意見書

大岩街道産廃処理施設問題に関する意見書(2002年1月24日)



2002年(平成14年)1月24日


京都市長  桝    本    頼    兼    様
京都弁護士会
会長  福  井  啓  介
(意見の趣旨)  
当会は京都市に対し、

1. 大岩街道沿い産業廃棄物処理施設周辺地域(以下、「本件地域」)の大気・土壌・水質等の
環境と周辺住民の健康状態について、住民参加のもとに、科学的で綿密な調査を実施するこ
とを求める。

2. 本件地域産廃処理業者に対して、不適正処理の事実を確認した場合には、廃棄物処理法等に
基づく権限を最大限に活用して、口頭指導だけにとどまらない改善・措置命令などの行政処
分を含む実効性ある措置をとることを求める。

(意見の理由)
第1  当会の調査経過

  1999年(平成11年)8月27日、「深草の環境を守る会」(連絡先大橋治雄氏)から当会に
対し、大岩街道沿い産業廃棄物処理施設問題に関する調査依頼がなされた。
  当会は、同年9月24日、「深草の環境を守る会」会員と面談のうえ、産廃施設が進出してきた経
過、被害の状況、京都市との交渉経過などについて説明を受け、2000年(平成12年)4月2
2日(土)、大岩街道産廃施設の現地調査を実施するとともに、当該地域住民から事情聴取をおこ
なった。
  さらに当会は、同年12月13日(水)、京都市産業廃棄物指導課担当者からヒアリング調査を実
施した。

第2  当会への調査申立に至る経緯

  本件地域では、1971年(昭和46年)頃から建設廃材などを中心とするいわゆる野焼きが大規模
におこなわれ、付近住民は煙・悪臭・粉塵などの被害に悩まされ、業者とのトラブルが頻発した。ま
た、業者による建設廃材・土砂などの野積み行為は事実上放置され、1976年(昭和51年)頃ま
でに、「岡田産業」による産廃の山が形成された(通称「岡田山」)。
  1978年(昭和53年)12月、岡田産業に対して再生処理業の許可が出され、同社は、廃コンク
リート等を路盤材に、廃木材等をチップに各再生する事業を開始したが、1986年(昭和61年)
頃、岡田産業は破産宣告をうけ右事業はとん挫した。さらに、同年11月12日、通称岡田山に大規
模な火災が発生した。
  大岩街道周辺の産廃関連業者は1996年(平成8年)頃には30社(業者)にも達し、前記のとお
り野焼き行為や廃棄物の野積が事実上放置されてきたが、1997年1月から京都市が現地に監視事
務所を設置して指導にのりだすに至り、ようやく野焼き行為等が沈静化にむかった。
同年4月頃より、5つの小規模焼却施設が順次稼働したが、その後も周辺住民の悪臭・粉塵などに関
する愁訴は絶えることはなく、1999年(平成11年)9月、有限会社エコクリーンが設置してい
る焼却炉から環境基準を大幅に超えるダイオキシン類が排出されていることが判明するなど、周辺住
民の健康被害が懸念される事態に立ち至っている。

第3  大岩街道沿い産廃施設周辺の環境及び産廃施設の現状について

1. 施設の現状
  当該地域は、京都市伏見区と山科区の境目に位置し、市街化調整区域に指定され観光農園など
が隣接している。観光農園においては、観光客や小学校の社会見学などの受け入れがなされてい
る。
  本件地域には、株式会社村上工業、有限会社サイセイ建設、有限会社エコクリーン(旧吉村建
設こと青山久生)、株式会社金田組、株式会社浜橋工業の5つの産廃業者が焼却炉を設置して操
業しており、前3社は解体業の許可を得ている。これらの業者は、当時30以上あった野焼き業
者の一つであって、1997年(平成9年)1月ころ京都市が一斉指導を行ったことから、焼却
施設設置の届出を出すことにより事業を継続した業者であるといわれている。なお、有限会社エ
コクリーンについては、最近、焼却施設を閉鎖して撤退した。
  各事業者が設置している焼却炉は、処理能力1日4.8トンないし4.9トン、1時間あたり
の焼却量0.6トンないし0.61トン、操業時間8時間と同規模となっている。処理する産廃
は、木くずのみが大半で、?浜橋工業のみ、木くずに加え、紙くず、繊維くずを含んでいる。


