「岡崎地域活性化ビジョンの実現に向けた都市計画制限等の見直し素案」に対する意見書(2011年10月21日)


2011年(平成23年)10月21日


京  都  弁  護  士  会

会 長  小  川  達  雄



「岡崎地域活性化ビジョンの実現に向けた都市計画制限等の見直し素案」に対する意見書



意 見 の 趣 旨


    当会は、平成23年7月26日付「岡崎地域活性化ビジョンの実現に向けた都市計画制限等の見直し素案」(以下「素案」という。)に対し、以下のとおり意見を述べる。

1  岡崎地域の将来像を考えるにあたっては、岡崎地域の近代化遺産や、優れた都市景観・環境を保全し、既にある集積する文化・交流・集客施設を維持することを十分に考慮した方向で、検討がなされるべきである。
2  京都会館の改築、特にオペラ開催のために舞台機能を強化するのか否かについては、取りやめも含めて再検討すべきである。
3  京都会館の改築・高さ制限の緩和については、これまでに蓄積された様々な調査や検討の結果、および「京都会館再整備の方向性に関する意見書」における【A】案・【B】案、「京都会館再整備基本計画」における【改修案A】・【改修案B】を市民にわかりやすく再提示し、それらについての市民の意見を聴取した上で、「施設機能の充実に必要な高さの必要最小限の範囲」について再検討し、決定すべきである。
4  京都会館の建物の価値の承継において、以下の点に留意すべきである。
(1) 京都会館の建物の価値を改めて検証し、公表されたい。その際には、熊本県立美術館をはじめとする前川國男設計の建物に現実に比較調査を実施されたい。
(2) その上で、すくなくとも以下の4つの建物の特徴は、京都会館の「建物の価値」として、後世に引き継ぐべきである。
①  周囲に樹木を敢えて植栽し、それとの高さの調和を意識して設計された建物の外観
②  東山と連続するように設計されたドーム型の屋根形状
③  巨大な空間構成のホールホワイエ
④  建物内部と外部を連続的に見せる広大なガラス張りの仕切壁
5  素案の対象地域において、建物の高さの制限を緩和するに当たっては、地区計画によるのではなく、「京都都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)高度地区の計画書の規定による特例許可の手続に関する条例」で定める「特例許可制度」によるべきである。
6  主に平安神宮および岡崎通を隔てた東側地区について、用途地域を、第二種中高層住居専用地域から第二種住居地域とする変更は、なすべきではない。
7  「岡崎地域活性化ビジョン」の実現に向けた都市計画案を作成するにあたっては、都市計画の原案や関連する情報について具体的に情報開示や論点整理がなされるよう、また、情報開示や論点整理がなされたうえで住民の意見を十分に汲み取ることができるよう、公聴会が開催されるべきである。
8  「素案に関する市民意見募集の結果について」に対しては、市民の意見について十分な検討をしているかについて疑問を抱かざるを得ず、特に、具体的な反対意見については、十分な検討がなされているとは言い難い。
さらに、賛成意見についても、賛成とされているものをすべて本素案全体に賛成であるかのように扱っているが、その扱いも妥当とは言えない。
市民からの意見については、より有意義な扱いがなされるべきであり、より詳細な検討がなされるべきであって、その詳細な検討結果が公表されるべきである。


意 見 の 理 由


第1  岡崎地域の将来像について
  1  この素案は、平成23年に策定された『岡崎地域活性化ビジョン~世界の人々が集いほんものに出会う「京都岡崎」~』(以下「岡崎地域活性化ビジョン」という。)に基づき、その実現のために作成されたものであると説明されている(素案パンフレット1頁)。
  2  「岡崎地域活性化ビジョン」によれば、岡崎のポテンシャルは「①近代化の歴史と革新性(京都の近代化を牽引した進取の気風、近代化遺産)、②優れた都市景観・環境(優れたデザインの近代建築物群、水と緑が共生する創造的で豊かなオープンスペース、東山山麓に連なるスケールの大きな借景的眺望)、③年間500万人を超える人々の交流の場(集積する文化・交流・集客施設、豊富な文化財や有名な寺院・神社、ハレ舞台での様々な祭り・イベント・催し)」とされている。
      このような岡崎地域のポテンシャルのとらえ方は、岡崎地域においては現在のあり方こそが、岡崎地域の魅力であり、岡崎地域の発展にも必要であることが前提とされており、新景観政策にも合致するところであって、岡崎地域の特性を適切に評価したものであるといえる。
      その上で、岡崎地域の将来像は、上記岡崎のポテンシャルの更なる活用を図るためのものであり、相互に重なり合い、関連しながら発展するイメージであるとされている(岡崎地域活性化ビジョン3頁から6頁、7頁)。
  3  しかし、素案には「岡崎地域活性化ビジョン」の概要として、岡崎地域の将来像について、次の項目が記載されている(素案パンフレット2頁、岡崎地域活性化ビジョン7頁及び8頁)。

