件の判断のための資料は,本案となる請求権の判断のための訴訟資料と密接に関連するものと考えられることから,本案を審理する裁判所が適用要件の有無を判断した方が訴訟経済に資するものと考えられる。
  本制度に基づく消費者団体の勝訴判決の効果は訴訟に直接参加しない対象消費者にも及ぶものであること,またその意味では相手方事業者の防御権行使のためにも対象消費者の範囲は,許可の段階でできるだけ明確にしておく必要がある。
  一旦許可がなされれば広く対象消費者に効力が及ぶ制度であるため,慎重な審理が必要である。そのために職権証拠調べを採用した。
  また,本制度による集団的救済を認めるための要件を判断するための証拠資料については事業者に偏在していることが多いものと考えられるので,申立て又は職権で資料提出を命じることができることとした。命令に従わない場合には,民事訴訟法第224条の文書提出命令に対するサンクションと同様のサンクションを設けることとした。

  6  複数の適格消費者団体が訴えを提起した場合における訴訟の追行

1  民事訴訟法第142条の規定にかかわらず,適格消費者団体は,他の適格消費者団体による被告である事業者,請求の内容が同一であって対象消費者の全部または一部が同一である事件が裁判所に係属している場合であっても,当該他の事件に対する訴訟追行を許可する決定がなされるまでは,さらに重ねて訴えを提起することができる。
2  前項の訴えが他の事件の係属裁判所以外の裁判所に提起された場合には,裁判所は,当該他の事件の係属裁判所に移送しなければならない。
3  被告である事業者,請求の内容が同一であって対象消費者の全部または一部が同一である訴えが複数提起された場合,裁判所は,訴訟追行許可の要件に照らしてもっとも相当と認められる一の適格消費者団体に対してのみ訴訟の追行を許可するものとし,他の適格消費者団体の訴えについては不許可の決定をしなければならない。

(解説)
  複数の適格消費者団体によって,同一の案件につき同時複数提訴がされる場合あり得る。被告かつ請求権が同一で対象消費者の範囲が重なり合えば,二重起訴となりうる(ただし,対象消費者が重ならなければ実質的に同一の案件でも二重起訴とならず提訴ができることになろう。例えば,地域ごとに被害者救済のための提起がなされることが考えられる。)。
  この点,訴え提起の段階で訴訟係属ありとする伝統的な考え方によれば,訴訟追行許可前であっても二重提訴となりうることになるが,適格消費者団体間で拙速な訴え提起をし合うことにもなりかねず,適当ではない。訴訟許可決定の前に単一裁判所に併合のうえ,重なり合う部分については調整をし,調整がつかない場合には,裁判所がより訴訟追行に適した団体に対してのみ訴訟追行許可決定をすることが適当である。
  なお,対象消費者の一部のみ重なり合っているような場合には,重なり合った部分につき訴訟の追行を許可しない適格消費者団体の訴えについては,対象消費者の範囲を縮減した上で訴訟追行許可の決定をなすことになろう。

  7  訴訟追行許可後の対象消費者の変更

  裁判所は,許可決定後であっても,相当と認めるときは,申立てにより又は職権で,決定をもって,対象消費者の範囲を変更することができる。ただし,対象消費者の範囲を拡張するときにおいては,原告である適格消費者団体の同意,及び控訴審においては,当事者の同意がある場合に限る。

(解説)
  対象消費者の範囲が審理の過程で変更する必要があるとき,又は対象消費者範囲が重なり合う場合の調整の必要があるときが考えられるので,そのための手続規定を置いた。

  8  特定共通請求原因確認判決の効力

1  特定共通請求原因の存在を確認する判決が確定した場合は,当該適格消費者団体は,対象消費者からの授権を受けて行う当該特定共通請求原因に基づく給付訴訟において,裁判所によって確認された特定共通請求原因を自己に有利に訴訟上援用することができる。
2  特定共通請求原因確認の訴えを棄却した判決が確定した場合は,他の適格消費者団体は同一の請求をすることができない。
3  特定共通請求原因の存在を確認する判決の主文においては,対象消費者の範囲を掲げなければならない。
4  裁判所は,特定共通請求原因確認を求める訴えを認容する場合には,特定共通請求原因の存在を確認するとともに,対象消費者の請求権に関して,その認められるべき金額の算定方法その他について主文で示すことができる。
5  本消費者団体訴訟を提起した適格消費者団体が勝訴した場合において,弁護士又は弁護士法人に報酬を支払うべきときは,裁判所は判決中において被告に対してその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払いを命じなければならない。

(解説)
(1)適格消費者団体への判決効の波及(1,3,4について)
      一部の消費者が泣き寝入りをすれば,事業者は不当な利益を保持し続けることとなり,消費者被害の集団的・根本的な救済に至らない。これをできる限り防ぐためには,事業者の事業行為により被害を被った消費者が手続に参加しやすい制度を構築しなければならない。
      そこで,これまで述べてきたように,訴訟における主張・立証上の負担が大きい事業者の責任原因の確認部分を適格消費者団体が担うだけではなく,当該適格消費者団体が勝訴判決を得た場合には,後に,当該適格消費者団体が消費者から授権を受けて当該共通請求原因に基づき提起する訴訟(詳細は,次項以下で述べる)にその判決効が及ぶものとする必要がある。
また,判決には,対象消費者の範囲を明確に掲げなくてはならず,また,必要に応じて,別訴において請求し得る金額の算定方法その他を主文に掲げることによって,消費者が授権によって自らが請求できる金額を認識しやすくすべきである。
(2)後訴の制限(2について)
      本訴訟手続において,適格消費者団体が敗訴した場合でも,個々の被害消費者が固有の請求権に基づき,相手方事業者に対して訴訟外・訴訟上の請求をすることは妨げられない。しかしながら,ある適格消費者団体が本訴訟において敗訴しても,他の適格消費者団体が本訴訟手続を繰り返して利用できるとすると,事業者の応訴負担は重くなりすぎる。
      そこで,ある適格消費者団体がある事業者に対して本訴訟手続により提訴して敗訴した場合には,他の適格消費者団体は同一事案に関して提訴することができないこととした。
(3)被告に対する弁護士報酬の支払命令(5について)
      本消費者団体訴訟を提起した適格消費者団体の経済的負担を軽減するためには,適格消費者団体が勝訴した場合には,弁護士費用の負担を被告にさせることが相当である。
  
