声明

「京都府個人情報保護条例の解釈に関する申入書」(2012年6月27日)


2012年(平成24年)6月27日

京都府知事  山  田  啓  二  殿


京  都  弁  護  士  会    

  会 長  吉  川  哲  朗



京都府個人情報保護条例の解釈に関する申入書



第1  申入れの趣旨
1  京都府総務部政策法務課作成に係る「個人情報保護事務の手引」中、以下の記載は、いずれも京都府個人情報保護条例の解釈を誤ったものであるので、弁護士法第23条の2に基づく照会に回答する場合は同条例第5条第1項第1号の「法令等に基づくとき」に該当する旨の内容に修正変更されたい。

第5条の〔解説〕「1  第1号関係  (4)本項ただし書に規定する各号関係  ア  第1号関係」に解説されている、
「『法令等に基づくとき』とは、当該法令による利用・提供が義務付けられている場合をいい、単に利用・提供ができる根拠を与える規定であって利用・提供そのものが任意的な場合はこの号に該当しない」との記載(19頁)

「弁護士法(昭和24年法律第205号)第23条の2第2項の規定による照会に対し報告する場合」を「この号に該当しない例」との記載(20頁)

2  京都府個人情報保護事務取扱要綱中、以下の記載は、上記条例の解釈を誤ったものであるので、「弁護士会」の記載を削除されたい。

要綱別紙3「条例第5条第2項の規定により審議会の意見を聴く個人情報の利用・提供(H18.12.1現在)」に掲げられている、
区分番号5欄の「弁護士会」の記載

第2  本申入書提出に至る経緯
当会の京都府教育庁に対する弁護士法第23条の2に基づく照会(以下「弁護士会照会」という。)に対し、同庁から平成22年5月11日付で京都府個人情報保護条例(以下「本条例」という。)を理由とする回答拒否があったため、当会が回答を促す申入書を送付したところ、同年6月1日、同庁職員が当会を訪れ、京都府総務部政策法務課作成に係る「個人情報保護事務の手引」(以下「本手引」という。)の解説を根拠に再度の回答拒否がなされた。
この経過において、本手引の本条例の解釈には重大な誤りがあることが判明したため、本申入書を提出する。

第3  申入れの趣旨1の理由
1  問題の所在
  本条例第5条(利用及び提供の制限)第1項は「実施機関は、収集目的以外の目的のために個人情報を利用し、又は提供してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。」と定め、同項第1号において「法令等に基づくとき」と規定している。
本手引は、第5条の〔解説〕「1  第1号関係  (4)本項ただし書に規定する各号関係  ア  第1号関係」において、「『法令等に基づくとき』とは、当該法令による利用・提供が義務付けられている場合をいい、単に利用・提供ができる根拠を与える規定であって利用・提供そのものが任意的な場合はこの号に該当しない」と解説し、「この号に該当しない例」として、「弁護士法(昭和24年法律第205号)第23条の2第2項の規定による照会に対し報告する場合」(弁護士会照会)を挙げている(19~20頁)。
すなわち、本条例は、第5条第1項柱書によって個人情報の目的外利用及び実施機関以外の者に対する提供を制限しているが、同項但書第1号によって「法令等に基づくとき」には制限しないものとしている。
本手引は、「法令等に基づくとき」の解釈論を述べた上、結論として、弁護士会照会はこれに該当しないと解説している。
しかるに、上記解説には、「法令等に基づくとき」の解釈論、及び、弁護士会照会が「法令等に基づくとき」に該当しないとの結論の双方において重大な誤りが認められる。
      以下、詳述する。

  2  「法令等に基づくとき」の解釈論の誤り
本手引は、「法令等に基づくとき」の解釈論として、法令を、
①  当該法令による利用・提供が義務付けられている場合
②  単に利用・提供ができる根拠を与える規定であって利用・提供そのものが任意的な場合
の二つに分類し、①の類型の例として、民事訴訟法第223条に基づく裁判所の文書提出命令と刑事訴訟法第99条等に基づく差押えを挙げ、②の類型の例として、弁護士会照会と刑事訴訟法第197条第2項の捜査機関による照会を挙げている。
しかし、②の類型であっても、「報告を求めることができる」というように、法律が質問・照会する権限を与えている場合は、質問・照会を受けた者は回答を義務付けられていると一般に解されており、回答そのものが任意的であるということはできない。
弁護士会照会は、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会が公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができ、照会を受けた公務所または公私の団体(以下「照会先」という。)が回答義務を負う制度である。
法文上は、「必要な事項の報告を求めることができる」との文言であるが、弁護士法第1条の制度趣旨や捜査機関の捜査関係事項照会の規定にならったという立法経緯から、照会先は、法的な回答義務を負う(回答が義務付けられている)ことが従前から多くの裁判例で認められている 。また、照会先は、正当な理由によって回答を拒絶できる場合があるが、これは弁護士法の解釈として個別の事案ごとに定まるものであって、照会先が回答するかどうか任意に判断してよい(回答が任意的でよい)というものではない。
したがって、弁護士会照会は、回答が任意的ではなく、本手引の分類は一般的な法令の解釈や裁判例に反し、明らかに誤っている。弁護士会照会は、照会先に回答「義務」を課すものであり、「法令等に基づくとき」に該当する。