・新たな歴史への挑戦
・創造する文化・芸術の都
・継承する山紫水明の杜
・交流する観光・MICE拠点
・歩いて楽しい祝祭と賑わいの空間

これらの素案に示された岡崎地域の将来像は、「継承する山紫水明の杜」を除く5つのうちの4つの将来像までが、現在の岡崎地域のあり方の変革を目指し、現在の岡崎地域のたたずまいを破壊するおそれがあるものである。
そうすると、「岡崎地域活性化ビジョン」は岡崎地域の特性・魅力を正確に把握し、その活用を図ることを目的としながら、その将来像については、岡崎地域の特性を維持しようとする姿勢に欠けているのであって、目的と目指すべき将来像とが乖離しているといえる。
4  また、「岡崎地域活性化ビジョン(案)中間まとめ」パブリックコメント意見概要9頁の「優れた景観を継承し、更なる魅力創出」の分類に関する市民意見では、その多くが岡崎地域の現状を大切にしたいというものである。具体的には、20件の意見のうち14件は明確に岡崎地域の現状のたたずまいを大切にしたいとする意見である。
例として挙げると、「既存のすばらしい建物を後世に残せるよう、岡崎地域独自の景観・まちづくりを進めてほしい。」とするものや、「平安神宮や美術館、京都会館など個性的で魅力的な建物と大きな空間が醸し出すスケールの大きな景観を守ってほしい」、「自然と見事に調和した静かな岡崎の現状が魅力的である」、「のびのび、ゆったりとした空間のある岡崎の地をそっとしておいてほしい」といった内容である。
5  以上のことからすれば、岡崎地域の将来像を考えるにあたっては、岡崎地域の近代化遺産や、優れた都市景観・環境を保全し、既にある集積する文化・交流・集客施設を維持することを十分に考慮した方向で、岡崎のポテンシャルを活用するとの目的に合致するように、検討がなされるべきである。

第2  京都会館に対するオペラの開催が可能となる舞台機能の強化について
1  素案および「岡崎地域活性化ビジョン」における「創造する文化・芸術の都」あるいは、「交流する観光・MICE拠点」の将来像と関連して、京都会館について、世界一流のオペラの開催が可能となる舞台機能の強化が想定されている(岡崎地域活性化ビジョン12頁)。
また、京都会館再整備基本計画において採用された改修案【B】は、世界水準の総合舞台芸術の公演も可能とするために建物の高さが30メートル程度となる旨が記載されており、(京都会館再整備基本計画37頁)、素案の地区計画の指定に関しても、京都会館再整備基本計画に沿った形で京都会館所在の範囲(二条通から50メートル、琵琶湖疏水から10メートル、冷泉通から4メートルを超え、琵琶湖疏水から80メートルまでの範囲)の高さの最高限度を31メートルに設定することとされている(素案パンフレット8頁)。
2  このように、京都会館についてオペラ開催のために舞台機能を強化するためには、これまで以上に建物の高さを高くする必要があるところ、京都会館は、すでに約27.5メートルあり、他の近代建築物群や平安神宮の鳥居と比べても高いのであるから、それをこれ以上高くすることは、「岡崎地域活性化ビジョン」②優れた都市景観・環境において記された、「水と緑が共生する豊かなオープンスペース」や、「東山山麓に連なるスケールの大きな借景的な眺望」を破壊するおそれがあり、それは、「岡崎地域活性化ビジョン」に示された岡崎のポテンシャルを損なう可能性を大きくはらんでいる。
4  しかも、素案においては、「『京都会館再整備基本計画』で求められている施設機能の充実に必要な高さを踏まえ、必要最小限の範囲で定めます。」(素案パンフレット7頁)と記載があるのみで、31メートルの地区計画指定の必要性について十分な説明がなされていない。
5  市民意見を見るに、「岡崎地域活性化ビジョン(案)中間まとめ」パブリックコメント意見概要6頁によれば、京都会館の再整備に賛成するものが9件であるのに対し、オペラハウス化関連の意見の14件のうち12件は、明確にオペラハウス化に反対する意見であり、反対や懸念の声が根強くある。
6  以上の点から、京都会館の改築、特にオペラを開催するために舞台機能を強化するのか否かについては、取りやめも含めて再検討すべきである。