  9  特定共通責任原因に基づく給付の訴え提起の授権

1  特定共通請求原因の存在を確認する判決が確定したときは,当該消費者団体は,対象消費者からの授権を受けて,当該事業者に対して,特定共通請求原因に基づく給付の訴えを提起することができる。
2  適格消費者団体は,授権を申し出た者が,当該特定共通請求原因の存在を確認する判決の対象当事者でないことが明らかな場合には,その授権を引き受けないことができる。
3  授権を申し出た者が当該特定共通請求原因の存在を確認する判決の対象消費者であるにもかかわらず,適格消費者団体がその授権を引き受けない場合には,裁判所は,授権を申し出た者の申立てにより,適格消費者団体に授権の引受けを義務づけることができる。
4  裁判所は,特定共通請求原因の存在を確認する判決が確定したときは,次に掲げる事項を対象消費者(ただし,その氏名及び住所が明らかとなっている者に限る)に対して通知をするとともに,裁判所において適当と判断する方法で公告をしなければならない。
(1) 特定共通請求原因確認判決の主文
(2) 適格消費者団体の名称及び住所並びに代表者の氏名
(3) 被告の名称及び住所並びに代表者の氏名
(4) 請求の要旨,紛争の要点
(5) 対象消費者の範囲
(6) 対象消費者が当該適格消費者団体に授権して訴訟提起をできる旨及び授権の方法など
(7) 授権を行うべき期限及び期限内に授権を行わない場合には本消費者団体訴訟手続による救済が得られない旨
(8) その他,最高裁判所規則で定める事項
5  前項の規定による公告は,電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く方法),時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法その他不特定多数の者が公告すべき内容である情報を認識することができる状態におく措置として最高裁判所規則で定める方法のうちから,当該訴訟における対象消費者の人数,居住地,その他当該対象消費者の特性を踏まえ,当該訴訟に適切な方法でしなければならない。
6  第4項の通知及び公告を行うために要する費用は,被告が負担する。
7 裁判所は,訴訟の当事者に対し,申立てにより又は職権で,対象消費者の氏名及び住所を明らかにする文書(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の提出を命ずることができる。
8  前項の命令を受けた当事者が,正当な理由がないのに,対象消費者の氏名及び住所を明らかにする文書を提出しないときは,裁判所は当該当事者に対し,当該情報が提出されないことにより,代替的な通知・公告を行わざるを得なかったことによって生じた通知及び公告に要する費用の支払を命じることができる。

(解説)
(1)適格消費者団体による別訴の訴訟担当(1,2,3について)
本手続では,特定共通請求原因の存在を確認する判決が確定した後,引き続き,別訴を提起して被害回復を実現することにこそ主眼がある。
よって,別訴においても,多数の被害者の事務を集約化する必要があり,また,事業者の応訴負担,裁判所の事務負担の軽減をはかる必要がある。しかしながら,個々の消費者がめいめいに訴訟を提起したのでは,仮に後の判断が特定共通請求原因に拘束されるとしても,迅速かつ統一的な救済は期待することはできず,権利行使の集団的処理が必要になる。
そうしたところ,特定請求原因を確認する勝訴判決を得た当該適格消費者団体は,当該消費者被害の内容について熟知しており,また,裁判所からも対象消費者の利益を適正に代表するものと認められているのであるから,別訴においても,対象消費者は,その権利行使を行う場合には当該適格消費者団体に授権しなければならないとすべきである。なお,著作権法では,同様の考え方に基づき,多数人の権利行使の集団的処理制度が設けられている(著作権法95条。商業用レコードの放送利用の際の二次使用料請求権については、権利者は権利行使を委託しない自由を有するが,権利行使をする場合には文化庁長官指定団体に委託しなければならない。裁判外の権利行使も裁判上の請求も同団体が行うこととされている)。
なお,適格消費者団体には,明らかに対象消費者ではない者からの濫用的な授権の申出に対しては,これを引き受けない権利が留保されるべきである。ただし,授権を引き受けないとされた者からの申立てがあり,裁判所も,その者については授権引き受けが相当であると認めた場合は,適格消費者団体は,授権を引き受けることが義務づけられる。
(2)個々の被害消費者への通知・公告(4,5,6について)
     対象消費者に当該消費者団体に別訴を授権するかどうかを判断する機会を付与するためには,個々の被害消費者に判決結果を認識させなければ意味がない。その意味で通知・公告は不可欠な制度である。
      具体的に住所・氏名が判明している各個別消費者に対しては,個別の通知により,共通請求原因確認判決の存在及びその具体的内容に関する情報,各個別消費者が本制度を利用して被害回復を図ることができるということが明確に認識しうる程度の情報を提供すべきことになると考えられる。
      他方,住所・氏名等が知れず個別通知が不可能な個別消費者については,インターネットにおける裁判所や消費者団体などの所定のホームページ・新聞・テレビ・ラジオ等による公告により共通請求原因確認判決と個別消費者の参加手続の情報を提供すべきである。
      この通知・公告に要する費用は事案によっては多額に上ることも考えられるが,敗訴当事者である事業者の負担となる。
(3)個別通知に必要な個別消費者に関する個人情報の提供(7,8について)
      個別消費者の個人情報は,被告となる事業者が保有していることも多いと考えられることから,裁判所は,被告となる事業者に命じて,事業者が保有する手続の対象となるものと考えられる個別消費者の個人情報を提供させることができるものとするのが適切である。あわせて,事業者が裁判所の命令に応じず個別消費者の個人情報を提供しない場合には,それによって生じる公告・通知等の必要費用(例えば個別通知が出来ないために,同様の効果を上げるためにマスコミ等で度々公告する等の場合の費用)を事業者の負担とすることによって,その履行の確保を図ることが必要である。