2. 大岩街道周辺の、大気・土壌汚染等の現状


a. 排気ガス
   1999年(平成11年)7月測定の、当該地域に設置された焼却炉から放出される
排気ガスに含まれるダイオキシン濃度は、以下のとおりであった(京都市発表。なお、
平成10年12月1日から平成14年11月30日までの間に適用される環境基準値は
80ng-TEQ/m3)。 350(ng-TEQ/m3、以下同)
(有)エコクリーン
(有)サイセイ建設 41
(株)金田組 11
(株)村上工業 6.6
(株)浜橋工業 1.1   
  京都市は、当該測定結果を受け、有限会社エコクリーンに対し、焼却炉の使用停止命令
(処理施設改善が確認できるまで)を行った。なお、京都市は、平成13年度補正予算に
おいて、有限会社エコクリーンの所有地ないし所有施設を買い取るための予算を計上、執
行した。
  なお、京都市における排ガス中のダイオキシン類排出濃度分布を見ると、大岩街道周辺
の各施設は、そのまま、京都市内における高濃度排出施設と一致している。

B. 大気
  京都市が設置している監視小屋周辺の大気中ダイオキシン濃度は、下記のとおり(京都
市発表。年平均値としての環境基準は0.6pg-TEQ/m3)。
1998年(平成10年)
1月 1.21
5月 0.31
7月 0.12
11月 0.48
1998年(平成10年)平均0.53
1999年(平成11年)
1月 0.82
5月 0.1
7月 0.087
9月 0.34
11月 0.12
1999年(平成11年) 平均0.3014
2000年(平成12年)
1月 0.25

  当該地点の年平均値は、環境基準値をわずかに下回っているものの、1998年(平成1
0年)及び1999年(平成11年)各1月には、基準値を大きく上回るダイオキシン濃度
が計測されている。(単位  pg-TEQ/m3)
  なお、上記各データは、専らダイオキシンに関するものであるところ、CO、SO2、N
Ox、SPM等の物質は対象になっていない。これらについて、伏見区には測定局、山科区
には測定局及び自排局がそれぞれ存在するが、当該測定局ないし自排局は、いずれも本件地
域から遠く離れており、そのデータは直ちに大岩街道周辺地域の大気汚染の現状を判断する
資料とはならないことから、当該地域において早急な測定が望まれるところである


c. 土壌
  操業停止命令が出された直後である1999年(平成11年)9月、有限会社エコクリー
ンの焼却炉周辺土壌についてダイオキシン測定が実施され、その結果は以下のとおりである
(環境基準値1000pg-TEQ/m3)。

直近地点の土壌 16  pg-TEQ/m3(以下略)
約100メートル地点土壌 17
約200メートル地点 24
約400メートル地点(馬谷町) 6.2
約450メートル地点A 14
同B(監視小屋) 30

   京都府環境白書(平成12年度版)による京都府の土壌中ダイオキシン類の計測値は以下
のとおりであり、ここからも本件地域の土壌汚染数値が際だって高濃度となっている。

一般区分
伏見区(南部公園付近) 0.17    pg-TEQ/m3(以下略)
久御山町 0.092
園部町 0.14
福知山市 0.84
峰山町 0.036

発生源周辺
大岩街道監視小屋 30
馬谷公園 6.2

  なお、京都市は、「岡田山」について「自然の山に変化した」とみるべきであるから現時点
においては土壌調査を実施する必要はないという見解である(当委員会の事情聴取に対する京
都市担当者の説明)。しかしながら、「岡田山」は産業廃棄物が野積みされて形成された「山」
であるから、現在も有害な産業廃棄物が残存している惧れがあり、速やかにダイオキシン類等
の残存調査を行うべきである。


