「京都会館第一ホールの解体工事の着手中止を求める会長声明」(2012年9月7日)


  当会は、2012年5月18日付「京都会館第一ホールの改修及び岡崎地域の景観保全に関する意見書」において、京都市長に対し、京都会館第一ホールの改修に関し、「基本設計を含め、京都会館第一ホールの改修については、拙速を慎み、徹底した市民参加と建築・景観・都市計画・法律等各分野の専門家の関与のもとで慎重に合意形成が図られるべきであって、少なくとも、当該合意形成が図られないままで解体工事に着手すべきでない。」との意見を表明した。
その理由として、概要、京都会館第一ホールは、東山一帯に囲まれた平面的な岡崎公園と、その水平的な性格を象徴するが如き疏水の流れ、それに既存の建物、公会堂、勧業館、美術館等の中層建物の高さなどを考慮して、建物全体を中層の建物の高さに収め水平に延びた屋根面から大ホールの屋根、小ホールの舞台フライの部分のみを突出せしめる水平線的な構成がとられており、これによって、永きに亘って岡崎地区の優れた景観を形成してきたことは疑う余地がなく、京都市が拙速に現在の建替案どおりの改修計画を断行することは、岡崎地区を文化財保護法に基づく重要文化的景観に選定することとも整合しないことを指摘した。
  しかし京都市は、当会の意見表明以降、徹底した市民参加と建築・景観・都市計画・法律等各分野の専門家の関与のもとで慎重に合意形成を図ることなく、当初建替案をほとんど変更しないまま、本年6月4日、「京都会館再整備工事基本設計」(以下「基本設計」という。)をとりまとめ、京都会館第一ホールを建て替えるとして、本年9月10日には、同ホールの解体工事に着手しようとしている。
  このような態度は、貴重な市民財産を不用意に毀損する行為であって、強い反省が求められる。
  さて、時折しも本年8月26日、京都会館の建物価値について、国連教育科学文化機関(UNESCO)の諮問機関「国際記念物遺跡会議」(ICOMOS)の20世紀遺産に関する国際学術委員会(ISC20C)が、現在の建物の文化的価値を認め、建て替えに懸念を表明する意見書を京都市に送付されたことが明らかになった。
  同意見書では、京都会館が、日本の近代建築の最も重要な作品のひとつであるとともに、その設計者前川國男が、1928~1930年のパリで国際的に名高いル・コルビュジェの下で働き、20世紀の最も重要な日本人建築家のひとりとして知られていること、京都会館は前川の最も重要な作品であり、敬意を払われ、遣されるべき文化遺産であると述べられている。そして、京都会館を解体する計画が、この非常に重要な遺産に対し、後戻り出来ない害を及ぼすとともに、提案されている新しい舞台のサイズとデザインは、前川の設計思想と建築物の細部によって生み出される美と調和とを破壊するものと断じている。
  その上で、同意見書は、ICOMOS ISC20Cが、遺産危機警告(Heritage Alert)を発することとし、京都市に、現存する京都会館を変える現在の計画を再考することを求めると結んでいる。
  京都会館は、「世界文化遺産」には登録されていないにもかかわらず、ICOMOS ISC20Cが、京都会館を世界文化遺産に匹敵する価値のあるものとして「遺産」危機警告を発しようとしていることに、我々は注目せざるを得ず、世界文化遺産に匹敵する建築物を解体することは、人類の文化に対する侵害行為と言わなければならないことから、その点でも、京都会館の拙速な解体は厳に慎まなければならない。
  まして、同委員会が日本の近代建築物に関して遺産危機警告を発するのは初めてのこと(世界でも3例目のこと)であること、本年11月にはUNESCOの主催する世界遺産条約採択40周年記念事業が京都市で開催されることから、この京都市長宛の警告は当会としても重大なものとして受け止めなければならないと考える。
  よって当会は、京都市に対し、京都会館第一ホールの解体工事の着手を中止すること、基本設計を含め、京都会館第一ホールの改修については拙速を慎み、徹底した市民参加と建築・景観・都市計画・法律等各分野の専門家の関与のもとで慎重に合意形成を図るべきことを強く求めるものである。


2012年(平成24年)9月7日

京  都  弁  護  士  会

会長  吉  川  哲  朗


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