10  特定共通請求原因に基づく給付の訴え

  特定共通請求原因に基づく給付の訴えの提起は,民事訴訟法第133条第2項の規定にかかわらず,訴状に以下の事項を記載してしなければならない。
  1  当事者及び法定代理人
  2  当該訴えの提起が特定共通請求原因に基づく給付の訴えによるものである旨
  3  請求の要旨及び紛争の要点
  4  授権を引き受けた消費者の氏名,住所,及び支払いを求める金額


11  和解,訴えの取下げ等

1  適格消費者団体は,裁判所の許可を得なければ,特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟に係る訴えの取下げ,請求の放棄,裁判上の和解,上訴の取下げをすることはできない。
2 裁判所は,請求に関する当事者の主張,口頭弁論の全趣旨,証拠調べの結果及び裁判上の和解にあっては当該裁判上の和解によって対象消費者が得られる利益の内容を踏まえ,対象消費者の利益を不当に侵害しないと認めるときでなければ,前項の許可をしてはならない。
3 裁判所は,特定共通請求原因の存在の確認を求める訴えにおいて,適格消費者団体および事業者から申出による訴訟上の和解の許可をするときは,直ちに,次に掲げる事項を対象消費者(その氏名及び住所が明らかとなっている者に限る)に対して通知をするとともに,公告をしなければならない。
(1) 適格消費者団体の名称及び住所並びに代表者の氏名
(2) 被告の名称及び住所並びに代表者の氏名
(3) 請求の要旨,紛争の要点
(4) 対象消費者の範囲
(5) 許可した和解の内容
(6) 対象消費者は裁判所に対して和解に参加する申出をすることができる旨及びその申出の方法など
(7) 申出を行うべき期限及び期限内に申出を行わない場合には本消費者団体訴訟手続で救済が得られない旨
(8) その他,最高裁判所規則で定める事項
4  裁判所は,第1項の許可をするにあたっては,他の適格消費者団体および対象消費者の意見を述べる機会を与えなければならない。

(解説)
(1)和解による解決(1,2,4について)
      消費者被害の統一的・根本的救済をめざす本訴訟制度においても,訴訟当事者の意思に反して訴訟を継続させることが妥当性を欠く場合や訴訟経済上好ましくない場合もありうるし,和解が被害の早期救済に資する場合もあることは,一般の訴訟と同様である。
      一方で,原告となった適格消費者団体と被告事業者との間でなれ合い的な不適切な和解がなされたような場合には,個別消費者の利益が不当に侵害されかねない危険性がある。
      このため,より慎重かつ適切に被害消費者の利益を擁護するため,本制度に基づく訴訟手続においては裁判所の許可を訴訟上の和解等の要件とした。
(2)通知・公告(3について)
      また,特定共通請求原因確認判決がなされる前は,適格消費者団体は未だ個別消費者からの授権を受けていないので,裁判所は個別消費者に対して,和解の許可と同時に通知・公告を行い,個別消費者に和解内容を伝えて,和解手続に参加できる旨を知らせることとすべきである。

12  訴訟追行許可の取消,中断及び受継

1  裁判所は,特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟を追行する適格消費者団体が適切な時期に攻撃又は防御の方法を提出しないときその他適切に本消費者団体訴訟の追行をしないとき,当該適格消費者団体に係る認定が失効し,又は取り消されたときその他重要な事由があるときは,利害関係人の申立てにより又は職権で,決定により,訴訟追行の許可の決定を取り消すことができる。
2  前項の規定による取消しの決定が確定したとき(次項の規定により本消費者団体訴訟に係る訴訟手続が中断するときを除く。)は,裁判所は,当該取消しの決定に係る適格消費者団体の名称及び住所並びに代表者の氏名その他最高裁判所規則で定める事項を公告しなければならない。
3  本消費者団体訴訟について,訴訟追行許可の後に取消しの決定その他の事由により,当該消費者団体訴訟の追行をする適格消費者団体が当該消費者団体訴訟の追行をすることができなくなったときは,その訴訟手続は中断する。
4  前項の規定により本消費者団体訴訟に係る訴訟手続が中断したときは,裁判所は,申立てにより又は職権で,他の適格消費者団体のうちから中断した訴訟手続を受け継ぐべき適格消費者団体を指定するものとする。
5  前項の規定による指定があったときは,当該指定に係る適格消費者団体について,訴訟追行の許可の決定があったものとみなす。

(解説)
  原告が訴訟追行の要件を失ったり,訴訟追行が困難となったり,あるいは訴訟追行が相応しくない場合には,訴訟追行の許可の前であれば,原告適格がない場合には却下,その他の場合には許可をしないとの決定となる。訴訟追行の許可の後には,訴訟の追行の許可を取り消し,訴訟手続の中断をし,多数の当事者の法的利益に多大な影響を及ぼす段階となったことを考慮して,別の適格消費者団体に受継できるとする特則をおいた。

13  費用・報酬

1  適格消費者団体は,対象消費者が本手続によりその有する請求権の履行を受ける際に,当該対象消費者から,当該消費者に関して要し,または,要する費用及び裁判所が定める報酬を受けることができる。
2  適格消費者団体は,裁判所に対し,前項の報酬について意見を述べることができる。
3  第1項の規定による決定に対しては,即時抗告をすることができる。

