「死刑執行に対する会長声明」(2012年4月26日)


1  2012年(平成24年)3月29日、東京、広島、福岡の各拘置所において、3名に対する死刑が執行された。死刑制度に関する全社会的議論が十分尽くされていない中で、死刑執行が再開されたことは極めて遺憾であり、当会はこれに対し強く抗議する。

2  日本では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。密室での取調べによる自白調書の信用性を認めた判決の問題点が指摘されているが、このような誤判が生じるに至った制度上、運用上の問題点について抜本的な改善が図られたとは言い難い。
  また、死刑と無期懲役の量刑につき裁判所によって判断の分かれる例があるが、量刑事情の誤認や量刑判断の誤りについては再審の対象とされていないため、誤って死刑と判断された場合にその判断を是正する方法がない。
    さらに、死刑確定者に対しては、外部交通が厳しく制限されているため、誤った裁判による死刑判決がいったん確定した場合、誤判からの救済は極めて困難となっている。
    失われた命はどのようにしても回復できず、誤判の危険や事後的な是正方法の問題について早急に検討すべき必要がある。

3  日本政府は、国連をはじめとする国際機関からも繰り返し、死刑の執行を停止し、死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう勧告を受けている。近時も、本年2月、欧州議会は、小川敏夫法務大臣宛に対して死刑の執行を行わないよう求める決議を採択していた。
  かかる国際社会からの要請に対し、今、日本に求められているのは、死刑制度の存廃について早急に広範な議論を行うこと、そしてその前提として死刑制度に関する情報を社会に対して十分に提供することである。
    2010年(平成22年)8月、法務大臣の下に「死刑の在り方についての勉強会」が設置され、2012年(平成24年)3月、同勉強会が終了し取りまとめ報告書が公表されてはいるが、これをもって全社会的議論が尽くされたものとは到底いえず、現時点において、死刑の執行が拙速に再開されたことは誠に遺憾である。

4  日本弁護士連合会は、2011年(平成23年)10月7日に開催された第54回人権擁護大会において、「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択し、同年12月、「死刑廃止検討委員会」を設置した。
    当会は、2008年(平成20年)、死刑制度調査検討プロジェクトチームを設置し、2009年より「死刑を考える日」と題する催しを毎年開催し、2011年(平成23年)11月27日には「憲法と人権を考える集い」のテーマとして死刑制度問題を取り上げ、市民とともに死刑制度について悩み、広く全社会的議論を呼びかけている。
    2009年(平成21年)5月から裁判員制度が実施され、死刑制度とその運用に関し、市民に死刑を選択させることの是非をはじめ死刑制度について社会的関心も高まっていることからも、全社会的議論の必要性は高い。
    当会としては、広く社会内において死刑制度の存廃について議論が尽くされるべきとの立場から、さらに一層議論を呼びかけるものである。

5  当会は、死刑制度についての議論が尽くされないまま、死刑執行が再開されたことに厳重に抗議するとともに、改めて、議論が尽くされるまでの間、死刑執行の停止を要請し、また広く死刑制度の存廃についての全社会的議論を呼びかけるものである。


2012年(平成24年)4月26日

京  都  弁  護  士  会

会長  吉  川  哲  朗



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