3  本申入れは個人情報保護を損なうものではないこと
弁護士会照会に対する回答は「法令等に基づくとき」に該当すると解釈することは、本条例の目的である個人情報の保護を損なうものではない。
すなわち、本条例第5条第1項柱書において利用・提供の制限が設けられた理由は、個人情報が本人の予期しない目的で無制限に利用され、または提供されることにより、本人の権利利益が損なわれるのを一般的に予防するためであると考えられる。
これに対し、個人情報の取得を認める他の法令が存在する場合、当該法令によって、提供された情報が合理的範囲で取り扱われ、保護されるべき権利利益も明確となるから、あえて本条例によって個人情報の目的外利用・提供を禁止する必要がない。
現に、弁護士会照会は、弁護士会によって照会の必要性と相当性について審査が行われ、得られた回答についても、弁護士自身が守秘義務を負っているほか(弁護士法第23条)、当会規程により目的外利用も禁止されている。
    このように、弁護士会照会に回答する場合、その根拠法である弁護士法によって個人情報が保護されるから、個人情報保護に関する本条例の適用が除外されるのである。

4  弁護士会照会において、個別の判断として照会先が回答義務を免除される場合があることについて
ところで、すでに述べたように、弁護士会照会を受けた照会先は、正当な理由によって回答義務を免除される場合があり、この正当な理由の存否は、個別具体的な事案ごとに、具体的な利益衡量によって判断される(平成13年4月6日付内閣総理大臣の国会への回答書、及び平成13年5月18日の衆議院法務委員会における内閣法制局部長の回答参照)。
しかし、正当な理由によって回答義務が免除される場合があるからといって、弁護士会照会が本条例の「法令等に基づくとき」に該当しないと解釈するのは正しくない。
なぜなら、正当な理由によって回答を拒絶できる場合かどうかの判断は、あくまで弁護士法の解釈として生じる問題であって、個人情報保護に関する本条例の「法令等に基づくとき」に該当するか否かの解釈によるものではない。
個人情報保護を目的とする本条例(後述のとおり、個人情報保護法の場合でも同様である。)のレベルでは、弁護士会照会に回答してよいどうかの判断は不要であり(弁護士法に個人情報保護の規律を委ねてよいからである。)、弁護士法のレベルにおいて、同法の解釈として正当な理由によって回答を拒絶できるかどうかを判断するというのが各法令の構造・関係上、正しい理解である。

5  個人情報保護法及び行政機関個人情報保護法においても、弁護士会照会に対する回答は「法令等に基づくとき」に該当すると解釈されていること
個人情報保護法及び行政機関個人情報保護法においても、本条例第5条第1項第1号と同様の趣旨で「法令に基づく場合」が規定されているところ(個人情報保護法第16条第3項第1号、第23条第1項第1号、行政機関個人情報保護法第8条第1項)、当該「法令」には弁護士法第23条の2に基づく弁護士会照会が含まれることが各省庁のQ&A等の解説 及びガイドライン において明確に述べられている(京都府ホームページにおいてリンクされている法務省、厚生労働省、総務省、金融庁等のガイドラインにおいても同様である。)。
また、近時の裁判例でも同様の見解が採られている(東京高等裁判所平成22年9月29日判決 )。
そもそも、本条例と個人情報保護法及び行政機関個人情報保護法の目的がいずれも個人の権利利益の保護という点で同一であることに鑑みれば、提供等禁止規定の例外としての「法令」の意義の解釈を異にする理由はない。

