「割賦販売法の改正を求める意見書」(2011年7月22日)


2011年(平成23年)7月22日


衆議院議長  横  路  孝  弘  殿
参議院議長  西  岡  武  夫  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  細  野  豪  志  殿
経済産業大臣  海江田  万  里  殿
消費者庁長官  福  嶋  浩  彦  殿
内閣府消費者委員会委員長  松  本  恒  雄  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  小  川  達  雄



割賦販売法の改正を求める意見書



第1  意見の趣旨
  国は,割賦販売法を改正し,以下の内容を実施すべきである。
1  いわゆる決済代行業者に対し,割賦販売法その他の法令により,登録制を導入し,主務官庁による適切な行政監督権限を及ぼすこと
2  決済代行業者が,その提携先となる販売店・役務提供事業者に対して,個別信用購入あっせん業者が加盟店契約締結の際に負う調査義務に準ずる調査義務を負うこと
3  包括信用購入あっせん業者が,加盟店とカード利用者の間の販売契約または役務提供契約が解消されたことによる原状回復義務について,カード利用者に対して,加盟店と連帯して責任を負うこと
4  包括信用購入あっせん業者が,決済代行業者と提携した販売店または役務提供事業者と,カード利用者の間の販売契約または役務提供契約が解消されたことによる原状回復義務について,カード利用者に対して,決済代行業者の提携先と連帯して責任を負うこと
5  二月払購入あっせんについても信用購入あっせんと同様に割賦販売法の適用を認め,上記連帯責任等の規定を適用すること

第2  意見の理由
1  決済代行業者による被害の実態について
  近時,他の事業者の代わりに包括信用購入あっせん業者(カード会社)の加盟店となり,カード会社から支払われた立替金を当該事業者に送金することを業務とする「決済代行業者」が増加している。
  この決済代行業者については,現状登録制等の規制がなく,監督官庁も存在しないことにより,その提携先に対する審査・管理体制が整備されていない業者が多数参入している。
  その結果,いわゆるサクラを用いた出会い系サイトや,効果のない情報商材販売などの悪質業者をクレジットシステムに参入させる決済代行業者が増加し,消費者被害が多数発生している(2010年1月から9月までで2087件,独立行政法人国民生活センター「消費者問題に関する2010年の10大項目」(平成22年12月9日))。
  消費者庁による近時の調査結果でも,調査対象となった出会い系サイト100サイト全てにおいて,決済代行業者が介在したクレジット決済となっており,逆に決済代行業者を介在させないクレジット決済は確認されなかった(消費者庁第7回インターネット消費者取引研究会資料「いわゆる決済代行業者問題の考え方について」(平成23年2月10日))。
  被害の内容についても,見知らぬシンガポールの会社から請求が来たケースや,カード利用者がカード会社に支払拒絶を申し出ても,決済代行業者が間に入っているので調査に時間がかかると言われたケースなど,カード利用者にとっては実態がつかめず,解決が非常に困難となっている。
  特に問題が多いのが,決済代行業者が海外の銀行やカード会社の加盟店となり,日本に現地法人を置くなどして日本国内の業者と提携する類型である。
  このような類型では,カード会社からの請求がチャージバックによって解決した後でも,カード利用者が海外で代金請求訴訟を提起された例も報告されており,その悪質性は看過できない。
  また,資本の裏付けもないため,決済代行業者の倒産も間々起きており,決済代行業者と契約した複数の販売店等にとってはカード会社からの送金が受けられなくなる事態が生じている。
  このように,決済代行業者は悪質業者の媒介となって消費者被害を発生させているほか,倒産により取引秩序にも悪影響を及ぼすおそれがある。