D. 水質
  京都市は、本件地域下流にあたる七瀬川蓮心橋地点で、水質の常時監視を行い重金属類の測定
もしているが、現在のところ異常値は出ていないようである。


3. 周辺住民の愁訴と京都市の対応等
  本件地域住民からは、「のどが痛い」、「疲れやすい」、「黒煙がひどくて、窓が開けられない」などの
愁訴が絶えないことから、「深草の環境を守る会」は京都市に対し、1999年(平成11年)9月8日、
近隣住民の健康調査などを求める申入書を提出した。しかし、京都市は、大気・土壌に関する上記結果を理
由に、現時点で健康調査の必要はないとした。

第4  問題点と提言

1. 名古屋南部大気訴訟判決に示された行政の責任
  名古屋南部大気汚染公害訴訟判決(名古屋地裁平成12年11月27日判決)は、「被告国は国道23号
線沿道の排出ガスの継続的な濃度測定等被害防止策を講じるについての前提となる調査すら怠っている。し
たがって、(中略)被告国が従前行ってきた対策は十分であったとは言えない」として、国の国賠法上の責
任を認め、被害防止のための前提調査すら怠っていた国の姿勢を厳しく批判した。


2. 京都市の責務と権限
  地方公共団体は「住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」をその固有の事務とし(旧地方
自治法2条3項1号)、住民の健康を守るべき責務がある。
  また、地方公共団体は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という)に基づき、
産業廃棄物の適正な処理が行われるように必要な措置を講ずる必要がある。すなわち、廃棄物処理法を根拠
とする法定受託事務(地方自治法第2条第9項第1号)として、立入検査権が認められているほか(法第1
9条第1項)、産業廃棄物処理基準等に適合しない処理を行った者に対する改善・措置命令(法第19条の
3第2号、第19の5第1項)産業廃棄物処理業の許可取消し又は停止(法第14条の3)及び産業廃棄物
処理施設の許可取消し又は改善若しくは使用停止命令(法第15条の3)等の事務を受託している。
  さらに、環境基本法28条は、「国は(36条で地方公共団体に準用)、環境の状況の把握、環境の変化
の予測又は環境の変化による影響の予測に関する調査その他の環境を保全するための施策の策定に必要な調
査を実施するものとする」とし、大気汚染防止法18条の23においても「地方公共団体は、その区域に係
る有害大気汚染物質による大気の汚染の状況を把握するための調査の実施に努めなければならない」とし、
京都市環境基本条例18条も「本市は、公害その他の人の健康又は生活環境に係る環境の保全上の支障を防
止するために必要な措置を講じなければならない」としている。
  このように、京都市は住民の健康および生活環境を守るべき責務があり、上記のように廃棄物処理施設か
らの排出物質により周辺住民の健康に憂慮すべき被害が発生している可能性がある事態に至った場合には、
積極的に住民の健康調査を行うべき法的義務が生ずると言うべきである。


3. 京都市による積極的対応の必要性
  京都市は前記のとおり、地域住民の健康を守り生活環境を保全する法的責務を負っている。
  ところで、本件地域について、京都市の指導により30余りの野焼き業者のうち5業者が小規模焼却炉を
設置して操業をおこなっているが、現在も周辺住民への煙・悪臭・粉塵等の被害はなくならず、住民の強い
苦情が続いている。 京都市も、地域内に監視小屋を設け野外焼却や焼却炉の使用状況について監視をして
きた。
  ところで、平成10年度(平成10年4月〜平成11年3月)において、京都市による監視活動総日数は
247日、巡回監視回数は延べ約1482回であり、その間の通報回数は151回、指導回数は307回(
多い業者から順に116回、113回、61回、14回、3回)である。実に毎日1回以上、いずれかの業
者が市から指導を受けていることになる。1999年(平成11年)9月3日、有限会社エコクリーンの排
ガス中のダイオキシン濃度が基準値を4.4倍も超過していたことが判明し、京都市は「改善命令」、「使
用停止命令」を出したが、それ以外については口頭指導にとどまり、文書による具体的な指導・命令にまで
至っていない。
  しかしながら、これだけ多数回にわたる口頭指導を繰り返しても実態が改善されないにもかかわらず同様
の指導を繰り返す方法には疑問を抱かざるをえない。焼却炉の構造・維持管理基準を厳格に遵守させ、悪臭
や煤煙を出さないよう行政指導を強化することは当然として、違反行為に対しては毅然とした態度で臨み、
具体的な改善指導・使用停止命令、これに従わない場合は許可の取消等の行政処分を迅速に行うことが望ま
れる。
  前記のとおり、京都市は、監視小屋を設置して大気等の調査や監視活動をおこなっているものの、(1)周辺
住民から健康被害の強い訴えがあること、(2)多数の産廃処理業者が狭い地域に集中しており、その中には基
準値以上のダイオキシン排出により使用停止命令を受けるほどの業者が存在したこと、(3)これら産廃処理業
者に多数回の指導を繰り返しても一向に改善が見られないこと、といったまことに憂慮すべき事態に立ち至
っている。にも関わらず、住民の希望する健康調査すら実施しないのは、前記名古屋南部大気訴訟判決で批
判された国の怠慢に比類する事態と言っても過言ではない。水俣病を例に挙げるまでもなく、我が国の公害
の歴史は、現実に進行している事態を直視しない行政の怠慢が、住民の健康被害を拡大させてきたことを苦
い教訓として残してきているのであり、またこの過ちを繰り返してはならない。