  6  日本弁護士連合会の経済産業省に対する意見書提出とその結果
本申入書の指摘した事項の類似のケースとして、経済産業省のガイドラインがある。
経済産業省は従前、個人情報保護法に関する経済産業分野を対象とする旧ガイドライン において、「上記の根拠となる法令の規定としては、刑事訴訟法第218条(令状による捜査)、地方税法第72条の63(事業税に係る質問検査権、各種税法に類似の規定あり)等が考えられる。これらについては、強制力を伴っており、回答が義務づけられているため、一律これに該当する。一方、刑事訴訟法第197条第2項(捜査と必要な取調べ)等のような、個人情報の提供が任意協力の場合についても対象となり得ると考えられるが、個別の判断が必要とされる。」と記載していた。
これに対し、日本弁護士連合会は平成17年12月16日付の意見書 により、法律が質問、照会する権限を与えている場合には、それを受けたものは回答を義務づけられていると解されており、これを回答義務のない任意協力のものであるとする上記旧ガイドラインの解釈は誤りである旨、及び、「個別の判断が必要とされる」のは、弁護士法第23条の2に基づく照会があった場合に、「法令等に基づく場合」であることを前提として、弁護士法の解釈として要請されるものであり、個人情報保護法第16条第3項第1号の「法令に基づく場合」に該当するか否かの判断として、事案ごとの比較衡量が必要と解釈されるわけではない旨指摘した。
その後、この指摘を受けて、経済産業省は平成18年に個人情報保護法に関するQ&Aを作成してその見解を修正したことを明らかにし 、平成19年3月、ガイドライン自体も修正し 、弁護士法第23条の2が個人情報保護法第16条第3項第1号の「法令に基づく場合」に該当することを明示するに至っている。

7  小括
    以上のことから、申入れの趣旨1のとおり、「個人情報保護事務の手引」の記載を修正変更すべきである。

第4  申入れの趣旨2の理由
  1  問題の所在
本条例第5条第1項第6号は、個人情報の利用・提供が認められる場合として「前各号に掲げる場合のほか、個人情報を利用し、又は提供することに相当の理由があり、かつ、当該利用又は提供によって本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがないと認められるとき」と定め、同条第2項は「実施機関は、前項第5号及び第6号に規定する場合において、個人情報を利用し、又は提供するときは、あらかじめ、審議会の意見を聴かなければならない。」と定める。審議会とは、京都府個人情報保護審議会のことである。
そして、本手引に引用されている「個人情報の取扱いに関する意見について(平成8年京都府個人情報保護審議会答申)」においては、「当該諮問の「別紙3」で記された個人情報の利用・提供は、…やむを得ないものと認めます。」と記載されており、別紙3「条例第5条第2項の規定により審議会の意見を聴く個人情報の利用・提供(H18.12.1現在)」(以下「審議会意見別紙3」という。)の区分番号5には、「法令の規定に基づく照会に回答するため(略)」との目的で、「国、地方公共団体、弁護士会」に利用・提供する場合であり、「公的な資格の有無等外形的な事実に関する範囲で、その使用目的に公益性があり、実施機関から提供を受けなければ目的達成が困難な場合に限る。ただし、国、地方公共団体以外の者に対しては、本人の不利益となる場合を除く。」の条件を満たすときに個人情報の利用・提供ができる旨定められている(本手引22~23頁)。
すなわち、本手引は、弁護士会照会が本条例第5条第1項第1号の「法令等に基づくとき」に該当しないとの解釈を前提に、弁護士会照会に回答する場合は、同項第6号に該当するので、同条第2項により審議会意見を聴かなければならないとの見解を採っている。そして、審議会意見では、①公的な資格の有無等外形的な事実に関する範囲、②使用目的に公益性、③実施機関から提供を受けなければ目的達成が困難、④本人の不利益となる場合でないという極めて狭い条件が示されている。

2  弁護士会照会について、本条例第5条第2項が適用されないこと
しかし、前記第3において述べたとおり、弁護士会照会に回答する場合は、本条例第5条第1項第1号の「法令等に基づくとき」に該当するため、同条第2項に定める「前項第5号及び第6号に規定する場合において、個人情報を利用し、又は提供するときは、あらかじめ、審議会の意見を聴かなければならない。」という規定が適用されない。
よって、本条例第5条第2項を根拠とする審議会意見(別紙3)に、弁護士会照会に回答する場合の条件が示されること自体が誤りであり、審議会意見別紙3の区分番号5「利用・提供先」に「弁護士会」を記載するのは妥当でない。
したがって、同表の「弁護士会」との記載を削除すべきである。

第5  結語
よって、当会は、申入れの趣旨記載のとおり本手引に記載されている本条例の解釈の是正を申し入れる。

以  上


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