2  決済代行業者の登録制について(意見の趣旨1)
  平成20年の割販法改正により,個別信用購入あっせん業者については登録制が導入されたが,決済代行業者については何らの規制もなされなかった。
  しかし,決済代行業者は末端の販売店等をクレジットシステムに参入させることを業務としており,この点でカード会社と同様の機能を有しているため,カード会社に対する規制強化のみでは不十分である。
  また,カード会社の直接の加盟店については,加盟店規約に基づく一定の管理が行われているが,決済代行業者の提携先はカード会社と直接の契約関係になく,加盟店規約に基づく管理が困難となっているのが現状であり,決済代行業者が海外の銀行やカード会社の加盟店となっている場合には,国内のカード会社はその管理に一層消極的である。
  他方で,決済代行業者は複数の提携先をまとめてクレジットシステムに参入させるため,加盟店拡大を志向するカード会社による自主規制は期待しがたい。
  そのため,現状では営業所や資本の実体が伴わず,提携先への調査及び管理監督能力もない決済代行業者の参入を阻止できておらず,前記1のような被害が生じているのである。
  したがって,決済代行業者については,提携先に対する調査及び管理監督を行わせるため,それに相応しい体制を備えた業者に限るべきである。
  また,決済代行業者の倒産により多数の提携先に影響が及ぶことからすれば,取引秩序維持の観点からも一定の規制が必要である。
  このような規制の趣旨は,決済代行業者が海外の銀行やカード会社の加盟店となっている場合にも及ぶと考えられる。
  会社法上,内国債権者保護のために,外国会社が日本国内で継続的な事業活動を行う際に,国内での登記義務(会社法817条1項)や財務内容の開示義務(同法819条1項,3項)を負うとされており,決済代行業者についても内国債権者保護の要請は強い。
  むしろ,前記のような決済代行業者による被害実態からすれば,内国債権者等の保護のためには形式審査となる登記を義務づけるだけでは不十分であり,より実質的な規制である法律に基づく登録制を導入することが会社法の趣旨にも適うといえる。
  また,登録までの準備期間を適切に設ければ,全ての決済代行業者に登録義務を課すことも可能である。
  以上から,決済代行業者には,割賦販売法その他の法令に基づく登録制を導入し,主務官庁による適切な行政監督権限を及ぼすべきである。

3  決済代行業者の提携先に対する調査義務について(意見の趣旨2)
  平成20年の割賦販売法改正によって包括信用購入あっせん業者には自社と加盟店契約を締結していない加盟店(アクワイアラー加盟店)の場合にも調査義務が課されたが(割賦販売法30条の5の2,同法施行規則60条3号ロ),アクワイアラーの加盟店調査義務や決済代行業者の提携先に対する調査義務については,何ら定められていない。
  しかし,イシュアーである包括信用購入あっせん業者は,アクワイアラーの加盟店や,自らと加盟店関係にない決済代行業者及びその提携先に対しては対応が消極的になりがちであり,イシュアーによる対応には限界がある。
  従前から信販会社の加盟店調査義務の根拠としては,経産省通達による加盟店の審査・管理に関する行政指導や,クレジットシステムによる悪質販売業者の助長等が挙げられてきたが(大阪高判平成16年4月16日消費者法ニュース60号137頁,静岡地裁浜松支判平成17年7月11日判時1915号88頁など),上記のように今回の割賦販売法改正によって,イシュアーにはアクワイアラーが介在する場合にも加盟店調査義務が定められ,従前の行政指導よりもクレジットシステム全体に対する規制は強化されているといえる。
  また,決済代行業者についても,前記のように悪質業者をクレジットシステムに参入させる媒体となっており,クレジットシステムによる悪質販売業者の助長という点では同様である。
  そのため,アクワイアラーはもとより決済代行業者に対しても提携先の販売店等への調査義務が課せられるべきである。
  特に問題となっているのは海外のアクワイアラーの加盟店となっている決済代行業者であり,国内のカード会社による調査・管理が及ばないとされているため,なおさら決済代行業者自身に加盟店調査義務同様の義務を課す必要がある。
  このように,悪質業者の参入を防ぐという趣旨からは,決済代行業者が提携先と決済代行に係る契約を締結する際に,提携先の業者が扱う商品・役務の内容や信用状況,特商法上の処分状況,苦情処理体制等について調査を行う義務(割賦販売法35条の3の5,同法施行規則75条1号及び76条2項ないし9項参照)を課すべきである。
  そして,現状では個別信用購入あっせん業者について,特定契約(特定商取引法上の訪問販売,電話勧誘販売などで通信販売は含まない。)の場合にのみ調査義務が課されているが,決済代行業者についてはインターネット等を通じた通信販売にも関わっていることが多いため,特定契約に限定することなく,通信販売も含めた契約全般について調査義務を課すべきである。
  なお,包括信用購入あっせん業者が,後記のような連帯責任を負うとしても事後的救済に止まるから,決済代行業者の提携先に対する調査義務は,悪質業者参入防止の事前策として別途定める必要がある。