第3  京都会館の改築・高さ制限の緩和について
  1  素案における高さの最高限度の緩和は、京都会館再整備基本計画と密接に関係しており(素案パンフレット7頁)、B地区の京都会館所在の範囲(二条通から50メートル、琵琶湖疏水から10メートル、冷泉通から4メートルを超え、琵琶湖疏水から80メートルまでの範囲)の高さの最高限度を31メートルに設定することは、「『京都会館再整備基本計画』で求められている施設機能の充実に必要な高さを踏まえ、必要最小限の範囲で」あるとされる。
しかしながら、「京都会館再整備基本計画」が策定される中で、上記範囲での31メートルの設定が、「施設機能の充実に必要な高さである」ことについて、現在に至るまで、十分な情報提供がなされ、議論・検討が尽くされているとは言い難い。
  2  すなわち、京都市は、「京都会館再整備基本計画」の19頁・20頁に記載のとおり、基本計画に至るまで、様々な調査や検討を重ねてきた。
ところが、これとは別に、平成17年7月から平成18年7月の間に6回開催された京都会館再整備検討委員会で、「京都会館再整備の方向性に関する意見書」が作成されたが、この意見書は、第5回の検討委員会で、突如として京都市から(素案)として配布されたもの(第5回検討委員会摘録1頁・配付資料「京都会館再整備の方向性に関する意見書(素案)」)について、わずか2回の委員会で審議されただけで作成されたものである。
そうすると、この意見書は、その作成過程において、京都会館再整備の方向や内容について、第三者機関として、十分な時間と情報を得た上で、議論や検証がなされ、その結果が反映されたものであるとは言い難いものである。
3  また、京都市は、同意見書に対して、市民に意見募集をしたことはない。(平成19年に実施したアンケート調査(京都会館再整備構想策定に係る市民アンケートの調査結果)は、岡崎地域のイメージ等の調査というかなり抽象的なものであった。)。
4  つぎに、同意見書では、「委員会としては、現在の京都会館の建物を保存・継承しながら、施設水準の向上のために必要となる機能の再整備を行う【A】案(建物を保存し、内部を改修する案)もしくは【B】案(一部増築し、機能向上を図る案)を中心として、今後詳細な再整備の構想・計画を立案していくべきと判断する。」とされていた(「京都会館再整備の方向性に関する意見書」38頁)。
ところがその後、上記【B】案(一部増築し、機能向上を図る案)に絞られることになった。その理由は、平成19年に実施されたとされる京都会館機能改善可能性調査(「耐震診断や劣化度調査等を踏まえ、現状保持の改修と行った場合に機能改善が可能となる内容と一部増築をした場合に最低限必要となる機能改善レベルを調査した」とのことである。)によって、「現状保持による改修では、第1ホールの舞台機能を十分に改修することができないため、一部増築による改修が適切であるとの調査結果を得た。」ことによるということである(「京都会館再整備基本計画」20頁)。
しかし、この調査は、建物を保存するのか、一部増築するのかという京都会館の再整備の方向性についての決定要素になっているにもかかわらず、その調査結果については、具体的な内容が公表されていない。
5  さらに、京都市は、平成23年1月から1か月間、京都会館再整備に対する市民意見募集を行ったが、その意見募集用のリーフレット(全5頁)には、「老朽・劣化した箇所の改修以外にも、現状の舞台面積の拡大や、屋根形状を変更して舞台の高さをあげるなど、現代のニーズに合わせた大規模で思い切った改修が必要です。こういった状況に直面し、京都市では京都会館の再整備に向けた取り組みを進めています。」と記載し、再整備に関するイメージとして、京都会館の全面改修後の外観イメージを掲載して、【B】案については紹介しているものの、【A】案については紹介されていない。
そうすると、市民の中には、【A】案の存在を知らず、それと【B】案を比較検討したうえで、【B】案の是非を決しようとすることすら思い至らなかった者も、少なからず存するものと解される。
6  そして、平成23年5月に策定された「京都会館再整備基本計画」では、京都会館の第1ホールの一部を増築し、他は全面改修する案【改修案A】と第1ホールはすべて建て替え、他は全面改修する案【改修案B】を比較検討し、最終的に【改修案B】を再整備の方針としたという(「京都会館再整備基本計画」50頁・51頁)。
しかし、なぜ「一部増築」の【B】案が捨てられて、「第1ホールの全面建て替え」の【改修案B】に変更されたかについて、明確な説明はなされていない。
7  このように、京都会館の再整備の方針が【改修案B】に決まるまでに、様々な案が提出され、検討されたが、それがどのような理由で取捨選択されたかについては、京都市は、市民に幅広く情報提供したり、明確な説明をしてきたとは言い難い。
また、実のある意見募集をしたとも言い難い。唯一、具体的に京都会館の再整備に対しての市民の意見募集をした際でも、再整備案を複数列挙することはせず、わずか5頁のリーフレットをもとに、意見募集を行っている(意見募集締め切り後のわずかか3か月後に策定された「京都会館再整備基本計画案」は53頁もあることを考えると、同リーフレットには、より具体的な計画案を示すことが出来たはずである。)。
  8  また、京都会館の建物としての価値については、「京都会館再整備の方向性に関する意見書」、「京都会館再整備基本計画」の冒頭で若干述べられている程度であり、上記京都会館の再整備に対しての市民の意見募集の際にも、どのような価値があるのか等の記載はなく、不十分な情報提供しかしていない。
      京都市はこれまで、京都市が計画している京都会館の第1ホールをすべて建て替え、他は全面改修するということが、京都会館の建物の価値との関係でどのような意味をもつのかを、市民に十分に説明したとは言い難い。
9  以上のとおり、京都会館所在の範囲の高さ制限を31メートルに設定することが、「施設機能の充実に必要な高さである」ことについて、市民の意見を取り入れた上での議論は、極めて不十分であると言わざるを得ない。
そこで、京都会館の改築・高さ制限の緩和については、これまでに蓄積された様々な調査や検討の結果、および「京都会館再整備の方向性に関する意見書」における【A】案・【B】案、「京都会館再整備基本計画」における【改修案A】・【改修案B】を市民にわかりやすく再提示し、それらについての市民の意見を聴取した上で、「施設機能の充実に必要な高さの必要最小限の範囲」について再検討し、決定すべきである。