(解説)
  本制度において,適格消費者団体は多数の消費者のために特定共通請求原因の存在を確定させ,個別の消費者の請求権が履行されることに関与する。これによって,個別の消費者は自ら困難な訴訟活動を行うことなく自らの権利の実現が図られるのであるから,適格消費者団体は,利益を受ける個別の消費者が利益を受けた際には,その中から適切な費用・報酬の弁償を受けるべきである。これによって本制度が持続可能なものとなるものである。
  報酬については裁判所が相当と認める額として,公正さが確保されるようにしている。
  裁判所の報酬決定については不服申立手続として即時抗告を設けた。この点は破産管財人の報酬決定と同様である。

14  その他の訴訟手続上の特則

1  特定共通請求原因確認の訴えは,民事訴訟法第4条及び第5条の規定により,対象消費者の一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。
2  特定共通請求原因に基づく給付の訴えは,当該特定共通請求原因確認の訴えが提起された裁判所の管轄に専属する。
3  特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟における訴訟の目的の価額の算定については,財産権上の請求でないとみなす。
3  特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟における対象消費者の特定金銭債権の消滅時効は,特定共通請求原因確認の訴えの提起時から,特定共通請求原因の存在を確認する判決後の個別消費者に対する授権期間の最終日まで消滅時効期間の進行が停止していたものとみなす。

(解説)
(1)管轄(1,2について)
      本訴訟制度は,いうまでもなく対象消費者の救済に主眼がある制度である。特定共通請求原因確認の訴えについては,同一又は同種の事実上及び法律上の原因に基づく,個別の対象消費者の有する金銭債権を集団的に取り扱って審理する場合と同様であるから,管轄についてもそれらの併合訴訟に準じて扱うのが適当である。
また,引き続き提起される特定共通請求原因に基づく給付の訴えの管轄については,審理の便宜を考慮して,特定共通請求原因の存在の有無について審理された裁判所の専属管轄とすべきである。
(2)訴額の算定(3について)
      適格消費者団体は,被害消費者のために公益的立場で本制度による訴訟を提起するものであり,自ら請求金額を取得するものではない。消費者契約法の差止請求訴訟,住民訴訟,株主代表訴訟と同様に訴訟の目的の価額の算定については,財産権上の請求でないとすべきである。
(3)時効(4について)
      特定共通請求原因確認の訴えにおいては,適格消費者団体が固有の訴権を行使するものであるから,その提訴が,対象消費者の有する請求権の消滅時効に中断などの法的効果を及ぼすとは考えにくい。
      しかし,消滅時効に関して,何らの手当もしなければ相手方事業者はできるだけ訴訟を引き延ばして,対象消費者の請求権が消滅時効にかかるような訴訟戦略を用いることが考えられるし,対象消費者としても共通請求原因の存否に関する判決の結果を待たず独自の訴訟を提起せざるを得なくなるなど,本訴訟制度を設ける意義を失わせる事態を引き起こす可能性がある。よって本訴訟の提起から,個別消費者が自らの権利行使の可能性について認識することが可能となったと考えてよい,授権期間の最終日まで対象消費者の請求権の消滅時効は進行を停止することとすべきである。

第2  損害賠償等消費者団体訴訟制度
  1  制度の対象となる請求権

  損害賠償等団体訴訟における訴えの目的となる請求権は,多数の消費者が同一の事業者に対して有する金銭債権であって,以下のいずれかに該当するものとする。
(1)消費者が事業者に対して有する下記の損害に関する不法行為による損害賠償請求権
    ①  事業者によって消費者に対してなされた不当勧誘行為若しくは不当表示(いずれも消費者団体訴訟制度において差止請求の対象とされるものに限る)により当該消費者に生じた損害
    ②  事業者がその事業として供給する商品若しくは製品,事業者がその事業のために提供し若しくは利用に供する物品,施設若しくは工作物又は事業者がその事業として若しくはその事業のために提供する役務の消費者による使用等に伴い生じた事故により消費者に生じた損害
    ③  虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し,又は消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する事業者の行為により消費者に生じた損害
④  個人情報取扱事業者(個人情報の保護に関する法律(平成十五年五月三十日法律第五十七号)第二条第三項に定める者をいう。以下,本号について同じ。)である事業者が,個人情報の保護に関する法律第十六条,第十七条,第二十条ないし第二十三条に規定する個人情報取扱事業者の義務に違反したことにより消費者に生じた損害
(2)消費者契約における強行規定に反して無効である契約若しくは条項のために消費者の損失によって事業者が利益を受けたことに基づく消費者の当該事業者に対する不当利得返還請求権
(3)消費者契約が取消し,解除その他の原因により効力を失ったために,消費者の損失によって事業者が利益を受けたことに基づく消費者の当該事業者に対する不当利得返還請求権
(4)消費者契約において事業者の債務の不履行によって生じた消費者の当該事業者に対する損害賠償請求権
(5)消費者が事業者に対して有する製造物責任法第3条に基づく損害賠償請求権

(解説)
事業者の特定の事業活動に起因して,複数の消費者に対し,同種の損害が生じている場合は本制度による救済の対象とされるべきである。そのため,事業活動に起因する損害賠償請求権,不当利得返還請求権を広く対象とする。

  2  対象となる請求権の価額

  請求権の価額(当該訴訟の対象となりうる請求権を複数有する者についてはその
個別の請求権)が裁判所法(昭和22年法律第59号)第33条第1項第1号に定め
る額を超えないもの。