4  加盟店とカード利用者間の販売契約または役務提供契約が解消された場合における包括信用購入あっせん業者及び加盟店の連帯責任について(意見の趣旨3)
  平成20年の割賦販売法改正で個別信用購入あっせん業者については,一定の場合に既払金返還義務が導入されたが,包括信用購入あっせん業者については導入されなかった。
  これは,改正当時には悪質商法による被害が個別信用購入あっせんで多発していたことによるものであるが,個別信用購入あっせんの規制強化,インターネット取引の急速な普及等により,既に問題事例は包括信用購入あっせんにシフトしてきている。
  例えば,国民生活センターの統計(PIO-NETにみる消費生活相談の概要)によれば,2004年度においては,販売信用における個品割賦の相談件数の割合が75.9%に達していたのに対し,2009年度では40.4%に減少している一方で,総合割賦については,2004年度で6.0%であったものが,2009年度には21.8%にまで増加している。
  被害の内容についても,カード利用者たる消費者にとっては解決困難であることは既に述べたとおりである。
  他方で,カード会社は国際ブランドを通じた加盟店開放によって,自己が開拓しない加盟店からも広く手数料収益を上げており,本来イシュアーであるカード会社が行っていたカード発行,加盟店の獲得・管理,加盟店への送金事務・カード利用者からの立替金回収等の業務を分業化することによって利益を拡大させている(イシュアーが自らの業務を他の業者に委託しているとみることもできる。)。
  このようにカード会社の利益獲得の手段である加盟店開放制度から生じたカード利用者に対する損害をもカード会社は負担するべきである。
  また,カード会社は国際ブランドを通じたカード決済のネットワークを通じて,問題のある加盟店に対処することが可能であるから,カード利用者の側に解決困難なトラブル処理の負担を負わせるべきではない。
  このような観点から,カード会社に対しては,抗弁の対抗に止まらず,加盟店と連帯して,カード利用者と加盟店間の契約から生じた原状回復義務を負担させるべきである。
  また,上記のような報償責任の観点からは,包括信用購入あっせん業者は海外のアクワイアラーを経由する海外決済においても,同様に連帯責任を免れない。
  イギリスにおいても,同様の観点から,カード利用者が加盟店に対して,加盟店の不実表示または契約違反に基づく請求権を有する場合には,カード会社に対しても同様の請求権を有するとされ,カード会社と加盟店の連帯責任が定められているが,海外決済であっても連帯責任についての規定は適用されると考えられている。
  以上から,国内決済か海外決済かを問わず,カード会社の加盟店とカード利用者の間で,販売契約または役務提供契約が解消された場合の原状回復義務について,カード会社は加盟店と連帯して責任を負うべきである。

5  決済代行業者と提携した販売店または役務提供事業者と,カード利用者間の販売契約または役務提供契約が解消された場合における包括信用購入あっせん業者及び決済代行業者の提携先の連帯責任について(意見の趣旨4)
  前記のような連帯責任を認める必要性は,カード利用者がカード会社の加盟店を利用した場合と,決済代行業者と提携する販売店等を利用した場合とで変わりがない。
  すなわち,カード利用者にとっては,請求元であるイシュアーと他の関係者がどのようにつながっているかが全く分からず,アクワイアラーや決済代行業者を選定することもできないため,加盟店でカードを使用するのと同様に自らのカードを利用したに過ぎないからである。
  また,分業化により,イシュアーが利益を増加させている構造は,決済代行業者が介在した場合においても変わらない。
  したがって,現状の多数当事者によるクレジットシステムを利用し,そこから利益を得ているイシュアーたる包括信用購入あっせん業者が,決済代行業者が介在した場合においても,悪質業者や末端の販売店等の債務不履行によるリスクを負担するべきことも同様である。
  そして,海外決済であってもカード会社は連帯責任を免れないことも既に述べた。
  したがって,国内決済か海外決済かを問わず,決済代行業者と提携する販売店または役務提供事業者と,カード利用者との間の販売契約または役務提供契約が解消された場合の原状回復義務について,カード会社は決済代行業者の提携先と連帯して責任を負うべきである。

6  二月払購入あっせんへの割賦販売法の適用(意見の趣旨5)
  以上のような決済代行業者の提携先に対する調査義務,カード会社と加盟店及び決済代行業者の提携先との連帯責任に関する規定を割賦販売法に設けたとしても,現行割賦販売法のように二月払購入あっせんが除外されている状態では,悪質業者はカード利用者に二月払購入あっせんを利用させることで容易に割賦販売法の規制を逃れることができる。
  現に国民生活センターの統計(PIO-NETにみる消費生活相談の概要)では,翌月一括払・ボーナス一括払についての相談件数は2006年度に7156件であったが,2009年度には11030件に増加している。
  また,二月払購入あっせんといえども信用を供与していることには変わりがなく,3回以上の分割という割賦要件が撤廃された現行割賦販売法から除外する必然性はない。
  そのため,上記のような施策に実効性を与えるには,二月払購入あっせんにも割賦販売法の適用を認めることが不可欠である。

以  上


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