第4  建物の価値と承継すべき価値について
1  京都市は、京都会館再整備基本計画において、京都会館の「建物価値を継承しつつ、施設の老朽化や設備・機能の不足などの課題を解消し、現代の利用需要に適合させることを目的」とするとしている。
同計画については、「岡崎地域活性化ビジョンの実現に向けた都市計画制限等の見直し素案」のパンフレットの7頁にも紹介されている。
ところで、京都会館の建物としての価値は、
①   周囲に樹木を敢えて植栽し、それとの高さの調和を意識して設計された建物の外観
②   東山と連続するように設計されたドーム型の屋根形状
③   巨大な空間構成のホールホワイエ
④   建物内部と外部を連続的に見せる広大なガラス張りの仕切壁
などにあらわれていると思われる。
2  この点、(社)日本建築学会京都支部が2007年2月15日に著した「京都会館保存要望書」において、京都会館の価値を次のように認めている。
「京都会館はコンサートホール,劇場,会議場の三つの機能をL形に配置し,囲まれた中庭的な広場にピロティを経て進むという構成をとります。この平面は寝殿造りにもなぞらえられてきました。一方で,骨太な打ち放しコンクリートの柱・梁,大型タイルによって重厚さを演出し、力強い秩序感を街並みに与えています。この手法は「禅寺の持つ素朴ではあるが力強い荘厳に似通う」と評価されました。こうした造形によって,モダニズム建築が「合理主義」のスローガンに災いされて表現として貧しいものになりがちであった問題点を克服することに成功しました。まさに日本的なモダニズム建築のありようを体現する建築であるといえます。」
また、同支部が同日付で著した「京都会館に関する見解」においては、「前川(國男)は京都会館において,軒に深い庇をめぐらし,壁面にはバルコニーを設けて,そこに特徴的な手すりを配することで,流れるような水平方向の動きを生み出した。またバルコニーとピロティを巧みに組み合わせて,建築の内部と外部のつながりを演出した。それらは日本建築の低平な構成と建築の内外が一体化する空間性という二つの大きな特質と共鳴しあっており,岡崎地区の景観によく調和し,その特性を深めるものとなっている。日本建築学会においても,作品賞を与えるにあたって「千有余年にわたる古都としての雰囲気が今なおゆたかに漂っている京都東山地区に近代建築を建設するという課題」の困難さを重視し,京都会館がこの難問を克服し「世論もあまねく認める」ところとなったことを評価している。」として、「京都会館の建築的,文化的価値がまことに高いものであることを申し上げる」と結んでいる。
3  そこで当会公害対策・環境保全委員会委員が、京都会館の設計者前川國男が設計し、昭和50年に竣工した熊本県立美術館を訪れた。これは、建物は、同じ設計者が設計した別の建物と比較することによってはじめて、その真の価値を発見することができると考えたからである。
同美術館は、
①   熊本城二ノ丸公園内にあり、周囲には鬱蒼とした樹木が林立しているところであるが、同美術館はその樹木よりも低く立てられており(高さは、地階をとることによって確保されている。)、周囲の景観と一致している(というか、建物の存在に気付かない。)。
②   外壁は、赤黒い煉瓦タイル張りであって、周囲の緑・空の青にうまく溶け込んでいる。
③   ホールホワイエが大きくとってある。特に地下が存在することから、ホワイエも、1階・地階が大胆に連続してとられており、大きな開放感を得られる。
④   建物内部と外部を連続的に見せる広大なガラス張りの仕切壁が本丸方向の壁一面を構成しており、これによって、熊本城二ノ丸公園、本丸などの周囲の良好な景観と建物内部が連続しているように感じられる。
こうしてみてくると、京都会館の建物の特徴と熊本県立美術館のそれとは、見事なまでに一致していることがわかった。
そうであれば、上記4つの京都会館の建物の特徴は、京都会館の「建物の価値」として、後世に引き継がれなければならないと考えられる。
4  しかし、素案のどこを見ても、京都市が引き継ごうとする京都会館の「建物の価値」に関する記載がない。
そこで当会会員が、平成23年8月9日(火)に開催された素案についての説明会で、上記4つの点は京都会館の建物の価値として引き継ぐべきであると考えるかを市に質問したところ、これに対する京都市の回答は、「いまの4つの何れが価値かは明確には答えられない。『京都会館の雰囲気』が価値だと考えている。」とのことであった。
5  以上の経緯を踏まえ、京都会館の建物の価値の承継において、以下の点に留意すべきである。
(1) 京都会館の建物の価値を改めて検証し、公表されたい。その際には、熊本県立美術館をはじめとする前川國男設計の建物に現実に比較調査を実施されたい。
(2) その上で、すくなくとも以下の4つの建物の特徴は、京都会館の「建物の価値」として、後世に引き継ぐべきである。
①  周囲に樹木を敢えて植栽し、それとの高さの調和を意識して設計された建物の外観
②  東山と連続するように設計されたドーム型の屋根形状
③  巨大な空間構成のホールホワイエ
④  建物内部と外部を連続的に見せる広大なガラス張りの仕切壁