4. 環境調査の方法について
  環境調査を実施するに際しては、地元住民やその推薦する科学者の参加を保障し、測定器具の選定、測定
地点の決定、測定時間や回数など具体的測定方法について住民の意見を充分に尊重することが重要である。
大気中ダイオキシン調査は、信頼性ある測定結果を得るために、年4回にとどまらず可能な限り測定回数と
採取地点を増やす努力をすべきである。
  土壌中ダイオキシン測定は、採取ポイントの選定により大きな誤差が出ることから、京都市の設定した2
地点だけでは本件地域のダイオキシン濃度の実態を把握するためには十分であるとは言い難く、より多数の
地点を設定すべきである。
  水質についても、産業廃棄物処理施設から相当程度離れた場所での測定であるから、より近接したポイン
トにおいて測定を実施すべきである。
  ちなみに住民により、岡田山周辺等の雨水の電気伝導度検査が行われたところ、雨水の中に相当量の重金
属類が含まれていることが指摘されている。
このような住民らによる独自調査の結果と基準値の4倍強のダイオキシンを排出していた業者が存在してい
た事実をふまえた場合、京都市は、大気、土壌、水質について、よりきめ細かな環境調査を実施して本件地
域の汚染実態を解明すべきである。

5. 健康調査の必要性
  京都市は、ダイオキシン類の測定・水質調査・大気汚染の調査等を行った結果、その汚染はかなり低いレ
ベルなので健康調査は考えていないという方針を示している。
しかしながら、前記本件地域の大気・土壌汚染等の現状、周辺住民の健康被害に関する愁訴の実情からすれ
ば、近隣住民の健康に重要な影響が生じていることが危惧される。現に、地元住民が馬谷町住民149人を
対象に1997年(平成9年)12月に実施した健康調査結果によれば、「喉が痛い」、「疲れやすい」、
「咳がでる」、「風邪をひきやすい」、「体がだるい」、「頭痛・頭が重い」等々、さまざまな症状を訴え
る人が相当の高率で出ている。また、科学的な裏付けはなされていないものの、癌で死亡する人が多い、他
所から遊びにきた子供が喘息症状を発現するといった声も出されている。
   京都市が実施している環境調査の方法については、地域住民を納得させるものとはいえないところ、こう
した住民の苦情をふまえると、行政の責任において周辺地域について綿密な環境調査を実施したうえ、周辺
住民の健康調査を総合的に且つ早期に実施することが重要である。健康調査については体内・母乳中のダイ
オキシン類の調査も含める必要があろう。その場合、環境調査と同様、疫学的手法が不可欠であり、また地
元住民やその推薦する科学者の参加、健康調査方法について住民の意見を充分に尊重することが重要である。
  京都市は、清掃工場周辺住民については健康調査を実施してきているから、調査は実際上も可能であると
言うべきである。

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