(解説)
(1)集団的消費者被害救済制度の主たる目的は,個々の消費者に対して損害回復のために自ら権利行使することを期待することが合理的でなく,その結果,総体として大量の被害が放置されている事態を改善し,これに対する集団的な救済の方途を創設することにある。特に,少額の損害回復のためには,消費者自らが訴訟提起を期待することのみならず,既に提起され責任原因も明らかとなった手続に参加表明すること自体が期待することが困難であり,裁判を受ける権利が保障されていないに等しいものと評価できる。
     そこで,一定期間までに除外の申出を行わない限り判決の効力が対象消費者に有利にも不利にも及ぶとしたうえで,請求権の価額が少額の場合には,適切な手続追行主体が行った訴訟追行結果を対象消費者に及ぼすことが実質的な裁判を受ける権利を保障するものと考えられる(手続保障の代替性)。
     その対象なる少額の範囲は,対象となる請求権の価額につき簡易裁判所における審理の対象である140万円以下が相当である。適格消費者団体による差止請求の事例においても個別の回復すべき被害額は概ね140万円以下であること,2007年度において全国の消費生活相談に寄せられた相談における契約・購入金額の平均金額が約133万円,既払金額の平均金額が約93万円(「消費生活年報2008」国民生活センター)と140万円以下であることから多くの消費者被害事件の実態に合った額であると考えられる。
(2)請求権の価額に一定の基準を設けた場合,同一の消費者が同一の事業者との間において複数の契約を締結した場合(次々販売等)や同一の契約機会に複数の商品を購入した場合(過量販売,役務提供と附属商品の購入等)において,請求権の価額をどのように考えるのかが問題となりうる。この場合は,対象消費者自ら訴訟提起する場合において,契約機会や対象商品等に分断して訴訟提起することが可能であることから,契約機会ごとあるいは対象商品ごと等に請求権の価額を分断して判断すべきである。
     また,同一の事業者から同種被害を受けた消費者の中には被害額が140万円を超えない者と超える者とが分かれる場合の取り扱いをどうするか,その場合に一部請求のように140万円を超えない範囲で対象とすることか可能かが問題となりうる。この場合は,請求権の価額に一定の上限を設けた趣旨から,個別の請求権が上限額を上回る場合には,たとえ同様の状況から生じた被害であっても対象から除外すべきと考える。対象となる被害額が140万円を超える場合が多数想定される場合には,むしろ,前述の特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟による解決を図るべきである。
(3)このように,特定共通請求原因確認等消費者団体訴訟は争点の多数性や被害額の分散が想定される事案を対象とし,損害賠償等消費者団体訴訟は定型的少額被害事案を対象とした上で,これらを併設することが望ましいものといえる(なお,平成22年9月消費者庁「集団的消費者被害救済制度研究会報告書」におけるA案及びC案を参照)。

  3  本制度による集団的救済を認めるための要件

  裁判所は,提起された損害賠償等団体訴訟が次の要件のいずれにも該当するときは,決定をもって,当該損害賠償等団体訴訟の追行を許可する。
  ①  当該訴訟に係る訴訟の目的が,共同の利益を有する多数の消費者の有する第○条(救済の対象となる請求権)に定める金銭債権であるとき。
  ②  訴訟の目的である多数の消費者の有する金銭債権に関する主張または立証につき,対象消費者を当事者として当該訴訟に参加させることなく適切になし得ると認められるとき。
  ③  原告である適格消費者団体が対象消費者の利益のために適切に当該訴訟の追行をすることができると認められるとき。  

(解説)
  本制度は,多数の同様な被害が発生する消費者被害の被害者を実効的かつ迅速に救済することを目的とする。そのため,共同の利益がある多数の消費者の有する損害賠償請求権その他の金銭債権請求である必要がある(金額については上記2を参照)。
  また,集団的・統一的救済を早期に行うことが適切である事案を選別するための要件が必要となる。
  さらに,訴訟追行主体の適切性要件が必要となるが原告適格を適格消費者団体に限定することにより適切性は特段問題とはならないと考える。

  4  訴訟追行許可要件の審理及び決定

1  裁判所は,損害賠償等団体訴訟の追行の許可の決定をする場合においては,次に掲げる事項を定め,許可の決定の主文に掲げなければならない。
  一  対象消費者の範囲
  二  対象消費者が除外の申出をすることができる期間
2  裁判所は,許可又は不許可の決定をする場合には,当事者を審尋しなければならない
3  裁判所は,許可又は不許可の決定をするに当たっては,職権で,必要な調査をすることができる。
4  裁判所は,申立により又は職権で,当事者に対して,要件の有無を判断するために必要と認められる文書その他の物件の提出を命じることができる。当事者が提出命令に従わない場合には。民事訴訟法第224条の規定を準用する。
5  許可又は不許可の決定に対しては,即時抗告をすることができる。
6  不許可の決定が確定したときは,当該損害賠償等団体訴訟は,取下げられたものとみなす。
7  訴訟を提起した適格消費者団体は,許可または不許可の決定がなされるまでは,対象消費者の範囲を変更することができる。
8  裁判所は,相当と認めるときは,許可の決定において,申立てられた対象消費者の範囲を変更することができる。ただし,申立てられた対象消費者の範囲を拡張することはできない。
(複数の適格消費者団体が訴えを提起した場合における訴訟の追行の許可)
9  民事訴訟法第142条の規定にかかわらず,適格消費者団体は,他の適格消費者団体による被告である事業者,請求の内容が同一であって対象消費者の全部または一部が同一である事件が裁判所に係属している場合であっても,当該他の事件に対する訴訟追行を許可する決定がなされるまでは,さらに重ねて訴えを提起することができる。
10  前項の訴えが他の事件の係属裁判所以外の裁判所に提起された場合には,裁判所は,当該他の事件の係属裁判所に移送しなければならない。
11  被告である事業者,請求の内容が同一であって対象消費者の全部または一部が同一である訴えが複数提起された場合,裁判所は,訴訟追行許可の要件に照らしてもっとも相当と認められる一の適格消費者団体に対してのみ訴訟の追行を許可するものとし,他の適格消費者団体の訴えについては不許可の決定をしなければならない。
(訴訟追行許可後の対象消費者の変更)
12  裁判所は,許可決定後であっても,相当と認めるときは,申立てにより又は職権で,決定をもって,対象消費者の範囲を変更することができる。ただし,控訴審においては,当事者の同意がある場合に限る。
13  対象消費者に対する通知もしくは公告がすでになされている場合には,裁判所は対象消費者の範囲が変更されたことを変更前及び変更後の対象消費者に通知もしくは公告をしなければならない。
(訴訟の追行の許可の取消し)
14  裁判所は,損害賠償等団体訴訟を追行する適格消費者団体が適切な時期に攻撃又は防御の方法を提出しないときその他適切に損害賠償等団体訴訟の追行をしないとき,当該適格消費者団体に係る認定が失効し,又は取り消されたときその他重要な事由があるときは,利害関係人の申立てにより又は職権で,決定により,訴訟追行の許可の決定を取り消すことができる。
15  前項の規定による取消しの決定が確定したとき(次項の規定により損害賠償等団体訴訟に係る訴訟手続が中断するときを除く。)は,裁判所は,当該取消しの決定に係る適格消費者団体の名称及び住所並びに代表者の氏名その他最高裁判所規則で定める事項を公告しなければならない。
(訴訟手続の中断及び受継)
16  損害賠償等団体訴訟について,訴訟追行許可の後に取消しの決定その他の事由により,当該損害賠償等団体訴訟の追行をする適格消費者団体が当該損害賠償等団体訴訟の追行をすることができなくなったときは,その訴訟手続は中断する。
17  前項の規定により損害賠償等団体訴訟に係る訴訟手続が中断したときは,裁判所は,申立てにより又は職権で,他の適格消費者団体のうちから中断した訴訟手続を受け継ぐべき適格消費者団体を指定するものとする。
18  前項の規定による指定があったときは,当該指定に係る適格消費者団体にいて,訴訟追行の許可の決定があったものとみなす。