第5  建築物等の高さの最高限度の緩和の手法について
  1  素案においては、地区計画の指定によって、従来の建築物等の高さの最高限度を緩和することになっている。しかし、以下の理由から、本件において、これを地区計画によって行うことには問題がある。
2  地区計画(都計法12条の4第1項1号)は、「建築物の建築形態、公共施設その他の配置等からみて、一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し、開発し、及び保全するための計画」(同法12条の5第1項本文)として、都市の広域的な観点からの計画とは別に、それぞれの地域的特性を活かし、居住環境の整備を図ることを目的とした計画である。
    しかし、今回、京都市が地区計画を指定する範囲は、地域住民が居住している地域を敢えて外していることから、京都市は地域住民の意見を聴取する機会を持たずとも地区計画を策定することができることになるが、このように、地域住民の居住している区域を敢えてはずして、地区計画を策定するという手法は、地域的特性を活かすという同制度の目的に明らかに反している。
  3  また京都市は、2007(平成19)年9月、それまでの景観政策を大きく転換する「新景観政策」を実施し、市街地について思い切ったダウンゾーニングを実施した。
その上で、当該地域において、高さの制限を変更しようするときは、「京都都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)高度地区の計画書の規定による特例許可の手続に関する条例」で特例許可制度を設け、高さ制限を超える建築物については、周辺住民に周知させる説明会の開催(7条)や景観審査会への意見聴取(13条)の手続等を義務づけ、例外的に建築物単位で、高さ制限を超える建築物を認めている。
しかし、今回、京都市は、この特例許可制度ではなく、地区計画を指定することで、建築物等の高さの最高限度を定めようとしている。しかも、市民に対し、上記のような厳格な手続が要求される特例許可制度を利用しない理由や、地区計画によることの必要性・妥当性について説明がなされたとは認めがたい。
これは、京都市が自ら設けた特例許可制度において必要な周辺住民への説明会の開催や、景観審査会への意見聴取等の手続を、全て省くことを可能にするものであって、高さ制限の変更に際しては、住民意見を慎重に判断しようとする上記条例の趣旨を無に帰せしめることになるばかりか、このような方法を採用することは、京都市は、自ら策定した「新景観政策」を放擲し、厳格に定められた住民意見聴取の手続をとらずに高さ規制を緩和するものと評されても致し方のないものである
4  以上より、素案の対象地域において、建物の高さの制限を緩和するに当たっては、地区計画によるのではなく、「京都都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)高度地区の計画書の規定による特例許可の手続に関する条例」で定める「特例許可制度」によるべきである。

第6  用途地域の変更について
1  素案では、主に平安神宮および岡崎通を隔てた東側地区について、用途地域を、第二種中高層住居専用地域から第二種住居地域に変更する提案がなされている(素案パンフレット5頁)が、この変更はなすべきではない。
その理由は以下のとおりである。
  2  第二種住居地域では、第二種中高層住居専用地域より、建築できる建築物の種類は相当多くなり、ホテル・旅館、ボーリング場、スケート場、水泳場、ゴルフ練習場、バッティング練習場、カラオケボックス、麻雀屋、パチンコ屋、射的場、馬券・車券発売所、自動車教習所、畜舎、工場、自動車修理工場、危険物の貯蔵・処理の施設などの建築ができることとなる。
しかし、このような建築物は、素案が謳っている「岡崎地区の歴史的風致の維持向上」には適切でない。
3  従前からの第二種中高層住居専用地域であることに不都合があるのであれば、不都合の内容を明らかにすべきであるし、第二種住居地域に変更する必要性があるのであれば、必要性を具体的に明らかにすべきである。
第二種住居地域に変更される範囲のほとんどが平安神宮の敷地であるが、平安神宮の敷地について第二種中高層住居専用地域が不都合である理由、第二種住居地域に変更する必要性を具体的に明らかにすべきである。
第二種住居地域に変更される範囲の一部は岡崎通の東側の地域である。岡崎通の東側の地域と平安神宮の敷地の性格は全く異なる。したがって、岡崎通の東側の地域について第二種中高層住居専用地域が不都合である理由、第二種住居地域に変更する必要性は、平安神宮の敷地についての不都合の理由・必要性とは異なるはずである。したがって、平安神宮の敷地と岡崎通の東側の地域の両方について、別々に、第二種中高層住居専用地域が不都合である理由、第二種住居地域に変更する必要性を具体的に明らかにすべきである。
4  平成23年8月6日および9日に開催された説明会では、単に「岡崎の活性化・機能強化のため用途地域の変更が必要である。」と説明されたようであるが、このような説明は抽象的に過ぎ、必要性が具体的に明らかにされたとはいえない。また、敷地面積の関係からホテルの建築は事実上可能性が少ないとも説明されたようであるが、広い敷地を取得すればホテルの建築は可能となるので、ホテルが建築される可能性を否定することはできない。
第二種中高層住居専用地域であることの不都合や第二種住居地域とすることの必要性が具体的に明らかにされていない上に、上記のような不都合性が認められる以上、用途地域の変更には合理的理由がない。
5  そもそも、今回の地区計画指定の範囲は、上記で述べた用途地域指定との関係で、大きな問題を孕んでいる。
      今回の用途地域の指定の変更にあたっては、第5でも触れたとおり、地区計画の指定を伴っているところと、そうでないところとがあり、これにより建築できる建物の種類が大きく異なってくることが、重要な問題である。
すなわち、岡崎通の東側及び日本聖公会京都聖マリア教会等の建物の南側の部分以外の地域では、用途地域が変更されたとしても、地区計画の指定によって、第二種住居地域で可能な建築物等の用途の制限(居住施設・病院等の福祉施設、ボーリング場等の娯楽施設、パチンコ等の遊戯施設・自動車教習所、自動車車庫(地上の床面積の合計が600平方メートルを超えるもの)が一応なされているのに対し、岡崎通の東側及び日本聖公会京都聖マリア教会等の建物の南側の部分については、地区計画の指定から除外されている。
何らの合理的な理由も示されない状態で、岡崎通の東側及び日本聖公会京都聖マリア教会等の建物の南側の部分について、上記で述べたようなホテル・旅館、ボーリング場等の建築を可能にしてしまうことは許されない。
6  以上のことから、頭書のとおり、主に平安神宮および岡崎通を隔てた東側地区について、用途地域を、第二種中高層住居専用地域から第二種住居地域とする変更は、なすべきではない。

