意見書

宅地建物取引業法の改正及び宅地建物取引業者に対する適切な指導監督を求める意見書(2001年9月26日)



2001年(平成13年)9月26日
国土交通大臣    扇      千  景  殿
京都府知事      荒  巻  禎  一  殿
社団法人 不動産保証協会  理事長    中  村  増  美  殿
社団法人 全国宅地建物取引業保証協会  会長    藤  田  和  夫  殿

                                                    京都弁護士会
                                                        会  長    福  井  啓  介
                                                    同消費者保護委員会
                                                        委員長    飯  田      昭
第1.意見の趣旨
【国土交通省に対して】
  1.次の項目につき、宅地建物取引業法の改正を求める。
    (1)宅地建物取引業者が賃借人等から預かった金員を自己資金と混同することや混同し
          うる状態で保管・預金することの禁止規定の創設。
    (2)賃貸人から依頼を受けた宅地建物取引業者(仲介業者)が賃借人から賃料や敷金を
          預かった場合には賃貸人が受領したものとみなす旨の規定の創設。
  2.次の項目につき、宅地建物取引業法施行令の改正を含めた関係政省令の改正乃至制度の
      見直しを求める。
    (1)宅地建物取引業者が供託等するべき営業保証金および弁済業務保証金の金額を、少
          なくとも現行法令の3倍程度(主たる事務所につき3000万円、その他の事務所
          1つにつき1500万円)に増額すること。
    (2)倒産等の多数被害事案においては、先着順の弁済に伴う不公平・不平等を解消する
          こと。
【京都府知事に対して】
  1.京都府内の宅地建物取引業者に対して迅速適切に指導監督権限を行使することができる
      よう、その監督体制の抜本的強化を図られたい。
  2.預り金を自己資金と混同することや混同しうる状態で保管・預金することに関し、速や
      かに京都府内の宅地建物取引業者の実態調査を行い、これら行為の禁止を徹底するよう
      指導されたい。
【社団法人不動産保証協会及び社団法人全国宅地建物取引業保証協会に対して】
    加盟する社員に対し、預り金を自己資金と混同することや混同しうる状態で保管・預金す
    ることを禁止するよう研修指導されたい。
第2.意見の理由
  1.事案の概要と意見書作成の経過
  (1)本年3月19日、京都府内に本店・営業所を構える株式会社レンタルハウスサービス
      (以下、「レンタルハウス」と略称)が、入居(予定)者から受け取っていた多額の敷
        金・礼金等を賃貸人に引き渡さず、預かったままで倒産した。このため、既に敷金・
        礼金等をレンタルハウスに払い込んでいた多数の学生・社会人が、入居するために敷
        金等の二重払いを余儀なくされるという被害が発生した。
        被害者数は260名以上、被害額は総額で1億円以上に達する。
        レンタルハウス倒産事件は、被害者が多数で何の落度もない事案であるうえ、被害者
        の多くは新入生を中心とする学生で、夢を抱いて京都で学生生活を実現させようとし
        た矢先に裏切られたというものであり、「学生の町京都」の府市民にとっても、許し
        難い事件である。
        また、本事件は、資金の流れからして計画的倒産の側面をもつものとして、既に関係
        者に対し、告訴、告発がなされている。
  (2)ところで、この種の問題は、今回の事件でマスコミが大きく取り上げたが、現行の制
        度・運用を改革、改善しない限りは、今後も発生するものである。
        よって、現行の制度・運用を早急に改革、改善することが、是非とも必要であると考
        え、本意見書を関係各位に提出するものである。

  2.宅地建物取引業法を改正して預り金を法律で規制することについて
  (1)レンタルハウス倒産事件では、本来賃借人から貸貸人に支払われるべき前払家賃・敷
        金・礼金を、仲介業者であるレンタルハウスが賃貸人に渡さず、勝手に運転資金とし
        たことが問題となった。
        しかるに、宅建業法では、預り金と自己資金との混同を禁止するような法的規制もな
        い。そのため、現実には、預り金行為は行われ、自己資金との混同も行われている。
        そのことが今回のような事件の温床となっている。
  (2)そこで、国土交通省に対する意見の趣旨1記載のとおりに宅建業法を改正すべきであ
        る。即ち、
    1.  仲介業者が他人に属すべき預り金を自己の個人勘定に保管・預金するなどして自己固
        有の資金と混同することや、自己資金と混同しうる状態で保管・預金することを、宅
        建業法上明確に法文で禁止すべきである。
    2.  1.の違反業者には、業務停止を含めた措置をし、できれば罰則をもうけるべきである
        。
    3.  賃貸人から依頼を受けた仲介業者が賃借人から賃料や敷金を預かった場合には、賃貸
        人が受領したものとみなすとのみなし条項を設けるべきである。