(解説)
(1)本制度による集団的救済を認めるための要件の審理の時期,その主体
      訴訟の効果は訴訟に直接参加しない対象消費者にも及ぶものとするため,訴訟追行の許可あるいは不許可の判断は,訴えの提起後,口頭弁論開始前に受訴裁判所が行うのが適当である。
(2)審理の方法等
      訴訟の効果は訴訟手続に直接参加しない対象消費者にも及ぶものとするため,対象消費者の範囲を許可の段階で明確にしておくことが必要である。また,除外手続が必要なため,その期間についても許可決定において定めることとする。
      訴訟手続に直接参加しない消費者に効力が及ぶことから,慎重な審理が必要であり,職権証拠調べを採用するとともに要件充足を判断する証拠についても申立又は職権で資料提出を命じることができることとする。

  5  本制度による判決等の効力の及ぶ主観的範囲

1  損害賠償等団体訴訟に係る確定判決等は,対象消費者(第○条に基づく除外の申出をした者を除く)に対してもその効力を有する。
(判決)
2  損害賠償等団体訴訟に係る判決の主文においては,対象消費者の範囲を掲げなければならない。
3  損害賠償等団体訴訟に係る請求を認容する判決の主文においては,被告が当該訴えにおける対象消費者の総員に対して支払うべき金額の総額を当該訴えの原告である適格消費者団体に支払うよう被告に命じなければならない。
4  損害賠償等団体訴訟に係る請求を認容する判決の理由においては,被告が当該訴えにおける対象消費者の総員に対して支払うべき金額の総額を算定した根拠となる事項を摘示しなければならない。

(解説)
(1)判決効拡張の必要性
消費者が被害救済をあきらめ,泣き寝入りをしている現在の状況を改善するためには,被害を受けた消費者が自ら積極的に訴訟を提起あるいは訴訟手続に参加しなくても,集団的かつ統一的に司法的救済を受けられる仕組みが必要である。
このような仕組みを実効化するためには,訴訟手続に具体的に関与しなかった者も含めて,当該訴訟手続において設定された一定の範囲の者については,当該訴訟手続の判決効が及ぶものとすることが必要である。
(2)判決効拡張の理論的根拠及び個別消費者への手続除外権付与の必要性
裁判に参加する機会を与えられた者以外に既判力が及ぶものとすると,その者の裁判を受ける権利を侵害することとなる。そのため,訴訟手続に参加しない者を含めて一定の範囲の個別消費者全員に判決効が及びうるものとするためには,消費者の裁判を受ける権利が実質的に保障されうる制度とすることが不可欠である。
既判力の正当化根拠は主として手続保障にあると考えられる。判決効が及ぶ者に対して十分な手続保障がなされていれば,個別消費者の明示的意思表示が無くとも,個別消費者の裁判を受ける権利を実質的に侵害せず判決効拡張を正当化することは可能と考える。
そして,実質的な裁判を受けることが保障されていないに等しい個別消費者の有する権利が,適格消費者団体により手続が代替されることにより実質的かつ適切に審理されうる制度的保障が確保されていること(手続保障の代替性),訴訟手続の対象となった個別消費者が当該手続からの除外権が付与されていること(手続保障代替性の除外の自由)をもって判決効拡張を正当化が可能と考える。