第7  公聴会開催の必要性について
  1  素案に基づき、特別用途地区、用途地域、地区計画についての都市計画案の縦覧が平成23年11月に予定されている。
      しかし、現状のままで、都市計画の決定に至ることは、以下の理由から問題がある。
2  都市計画法第16条第1項
都市計画法第16条第1項では、都市計画の案を作成しようとする場合において、必要があると認めるときは、公聴会・説明会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講じることとされている。
これは、都市計画の案が作成された後の手続としての法第17条の縦覧及び意見書の提出とは別に、都市計画の案の作成の段階でも住民の意見をできるだけ反映させようという趣旨である。特に、法第16条第1項において公聴会の開催を例示しているのは、住民の意見を反映させるための措置として、住民の公開の場での意見陳述の機会を確保すべきという趣旨であることに留意する必要がある。
この場合における説明会は、地方自治体が作成した都市計画の原案について住民に説明する場であると考えられる。これに対し、公聴会は、地方自治体が作成した都市計画の原案について住民が公開の下で意見陳述を行う場と考えられる。
そして、公聴会において住民が十分な意見陳述を行うためには、都市計画の原案についての十分な情報の開示及び論点の整理等がなされることが前提となる。このような前提を欠いたまま公聴会という名称の住民の意見陳述の機会が設けられたとしても、都市計画法第16条1項における説明会に該当することはあっても、公聴会を開催したことにはならないものと考えられる。
3  都市計画運用指針の内容
平成18年11月に国土交通省が定めた都市計画運用指針は、「都市計画への住民参加の要請がますます強まる中で、都市計画決定手続における住民参加の機会を更に拡大していく観点から、今後は、都市計画の名称の変更その他特に必要がないと認められる場合を除き、公聴会を開催するべきである。ただし、説明会の開催日時及び開催場所が事前に周知され、かつ、都市計画の原案の内容とこれについての具体的な説明が事前に広報等により行われ、住民がこれを十分に把握し得る場合であって、住民の意見陳述の機会が十分確保されているときは、その説明会を公聴会に代わるものとして運用することも考えられるが、この場合においても、住民がその内容を把握した上で、公開の場での意見陳述を行う場となるよう十分留意するべきである。」と規定している(都市計画運用指針V-2)。
なお、同指針策定の趣旨として、「国として、今後、都市政策を進めていくうえで都市計画制度をどのように運用していくことが望ましいと考えているか、また、その具体の運用が、各制度の趣旨からして、どのような考え方の下でなされることを想定しているか等についての原則的な考え方を示し、これを各地方公共団体が必要な時期に必要な内容の都市計画を実際に決め得るよう、活用してもらいたいとの考えによるものである。」と規定している(都市計画運用指針Ⅰ)。
このようなことから、同指針に反する方法を採ることは、都市計画制度の趣旨に照らして望ましいとされている運用に反することになり、ひいては都市計画法の趣旨に反することになる。
4  公聴会を開催することなく都市計画を進めることは、都市計画運用指針に反すること
上記指針によれば、「都市計画の名称の変更その他特に必要がないと認められる場合を除き」公聴会を開催するべきであるとしており、原則として公聴会を開催し、例外的に公聴会の開催が不要な場合がある、としている。
このようなことから、京都市が、今回の岡崎地域活性化ビジョンの実現に向けた都市計画の案の作成にあたり、案の内容について住民に対して十分な情報開示及び論点整理をしたうえで、公聴会において住民に十分な意見陳述をする機会を設けるという措置を講じることなく進めることは、上記指針に反するものである。
なお、上記指針には、説明会の開催日時及び開催場所が事前に周知され、かつ都市計画の原案の内容についての具体的な説明が事前に広報等により行われ、住民がこれを十分に把握し得る場合であって、住民の意見陳述の機会が十分確保されているときは、その説明会を公聴会に代わるものとして運用することも考えられる旨規定する。
この点本件においては、平成23年8月6日および9日に、住民に対する説明会が行われたが、都市計画の原案の内容について、特別用途地区の指定、用途地域の変更、地区計画の指定といった抽象的な説明がなされたにとどまり、そのような都市計画によって今後どのような建築物を建てるのか等について、具体的な説明が行われたとはいえない。
また、同説明会において、住民の意見陳述の機会は一応設けられたものの、住民が意見を陳述するための前提となる都市計画の原案についての十分な情報開示や論点の整理等がほとんどなされておらず、住民が意見陳述をするための前提が欠けていることは明らかである。
すなわち、本件において住民の意見陳述のための前提となる十分な情報提供や論点整理のためには、本素案の内容だけではなく、本素案作成の土台になっている「岡崎地域活性化ビジョン」及び「京都会館再整備基本計画」の具体的内容が明らかにされている必要があるほか、さらに、本素案によって目指すものと採用する手段との間の関連性が明らかにされてはじめて、住民が理解できる十分な情報が提供されたものといえる。
これを本件についてみると、まず、本素案の内容はパンフレットにおいて記載があるものの、住民の意見陳述の前提となる十分な情報開示がなされているとはいえない。例えば、「用途地域の変更」という点について、第二種住居地域に変更する、という点だけを記載し、その具体的内容(どのような建物の建築が規制されるのかなど)については全く記載がない。このような記載であれば、住民は用途地域の変更によって具体的にどのような効果があるのかを理解することはできず、住民に対する十分な情報開示がなされているとはいえない。
次に、「岡崎地域活性化ビジョン」の内容については、パンフレットの2頁においてその概要が記載されている。しかし、「岡崎地域活性化ビジョン」の実現のために、なぜ本素案記載の手段を採る必要があるのかについては、全く説明がなく、目指すものと採用する手段との間の関連性が不明確である。例えば、「地域の魅力を高める施設機能の強化・新たなにぎわいの創出に向けて」という点については、これを実現するために「特別用途地区の指定・特別用途地区建築条例の制定」「用途地域の変更」「地区計画の指定」「風致地区特別修景地域の指定」といった制度を活用する旨が記載され、それぞれの制度内容について説明がなされている。しかし、「地域の魅力を高める施設機能の強化・新たなにぎわいの創出」のために、なぜ地区計画の指定によって建築物等の高さの最高限度の緩和をする必要があるのか、なぜ用途地域を第二種中高層住居地域から第二種住居地域に変更する必要があるのか、などについては全く記載がない。このように、「岡崎地域活性化ビジョン」と本素案記載の手段を採用することとの間の関連性が不明確である。
また、「京都会館再整備基本計画」については、パンフレット7頁の注において、「建築価値を継承しつつ、施設の老朽化や設備・機能の不足などの課題を解消し、現代の利用需要に適合させることを目的として、平成23年6月に策定」との説明があるのみで、その内容については、パンフレットには全く記載がない。なお、「京都会館再整備基本計画」の内容は、ホームページ等で閲覧することは可能であるが、住民としては、本素案の全体像を把握しようとすると、パンフレットだけではなく、それ以外の資料を逐一参照しなければならない。当該パンフレットだけを見て、本素案の目指す全体像を正確に把握することができるものであってはじめて、住民に対して実質的に十分な情報開示がなされたものといえるところ、本件のような情報開示では、住民に対して形式的に情報を開示しているとのそしりを免れず、住民が実質的にその内容を理解できるものとは到底いえない。
以上のような情報開示の方法によれば、住民は、十分に本素案の内容や目指すべき全体像、本素案の目指すものと採用する手段との間の関連性を把握することができないまま意見陳述をすることになり、住民が十分な意見陳述をすることはできない。このような意味で、本件においては、意見陳述の前提となる住民に対する本素案に関する十分な情報開示及び論点整理がなされているとは到底いえない。
よって、本件においては、平成23年8月6日および9日に行われた説明会の開催をもって、公聴会に代わるものとすることはできない。
したがって、京都市が、岡崎地域活性化ビジョンの実現に向けた都市計画案の作成にあたって公聴会を開催しないまま都市計画を進めるとすれば、国土交通省が規定した都市計画運用指針に反することとなり、ひいては都市計画法の趣旨に反することとなる。
5  結論
以上のとおりであるから、「岡崎地域活性化ビジョン」の実現に向けた都市計画案を作成するにあたっては、都市計画の原案や関連する情報について具体的に情報開示や論点整理がなされるよう、また、情報開示や論点整理がなされたうえで住民の意見を十分に汲み取ることができるよう、公聴会が開催されるべきである。