  3.宅建業法施行令等の関係政省令の改正乃至制度の見直しについて
  (1)営業保証金及び弁済業務保証金の金額を大幅に増額することについて
  営業保証金の金額は、昭和63年に宅建業法施行令が改定されて、主たる事務所について
  1000万円、その他の事務所ごとに500万円の割合による金額の合計額と定められたま
  まで、以後13年間一度も改定されていない。現在においてこの程度の金額では、宅地建物
  取引により生じた債務の担保としては、極めて少額であるとのそしりを免れない。
  例えば、実際にレンタルハウス倒産事件では、被害者(入居予定者)らがレンタルハウスが
  加入する社団法人不動産保証協会京都府本部に申し出た認証申出の総計は、本年4月19日
  現在で計260件、金1億円を超える金額であったのに対し、被害者らが受けるべき弁済業
  務保証金の金額は3000万円しかなかった。しかも、後述するように、弁済業務保証金に
  ついては宅建業法施行規則によって弁済が先着順とされているため、大多数の被害者の被害
  回復がはかれなかった。
  このような被害が拡大していることに鑑みれば、営業保証金および弁済業務保証金の金額を
  大幅に増額するべきである。
  具体的には、過去の増額の幅なども考慮し、少なくとも現行法令の3倍程度(主たる事務所
  につき3000万円、その他の事務所1つにつき1500万円の割合による金額の合計額)
  には拡充するべきである。
(2)弁済業務保証金に関する先着順弁済制度を一定見直すべきことについて
  また、現行法令上、弁済業務保証金に関しては、宅建業保証協会に対する認証申出の先着順
  で弁済されることとなっている(宅建業法施行規則26条の7第1項)が、一定の場合には
  、これを見直すべきである。
  確かに、先着順での弁済は、先んじて権利行使の意思を表明した被害者(債権者)を優先す
  るという意味で、通常の場合、一定の合理性を有することは事実である。
  しかし、宅建業者の倒産時においてまで先着順を貫いたとすれば、倒産時には弁済業務保証
  金の枠以上の被害者(債権者)が殺到することが予想されることから、たまたま倒産の情報
  を入手するのが他人より少しだけ早かった被害者だけが100%被害回復をはかることがで
  き、倒産の情報が遅れたり弁済業務保証制度を知らなかったため認証申出がわずかに遅かっ
  た被害者は一切被害救済をはかれないという不当な結果とならざるを得ず、企業倒産時にお
  いて要請される債権者平等の原則がないがしろにされてしまう。
  従って、レンタルハウスのような多数被害事案における倒産事案等においては、先着順の弁
  済に伴う被害者同士での不公平・不平等を解消するため、例えば、宅建業保証協会に対し近
  接した時期に同種の被害による弁済業務保証金の認証申出が多数寄せられた場合には、按分
  比例による弁済業務保証金の支払いを認めるように宅建業法施行規則を改正するなど、制度
  の見直しを要請する。

  4.京都府知事および宅地建物取引業保証協会による適正な監督について
  (1)京都府知事による監督体制を抜本的に拡充すること
  京都府知事は、宅建業法により、府内の宅建業者に免許を付与するのみならず、宅地建物取
  引業(宅建業)の適正な運営を確保し、または宅建業の健全な発達を図るため、指導助言勧
  告、帳簿その他の検査、場合によっては業務の停止や免許の取消権限を行使しうる立場にあ
  る(宅建業法65、66、71、72条)。
  現に、レンタルハウス倒産事件においては、会社倒産前に複数の苦情が京都府に寄せられて
  いたことが把握されている。京都府知事によりレンタルハウスに対する調査、業務停止など
  指導・監督権限の行使が迅速適切になされたならば、これほどまでの被害の拡大を防ぎ得た
  可能性も低くない。
  そこで、京都府知事におかれては、府内の宅建業者の監督官庁として、本件事件の背景の徹
  底的な調査及び被害者の救済を図るとともに、今後、違法業者に対し迅速適切に指導監督権
  限を行使することができるよう、その監督体制の抜本的強化を図られることを要請する。
  (2)預り金問題について・京都府知事への要請
  また、仲介業者が当然に賃貸人に引き渡されるべき敷金・前払家賃等を預り金として受領し
  自己固有の資金と混同しうる状態におくことは、業務上横領を誘発しうる行為であり、被害
  の温床であることは本件の苦い教訓である。
  従前から小規模な同種被害は発生しており、少なからず同様の取り扱いをしている業者が存
  在すると考えられる。そこで、京都府知事におかれては、1.速やかに府内の全宅建業者に対
  して立入検査を行うなどして、預り金と自己資金との混同に関する実態を調査把握されたう
  えで、2.これらを混同している業者に対しては直ちに是正措置を講じられるとともに、3.京
  都府内の業者・業界に対して、預り金を自己資金と混同することや混同しうる状態で保管・
  預金することの禁止を徹底するよう指導されることを要請する。
  (3)預り金問題について・宅地建物取引業保証協会への要請
  預り金と自己資金とを混同し、本来賃貸人にすみやかに引き渡されるべき金員を自己の運用
  資金として使用することは、ひいては宅建業界全体の信用にかかわる問題と考えられる。
  宅地建物取引業保証協会は、宅建業法により、宅建業に対する苦情の解決、宅建業従事者に
  対する研修の適正かつ確実な実施を義務づけられている(宅建業法64条の5、64条の6
  )。
  そこで、宅地建物取引業保証協会である社団法人不動産保証協会および社団法人全国宅地建
  物取引業保証協会におかれては、宅建業の適正な運営のため、社員に対し、被害の温床とな
  る預り金の取扱いにつき自己資金と混同することや混同しうる状態で保管・預金することを
  禁止すべく、適正な研修指導をされ、根本的な被害防止策を講じられることを要請する。

                                                                          以  上

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