  6  通知・公告及び手続除外権の付与の時期・方法

1  裁判所は,訴訟の追行の許可が確定したときは,直ちに,次に掲げる事項を  対象消費者(ただし,追行の許可が確定した時において,その氏名及び住所が  明らかとなっている者に限る)に対して通知をするとともに,公告をしなけれ  ばならない。
  ①  許可の決定の主文
  ②  適格消費者団体の名称及び住所並びに代表者の氏名
  ③  被告の名称及び住所並びに代表者の氏名
  ④  請求の要旨,紛争の要点
  ⑤  対象消費者の範囲
  ⑥  除外の申出をできる旨及び除外の申出の時期,方法
  ⑦  確定判決等の効力が除外の申出をしなかった者に及ぶ旨
  ⑧  その他,最高裁判所規則で定める事項
2  前項の規定による公告は,電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって内閣府令で定めるものをいう。)により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く方法,時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法その他不特定多数の者が公告すべき内容である情報を認識することができる状態におく措置として最高裁判所規則で定める方法のうちから,当該訴訟における対象消費者の人数,居住地,その他当該対象消費者の特性を踏まえ,当該訴訟に適切な方法でしなければならない。
3  第1項の通知及び公告を行うために要する費用は,その全額を国庫が負担する。
(除外の申出)
4  対象消費者は,除外申出期間内に,裁判所に対して,本法の規定に基づく訴えの追行が許可された訴訟からの除外の申出をすることができる。
5  前項の申出は,書面によりしなければならない。
(対象消費者の氏名及び住所に関する情報の提供)
6  裁判所は,訴訟の当事者に対し,申立により又は職権で,対象消費者の氏名及び住所を明らかにする文書(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の提出を命ずることができる。
7  前項の命令を受けた当事者が,正当な理由がないのに,対象消費者の氏名及び住所を明らかにする文書を提出しないときは,裁判所は当該当事者に対し通知及び公告に要する費用の支払を命じることができる。


(解説)
(1)通知・公告及び手続除外権の付与の時期・方法  
個別消費者に手続除外権の確保は判決効拡張の根拠の一つである。手続除外権の付与の前提として,各個別消費者に対して,基本的には個別の通知により,本制度による訴訟手続の存在及びその具体的内容に関する情報を,各個別消費者が手続除外権を行使すべきかどうかの是非を判断しうる程度に提供することが必要である。個別の通知を行うことは困難な場合には,公告により手続除外権を付与することすべきである。
(2)通知・公告を行う主体及び要する費用の負担
手続除外権の付与に伴う通知・公告は,本訴訟手続に不可欠のものであり,裁判を受ける権利の保障及び判決効の拡張を正当化するためのものであるから,裁判所において行うものとするのが適切である。
通知・公告に要する費用についてであるが,個別通知費用は多額になることが想定されるところ,現在の適格消費者団体の財政状況を考える実際に手続実施を期待することは困難である。本訴訟手続は被害を受けた消費者全体の救済が目的であり適格消費者団体自身が利益を受けるものではないことからすれば,費用を国において負担するは合理性があると考えられる。

  7  損害額の立証及び認定における特則(文書提出命令の強化,損害計算のための鑑定,損害額の擬制)

(文書提出命令の強化)
1  裁判所は,損害賠償等団体訴訟において,適格消費者団体の申立により,相手方に対し,当該損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる。ただし,その所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるときは,この限りでない。
2  裁判所は,前項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかの判断をするため必要があると認めるときは,書類の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては,何人もその提示された書類の開示を求めることはできない。
3  裁判所は,前項の場合において,第1項ただし書に規定する正当な理由があるかどうかについて,前項後段の書類を開示してその意見を聴くことが必要であると認めるときは,当事者等に対し,当該書類を開示することができる。
4  相手方が,第1項の提出命令に従わないときは,裁判所は,適格消費者団体の損害額の主張を真実と認めることができる。

(損害額計算のための鑑定)  
  損害賠償等団体訴訟において,適格消費者団体の申立により,裁判所が当該損害を計算するため必要な事項について鑑定を命じたときは,当事者は,鑑定人に対し,当該鑑定をするため必要な事項について説明しなければならない。

(損害額の擬制)
1  損害賠償等団体訴訟において,適格消費者団体の主張する損害額を否認するときは,相手方は自己の主張する損害額を明らかにしなければならない
2  相手方において前項の損害額の主張をしないときは,裁判所は,適格消費者団体の主張する損害額を真実と認めることができる。

(相当な損害額の認定)
  損害賠償等団体訴訟において,損害が生じたことが認められる場合において,損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる。
(解説)
  本訴訟手続は,個別消費者に生じた損害額について主張立証することが必要となるが,訴訟手続に直接参加しない消費者の損害額の全体について,通常の民事訴訟手続と同様の方法で行うことは極めて困難なものとなる。
そのため,本訴訟手続の特殊性を踏まえて主張立証に関し,上記のような特則を設けることが必要である。

  8  分配者及び分配方法等について

(分配者及び分配方法)
1  原告適格消費者団体は,損害賠償等団体訴訟による確定判決等に基づいて事業者等から金銭の支払をうけたときは,本法の定めるところにより,当該金銭を当該確定判決等において定められた対象消費者(第○条に基づく除外の申出をした者を除く)に対して配当しなければならない。ただし,下記の事由に該当すると認められるときは,適格消費者団体は,裁判所の許可を得て,消費者団体訴訟制度の運用を支援するために設立された基金への組み入れ,その他消費者の利益の増進に資する方法であって政令で定める方法により,当該金銭を処分することができる。
  ①  確定判決等に基づいて事業者から支払をうけた金銭の額が,適格消費者団体が受取るべき報酬及び配当手続に要する費用を支弁するのに不足することが明らかな場合
  ②その他,①に準ずる場合として,政令で定める場合
2  原告適格消費者団体は,前項の配当を行うにあたり,裁判所の許可を得て,配当手続を行わせるための補助者を選任することができる。

(配当の具体的手続及び手続の監督・異議の取扱)
1 損害賠償等団体訴訟における配当手続に係る事件は,当該訴訟の第一審裁判所の管轄に専属する。
2  損害賠償等団体訴訟における配当手続は,破産法の規定に準じて定められるものとする。
3  損害賠償等団体訴訟における配当手続に係る事件は,裁判所の監督に属する。