第8  「『素案』に関する市民意見募集の結果について」に関して
1  意見のまとめ方について
第7で述べたように、そもそも、市民からの意見の募集の際には、十分な情報を市民に開示し、市民に分かりやすい説明をしていることが必要であるが、本件意見募集においては、市民に分かりやすい説明をしていたとはいえず、意見募集のための前提を欠いていたといえる。
もっとも、本件計画に対する市民の参加という意見募集の趣旨からすれば、十分な説明がされていなかったとしても、意見には十分な配慮を示し、特に反対意見は計画に問題があることを示すものであることから、市民・地域住民の参加の観点からより重視されるべきである。
2  京都市は、平成23年9月、「『素案』に関する市民意見募集の結果について」を公表したので、これについての意見を述べる。
まず、1頁目に意見の内訳が示されているが、各項目の賛成反対の意見数については示されておらず、賛成反対意見の総数しか示されていない。しかしながら、本件は多数の論点を含んでいるのであって、例えば、全体的なビジョンとしては賛成であるが、用途地域の変更には反対であるなどの意見があることが十分に考えられる(実際、意見総通数は309通であるにもかかわらず、意見件数は579件であり、同一の意見書において複数の意見が述べられていると考えられる。)。
そもそも、意見募集の段階においては、計画についての様々な意見が出されることを前提に、当該意見を参考にしつつ、計画の見直し等を図るものであり、賛成反対のいずれが多数であるかを総計するものではなく、むしろ、個別の論点に対する賛成意見・反対意見の内容について着目して判断しなければならない。
特に、以下の通り、個別の論点に対する賛成反対意見の総数を一覧すると、「用途地域の変更」「地区計画の指定」についての反対意見が多く、本意見書でも触れたとおり、少なくとも「用途地域の変更」「地区計画の指定」については、市民・地域住民としても問題点があるとの意見を有していることが判明するのであって、これらの点については、十分な検討が必要である。

