「刑の一部執行猶予制度新設についての慎重審議を求める会長声明」(2011/11/18)


刑の一部執行猶予制度新設についての慎重審議を求める会長声明



  2011年11月4日、刑の一部執行猶予制度を新設することを主な内容とする刑法等の一部を改正する法律案及び薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律案(以下、二法案を合わせて「本法案」という。)が国会に上程された。これは、3年以下の懲役・禁錮の言い渡しをする際に、その一部の期間を実際に刑事施設に収容して執行し、その後残りの期間の執行を1年以上5年以下の期間猶予するというものである。たとえば、「懲役3年、うち1年の執行を5年間猶予する」という判決になり、実際に2年間は刑務所で服役し、その後5年間は猶予期間として社会で過ごすが、この間に執行猶予が取り消されない限りは、残りの1年は実際には服役しないという制度である。執行猶予期間中には保護観察を付けることができ、薬物使用等の犯罪の場合は必ず保護観察を付けるとのことであり、再犯防止を目的として、現行の実刑と執行猶予制度の中間的な領域にある制度を新設するものと説明されている。
  しかし、この制度には以下の問題点がある。
  すなわち、現行刑法典は、過去の行為に対する責任としての刑罰を定めている(行為責任主義)。ところが、本法案は、「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」に、刑の一部の執行を猶予できるとしている。これは、刑法典に、行為者の将来の危険性に着目した制度を新たに導入するものにほかならない。行為者の将来の危険性に着目して、刑期を超えて自由を制限するのはまさに保安処分的であると言わざるを得ない。
  たとえば、行為責任からすれば本来懲役2年が相当である事案について、行為者の将来の危険性に着目して、懲役2年6月としてそのうちの6月を2年間保護観察付執行猶予にするようなこと(初めの実刑部分は2年)があれば、明らかに行為責任主義に反する。また、同事案において、たとえ懲役2年としてそのうちの6月を2年間保護観察付執行猶予にしたとしても、1年6月服役した後にさらに行為責任主義の観点から定められた刑の残期間を超えて2年間にわたる保護観察が加わることは行為責任主義に抵触する可能性がある。
  よって、この制度の導入は、刑法典における刑罰のあり方を根本的に変容させる契機となるものであり、到底見過ごすことができない。
  また、この制度は、重罰化の懸念を含んでいる。すなわち、本法案における刑の一部執行猶予の要件は、現行の全部執行猶予の要件と重なっているため、現行制度において刑の全部執行猶予により施設収容を避けうる事案が、刑の一部について実刑となる可能性を排除できない。
  以上の問題点があるので、当会としては、本法案の刑の一部執行猶予制度の新設について、今国会で拙速に採決するのではなく、慎重に審議することを求めるものである。


2011年(平成23年)11月18日

                                          
京都弁護士会
              
                                                
会 長  小   川   達   雄


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