(過不足の処理)
1  配当請求の届出を行い配当手続に参加することが認められた対象消費者の請求額の合計額が確定判決等に基づいて事業者から支払をうけた金銭の額より適格消費者団体が受取るべき報酬及び配当手続に要する費用を控除した額を超えるときは,当該対象消費者の請求額の割合に応じて,配当をする。
2 配当手続が終了した時において,確定判決等に基づいて事業者から支払をうけた金銭の余剰金が生じたときは,適格消費者団体は,裁判所の許可を得て,消費者団体訴訟制度の運用を支援するために設立された基金への組み入れ,その他消費者の利益の増進に資する方法であって政令で定める方法により,当該剰余金を処分することができる。
(解説)
(1)賠償金の分配の必要性とその例外について
      本制度は,消費者自ら損害を回復することが困難な被害について救済を目的とするものである。本制度を通じて事業者等から支払われた金員は可及的かつ最大限に個々の被害者に金銭を持って分配されるべきである。
      個別分配を実現するために分配者又は個々の消費者が要する費用が,個別分配金額を上回る等,個別分配を実施することに合理性が認められないや困難な場合等においても,事業者に違法な収益を残さず公正な取引社会を実現するという目的実現のためにも,収益を違法な事業活動をした当該事業者において保持させるべきではない。そのような場合には,本制度の活用のための基金創設等当該資金を消費者全体の利益のために有効に活用することを可能にするべきである。
(2)分配を行う者について
当該事案の被害実態は当該訴訟手続の原告として訴訟を追行した適格消費者団体である。そのため,原告となった適格消費者団体が分配手続を行う事ことが合理的であり,かつ,効果的である。
(3)本訴訟手続は,多数の消費者被害について具体的な損害額について具体的に個々の消費者の手続参加によって認定するものではない。そのため分配手続の段階で過不足が生じる場合がありうるため,その場合の処理方法を規定してことが必要がある。

  9  和解,訴えの取下げ等

1  適格消費者団体は,裁判所の許可を得なければ,損害賠償等団体訴訟に係る訴えの取下げ,請求の放棄,裁判上の和解,上訴の取下げをすることはできない。
2  裁判所は,請求に関する当事者の主張,口頭弁論の全趣旨,証拠調べの結果及び裁判上の和解にあっては当該裁判上の和解によって対象消費者が得られる利益の内容を踏まえ,対象消費者の利益を不当に侵害しないと認めるときでなければ,前項の許可をしてはならない。
3  裁判所は,適格消費者団体から第1項の許可の申出をうけたときは,直ちに,次に掲げる事項を対象消費者(ただし,当該許可の申出のときにおいて,その氏名及び住所が明らかとなっている者に限る)に対して通知をするとともに,公告をしなければならない。
(1)適格消費者団体の名称及び住所並びに代表者の氏名
(2)被告の名称及び住所並びに代表者の氏名
(3)請求の要旨,紛争の要点
(4)対象消費者の範囲
(5)適格消費者団体より第1項の許可の申出があった旨
(6)対象消費者は裁判所に対して書面により意見を申出ることができる旨,及びその期間,方法
(7)裁判上の和解の許可の申出にあっては,除外の申出をできる旨及び除外の申出の時期,方法
(8)訴えの取下げ等の効力が対象消費者(請求の放棄,上訴の取下げ,裁判上の和解にあっては対象消費者であって除外の申出をしなかった者)に及ぶ旨
(9)その他,最高裁判所規則で定める事項
4  前項の通知及び公告の方法及び費用については,第○条及び第○条(訴訟追行許可決定段階での通知・公告の方法,費用の国庫負担)の規定を準用する。
5  対象消費者は,請求の放棄,上訴の取下げ,裁判上の和解の申出があったことに関する第3項の通知をうけたときは,除外申出期間内に,裁判所に対して,当該損害賠償等団体訴訟からの除外の申出をすることができる。
6  前項の申出は,書面によりしなければならない。
7  裁判所は,第3項の通知及び公告をした日から2ヶ月が経過しなければ,第1項の許可もしくは不許可の決定をしてはならない。
8  裁判所は,第1項の許可をするにあたっては,対象消費者(除外の申出をした者を除く)の意見を述べる機会を与えなければならない。

(解説)
  本制度に基づく訴訟手続において審理の対象は個別消費者の請求権であるため,和解,訴えの取下げ,請求の放棄等を否定すべき理由はない。
  しかし,本制度に基づく訴訟手続には訴訟手続に直接参加しない個別消費者の請求権を審理するものであるため,和解等を行う場合に個別消費者の利益が不当に侵害されないようにしておくことが必要である。
  その一環として,和解成立前において再度通知・公告を行い手続除外権を付与し,個別消費者において和解に応じるかどうかの判断権を付与すること必要である。

10  費用・報酬

1  適格消費者団体は,確定判決等に基づいて事業者から支払を受けた金銭から,費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる。
2  適格消費者団体は,裁判所に対し,前項の報酬について意見を述べることができる。
3  第1項の規定による決定に対しては,即時抗告をすることができる。

(解説)
本制度に基づく訴訟手続において原告となる適格消費者団体は,手続の対象となる個別消費者の利益のために訴訟追行するものであるから,判決もしくは和解により個別消費者が利益を得たような場合には,適格消費者団体に対して一定の報酬を付与するのが適切である。
もっとも,個別消費者と原告となる適格消費者団体の間には具体的な委任関係がないので,その報酬額については,個別消費者が得た利益,事案の複雑さなどを考慮し,適格消費者団体の申立に基づき裁判所において決定するものとするのが適当である。

11  その他の訴訟手続上の特則

  損害賠償等消費者団体訴訟に係る訴えは,訴訟の目的の価額の算定については,財産権上の請求でないとみなす。

(解説)
  適格消費者団体は,被害消費者のために公益的立場で本制度による訴訟を提起するものであり,自ら請求金額を取得するものではない。住民訴訟,株主代表訴訟と同様に訴訟の目的の価額の算定については,財産権上の請求でないとすべきである。

以  上

                                                                        


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