「改正貸金業法等の見直しに反対する会長声明」(2012年7月19日)



  深刻な多重債務問題解決のため、2010年(平成22年)6月18日に、収入の3分の1以上の貸付の禁止(総量規制)等を内容とする改正貸金業法の完全施行及び出資法の上限金利の引下げがなされてから、2年が経過した。
  当会も、府内各地での多重債務無料相談実施、ヤミ金融被害対策について関係諸団体との協議会を定期的に行う等、多重債務問題を解消するための取組及びヤミ金融被害を撲滅するための取組みを行ってきたところである。
  改正貸金業法の完全施行及び多重債務者対策の拡充により、5社以上の借入れを有する多重債務者が法改正時の230万人から44万人に激減し、自己破産者は17万人から10万人に、多重債務による自殺者は1973人から998人に半減するなど、同改正は多重債務対策として大きな成果を上げている。一部で懸念されていたヤミ金融被害の増加は認められず、多重債務者は確実に減少しており、改正貸金業法は極めて順調に施行されてきたと評価できる。
  ところが、近時、与野党の議員の間では、正規の業者から借りられない人がヤミ金融から借入れせざるを得ず、潜在的なヤミ金融被害が広がっている、零細な中小企業の短期融資の需要があるとして、上限金利を年30%程度まで引上げ(利息制限法及び出資法の改正)、総量規制を見直し(貸金業法の改正)することを目指す動きがある。
  しかし、ヤミ金融が増えていることを示す具体的な事実は存在せず、推測の域を出ないものであり疑問である。むしろ、警察庁の統計資料によると、被害人員、被害額とも年々減少している。
  ヤミ金融が標的とする被害者は、過去に自己破産をした者や多重債務者である。自己破産や多重債務の要因は、高利率による貸付及び貸金業者による返済能力を超えた過剰融資にある。そして、過剰融資を支えているのが高金利である。
  したがって、高金利と過剰融資こそがヤミ金融被害を生み出している原因である。ヤミ金融被害への対策のために、出資法上限金利引上げ、総量規制の見直しを行うことは、反対にヤミ金融被害を増大するものであり、本末転倒であるといえる。
  日本の社会が二極化し、貧困層が拡大していることに鑑みると、正規の業者から借りられない人に対しては、簡単に借りられるようにするのではなく、「高利に頼らなくても生活できる」セーフティネットの再構築や相談体制の更なる充実が重要である。
  したがって、多重債務対策を後戻りさせるような総量規制、金利規制の緩和の必要は全くない。日本弁護士連合会でも同趣旨の会長声明が出されているところ、当会も改正貸金業法等の見直しに強く反対するとともに、改正貸金業法が完全施行され2年を迎えるにあたり、改正貸金業法の成果を確認しながら残された多くの課題にも積極的に取り組んでいくことをここに表明する。

2012年(平成24年)7月19日

京  都  弁  護  士  会

会長  吉  川  哲  朗
    


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