意見区分          意見数          賛成意見          反対意見          その他
素案全般          51          34          9          8
特別用途地区の指定等          36          28          6          2
用途地域の変更          52          19          31          2
地区計画の指定          229          163          58          8
風致地区特別修景地域          15          11          2          2
屋外広告物規制区域の種別の変更          17          8          0          9
歴史的風致維持向上計画の変更          12          7          0          5

その他
岡崎活性化ビジョンについて          38          10          7          21
京都会館再整備          101          65          23          13
その他                                        28


3  個別の論点に対する意見について
(1) 上記のとおり、計画に対する各個別意見については、十分な検討が必要であるが、十分な検討が行われていない。本件意見結果の概要では、「賛成」「反対」「その他」と振り分けられているが、分けられたその振り分けにも問題があるものが散見される。
例えば、「素案全般について」の意見においては、その他意見の中では、「岡崎のよさを維持すべきである」「高さ制限が必要」という意見があったが、本計画の内容からすれば、むしろ反対に入れるべき意見がある。
また、「用途地区の変更について」の意見について「賛成」の中に「岡崎の特性を守るべきである」等の意見があるが、本件素案が岡崎の特性を守るものであるか否かは、容易には判断ができないところであり、これらの意見は単純な賛成とはいえない意見である。さらに、「地区計画の指定」については、賛成意見とされている意見の中に、「現在の建物の高さであれば、建物維持のためにやむをえない」旨の意見があり、このような意見は、京都会館について現在の27.5mを超えた高さ31mの建築を可能とする本件計画とは相反するものであり、反対意見として取り扱うべきである。
その他にも、妥当でない割振りが散見されている。
市民の意見については、それぞれ異なるはずであって、それぞれの意見についてその意見がいかなる意味を有するのかについて十分な検討・判断が必要とされるべきであるが、上記のような妥当とは言えない意見の割り振り方からすれば、そもそも、市民の意見について十分な検討を行っていないと言わざるを得ない。
(2) また、市民参加、住民自治の原則からして、反対意見については、慎重に検討がなされるべきであるし、賛成意見についても、当該意見が本計画全体に賛成とする意見であるかについて、精査しなければならない。
例えば、反対意見については、「地区計画の指定」については、多くの反対意見が高さ制限についての意見である(反対意見58件中、高さ制限について遵守すべきであるとの意見は49件を占める。)。さらに、具体的には、京都会館の高さを現在よりも高くすることについて反対意見が13件ある。
そうすると、少なくとも本計画における京都会館区域の高さ制限の規制が妥当であるかについて、十分な配慮をしなければならない。すなわち、京都会館の建替えの際に、高さを31mとする必要性、妥当性、代替手法の有無等について、市民を交えた十分な意見交換、検討が必要である。
また、賛成意見について、京都会館の再整備について101件の意見のうち、賛成意見は65件であるが、多くが京都会館の老朽化を理由に改善すべきであるとの論調である。しかし、老朽化は京都会館の再整備の理由になるが、高さを31mとする必要性があることにはならない。賛成意見も、高さ制限を含めて建替えに賛成とする意見であると即座に判断することはできない。賛成意見であっても、どのような点に賛成しているかによって、本件素案に全体として賛成といえるかについては、慎重な判断が必要である。
4  まとめ
市民意見募集の結果の概要としてまとめられているが、そもそも、市民の意見について十分な検討をしているかについて疑問を抱かざるを得ない。
また、反対意見については真摯に耳を傾けるべきであり、特に具体的な反対意見については、その内容を詳細に検討し十分な検討を行うべきであるが、当該検討結果を見る限り、反対意見について、十分な検討がなされているとは言い難い。
さらに、賛成意見についても、賛成とされているのみで、本素案全体に賛成であるかのように扱っているが、その扱いも妥当とは言えない。
都市計画における住民参加はまちづくりにおいて、極めて重要であり、市民の意見を無視するような計画は認められない。市民意見を募集するのは、市民意見を取り入れ、市民が納得する計画を作成するためであり、形式的な意見聴取であってはならない。
しかしながら、既に述べてきたように、本結果の概要のまとめ方には、多くの問題があり、恣意的な扱いがされているのではないかとの疑念がぬぐえるような内容となっておらず、十分に市民の意見をくみ取っているとはいえない。
市民からの意見については、より有意義な扱いがなされるべきであり、より詳細な検討がなされるべきであり、その詳細な検討結果が公表されるべきである。

以  上


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